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ここで、親友に打ち明けていきます

「という訳なんだよね」


「悠人、お前……頭おかしくなったのか……?」


「いや、マジなんだって」


「厨二病のベクトルが捻くれすぎだろ……!」


「だから厨二とかじゃなくて『マジ』なんだって!」


 俺、来栖(くるす)悠人(ゆうと)という何もないクソ陰キャの唯一の個性がそれ。数年前に突如目覚めた特殊能力。


 ─────『ラブコメの波動を感じる』事が出来る事を、今初めて他人に打ち明けた。


「例えば……ちょうど今行ってきた、近くのコンビニに行く道の自販機あるだろ」


「あぁ、ご苦労さん。親友にパシらせたコーラは美味いな」


「その自販機の近くでカップルがセックスしてるとする」


「あぁ……ん?」


「俺が『ジュースを買いに行こう』と自販機から一定距離まで近付いた時……俺は『波動』を感じる。シンプルだろ?」


「セックスってラブコメなのか?」


「ラブコメだろうと行き着く先はセックスだろ」


「そうか……ラブコメはセックスか」


 この着眼点のズレた男、線堂進(せんどうしん)は俺の親友である。

 親友だからこんなふうに夜の10時に俺の家で遊んでるし、親友だから俺の能力の事を話している。


 そして俺が思うに、こいつは世界で一番『ラブコメの主人公に近い男』だ(当社比)。当然のようにモテまくるしイケメンだし陰キャじゃないのに『いや俺陰キャだから』とか言うし (←こればっかりは許せない、死ね)……そして、ラブコメの主人公には外せない存在である『親友』ポジションがいる。そう、俺です。


 ……まぁ、普通は俺みたいな根暗じゃなくてお調子者のはずなんだけども。


「絶ッ対に誰にも、三上にも言うなよ!進だから言ったんだぞ」


「それは嬉しいけど、高校入学直前の夜にこんな話をされるとは思わなかったな。てっきり徹夜でスマ●ラするのかと」


「そっちの方がダメだろ」


 ゲーム機に目線を落としながら、進は言った。


「ってか、何で今まで言ってなかったんだ?どうしてこんなタイミングで……」


「……どうしてだろうな」


『誰かに知って欲しかった』……という気持ちはある。俺が能力を持つ事は俺一人しか知らない、そんな孤独な世界が嫌だった。


 何かを秘密にし続ける事は、どうも難易度が高い。


 あるいは──────『高校生になったら何かが変わるかも知れない』という淡い希望が、禊として能力の秘匿と共に過去の闇を清算したかったのかもな。


「イケメンで性格も良くて運動も勉強も出来て女にモテまくるお前にこの力の事を言って、どんな反応するか気になったってのもある」


「ははは、でも俺は女にしかモテないぞ」


「それで十分だろ、むしろ男の好意なんていらねえよ!」


「まぁ……とりあえずス●ブラやんね?」


「俺の渾身の告白は楽しい乱闘系パーティゲームに負けたのか」


 そう言いつつも、俺はゲーム機のコントローラーを握る。


 なんとなく予想はしていた。進はきっと俺の突拍子も無い戯言を信じてくれるし、だからと言って特別な事をする訳でも無い。ただいつも通りに過ごすのだと。


 俺達()()()()()は……そんな進の優しさで成り立っている。















 ー ー ー ー ー ー ー
















「─────では、本日はこれで放課後となります。入学初日ですからね、くれぐれも羽目を外しすぎないように!」


 という担任教師の一言で、俺の高校の入学式が終わりを迎えた。


「線堂君と三上さんって一緒の中学から来たんだっけ?」


「そう、っていうか小学校から同じかな」


「すげぇ!幼馴染ってやつじゃん!」


 ──────そして俺の目の前では陽キャ様達が群がって楽しそうにお喋りをなされていた。


「そうだねぇ、小学校の頃からいつも三人で過ごしてたかな!」


 まず、俺の前の席に座る進。そしてその隣に座るのは……俺達三人組の紅一点である三上(みかみ)(はる)。少し馬鹿……というか天然なところはあるが、中学ではトップクラスの美少女だったし、少なくとも俺よりは明るいので陽キャ判定します。


「……ん?三人?」


「もう一人いるの?」


 バカクソイケメンで明るくて自己紹介の時間にクラス中をちょっとした笑いで包み込めるくらいはユーモアのある進が人気なのは当たり前の事。


 だがそんな進にもダメなところがある。許せないほど馬鹿なところがある。


「あぁ、俺達は三人組だからな。みんなに紹介するよ、俺の親友の─────」


 ──────こんなどうしようもないクソ陰キャにも、陽の恩恵を振りかざしてくるのだ。本当にやめて欲しい。


「来栖ゆうt─────って、アレ?ちょっと待てよ悠人!もう帰るのか?」


「帰る」


「そ、そんな事言わずにさ……今、みんなでカラオケにでも行こうかって話になってるんだ。親睦会としてさ、だから──────」


「行く訳ないだろ」


 善意からなる誘いを断るのは心が痛む。でも誘いに乗ればもっと苦痛を味わう事になるのは明白だ。


「─────進と春は楽しんできてくれ」


 一瞬振り返った時に見えた光景。俺に手を伸ばす進と、心配そうな眼差しを向けてくる春と──────



『こいつが?』と言いたげなクラスメイト達の冷たい目線。


 俺はすぐさま視線を前へ戻し、吐き気がするくらい『ラブコメの波動』で充満していた空間から去った。


 教室を出れば幾分かマシになるかと思ったが……無意味だった。


「なんだよこれ……」


 上下左右、四方八方から波動を感じる。……気色悪い、初日から盛りすぎだろ高校生。


「……」


 無言で、息を潜めながら俺は廊下を歩く。まるで水中にいるかのような窮屈さを常に感じながら、俺は出来るだけ『波動を感じない』ルートを選ぶ。


「……ふぅ」


 校門から出ると、この時間にそそくさと下校しようとしている陰キャ共……つまりは同胞達しかいないため、俺の脳を叩き続ける波動は止んだ。


「何処なんだろうな、俺の居場所は」


『来栖ってさ……気付いてないの?二人の迷惑になってる事』


 中学一年生の若き日の俺が受けた傷は、まだ痛む。


 分かってる。俺は邪魔者だ。お似合いカップルに『幼馴染』ってだけでよく分からん根暗が引っ付いてるのは周囲から見れば良くないものだろう。


 けど──────なら、俺は何処に行けば良いんだ。陰キャで話すのが苦手で頭が良い訳でもないし当然のように運動は出来ないし優しくもない俺は。


「とりあえずは家か……」


 敗北者たる俺には一人の下校が相応しい。きっと高校生である三年間は、一人きりでこの下校ルートを数百回繰り返すのだろう───────


 そう思っていた。

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