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このステージに時間はかけられません

「デートなんてくだらないデートなんてくだらないデートなんてくだらないデートなんてくだらない──────」


 自分を落ち着かせるために、俺はひたすら心に言い聞かせながら駅の中で立ち尽くしていた。


「そもそもこれは部活だから、浮ついたやつじゃないから……よし、大丈夫だ……」


 ラブコメを求める感情と、ラブコメを否定したい感情と、単なるデートへの恐怖でめちゃくちゃになりそうな精神の断裂をなんとか抑え込む。


「──────ん?」


 緊張で鳴り響く心臓の音に包まれながら、俺は『かもしれない』人を見つけた。


 金と黒の混合が目立つ頭部に、俺より少し低い程度の身長、そして……こっちへ手を振って近付いてくる女。


「やァおはよう来栖クン!」


「うっす……もう夜7時っすけどね……」


 現れた灰崎廻は……俺の言葉通りにヘアピンを付け、長い前髪を流した事でパッチリとした両目が露出している。……普段隠れている部分がこうも堂々と出ていると、少し妙な色っぽさというか、背徳感があるが───────


「先輩、スカジャンは厳つ過ぎないですか」


「え?良いじゃん」


「ヤンキーにも程がありますよ……ビビった……」


 スカジャンにホットパンツという、いかにも陽の気を感じる。っていうか太ももが眩しい。目が焼けそうなんだが。


「いやいやいやいや!来栖クンはワタシの服装にあーだこーだ言う資格無いでしょ!」


「え?」


「そのシャツ!!」


 ビシッと人差し指でさされた俺の──────アニメキャラがプリントされたシャツを、悍ましいモノを見るかのような表情で灰崎廻が頭を抱えた。


「何これ……ねェ、女の子の先輩とお出かけだ〜ってなってこれ着てくる!?おかしいでしょ流石に!!」


「は?いやいや……w灰崎先輩ジョ●ョ知らないんですか?」


「知ってるよ!なに『ジ●ジョは許されるでしょ』みたいな顔してんの!?アウトだからね!?」


「え?ジョ●ョってアウトなん……え?」


 おいおい話が違うぞ!昨日進に『この服装で良いか』って画像付きで聞いたら『あーはいはい良いんじゃね』って言われたのに?クソ、ジョジ●はギリ国民的アニメだろ……!


「まぁ許そう。今日は心霊スポット探索だからねェ、『覚悟』も『スゴ味』も大事だよ」


「なんか経験者みたいな言い方ですが……先輩ってホラー系行けるんですか?俺そんな得意じゃないんですけど……」


「はァ?オカ研なのにホラー耐性無いとか舐めてんの?」


「スカウトしたのは先輩でしょうが」


 しかし、見れば見るほどこの女の見た目は中々に怖い。中学の頃に進がつるんでいた不良の連中を何回か見た事があるが、その中にいてもおかしくないくらいバチバチに決め込んでらっしゃる。


 側から見れば陰キャオタクに恫喝するヤンキーに見えなくもないだろう。


「……で、どう?」


「……」


 誇らしげに顔を接近させ、俺の目を見つめてくる灰崎廻の意図は─────俺には分かってしまった。なら、鈍感なフリをする訳にはいかなかった。


「にに似合っ……て、るんじゃ、ないですか、ね……」


「言い慣れてなさすぎるゥ!まァ来栖クンにしては頑張ったんじゃないかな」


「くっ……そう言う先輩こそどうなんですか」


「へ?」


「俺の格好」


「そのシャツは論外すぎて評価する以前の問題だろ!ある意味似合ってはいるけども……」


 えぇ……まさか、本当にダメなのか?ジョジ●のシャツ……。


「そんじゃ行きますか─────心霊スポット」


「どこに行くかっていうのはもう決めてるんですか?」


「もちろん。ほら、ここ」


 突き出されたスマホに表示されていた地図アプリ。景色に映るのは……あからさまな廃墟。廃墟としか言いようがない廃墟。誰が見ても廃墟。廃墟of廃墟だった。

 駅の周辺の開発度合いにしては田舎っぽい風景で、画像は昼間のものだが既に人気が全く感じられない。


「……入って良い所なんすか?」


「知らん!」


「……」


 来栖悠人15歳。ヤンチャな騒ぎとはかけ離れた生活を送り、常に大人に怒られないように生きてきましたが。

 今日、ついに俺は……一線を越えてしまうらしい。


「さァ行こう!非日常がワタシ達を待っているぜーッ!」






「びゃああああああちょっと待ってなんか変な音したァ!!音ォ!!」


「……」


 えーまず現時点。俺達は廃墟の……屋敷?のドアの前に立っている。

 そこに辿り着くまでの夜道、灰崎先輩の様子がおかしくなり始めた。


 はっきり言ってしまうと、この人は普通にビビり始めていた。


「活動記録用の写真撮っときますね」


「絶ッ対、手ェ離すなよ?離さないでね?」


「良いですけど、写真は撮らせてくださいよ……」


 まだ入ってすらいないのにこの始末。俺としては女の子と手を握れて嬉しい気持ちはあるが────こう、何というか……心霊スポットだと言うのにもはや恐怖よりも繋いだ手の温かさとラブコメの波動が勝ってしまっている。雰囲気も全部メチャクチャだ。


「よ、よォし……入るぞ……」


「はい」


「……何してんの、来栖クンが開けてよ……!」


「あ、意気込んどいて俺任せっすか……」


「こういうのは後輩が率先して先陣を切るべきなんですー。逆にキミはどうしてそんな落ち着いてられ─────うわ急に開けるなよォ!!」


 屋敷の中は当然だが照明はなく、夜の闇と同じ色をしていた。人魂が浮いているわけでもなく、ただ暗いだけの木造建築。


「こういうのってとりあえず一周すれば良いんですよね?懐中電灯貸してください」


「ほ、ほい……」


 自分よりあまりにも怖がり過ぎている人がいるせいで逆に落ち着くやつ。自分でも驚くくらいに冷静に、俺は光を前方に向ける。


「ぎゃあああああああああ!!」


「うわびっくりしたぁ!……何も無いじゃないですか」


「こうやって照らした瞬間で大体なんかあるじゃん?だからあらかじめ驚いておいたのさ」


 照らしてみても至って普通の和風な屋敷。流石にこの暗さや『心霊スポットに来ている』というシチュエーションの影響で雰囲気は感じるが……テレビで見る怖い話の方がよっぽどだ。


「とりあえず部屋回って行きますか」


「ゆっくりね?落ち着いて行こうね?」


「分かってますよ」


 襖を開け、まず一つ目の部屋に入るが──────何も無い。棚やタンスなど一般的な家具はあるが、それもボロボロのもので……恐らく住んでいた人が普通に引っ越した影響で大体の家具は運ばれたのだろう。

 廃墟ではあるが、どこか新居のような空っぽな雰囲気も感じる。写真を撮っても何も写らず。


「ここも……なんの部屋か全然分かりませんね」


 二つ目の部屋は一切の家具が無く、押し入れの中にも何も無かった。


「確かに……怖過ぎて今気付いたけどこの屋敷、日常の波動が普通にある」


「あぁ、じゃあやっぱりここは雰囲気だけある、何のいわくも無い─────」


「でも、一つだけ波動が全然見えない道がある」


「……え」


 灰崎先輩が指差したのは……階段のある方向。


「この先に──────非日常がある」

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