嗅覚を頼りに決断していきます
「という訳なんだけど、ここで一つ問題があって」
『問題?』
『なんでなんでぇ?良いじゃん!それって実質デートでしょ?良いなぁ〜!』
「そう、そこなんだよ……!」
部屋のベッドの上で、俺はスマホを耳に当て頭を悩ませていた。
──────下校中。
『場所は考えとくよ。その後は日常の波動を避けて進んでいくのさァ』
『え……本当にやるんですか?その場しのぎの嘘とかじゃなくて……』
『当たり前だろォ?ほら、先輩女子とのデートだぞ、喜べよ陰キャ』
『……』
『……な、なんか言ってよ……』
デート。そう、デートに行く事自体はまぁ良い。どんなラブコメだろうと俺は屈しない……今の所はな。これも部活動の一環として、後は─────ガチの心霊スポットで灰崎先輩の能力を使ったらどうなるかが少し気になる。
問題は───────
「どんな服を着ていけば良いのか全く分からないんだよ!!」
『気にすんな、あんな変な人なんだしどうせ変な格好してくるって』
『ちょっと待ってね、今心霊スポットにオススメのコーデ検索する……』
「多分出てこないからやんなくて良いよ」
女と二人出かける機会なんて中学以来だ。あの時は許されるファッションも今では馬鹿にされることもあるはず。だから女子である三上も交えて意見が欲しかったのだが────
「お前らもっと良い意見出してくんね」
『そもそも悠人の持ってる服をあんまり知らないんだよ。どうせ自分で買った事なんかないんだろ?』
「うぐっ」
『え?じゃあお母さんが買ってくる服だけ着てるって事……?』
「うがっ」
言葉が痛い。俺はこんなにも真剣に悩んでいるというのにどうしてダメージを喰らわなければいけないんだ。
『……悠人、俺は嬉しいんだよ……相手がどんな奴であろうと、お前が女子と二人でお出かけしようってなる事に喜んでる』
「まぁ、強制みたいなもんだけど……」
『だからこそ、だ!悠人のありのままを受け入れられるような奴はじゃないと悠人とデートする資格は無いっ!』
『そうだそうだぁ!』
「そういう考え方……?」
いくらありのままとは言え、少しは歩み寄るのが重要なんじゃないのか?クソ、分からねえよ男女の駆け引きが!
「でも……そうだな、俺の好きな方にやってみるよ」
単純に、灰崎先輩と友好な関係を築く上で……俺は常に隠し事をしている。
まだ、『ラブコメの波動を感じる』能力の事を打ち明けていない。
その分申し訳なさというか、気まずさのような、引け目を感じている俺だからこそ……ある程度自分の事を打ち明ければ、それが無くなるかもしれない。
ー ー ー ー ー ー ー
『もしもし、兄さん』
「おう、オレだ」
夕焼けの橙色に染まる路地裏を、金髪の男がスマホ片手に歩いていた。
年は17と若いが、体格は大人顔負けの屈強さがあり、彼自身の堂々とした態度も相まってとても高校二年生には見えなかった。
『頼みがあります』
「条件次第」
『お金で良いですか?』
「妹から金貰うのか……まぁいいぜ、どんな頼みだ?」
『ある男を社会的に抹殺する、あるいは暴力的トラウマを植え付ける、または決定的な弱みを手に入れて欲しいのです』
「……やけにやる気だな、オイ」
常に冷静沈着な彼の妹のイメージとはかけ離れた、装いきれない怒りのようなものを通話越しに感じた。
「お前にそこまでさせる男、一体何者だ?」
『来栖悠人という、私達の高校の一年生です』
「有名人か?全然行ってねーから分かんねぇ」
『恐らく彼自体に危険性は無いのですが……彼の周囲にいる者が、少し……』
「へぇ?オレが知ってる奴か?」
『前に言っていた、灰崎廻という─────』
「あー、バカお前……手ぇ出すなっつったろうがよ」
『ち、違いますっ!灰崎廻と繋がりがあるとは知らなかったんです……』
「クッソ……廻かぁ。あいつは面倒だな……」
『……個人的には、来栖悠人の友人であるもう一人の方が脅威であると思ったのですが』
「もう一人?やべー奴って枠で廻に勝る奴なんざいねーと思うけどな」
彼は乗り気では無かった。適当に理由でも付けて断り、メッセージアプリで『妹にあんまりちょっかい出さないでやってくれ』と灰崎廻に対して送ろう……とだけ考えていた。
──────その名前を聞くまでは。
『線堂進という方なのですが……』
「─────んあ?線堂……線堂っつったか!?」
『はい……やはり知っていたのですか?』
「……ハハハ。線堂!線堂進がうちの高校にいるのか!?」
『え、えぇ。そうですが……』
「決めた。その仕事引き受けるぜ──────」
スマホを握る手が震える。男は全身の筋肉が喜びに満ちているのを感じ……闘志でむず痒くなった鼻を擦った。
「だがまずは線堂の奴をぶちのめしてからだッ!それで良いな!?」
『え!?いや、線堂君は……』
「じゃあな七華ッ!」
そうして男─────詩郎園豪火は拳を握りしめる。
「高校の近くで感じたやべー匂いの正体はお前か、線堂進……!」
久々に踊った心を滾らせた彼は抑えきれない闘争本能を拳に乗せ、壁に叩きつけた。
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