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日常パートはすぐ終わらせましょう

「すっかり忘れてたんだけどさ」


「ん?」


「俺、進と一緒に帰った方が良いよな……?」


「あー……」


進をラブコメという災厄から救うべく、俺が波動を感知し最適なルートを構築するという話だったが、昨日は部活に行ったノリで灰崎先輩と帰ってしまった。


「大丈夫だぞ、無理しなくて。それに、昨日は何も無かったんだぞ。平和に三上と二人で帰らせてもらった」


「じゃあ……良いのか?何かあればすぐ連絡してくれよ」


「また女の子避けるゲームの話してるのぉ?あれ何が面白いかよく分かんない……」


「ははは、やってみると意外と面白いんだよなこれが。春もやってみろよ」


「俺は気が気じゃないけどな」


正直なところ、長時間ずっと気を張りながら道を考えるのは単純に疲れる。進が必要無いというなら、今のところは大丈夫か。


「下校の時に起きるイベントはもう消化しきったってだけかもしれない。文化祭とかそういう行事の時は……また忙しくなると思う」


「文化祭つったらラブコメではお馴染みだしな……いつだったっけか?」


「えっと……確か9月だった気がする!夏休み終わってすぐだねぇ」


「だとしたらその前に球技祭があるな。5月か6月に」


「球技祭ぃ〜?全員が全員球技出来ると思うなよマジで……」


漫画とかでよくあるけど、高校って本当に球技祭とかいうしょうもないイベントやるのかよ。なんだよ球技って……障害物競走とか陰キャに少しは輝ける可能性を残した体育祭の方がまだマシだろ。球技っていう括りで陰キャのほとんどを突き落とすのやめてくれ。


「じゃあ帰るわ。またな」


「また来週ね〜!」


「おー……ってそうか、今日は金曜日か」


なんだかんだ一週間は短い。憂鬱な月曜日を迎えたかと思えばすぐに金曜だ。


「土曜……流石にオカ研に休日の活動は無いよな……?」


部活動の嫌なところだ。土日が奪われるのは不快でしかない。進と遊ぼうとしても『バスケ部の練習があるから』と断られた回数は三桁くらいに登るのではないだろうか。


(─────でも、オカ研に入る当初の目的はもう達成したんだ)


階段を降りながら、俺は思い出す。


あの部活に入ったのは、灰崎廻という変すぎる女を進から遠ざけるため。だが─────あの人が『同じ能力を持つ者』を潜在的に求めていた事が分かった今、あの部活に居続ける必要は無い。俺が居なくなっても、進に興味が移る事は無いだろうから。


(今は『別の目的』がある)


生まれてしまった、新たな問題。


──────俺と灰崎廻が持つ『能力』とは一体なんなのか。

この答えを知りたい。なら……同じ能力者と一緒にいた方が良いし、『非日常』を探し当てられる灰崎先輩の力を使っていれば……『答え』に辿り着けるかもしれない。


「うーっす……あれ、いないのか」


珍しく俺の方が先についた部室は、拭えない違和感があった。常に灰崎廻という人間のいたこの教室に一人でいると……うん、別に問題は無い。ただ新鮮ってだけだ。


椅子に座り、肘をついてこの部屋の主人を待とうとした時───────


コンコン、とドアを叩く音が聞こえた。


「失礼する」


灰崎先輩ではない、というのは分かっていた。あの人が部室にノックをするはずがないし、する必要も無い。


ならばそれは誰だったのか。


「灰崎、オカルト研究部の活動についてだが──────」


長い黒髪。背が高く、威圧感と美しさを兼ね備えた顔と身体つき。まさに凛々しいという表現が似合う三年生がそこにいた。


「……会長」


「む、灰崎はいないのか……待て、君は──────」


突如現れた生徒会長、頼藤世月は俺の顔を見ると……悲しげな表情をして俺と正面の位置に腰掛けた。


「灰崎に脅されてここにいるのだろう?安心しろ、生徒会はいつでも力になる」


「あぁいや、違います……」


「嘘は吐かなくていい。もしそうなら、君は自分の意思でこのオカルト研究部にいるという事になるぞ?」


「それで合ってます」


「えぇ!?え……えぇ!?」


「そんな驚く事あります?」


どんだけ信用が無いんだよ、灰崎廻という人間は。


「すまない。オカルト研究部はずっと灰崎一人だったものでな、結論を急いでしまった。……『例の動画』の件もある、弱みを握られていたのかと……」


「あぁいえ、全然大丈夫です」


「……その、大丈夫か?最近の学校生活は……」


雰囲気が怖いし、何より俺はこの人に胸ぐらを掴まれた経験がある。だからこそ頼藤世月への苦手意識が俺に刻まれているのだが─────それでも心からの俺の状況を悲痛に感じている表情に思えた。


「私のところにも出回ってきた。恐らく既に全校中に広まっているだろう」


「でしょうね。気になさらないでください、もうどうにもならないでしょうし」


「だが……!」


苦虫を噛み潰したような表情で、会長は拳を握る。


「あの時、君を止めた私の行動は間違っているとは思わん。だが……あのような事を口走ってしまうような精神状況にあった君を案じなかった事は間違っていた。本当にすまない─────」


「え、精神状況?」


思わず乾いた笑いが出そうになるところを言葉で誤魔化す。


「なんですかそれ……俺は今もあの時も正常ですよ」


「え……」


「自分の意思でやった事です。だから謝る気も無いし、釈明して欲しくも無いし、あなたに心配される筋合いも無い」


ビビるほど恐ろしいと個人的に思っている生徒会長相手にここまで口が回るのは……ただ、イラついたから。

その言い方だと俺が頭おかしい奴みたいじゃないか。ずっと、ずっと─────自分で考えて、思って、苦しんで、その上で選択してきたというのに。


「……そうか、それが君の回答か。なら─────やはり私と君は相容れないようだ」


遠慮がちな敵意が視線に乗って向けられる。

当然だろう。生徒会長になんてなるような奴と、拗らせ陰キャが分かり合えるはずがない。


「だが……どうか、灰崎とは仲良くしてやってくれないか。奴は──────」


「よーっす日直で遅れたよォん」


バタン!と勢いよくドアが開かれる音が響く。


「うわ、会長じゃん。何してんのさァ」


「決まっているだろう、この部活の活動内容についてだ!生徒会としても君に面倒事を起こされるのは望んでいない、だが名目上の活動はしてほしくてだな……」


「あーはいはい。活動ねェ。どーするよ来栖クン」


定位置に座った灰崎先輩は机に足を乗せそう言っ……これパンツ見え……これパンツ見えそうじゃないか……!?


「どうしましょうね。大変ですよこれは」


「そうそう、活動しないと廃部にするって言ってくるんだよこの人はァ」


「俺は今にでも活動的になりそうです」


「え、そう?じゃ何しよっかねェ……オカルト研究部って何するもんなんだろ」


「やっぱり探求じゃないですかね。深い闇の中にある楽園というか」


「なんじゃそりゃ。うーん……よし!決めたァ!」


「あっ……」


灰崎先輩がそこで立ち上がってしまったため、俺の探究は終焉を迎えた……。


「心霊スポットへ行こうッ!」


「え」


「感想まとめて紹介するーみたいなのを文化祭で展示してさァ、それで活動ってならない?どう?」


「……まぁ、活動してくれるのなら何でもいいが。くれぐれも無茶はするなよ」


「よーし。というわけで来栖クン、明日空いてる?」


「明日!?……あーすいませんw明日は予定あってぇw」


「何の予定?」


「一日中ゲームします」


「よしっ!明日駅集合ね!」


「正気ですか!?明日土曜……明日土曜っすよ!?休みじゃないですか……!」


「ふはは、逆に考えてみなさい。学校帰りに心霊スポット寄る方がおかしいだろォ?」


腰に手を当てて魔王かのように豪快に笑う灰崎廻とは反対に─────休日が消失した俺はまさに絶望そのものの気分だった。


そうか……どうやら俺には球技以前に……部活とか、活動的なモノ自体が向いてないのかな……。

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