やはり効率を追い求めてこその、ですね
他者の作った物語を楽しむ側────読者、視聴者と呼ばれる彼ら。
通常、彼らは物語に干渉できない立場にいる。物語の行く末の全ては作者の手に委ねられており、展開がつまらなくなろうと結末に納得が行かなくとも、作者の指が動くのを止める事は出来ない。
無論、物語や作者自体も読者、視聴者────『消費者』に依存している為、消費者が文句を言えばそれに従う作者もいる。
しかし、基本的にはそのような状況にはならない事が多い。一部の消費者の声のせいで作品の展開が変わってしまうなど、他の消費者からすればたまったものではないだろう。
故に……消費者達は妄想する。
『俺だったらこういう展開にする』や、展開に納得が行っていない訳ではなくとも『もしかしたらこういう展開になってたかもしれない!』という『もしも』の世界を、夢見る消費者は存在する。
────────そんな彼らが、本当に『作品への干渉が出来るようになってしまった』時。
作品の世界に転生してしまった時。
ある消費者は『自分が主人公になってやる』と考えるかもしれない。本来の主人公の席に自分が座り、主人公が得ていたはずの利益を貪ろうと。
ある消費者は『キャラクターを助けたい』と考えるかもしれない。本来は不幸な展開を迎えるキャラクターを、原作……つまり未来を知っているというアドバンテージで救おうと。
ある消費者は『この世界でしか出来ない事をしたい』と考えるかもしれない。例えば異能力系の物語の世界に転生した場合、自分にも備わっているはずの能力を使って楽しもうと。
ある消費者は『元の世界に戻りたい』と考えるかもしれない。残してきた家族、友人、恋人……それらの大切な存在が忘れられず、住むべき家に帰ろうと。
ある消費者は『何事もなく過ごしたい』と考えるかもしれない。大きな利益や、何か特別な事をしようという欲はなく、現実世界と同じように過ごそうと。
ある消費者は『何もしたくない』と考えるかもしれない。所詮は物語の世界……そんな考えが捨てきれず、何をしようにも現実味が感じられず、もう無気力のまま生きてしまおうと。
彼らが何を選択しようと、幸か不幸か……『物語』には確実に影響がある。小さな蝶の羽ばたきはやがて暴風を呼ぶ。
そう────────現に。
彼らのほとんどは、彼らのせいで運命が変わってしまったキャラクター……行田焦吉に殺害されているのだから。
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「壊れてるって、どういう事だよ。確かに昨日は……一回、崩壊したらしいけど」
俺が灰崎先輩に告白した事で起きた、世界の入れ替え。現実世界を修復している間に、本来は『裏側』を担当している世界が表に出てきていた。
「あぁ、やっぱりそうなの?昨日からだよね、おかしくなったの」
「でも世界は修復されたはず。俺はそう聞いたし、壊れてるようにも感じない」
「んーとね、僕の能力……えっと、『NTRの波動を味わう』能力?昨日から、アレが『誤作動』を起こしたりするようになったんだよね」
「誤作動、って……」
「ピンと来てないって事は、これは僕だけみたいだね。例えば、この能力はNTRモノのエロ漫画とか読んだ時に発動するんだ……口を閉じていても、舌に甘い味が伝わって来る」
行田は舌をべっと見せ、ふざけたように笑ってからしまう。
「それなのに、昨日は純愛モノのエロ漫画や本屋にあるアンパ●マンの絵本なんかにも反応したりしてね。サイゼ●ヤに夕飯を食べに行ったんだけどね、間違い探しを見た時に能力が発動しちゃって……流石にきつかったね。甘いピザがあんなに不味いとは……」
「それ、は……」
誤作動。そうとしか言いようがない。
でも……全く心当たりがないんだ。
「二人は……」
「いや、全くだ」
「すまねぇけど、オレも分かんねえ」
「だよな……」
第一、『感じる』能力持ちの俺が真っ先に気付くはずなのに。
『味覚』の能力の方が敏感だったりするのか?それとも……。
「あはは、まぁ僕の事は信用出来ないだろうね」
「……」
「でも、嘘を吐く理由が無いのも事実でしょ?ここは一つ、僕を信用してみない?」
「……」
────この出会いには、意味がある。
人影が行田焦吉の情報を俺に託したのは、それによって何かが起きるから。俺が行田焦吉に会い、話し、何かをする事で────意味が生まれる。
だから今も、前に進むべきなんだ。
「分かった……けど、あんたの言う事が本当なら、まずいんじゃ?」
「そりゃそうだろうね。『能力』が正常に機能しなくなってるって事は、僕の価値観がイカれたか能力がバグったかのどちらか……」
「イカれてるのは元々だろうが」
「手厳しいね!とは言え、だ。大人としてここは、君達を導かなければならない」
縛られた状態で言う言葉じゃないが、自信満々な顔で行田はそう言った。
「そして僕は今、何をすべきか……最適な案を思いついている」
「言ってみろ。話はその後だ……」
行田のスマホをポケットにしまい、警戒心むき出しの視線をする進。
高まってきた部屋の中の緊張感に抗うように、あっけらかんと行田が────その言葉を口にした。
「────転生者に催眠をかけよう!」
「……え」
「あと二人?残ってるんだっけ。どっちでも良いよ、真実を吐かせちゃおう!」
「そ、んな────」
……倫理的に反している。
そう思いはした、けども────その言葉を俺が言う権利は無い。
俺が冥蛾霊子を消したように……あまりにも最適で、合理的な案だ。




