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トイレの中にも入れるタイプの作品ですか

「ヴぉおろろぉおお、うぉえええええ"」


 朝食ったコーンフレークが無慈悲に排出されていく。食べた量は少なめだったのが幸いで、吐き切ってからは胃液をちょっとずつ垂らして吐き気を消化していくフェーズに入った。


「やっぱり、悠人だけ波動の弊害が大きいな」


「はぁ、はぁ……だよな?キツイって、これは……」


 トイレの窓の傍で壁に寄りかかり、どこか澄ました顔をしてやがる進の方に振り返る。


「唯一の救いは、あの悍ましい波動が朝見のモノだって事────やべもう一波来そう……」


 再び洋式便座とにらめっこをし、まだ流してないせいで残留している俺の中にあったものを見たせいで見事に敗北し、再びもう空になってそうな胃液をちょびっと出す。


 ────────同時に、精神的な悪性も抜け落ちていくような感覚があった。


「……進」


「あぁ」


「お前だったら、どうする」


「……冥蛾霊子を消したって話の事か?」


「聞くだけ無駄だろうけど、一応聞いておきたくて」


「────そうか」


 水流が渦巻き、トイレの中にその音が響く。


 俺が手を洗い口を濯いでいる間、進は回答するのを待っていてくれた。


「ふぅ」


 ハンカチは無い。ポケットの中に手を突っ込み、適当に拭いた風にする。


「もし俺がそこにいたなら……結果的には、俺もきっと冥蛾霊子を消すという選択を取るだろう」


「まぁ、お前はそうするか」


「────が、悩みはする……本当に冥蛾霊子を消して良いのかどうかをな」


「……?そうなのか?」


 てっきり進なら即断即決で霊子ちゃんを消しに行くと思っていたけど……いや、そうでもないか。


 海でループした時にずっと潜伏していたように、こいつは好機を逃さないために入念な準備と覚悟をする性格だ。


「何か理由があるって事か?霊子ちゃんを消しちゃいけないような理由が────」


「『崩壊』だ」


「……え?」


「『灰崎廻に告白する』事が原作においてあり得ない事象で……それが理由で世界が崩壊するのなら。同じように冥蛾霊子という存在を消してしまったら……それが理由でまた、崩壊が起きてしまうんじゃないかってな」


「────なるほど。言われてみれば確かに……」


 だけど、そんな重要な事に当時の俺が気が付かなかった訳を、俺は分かっている。


「でもそれ、人影が何も言わなかったんだよ。灰崎先輩に告白しようとしてた時は口うるさく言ってきたのに」


「ほう……つまり、冥蛾霊子の抹消は世界に影響を与えない、という事か」


「灰崎先輩に告白するのはダメなのに、霊子ちゃんを消すのは良いって変な話だよな」


 自分で言っていて改めて思う。本当におかしな状況だ。


 あの悪夢を参考にするに、霊子ちゃんだってヒロインの一人のはず────


「…………『原作通り』なんじゃないのか?」


「え」


「冥蛾霊子が消えるのは……原作でもあった展開なんじゃないか?」


「そんな、まさか────」


 ────思い出すのは、影山の言葉。


 霊子ちゃんが消えたと同時に夜房さんが部室に辿り着いた時の、あいつは……。


『…………よく、やってくれたね。霊子たんを────』


「確かに……あいつの性格ならここでブチギレるはずだ。なのに妙に落ち着いていたな……これだけで決めつけられないけども」


「あぁ、断定はするべきじゃない。だが────そもそも奴は幽霊だ。死んでいる。分かりやすすぎる名前のせいで『原作でも幽霊だった』と考えられる。そうなると、最終的に成仏する感動的展開……とかはありそうだ」


「おぉ、それありそう────」


『喪女ちゃんと初めて会った時、あの子ったら泣きながら謝ってきてさ。あたしのせいで〜って』


「……いや」


「ん?」


「それは違う……と、思う」


 月明りだけに照らされた廊下。あそこで霊子ちゃんから聞いた話によると────進の言った可能性は考えられない。


「あの子の言い方からして、『能力を手に入れたせいで』死んだらしいんだ。影山のせいでって言ってたし」


「……そうなると、少なくとも原作の二年前時点では死んでいなかったというわけか」


「あの影山が泣くぐらいだから、俺は原作じゃあ死ななかったんじゃないかって思う」


「あぁ、それは良いとして────『原作』では『能力が無かった』んだな」


「え?あぁ……そりゃ────」


 そりゃそうだろ、と言おうとして……気付いた。


「そっか……俺は影山が黒幕で、原作を改変して能力を与えたんだと思い込んでたけど、そもそも原作から能力持ちだった可能性も全然あった……」


「むしろその方が良かった。『そういう物語』なら納得できたが────原作の俺達が能力を持っていなかった場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……っ」


 進の言いたい事は分かる。


 こんな意味不明で仕組みも分からない超常的な力を与えた存在は────きっと、あり得ないくらい強大な存在だ。


「そんな訳だが、悠人」


「ん?」


「────立ち向かうんだよな?」


「……当たり前だろ」


 進は「分かってるぞ」とでも言いたげな腹が立つ顔で、拳を突き出す。


「このクソみたいな能力を与えやがった黒幕に……一泡吹かせてやるぞ、親友」


 どうせ失敗するかもしれないのなら、前に進んでから。


 どうせこの世界が物語なのなら、精々足掻いてやる。


「うん、もちろん」


 拳を合わせ、気持ち悪い笑みを互いに見せ合う。


「その為にまずは────『最後の能力者』から、か」


 ……行田焦吉。


 俺の『最大の敵』らしいそいつは……一体何者なんだ?

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