やはりジャンケンこそが至高です
「波動を……操るだと?」
「そうそう」
「結構ヤバい事言ってそうな気はするが、具体的には何が出来るんだ?まさか、ラブコメを無理矢理引き起こしたりなんて─────」
「そうそう」
「……ククク、これは驚いた。もうめちゃくちゃじゃないか」
「と言っても、何でも出来る訳じゃない……結局のところ波動を浴び続けると体調悪くなるのは変わらないし」
その縛りがある以上、ラブコメの波動を自分に引き寄せてウハウハ状態にはなれない。
「例えば『ラッキースケベ』……ラブコメのお約束展開。アレを強制的に発生させる事が出来た」
「ほう……面白いな」
「逆に言うとそれ以外の使い方はまだ分からない────まぁ、この方法で冥蛾霊子を消せたから良いけど」
「……その件は後で聞くとして。さっき言ってた、俺に押し付けてたってどういう事だ?」
小学校への通学路も後半になってきたところで、進はいまいちピンと来ていないような顔で言った。
「確証を持ってる訳じゃない。ただ、俺が能力を手に入れてから今年の春までずっと、進にラブコメの波動を押し付けてたと考えると……全てが噛み合うんだ」
「─────なるほど、話が見えてきたぞ」
「あぁ……まず、お前を襲っていたラブコメ展開。中学の頃もそうだけど、詩郎園七華や頼藤世月に絡まれてたのは、進にラブコメの波動があったから」
「だな。本来、その展開は『主人公』であるはずの悠人が受けるはずだ……が、悠人は無意識下でそれを拒否していた訳か」
線堂進こそがこの世界の主人公だと、冗談で言ってた事はあったけど……影山の言葉から俺が主人公だと考えると、合点がいく。
「進と一緒にいる時に波動を感じる女……っていうのは『進への波動を感じていた』んだと思ってたけど、実際は『俺に向かってくる波動を進に流していた』んだ。恐らく、操作範囲もかなり広い……お前が何処にいようと、俺は波動を押し付ける事が出来ていたんだ」
「灰崎廻はどうなんだ?あの女からは波動を感じていたんだろ?」
「その頃にはもう、『進のラブコメを破壊する』という考えになってたから……多分だけど、無意識下でも波動の操作は止まったんだと思う。それ以降も三上達と俺が一対一でいる時に俺が波動を感じ取れないのは────進との『フラグ』が確定したから」
「……フラグ?」
「────だと、俺は思ってる」
「……」
いつの間にか、小学校の校門の前にまで来てしまっていた。
懐かしい。近所の犬を飼っているおばさんが何故か毎朝挨拶しにここに立ってたっけ。
「悠人」
「うん」
「結局この世界が何なのか、お前は気付いたのか」
「全部、推測にしか過ぎないけどね」
俺に委ねるような目線だった。
それに答えるように────目線を送る。
「この世界は────────」
- - - - - - -
あの後、進と『ジャンケンしてパーで勝ったらパイナップル、で6歩進むやつ』で帰った。進の運が悪すぎて馬鹿ほど連勝したけど、あいつの一歩の歩幅がチートレベルすぎて三回で逆転されたからアレはクソげーだ。
「ふぅ……寝るかぁ」
明日も文化祭だ。疲れた身体を休ませなければ途中でダウンしてしまう。
「よいしょっと────」
ベッドの上に乗り……ノートパソコンとイヤホンを接続する。
開くのは、灰崎先輩から貰ったUSBメモリの中身。
「……音声ファイルか」
俺が望んだ『ご褒美』の内容からして、このファイルの中身の見当はついている。
「……っ」
再生をクリックし、数秒待った後に聞きなれた声が両耳に響く。
『やァ』
「ッ!?この音質は────!!」
『灰崎廻だよ。クソ恥ずかしいけどね、やっていきます、と』
聞きなれた声に────聞きなれた、耳をくすぐる囁き声の質感。
「ま、まさか……っ!」
『えー……妹がねェ、実はそういう活動してたみたいで。ASMR用のね、マイク借りちゃいました』
「……う、嘘だろ…………」
────俺は、ご褒美に『耳を舐めてください』と要求した。その日から耳掃除を怠った事は無いどころか綺麗すぎてもはや良い匂いするくらいだった。
『やっぱりさァ、直で舐めると波動のせいで来栖クン倒れちゃうでしょ。いや別に、直接舐めないとは言ってないよ?ちゃんとやるって。だからこれはワタシのサービス……』
「……」
『えー、なんか、最近眠そうだからさァ。安眠用にって感じ?』
「……いや、でも…………」
『と、いうわけで────や、やるかァ!やるよ、やるやる……』
慌てて俺は雰囲気づくりのために電気を消して音量を上げる。……そして、家族と進と三上の顔を思い出しながら……覚悟を決め、布団をかけて仰向けに寝る。
『────ま、まずは右……右だよな?これ』
「左です……」
────────攻撃が、来る。
頭では理解していた。でも脳が追い付かない。囁かれただけで肩がなんか、ブォウンって震える。
『まず息……息吹けば良いかなァ?ふーってやるぞォ、ふーって』
「……!」
直後────────俺の左耳に、空気の圧が当たる。
『すゥ……(文字では表せない轟音)』
「嵐かな?」
音量を上げまくっていたせいで耳が破壊されるところだった。
『だからさぁ、優しくふーってしろって言ったじゃん』
『ムズイって!力加減……息加減?巻希、いつもこんな事してんの……?』
『じゃーもう息ふーはやんなくていいから。とりあえず舐めればいいよ舐めれば』
『あ、もういきなり?』
『舐めとけばなんとかなるよー』
恐らく巻希ちゃんと思われる声が遠くなっていった後、反対に灰崎先輩の声が近くなる。
『じゃ、舐めまァす……こっちは事前に練習してきたから、多分大丈夫だと思う……』
「……ま、マジで舐めるのか……?」
いくら姉妹とはいえ、掃除したとはいえ、妹が舐め回したモノを舐められるものなのか?それって何か違う気がすr
『(文字では表してはいけない音)』
「あ"」
『(文字では表してはいけない音)』
「がッ」
『(文字では表してはいけない音)』
「あっ……」
快感と背徳感に挟まれながら────俺の理性は一つだけ、冷静な観点からの感想を述べてくれた。
これ、絶対寝れない。




