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三段コンボです

「菴懈姶竊帝寔蜷……!」


 み……霊子ちゃんが吠え、広い空間にポツポツと散らばっていた霊達が集まって来る。


「……人数は」


「んー、三対三にしよ。霊子達三人と、霊の三人で!」


 そう言った霊子ちゃんは、手に持ったバレーボールをクルクルと回し、微笑んだ。


 俺達は今、体育館に来ている。荒川はコートの近くに寝かせておいて、霊子ちゃんと夜房さんと四人で。


 来栖悠人というギリ青春謳歌勢が思いついた『高校生っぽい事』は『体育館でバレーボール』だった。理由としては、バレーボールは未経験者でも比較的活躍できる……気がするから。コミュニケーション能力の育成の場でもある学校でのチームスポーツは、もはや勉強と言っても差し支えない。その上楽しめたらこれほど良い事は無い。高校どころか学校を象徴した楽しい行事の一つなんじゃないか?


 ま、陽キャに『使えない』って思われるのが怖くてサッカーとかバスケとか男子の経験者が多いスポーツが苦手っていう理由はあるけども。


「っていうか、霊達って本当に協力してくれるのか?」


「うん。さっきは『集まって』としか命令してないけど、結構皆ノリ良いから霊子が何してほしいかは察してくれるんだー」


「へぇ……」


 実際その通りで、俺達が立つコートの反対側に、三体の霊がポジションに忠実に構えていた。


「ね、霊子からサーブして良いよね」


「……どうぞ」


「良いよ」


「よーし……!」


 霊子ちゃんはボールを上に高く投げてから勢いよく飛びあがり、元気いっぱいに右腕を上げる。


 そうして落ちてきたボールに手が命中────────


「あっ」


 ────しなかった。


「あぁ……」


 虚しく俺達側のコートに激突したボールは跳ね、敵陣営の方へと飛んでいった。


「……ヘッタクソ」


「うるっさいなぁ!が、学校あんま行ってないからこういうスポーツとか不慣れなの!」


「……大人しくアンダーでサーブしとけば良いのに────」


 言ってる間に、向こう側からドン!と音が響く。


「……サーブ、来た」


「ほら来てるよ!くる……お兄さん!」


「お、おっけ……!」


 心臓がドクンドクンと跳ねる。


 この瞬間はどうしても辛い。バレーボールは陰キャにも活躍の場があるスポーツではあるけど、運動神経が絶望的だったりプレッシャーに弱いタイプだったりしたら────


「ふぁあぁぁぁあぁぁぁああ」


「えぇ何、声きもちわる……」


「……レシーブ、ヘタクソ」


 掴んだ手と手。力を込めた腕と腕。それは皿にもトランポリンにもなれず、ボールにかすって軌道をややずらしただけで終わってしまった。


「ご、ごめん……」


「ドンマイドンマイ!失敗から成長してくってのも青春っぽい────」


「……論外。……雑魚二人は端っこでじっとしてて、やる気ないならやんなくていいから。……サーブは仕方ないからやってもらうけど」


「陽キャの真似まで求めてないからやめてくれないか、トラウマが蘇る」


 ボールをボーリングみたいに転がして、霊へと渡す。


 ……こうやって、ボールを渡すときに万が一変な方向に飛んで行ったらまずいから投げるんじゃなくて転がすのも陰キャあるあるだと思うんだけど……それを唯一共有できそうな荒川は寝てる、か……。












 ー - - - - - -










「来たよお兄さん!!」


「っ……!」


 何回目だろうか。天空から降り注ぐボールを睨むのは。


「頼む……!」


 両腕を引き締め、衝撃を受け止め────────


「来たッ!上げれたぞ!!」


「やるじゃんお兄さん!」


「……トス、上げるから」


 ふわっとボールが浮かび、そこで────霊子ちゃんが飛び上がる。


「ほっ!」


 完璧な一撃だった。クリーンヒットしたボールはV字を描いて跳ね返り、向こう側の壁にぶつかるほどに飛んで行った。


「やった~!ようやく一点!」


「疲れた……霊強すぎだろ……」


「……あなた達が無能過ぎただけ」


「はいはい。そういう割にはあんた、一人で全部やれるほど強くないだろ」


「そうだそうだー」


「……とりあえず、さっきから影山の連絡がうるさいから確認する」


「話逸らすの下手すぎぃ」


「……いや、これは本当で────」


 と、夜房さんがスマホを確認しながら────────


「……あれ、ここどこだ……?体育館、夜────」


「おやすみなさい」


「あがっ」


 ……片手間で起きかけた荒川の意識を遮断する。


「ってか、この流れも慣れちゃったな。いつになったら出られるんだか」


「ねー。霊子飽きてきたぁ」


「……私も、そこまで長くはないって影山から聞いてたんだけど────────」


 俺はそこで夜房さんの様子を見守っていた。


 ……だから、分かったんだ。


 彼女の顔が段々と強張っていくのが。どれくらいの時間を共に過ごしたかは分からないけど、彼女の表情のタイプは少し理解してきたところなんだ。


 ────何か、まずい事を伝えられたのだと察せた。


「……大事な話がある、みたい。……電話で伝えるって、言ってる」


「じゃあ、一旦別の場所で落ち着くか。オカルト研究部の部室で良い?」


「……そうね。行こう」


 荒川を背負い、その軽さを実感しながら歩き始める。


 ────ある程度の、覚悟を胸に。
















『結論から言うと、待っているだけじゃこの世界から出られなくなった』


 ……だが、俺はまだ知らなかったんだ。


 数分前の、呑気に遊んでいた俺達は想像なんて出来る訳が無かったんだ。


『というわけで、ここから出るための新たな方法は────────』

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