表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/166

主人公覚醒までが長すぎます!

『モブ』────その単語が俺の脳内で暴れ回る。


 夜房さんが何を言いたいのかはすぐに理解できた。『原作』では荒川健というキャラは……メインキャラほどの出番を与えられなかったモブなのだと。


 そして次に、俺がこの子に向かって言うべき言葉もまた、脳が文字として叩き出した。


「────そんなの関係あるかよ」


「……」


「助けたいんだ。友達だから……」


「……言ったでしょ、大人数は分が悪いの。……私は対単体特化だから」


「じゃあ良い。あんたが行かないなら俺が────」


「……ふざけないで」


 足を踏み出した瞬間、とてつもない力で襟を掴まれる。


「……死ぬでしょう、どう考えても。……あなたが死んだら何もかも無駄になる、私は何としても生き延びたいの。……世界がやがて滅ぶとしても出来るだけ長い間生きていたいの」


「それはそっちの都合だろ」


「……私の都合。……でも、それに従ってもらうし、歯向かえないでしょう。……あなたには私の手を振りほどけるほどの力なんて無い」


 その通りだった。


 ────だから、何だと言うんだ。


「時間が無いんだ────離してくれ」


「……離さない」


「ぺっ」


「へ?」


 俺は口内に溜め込んでおいた唾を吐き、夜房小窓の顔面に激突させる。


「…………は?」


「俺も荒川も、ついでに進も────あんたみたいな偉そうな女が一番嫌いなんだ、よッ!」


「っ!」


 呆然としている夜房小窓の腹部を膝で思いっきり蹴り、手が緩んだ隙を見て走り出す。


「間に合え……ッ!!」


 捕まった荒川は教室の内側へと引きずり込まれているようだった。


「……待っ、て────!」


 夜房さんの手が再び俺を掴む前に、雑魚敵の集団の中に滑り込む。


「「「「蟷ス髴翫′迴セ繧後◆」」」」


 前後左右、霊に囲まれた状況。


 慌てる必要は無い。こいつらの動きは遅い……だから前へと突き進んで、まずは荒川に近付く。


 そして並行して────俺は呼びかける。


「おい、のっぺらぼう」


 もう一度、声を出す。


「お前の事だよ、人影!聞いてんのか!!」


【……私の事だろうか】


 ゆっくりと、ゆっくりと圧をかけながら近付いてくる周囲の霊達。そんな中────俺の隣に灰色の人影が現れる。


「教えろ。荒川を助けるにはどうしたら良い?」


【────悠人の勝算は、私だったというわけか】


「良いから教えろ!俺の能力の『応用』とかッ!なんでも知ってそうなお前なら分かるだろッ!!」


【……なら、教えよう】


「速くッ!!速く教えろ……!!」


 俺に向かって突き出される霊達の手を必死に振り払い、死までの時間を稼ぐ。


「っ……」


「蟷ス髴翫′迴セ繧後◆」


 教室の中心部で首を絞められる荒川。それを目視したまま、俺は人影の声に耳を傾ける。


【────……こうするのだ。理解できただろうか】


「本当に!?本当にそれで俺の『応用』が使えるんだな!?」


【そうだ】


「よし……ッ」


 人影の命令に従って、工程を完了させる。


『きっと─────自分に出来た初めての『友達』が来栖君達なんです』


 あの言葉が演技か真実かどうかは分からない。だとしても、俺はあの言葉に応えたい。


 それに────今ここで荒川と見捨てたら、嘘かどうかを確かめる事すらできない。これからも続くはずの友情を、こんなところで終わらせるわけにはいかない。


 俺達が……ラブコメとかホラーとかバトルとか日常系とか、何かの物語の登場人物だったとしても。今ここにいる俺と荒川は主人公とモブなんかじゃなくて、友達同士だから。


 何度も俺を助けてくれた荒川を、今度は俺が助ける番だ。


「だからとりあえず……なんか起きろ────ッ!!」








 ー - - - - - -









 来栖悠人の能力、『ラブコメの波動を感じる』能力。


 その能力には『基準』が存在する。


 まず第一の発動条件、『恋愛関係のある二人以上』に対して能力は発動する。


 そして第二の発動条件────『特定の女性』……つまり『原作のラブコメにおいてヒロインだったキャラ』に対して。


 まず『朝見星』、『冥蛾霊子』、『頼藤世月』だ。彼女達からは『来栖悠人と恋愛に発展する可能性がある』ために能力は発動する。


 だが『詩郎園七華』には────能力は発動しない。


 更に『三上春』には『線堂進』と一緒にいる時には能力が発動するという『第一の発動条件』を満たした時には発動するが、『第二の発動条件』は反応を示さない。


 来栖悠人が見ている悪夢……彼の過去の記憶、つまりは『原作』の景色だ。そこでは上記の女性達が悠人に対して好意的だった。まさに『ヒロイン』と言えるだろう。


 だと言うのに、バラバラに能力が発動するのは何故なのか。


 そして────『灰崎廻』に対して強い波動を感じるのは、何故なのか。


 その答えに、きっと悠人なら辿り着ける。()はそう信じた。この世界の悠人はもはや、私の知っている原作の来栖悠人ではなく……新たな一人のキャラクター、否……人間と言えるだろう。


 だからこそ私は託すのだ。能力の『応用』……世界を揺るがす力を。


【全身で波動を感じるのだ】


 この世界はもう、私の知る世界ではない。新たな一つの世界。愛すべき別の物語。私が見れなかった道。


【そして、指を銃のように構えるのだ】


 だからこそ私は見届ける。例えこの身が世界から消えようとも、来栖悠人の物語の結末を見届ける。


【感じた波動を指先に移動させるような感覚だ。そして────解き放て】


 私の言葉に従った悠人の、その力によって────波動は渦巻く。逆巻く。流転する。


【後は願うのみ。この状況を打破する、運命の到来を……】


 やがてその運命の力は……教室の窓を割った。


 呼ばれたのはラブコメ。『()()()()()』という能力の応用によって────何かが、訪れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ