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レベル上げとしては非効率的です

「ちょっ、教室に入ったら追い詰められるんじゃ……」


「……大丈夫。……鍵、あるから」


 慣れた手つきで懐から鍵をジャラジャラと取り出し、その女子生徒……夜房小窓が二年一組の教室の二つの引き戸を閉めた。


「……『雑魚』共なら一定時間はこの扉を壊せない。……破壊された瞬間、もう一方の扉から脱出する。……それだけの簡単な作業」


「ざ、雑魚?」


「……あの『霊』達の事。……影山が言ってたけど、あなたはもうこの世界の事は聞いたんでしょ?……私は見えないけど、『人影』みたいな存在に」


「あ、あぁ……まぁ、ざっくりと」


「……そう。……じゃあ、何か知りたい事があれば今、私に聞いて。……一から説明するよりその方が速い」


 壁に寄りかかり、刀を抱きかかえた姿勢で夜房さんは言った。


「じゃあ、まず一つ────影山賽理はこの世界にいるの?」


「……うん、いる」


「それは……あんたらがこの世界にいるのは『転生者』だから?転生って事は、一度死んでるって事だよな」


「……うん、合ってる」


「なら、本題だ……『人影』って────見えてないんだよね?あんたには見えなくて、影山には見える……それってどういう事だ?」


 のっぺらぼうの言う事を信じるのなら、アイツの姿が見えるのは『死を経験した回数』が関係しているようだ。


 だとしたら影山が人影を見れている理由は何だ?あいつだけ何回か転生を繰り返しているとでもいうのか?


「……影山があなたのように何度も死んでるんじゃないかって事でしょう?……結論から言うとそれは違う────影山賽理に与えられた『力』が、『人影』とやらを視認できるようにしているの」


「────力……やっぱり持ってたのか……!」


 前々から疑ってはいたが、さっきで確信した。


 普通の高校生があんな動きを出来る訳がない。化け物とは言えど、ためらいもなく人型の存在を切り伏せられるわけがない。


 進なら出来そうだけど、あいつは普通の高校生じゃないからノーカン。


「……影山は『観測機能』を、私は『戦闘機能』を与えられた。……これ以上言うのは影山に止められてる」


「観測……?」


「……考察なら自由だから勝手にして。……私は何が正解だとは言えないけど」


「あぁいや、大丈夫。好奇心が勝っちゃってこんな質問しちゃったけど、本当に聞くべき質問は別にある」


「……そうね」


 ガタガタと揺れる引き戸。振動は壁を伝い窓に辿り着き、不安を煽る音が教室中から響く。


 それでも、俺の心臓の音の方がうるさかった。


「ここから出る方法を教えてほしい。俺達はいつまであの化け物共から逃げ続ければいいんだ……?」


「……待つ」


「え……?」


「……ひたすら、待つ。……影山はそう言った」


「────は?」


 驚きすぎて、さっきまで恐怖でバクバク言っていた心臓が止まったかのような錯覚をした。


「……今、本来の世界が修復中なのは聞いた?」


「聞いた、けど」


「……その修復が終われば、このバグった世界と本来の世界が入れ替わる。……この世界に連れていかれた私達を戻すのは、あの『人影』がやってくれるらしい」


「本当なの?その話……」


「……全部、影山の話。……あいつが信用できないのは分かるけど、もし脱出に条件が必要ならあいつが教えないはずがない。……『観測』するだけで自分一人では基本的に何もできないあいつが、一人だけ抜け駆け出来るとは思えない」


「まぁ……そっか」


「……それに────あなたがいなかったら、世界はまた崩壊する。……何があってもあなただけは世界に存続させるはず」


 強い視線だった。


 俺を守るというよりは────俺を脅迫しているようだ。絶対に死ぬんじゃないと、そう脅している。


「それって、さっきの……あれ、その、俺が灰崎先輩に告白したのと同じ仕組み?」


「……そう、世界がバグる。……アレは影山にも読めなかった行動らしくて、私も止められなかった」


「────じゃあ、影山は止めようとしたのか?この状況になるのを」


「……そうに決まってるでしょ?……世界が壊れたら、いくらあなたが嫌いでも意味が無いもの」


「……」


 ────本当にそうなのか?


 何か、嫌な予感がする。アイツの悪意は……そんなものじゃないだろ。


 アイツが意図的に世界の崩壊を止めなかったという可能性も────────


「……!」


 ────ガダン!!という爆音が響いた瞬間、夜房小窓は刀を構えて壁から背中を離す。


「「「蟷ス髴翫′迴セ繧後◆」」」


「や、やばっ……!」


 そして一気に流れ込む霊達。表情の無い人の形をした化け物の雪崩が教室を侵食する。


「……行こう────扉を開いた後は、私が全員殺す。……あなたは焦らないで、ただ私について来ればいい」


「はい……」


 もう一方の扉を開けた瞬間に、ノロノロと動く霊達が────何も分からないまま首を斬られていく。


「蟷ス髴翫′迴……」


「蟷ス髴翫′迴……」


「蟷ス髴翫′迴……」


「蟷ス髴翫′迴……」


「蟷ス髴翫′迴……」


 ゲームで、『広範囲かつ連発出来る』技を何も考えずに振っている時みたいだった。


 一撃で倒れていく。この景色を見れば、『雑魚』と呼んでいたのにも納得が行く……そりゃ雑魚だ。この子からすればレベル1のゴミでしかないんだろうな。


「……ここから三階に向かう。……その次は二階……外に出るより、閉じこもって休める機会がある学園の中でタイムリミットを待つ」


「あの……」


「……何」


「それって具体的にどれくらい……」


「…………知らない」


「…………そうですか……」


 斬首音ASMRは、まだ続くらしい。

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