特定のゲームのプレイヤーにヘイト向けるのって、どうなんですかね
怒らないで読んでください
「────良かったよ」
「……は?」
その言葉に、喉の痛みなど吹っ飛んでしまうほどの衝撃を受けた。
荒川健はさっきまでの雰囲気すべてを台無しにしてしまうくらいに口をあんぐりと開け、聞き返す。
「今、なんて……」
「安心した。お前が自信満々に語った昔話のオチが、『幼い頃から虐めてきたツンデレ系幼馴染に制裁』とかのテンプレ分からせ展開だったら拍子抜けしてたよ」
「────は!?いや、あなたが話せって言ったんじゃないですか!」
「勘違いしないでくれよ。俺はただ、荒川が他人のために怒れる奴だって、再確認出来たのが嬉しいだけ」
「だったらそう言ってくださいよ!?……というか、再確認ってどういう事ですか」
「俺が知ってる荒川健はそういう奴だ」
「……他人じゃなくて、大切な家族である父を侮辱されたから自分は我慢できなくなっただけで────────」
「……二回」
「はい?」
「お前が俺を助けてくれた回数。二回だ。まず球技祭の時でしょ?あと……俺は三上が撮った音声を聞いただけで実際には見てないけど、まだ出会っても間もない頃……クラスの連中にブチギレ演説したんだろ?」
「そ、それはぁ……え、演技ですよ。何騙されてるんですか」
「かもな。実際、俺は荒川と香澄さんの関係を見抜けなかったわけだし。しかも出会ったばかりのほぼ他人の同性のためにあれだけキレるとか明らかに不自然だったし。でも────お前が『そういう』性格で、『そういう』人生を歩んできたのなら、学校中から目の敵にされてたあの時の俺に自分を重ねて……っていう可能性もあるだろ」
「くっ……!で、ですが……!」
「あと単純に、そんな演技をする必要性が無い。香澄さんに彼女のフリをさせてたのは学校生活を平和に過ごすためだろ?だとしたらあの場面はどう考えても静かに黙っているべきでしょ。感情に負けてキレちゃったのなら別だけど」
「ッ!!あなたという人はァ!!そういう所が嫌いなんですよ……!!」
顔を真っ赤に染めながら、健は机から降りて悠人を睨んだ。
「本っ当に嫌いです。どう考えても俺の方が辛い人生を歩んでいるのに、そっちだけ明らかに恵まれすぎだし、なのに趣味とか価値観が同じで、ムカつくんですよ……っ!」
「嫌いなやつのために行動できるなんて、俺は本当に良い友達を持ったよ」
「…………嫌いなんですよ。嫌いなモノばかり増えていく人生だ……!」
自然と言葉は溢れ出す。舌は踊るように、唇は歌うように。
「女、ツンデレ系幼馴染、ツイフェミ、アニメとかに出てくる滅茶苦茶強いロリ、腐女子、実は腐女子よりキモい腐男子、百合豚、TRPGプレイヤー、女オタク、明らかにダブルミーニングを狙ってるって誰が見ても分かるのに『これってこうとも捉えられるよな……』って自慢気にコメントしてる奴、未だに一コメとか言ってる奴、好きなアニメをワンピースって言ってるやつを馬鹿にするキモオタ、バッドエンドが好きな自分に酔ってる奴、ソシャゲの女キャラに暴言吐いてる負け組女、『○○なアニメ』とか言って四枚画像載せて呟きまくってる意味分からん奴、『笑いながら怒る』のがカッコいいと思ってる奴、崩●3rdやってる奴、ブル●カやってる奴、F●Oやってる奴、原●やってる奴、ツイス●やってる奴、刀剣乱●やってる奴、女受け狙って男キャラ推してるのアピールする奴、Ⅴ豚、衛●、世代でもないのにニコニ●動画好きアピールしてる奴、NTR嫌いだからって純愛しか許さんみたいな事言ってNTR好きの意見を無視してる奴、百合の間に男が挟まる展開許さんみたいな事言って百合の間に男が挟まる展開好きの意見を無視してる奴、大して可愛くないのに『男の娘』名乗ってる奴、ふたなり逆アナル、ソシャゲの公式シナリオがBL展開推して女に媚びてくるやつ、涙袋デカすぎる奴、『音がエグすぎる……最 強 フ ェ ● チ オ 選 手 権 リプ欄にどうぞ』系のツイ●ト、底辺活動者同士のしょうもない馴れ合い、オリ棒、『この関係性に狂ってる』系の白ハゲのイラスト、尊死という言葉、『~~~~~~』使いがちな女、オタク構文、スマ●ラの持ちキャラの原作やってない奴────────」
「嫌いな概念発表ドラゴンかな?」
「好きな総菜●表ドラゴンを擦る奴も嫌いですッ!」
「はぁwそっかw大変そうだねw」
「…………チッ」
舌打ちの後、健は床にへたり込む。
「何の話でしたっけ、これ」
「お前が良い奴って話」
「その前ですよ。自分の過去の事と、それと────あぁ、来栖君と付き合おうって話でしたね」
「最初の話題の事か。それなら────やっぱり荒川の過去を聞いたのは正解だった」
「……どうしてです?あんな話、ただ気分が悪くなるだけでしょう」
「いや────俺には大きな意味があったんだよ」
嬉しさを噛み締めるように悠人は言った。
「お前が、本当にただの『善意』とか『同情』で動いたって知る事が出来た。本当に俺を救うためにここに呼んだんだなって」
「は?最初から言ってたじゃないですか」
「そうだけどさ……こっちにも『事情』があってね」
「……?」
悠人はずっと疑っていたのだ。
『────悠人の言う『ラブコメ』の手先なんじゃないかって話だ』
線堂進の言葉。それは悠人の心に深く突き刺さり、この教室へ向かう中もずっと脳内で響いていた。
荒川健はこの世界に操られた存在であり、海でのループのようなとてつもない事件が起こるのではないか、と────疑っていた。
「……なんでも良いですけど。結局どうするんですか?来栖君は」
「告白の返答の事か?」
「だからァ!!あなたの事が好きで付き合おうって言った訳じゃないんですから告白とかじゃないんですよね。分かりますかね」
「うーん別にさ、告白って相手に愛を伝えるっていう意味合いだけで使われる言葉じゃないよね。俺さ、本来の言葉の意味を無視して恋愛的な意味でしか使わない奴、嫌いかもw」
「……………………………………………………よし、アンガーマネジメント終わり。これってこの後殴ればいいんですかね、あなたを」
「効果無いじゃん」
「はぁ。良いから聞かせてくださいよ」
ため息の後、健は思い切って床に寝そべり、虚無感と開放感と背徳感の中で目を閉じた。
「告白でも良いですから。どうするんですか?」
「…………」
「自分と付き合って全てを台無しにしてやるか、それともいつ壊れるか分からない今の状態を維持するか」
「…………」
悠人の中に思い浮かぶ、周囲の人間の顔。『前に進む』事が出来た高校生活の中で知り合った、大切な存在。
「俺は────────」




