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まさに『きもったま』!

「なんか色々適当じゃないですか?」


「ン?気のせいだって」


「いやでも……」


 俺は目の前に置かれた赤い物体を呆れながら眺めていた。


「気になったから頼んだ『血みどろオムライス』はただのコンビニに売ってるオムライスおにぎりだし」


「あ、やべ忘れてた!ワタシがケチャップかけなきゃね、ふはは」


「そんなところだろうと思いましたけども」


「さて、愛を込めようじゃねェか」


 灰崎先輩は立ち上がり、置いてあったケチャップを持ち────


「南無、南無、キュン!ってね!!」


 思いっきりケチャップの容器を握り……ん、あ、え?この人思いっきりケチャップの容器握ったけど?中身の三分の一ぐらいぶちまけられたんだけど?


「……もしかして血みどろオムライスってケチャップ馬鹿みたいにかけただけのオムライスおにぎりなんですか」


「だけとはなんだね、だけとは」


「桜塚が頼んだ『骨チュロス』とかただの粉砂糖まぶしたチュロスじゃないですか」


「でも美味いぞ、骨チュロス」


「そりゃ砂糖かかったチュロスは美味いでしょ」


「ケチャップかかったオムライスも美味いだろォ?」


「量的に『オムライスかかったケチャップ』の方が適切だと思うんですけど」


 全体的に物足りない雰囲気がこの『お化けメイド喫茶屋敷』には漂っている。……アレかな、お化け屋敷要素に凝りすぎてメイド喫茶要素を疎かにしちゃったとか────


「……ねー、つまんない。霊子つまんないよお兄さーん」


「……」


 そう、お化け屋敷としては十分な空間になってしまっているんだ、この教室は。


 灰崎先輩の隣に座る冥蛾ちゃんは、頬を膨らませながら俺を睨んでいる。


「喪女ちゃんには実体化しないでって言われてるし、霊体の時はお兄さんとしか喋れないのに……ほら、霊子のために独り言ブツブツ言いまくってる変人になってよー」


「……」


「ふーん、無視しちゃうんだ。じゃあ────」


「そ、そそそういえば……なんだかお化け屋敷要素が薄くない?」


「どこ見ながら言ってんだお前」


 やるしかない。冥蛾ちゃんを暴れさせるわけにはいかない……つまり。


 冥蛾ちゃんと話しつつ、同時に灰崎先輩と桜塚との会話も成立させる……!!


「あー、確かに!暗いのとメニューが怖いくらいしかないね」


「そこのところどうなんですか、灰崎先輩」


「ど、どこのところォ……?」


「今 (冥蛾ちゃんが)言ったじゃないですか。このお化けメイド喫茶屋敷、暗くてメニューが怖い点しかお化け屋敷要素が無いって」


「絶対言ってなかったぞ!?来栖、お前体調でも悪いのか……?」


「あァ、それに関してはねェ……」


 灰崎先輩は黒いカーテンで覆われた周囲を指さし、呆れたように笑った。


「お化け役を担当したのが、キミ達に因縁のある男子達でさ。バックレたみたい」


「僕と来栖に因縁のある先輩、と言うと……」


「あぁ、あの時の───────」


「え、何それ霊子知らない。仲間外れ?ひど……」


「────球技祭で俺と荒川と桜塚と藍木と河邑で組んだチームで出たバスケの試合で戦った、詩郎園七華の命令で俺に暴力を振るってくるも突如現れた豪火君によってボコボコにされた、灰崎先輩の同級生の男子達の事ですね!」


「へぇ~そんな事あったんだ!」


「アニメでしか見ない唐突な説明口調お疲れィ」


 息を整えながらナイフとフォークで真っ赤なオムライスを口に運ぶ。


 それにしても……あんなに豪火君にコテンパンにされたのに、まだ灰崎先輩が好きなのか?あの先輩方は。


「それにしても物足りねぇな……白い顔の皿を数える女とか、そこらへんいても良いのに」


「こりゃ手厳しィね」


「本物のお化けでもいれば良いのにね!ね、そう思わない?」


 愉悦そのものと言える邪悪な笑みを投げかけてくる冥蛾ちゃん。クソ、陰キャに会話のコントロールをさせるなんて到底許される所業じゃないぞ。


「確かに、本物のお化けでもいれば雰囲気出るなぁ」


「いや本物なんて俺は言ってねぇぞ……大体、本物なんていらんしな」


「あっ」


「うぇっ」


「ん?」


 俺と灰崎先輩は目を見合わせ────────『やべェ』という感情を共有した。


「ふーん」


 目が笑っていない。幽霊に相応しい凍てつくような視線が桜塚を貫いて……いるが、本人には伝わっていないだろう。


「な、なんでそんな事言うんだよ桜塚。お化けが可哀そうだろ」


「あ?なんだ来栖、お前お化けとか信じちゃってんのか?」


「……ふーん」


「あーマジで信じてるね。マジでいるもん。マジで見た事あるし。マジで」


「はははは!来栖にもガキっぽいところあるんだな」


 気持ちの悪い汗が全身から吹き出し、口の中に残留していたはずの濃いケチャップの味が分からなくなるくらい俺は焦燥しきっていた。


 ────会話の空気が変わったのはその時だった。


「────僕も一緒だ」


「……え」


「周りの奴らは馬鹿にするがな、お化けとか幽霊はいる……と僕は考えている」


「……」


「そ、そうなのか……?」


 目を真ん丸とさせた冥蛾ちゃんを横目に、桜塚の言葉を待つ。


「というより、『もし存在したのなら』……残していった人々から認識されない状況はきっと辛いはずだ。人生を生き抜いた先人達がそんな仕打ちを受けるのは気に食わねぇ。だから僕は、少なくとも僕だけは彼らの存在を信じる」


「……」


「『もし存在しなかったら』……だからと言って、お化けの存在を信じているデメリットなんてねぇだろ。それだけの話だ。っつっても、やっぱり怖いからな。こんな暗い場所で来られたら困る」


「……」


「……な、なんで二人とも黙ってんだ。……その、僕は頭が悪いから……こういう下らない事をよく考えるんだよ、どうして生きてるんだろうとか、哲学……なんていうんだっけ……そう、哲学未満のヤツを……」


「いや、全然下らなくないよ」


「そ、そうか?」


「うん、少なくとも────────」


 いつの間にか、その席には誰も座っていなかった。桜塚が話している間ずっと目を見開き、驚いたような表情をしていた彼女が……黒いカーテンをすり抜けながら去っていくのを視界の端で確認できた。


『いる』と断言出来る立場の俺と灰崎先輩の言葉じゃなくて、見えないし聞こえないはずの桜塚からの力強い言葉は……確かな存在の肯定は……酷く真っすぐな的外れな視線は、きっと彼女のどこかに響いたはず。そう思いたかった。


「……この場にいた幽霊は、嬉しく思ってるんじゃないかな」

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