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優秀な回復アイテムだったりしますよね

某アイドル育成ゲームと某オープンワールドアクションRPGのせいで投稿が遅れてしまいました

「おかしなとこないですかね?」


「ないんじゃね」


「なさそうですぞ」


「ねーと思う」


「ない」


 教室の片隅で、慌ただしく準備するクラスメイト達の邪魔にならないように、俺達は荒川を囲んでいた。


「しっかし……上手く行くかな、『ゲーミングメイド喫茶』は────」


 何を言っているか自分でも分からない。ゲーミングメイド喫茶とかいう意味不明奇々怪々文字列を発する度に脳が麻痺するけど、『ゲーミング』が俺達のクラスの『テーマ』である事は事実でしかない。


『メイド喫茶×何か』をコンセプトにオリジナリティを生み出す────必ずそうしろと生徒会が言ったわけじゃない。でも、全クラスがメイド喫茶をやるなら自然とだれもが思いつくものだ。


 7クラス×三学年の計21クラス分のメイド喫茶の中で、どう集客すれば良いのか。他のメイド喫茶よりも自分たちのメイド喫茶の方が優れている事をアピールするにはどうしたら良いのか。


 辿り着いたのが『オリジナリティ』だ。メイド喫茶に加えて新たな要素を主張する事で興味を引く。


「全く、眩しいったらありゃしねえよ。僕は最後まで反対してたんだからな」


「え、困ったなww自分そんなに輝いちゃってますかね?」


「あー、比喩抜きで文字通り光ってんだよなー」


 教室中に張り巡らされた虹色のライトの装飾は当然メイド服にも付けられている。発光ダイオードくらいの大きさの光がスカートをクリスマスツリーのように彩り、頭部のホワイトブリムをレインボーブリムにしてしまった。実際にライトを装着しているメイド服を目にするのは二度目だけど、当然の如く慣れない。


「そこ、ケーブルはみ出ちゃってるからしまって……うん、それで良い」


 熱心に働いている西澤すらもゲーミング状態だ。どう考えてもメイドと相性の悪い色彩に頭が混乱しそうになる。


「あ、来栖さん、そこカーテン閉めてもらっても……」


「ん、おけ」


「あざっす!」


 背番号『1211』、背ネーム『線堂組遊撃隊長』の高橋の言葉に従い、わずかに開いていたカーテンを引っ張る。『ゲーミング』部分を強調するために教室を薄暗くしてるんだけど、それも相まって異様かつ独特な雰囲気が立ち込めている。


「お前らはどうするの?荒川のシフトは午前ずっとだっけ」


「ですね」


「僕は午後から厨房だな。別に料理をしたりするわけじゃねぇが……」


「俺と河邑もそうだぜー」


「なるほど……じゃ、荒川ハブって四人で回るか」


「別に良いですけど……せっかくですし、後でココにも遊びに来てくださいよ。当たり前ですがメイド役が自分以外女子なので肩身が狭くて」


 荒川の、やれやれという仕草をするその一挙手一投足でライトが虹色の軌道を描く。


「ポスターにも一応ゲーミングメイド喫茶とは書いたけども……本当に大丈夫かこれ」


 そう、問題は───────他クラスのテーマだ。























「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」


「ゔおっ……」


 教室に入ろうとした瞬間、飛び出してきたメイドに俺はたじろいでしまった。


 ────それが普通のメイドであれば、もう少しマシな反応が出来たはずなんだけど。


「1年2組の『アニマルメイド喫茶』……噂では聞いてたけど」


「あぁ……これは……」


「やべーくらいに……」


「意味不明ですぞ!?普通、メイド×動物と言ったらケモ耳一択なはずッ!なのにどうして─────」


「可愛いでしょ、この『着ぐるみ』!」


 俺達の前に立ちはだかる『獣』……そう、こいつらは人の形をしていない。よく遊園地とかにいるような、教育番組に出てくるような動物の着ぐるみ。メイドっぽい衣装を着せただけの、着ぐるみだった。


 え、本当になんで?素直にケモ耳使っとけよ……?


「よく用意出来たな、こんな……複数人分わざわざ」


「詩郎園さんが用意してくれてさ。この前会った時に『私が自殺しかけた原因の一部はあなたにある』って()()()()口が滑っちゃったんだけど、そしたら協力してくれて!」


「え」


「ね、それよりさ。可愛くない?似合ってるかな?」


「あぁ……なるほど、1人だけやけに圧が強い牛型メイドがいると思ったら中身はお前か」


 ……ここは1年2組。そして俺に執拗に構ってくる奴なんて、もうその条件自体が答えみたいなものだ。


「えっ、来栖……私だって分かるの!?嬉しい……」


「バレバレだろ。逆に朝見以外の奴がここまで近付いてきたらビビるよ」


 可愛らしい着ぐるみが圧をかけてくるこの有様は、一部のホラー映画のタイプの恐怖がそそられる。


「来たかい、来栖君達!」


「……その態度からして榊原、なんだろうけど────」


 ライオンだった。


 ギザギザのデフォルメされたたてがみの、ライオンが腕を組んで立っていた。奴のルックスの全てを棒に振った百獣の王の姿は、言動を確認してからじゃないと気付かなかったくらいに榊原のオーラを抹消している。


「そうだよな、2組だからお前もいるよな……」


「普段は王子様とか慕われてるのに着ぐるみ化はもったいなさすぎますぞ……」


「ははっ、逆に新鮮だろう?そりゃ、ボクが燕尾服を着ても似合うだろうけど、それじゃつまらないからね」


 ……一理ある。


 執事要素を取り入れたとしても、あくまでこの文化祭は『メイド喫茶』限定だ。女装メイド喫茶ならともかく、執事だけではやっていけない。明らかな男女差別があると一部のクラスから反発が起きたらしいけど、男子が面倒ごとを避けたがるせいでその反発に参加せず、女子達だけの反乱軍も結局は暴走した生徒会長に沈められてしまったそうだ。


 それに、榊原殊葉という人気者一人だけでインパクトを残す手段は少し不安だろう。俺達だって荒川健という男の話題性は信じているけど、男の娘メイドってカードだけで勝負に挑むのは無謀だと判断したから、しっかりとゲーミング要素にも凝ったんだ。


「で、メニューは……」


 俺と背番号『100』背ネーム『目標偏差値』の桜塚、背番号『7』背ネーム『自治厨は鋼鉄よりも稲荷』の藍木と河邑で席に着き、机に置かれていたメニュー表に目を通す。


「たべ●子動物、コア●のマーチ、うんチョ●……う●チョコ!?うん●ョコをメイド喫茶で提供するの!?」


「ぐぬぬ、スカト●は射程範囲外故……」


「ごめん普通に黙ってほしい」


「オイオイオイ、ドリンクが牛乳にカルピ●にヤ●ルトにフルーツオレって全部乳製品じゃねーか!アレルギーへの配慮はどーなってんだ!?」


 高校の文化祭にしてはメニューの種類が多いと思ったけど、なるほど……動物由来のお菓子と飲み物で統一してきたか。


 ……でも、女子が動物の着ぐるみを着てメイドになるというこの空間で牛乳は、その、ちょっと……。


「来栖?」


「……」


「飲み物は決まった?」


 牛が、こちらを見ていた。


 着ぐるみの無垢な瞳は何故か、その中身にいる深い闇を隠しきれていないように見えた。


「あ、あの……これ男女逆だったら普通に訴えられるレベルの気持ち悪さなんだけd」


「決まった?」


「おい、優柔不断になってねぇで早く注文しろよ。とりあえず僕は●クルト二本で」


 お菓子を頼むわけでもないのにヤク●トは二つ注文するとかいう中々の気持ち悪さを誇る桜塚だけど、それに突っ込めるような状況じゃなかった。


 だって……アレだよ?今朝見がやってんのは、俺がチ●ポの着ぐるみを着てカルピ●を頼ませようとしてるのと同じだぞ?いや、それは違うか……。


「ったく、決められないなら────」


 そこで桜塚は自分で親指を後ろの方……彼の背中を指した。


「後ろに書かれてるのでも頼んどけよ」


「……あぁ、ね」


 徐々に顔を近づけてくる牛に苦笑いを投げかけながら、俺は言った。


「じゃ、●ルピスで」

三章はあと最低10話ほどで終わる予定です



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