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悪くない個体値じゃないですか

 存在するはずがない────とまでの表現は大げさだが。


 灰崎廻には確かに、来栖悠人以外の『友達』と呼ばれる存在がいる。今、彼女の目の前に立っている。


 だと言うのに廻は────引きつった苦笑いで神谷咲と話していた。


「……ワタシも咲の制服姿見るのは初めてだなァ。似合ってるね」


「えへへ、ありがと~」


「で、お隣の方はァ……彼氏さん?」


「えぇ!彼氏だって~センパイ!やっぱそう見えちゃうんですよぉ、私たち────」


「死ね」


「もう、つれないなぁ」


「ノータイム死ねに対して『つれない』の一言は咲の成長を感じざるを得ないよ、ワタシ」


 日常の波動に阻まれて顔もまともに見れない『友達』に微笑みを投げかけ……吐きたいため息をぐっと堪える。


(……困ったな、まさか今出会うなんて)


 廻は嬉しい反面、脳の片隅で焦燥のようなものを感じていた。


「めぐちゃんは今何してるの?あ、友達待ってる感じ?」


「ま、まァそうかな」


「えー、じゃあ……」


「うん、残念だけど今日は────」


「そのお友達も含めて一緒に帰ろうよ!」


「ンンゥそう来たかァ」


 ……背筋に垂れる冷や汗。


 この時、彼女は初めて自覚した。


 ────自分が、『来栖悠人を神谷咲に会わせたくない』と思っているということを。


「そ、その友達なんだけどさァ。今文化祭の準備してて遅くなっ────」


 そして、その言葉を口にしてから気付く。


 ────視界の端の、違和感。


(……あ)


 その正体を察するのは早かった。彼女の視界を覆う日常の波動が、横の部分からどんどん削れて────その部分はどんどん大きくなっていく。


 つまり、莫大な『非日常』を持つ存在が────自分のすぐ後ろにいるのだ。近づいてきていたのだ。


「お待たせしました灰崎先輩、と言いたい所ですが……お邪魔しちゃったみたいですね」


 来栖悠人。灰崎廻がともに下校するために待っていた対象がそこに到着したのだ。


「くっ、くくく来栖クン……ぜ、全然邪魔じゃないけど」


「あぁ、そうですか?そうですか」


「……なんか怒ってねェ?」


「別に。『ぼっち』ってのは噓だったんだなぁとしか思ってませんよ」


「う、嘘ってわけじゃなくて……髪の毛全部むしったら消えるっけ、記憶って」


「消えるのはぼっちを自称した過去じゃなくて俺の未来だと思うんですけど」


 悠人が視線を廻から他校の制服を纏う二人に移した時、きょとんとした表情の咲が言った。


「……え、めぐちゃん。『友達』って男の子の事だったの?」


「ま、まァ……」


「ふーん……」


 咲は身をかがめながら、怪訝な目線を悠人に向ける。


(だから会わせたくなかったんだ……多分だけど咲は、来栖クンが一番嫌いなタイプの子だから……)


 まさに灰崎廻にとって絶望的状況と言える。()()()()()()()()()()()()()()が、『ぼっち』ではない所を来栖悠人に見られた上に、悠人と相性が悪いであろう神谷咲を彼と会わせてしまった。


 ────が。


「────く、るす?」


「え?」


「────来栖、悠人?」


 絶望的状況にいたのは、廻だけではなかった。


 神谷咲の隣に立っていた男子生徒。咲が先輩と呼んでいた事から高校二、三年生であろう彼は、現れた来栖悠人の姿を見て……あからさまに顔を硬直させていた。


「……え、どこかで会った事ありましたっけ……?」


 対して来栖悠人の表情は……ただただ純粋な、困惑。


 悠人の記憶の中に、その男子生徒の姿などありはしなかったのだ。


根津(ねづ)センパイ?どうかしたんですか……?」


「……いや、何でもない」


「え、でも……」


「何でもない……名前を聞いた事がある気がしただけだ」


 俯いた視線と冷たい声によって、場は静寂に包まれる。


 部活動の活発な声、そして上空を飛ぶ鳥の嘶きのみが……その場の音を担っていた。













 ー ー ー ー ー ー ー








「うわ、また知らん奴出てきたんだが?」


『根津』と呼ばれた男子生徒。短くさっぱりとした黒髪に、その高い身長と寡黙な雰囲気が第一印象。


 モニターを凝視する影山崔理は、彼の顔と数秒のにらめっこをしてから────


「…………いや、知ってる……あたし、こいつの事知ってる」


 ────記憶の一部分に引っかかりを感じた。


「なんとなく顔に見覚えがある……どこだ?どこで見た?荒川健と同じパターン?いや、でもそれは全部確認した……」


 頭の中に浮かんだのは、一つの可能性。


「まさか────『転生者』?」


 呟いた後に、賽理は手を左右に振りながらすぐさまその意見を否定した。


「ないない。『転生者』はもう────あたしを含めて『()()』しか残ってないんだから。そんでもう一人は『あの子』だから……この男が転生者なはずがない」


 フラッシュバックする記憶。


 血。


 骨。


 肉。


 塊と化した臓器。形を失う霊長。崩壊する倫理。現実味の無い現実。


 ────初めて目にした、人間の死体。


「他の『転生者』はもう……()()()()()()()()()()()()んだから────」

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