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親友属性持ちはしっかり組ませましょう

 ─────●ikipedia曰く。


『親友とは、とても仲がいい友人を指す。同音をもじった派生語に、心から理解し合える友人の事を心友、信じあえる友人の事を信友などが使われることがある。真摯に向き合っている真実の友人を真友と言うこともある』


 来栖悠人は言った。


 それは、『関係を表すのに最適な言葉』だ、と。


 ここで言う関係とは無論、線堂進との事だ。


 確かに、彼らは心から理解し合っていると言えるだろう。互いの考えている事は何となく分かってしまう……付き合いの長さゆえの察する能力だ。


 だが─────それならば、『相手が隠し事をしている』という事も、二人は気付いていたのではないか?


 来栖悠人は『ラブコメの波動を感じる』能力を持っている事を約二年の間隠していた。


 線堂進は『BLの波動を触る』能力を持っている事を現在まで隠している。


 ぎこちない態度、怪しい受け答え……例えば能力を手に入れた直後などは、互いに無視できないほどの違和感を抱いていただろう。


 ─────否、そうに違いない。断言できるほどに彼らの結束は固く、互いの事を理解し合っている。



『絶ッ対に誰にも、三上にも言うなよ!進だから言ったんだぞ』


『それは嬉しいけど、高校入学直前の夜にこんな話をされるとは思わなかったな。てっきり徹夜でスマ●ラするのかと』


『そっちの方がダメだろ』


【ゲーム機に目線を落としながら、進は言った】


『ってか、何で今まで言ってなかったんだ?どうしてこんなタイミングで……』


『……どうしてだろうな』



 悠人は高校入学前の夜に、二年間守り続けた秘密を打ち明けた理由を……自分でもよく分かっていないようだった。


 それは─────その感情を、目的を、言語化したくなかったからかもしれない。


『線堂進に秘密を話させるために自分の秘密を打ち明けた』─────なんて、我儘な思いを封じ込めたかったのかもしれない。









 ー ー ー ー ー ー ー









「俺の能力について─────誰にも口外するな」


 そう言い放った線堂進に対し、灰崎廻は呆れたようなため息で返答した。


「はァ、自分から打ち明けといてそう来るか」


「言ったでしょう、あなたならどうせ気付くだろうって思ったんですよ。どうです?後輩のお願い、聞いてくれますよね」


「……取引、つったよな」


「えぇ」


「ワタシは特に何も、キミに求めたいモノはねェんだけど」


「おやおや、そうですかそうですか。おかしいな……そんなはずはないのですが」


「……」


 薄ら笑いを響かせながら、進は廻の周りを歩き─────手に持ったスマートフォンを操作する。


「当然のように来栖クンのスマホのパスコードも知ってるんだね」


「『親友』ですから。それにしてもおかしい。あぁひょっとして、あなたは気付いていないのか!」


「だから、一体何に─────」


「これだよ」


 瞬間、廻の眼前に突き出される液晶。


 それは─────上部に『線堂進』と表示された、LIN●のトーク画面。


 そして、そこに映っているのは─────最も新しい送信は─────『12時30分』の、線堂進が送った動画だった。


「これは……?」


 サムネイルは真っ暗な闇で、何の動画かを判断することは不可能だった。


「再生してみてください」


「……」


 廻は言われるがままに指先で横に倒された三角形を押し──────────『それ』を見てしまった。


『ふっ、あっ…………ふっ、うっ……あ、あ、あっ……』


 裸の女性。


 汗ばんだ身体と艶めかしい声、そして恐らく撮影者と思われる男性と合体している性器。


「─────」


「おっと……流石の灰崎先輩でも、()()()()()()()()のハメ撮りを見るのはキツかった感じですかね?申し訳ない!」


「な、んでこれを─────」


「俺、顔広いんですよ。それにしても先輩、どれだけ昔やんちゃしてたんですか?コレを持ってた奴、『消してないってバレたらまずいから渡すわけにはいかない』ってかなり駄々こねちゃって……無理矢理手に入れましたが、『苦労』しましたよ」


「そうじゃない、なんでこれをもう来栖クンに送ってるんだって話だよッ!これじゃあ取引の余地なんて……」


「馬鹿だなぁ、送信取り消しすればいいじゃないですか。もっとも、これは『勝った』場合に送られる予約送信なので……俺のスマホはここにはない。今ここで約束してくれれば、悠人が目覚める前には消しますよ」


「……」


「ククク……滑稽だな。あれだけビッチだのヤリマンだの噂が立っていたあなたでも、悠人に自分の乱れた姿は見られたくないと来た。あいつはそこまで気にしたりはしないだろうが、心の整理を終え、俺に一通りキレてから、動画を『使って』、そして─────お前を見る瞳が曇っていく」


「……」


「認めよう。悠人はあなたの事を良く思っている。これからもぜひ仲良くしていってほしい。だからこそ─────この取引に応じろ、灰崎廻」


「……」


「お気に召しませんか。ならおまけでもう一つ……黙っといてやろうか?」


 そう言った進は廻の右腕を指さし、歪な笑みを浮かべた。


「主にタトゥー、傷跡を隠すために用いられる肌色のテープをファンデーションテープと言う─────なんて、悠人は知らないだろうから気付かなかったんだろうな」


「ッ!」


「剝がれかけてますよ、先輩」


 慌てて抑えた右腕は……おびただしい量の切り傷の痕を持っていた。



『今日、暑いから半袖着て来たんだった。忘れてたなァ』


『……別に問題じゃなくないですか?むしろ好都合というか』


【半袖なら最悪、着たままで腋に干渉する事が出来るからな。腋に干渉って何だよ】


『いや、その……』


『?』


『─────じゃあ、こうするか』


【そう言った灰崎先輩は、脱いだパーカーを……巻き付けるようにして()()()()()()



「学校には貼って行っていないようでしたが……ククク、防水性を謳っている製品でも海で遊んでいれば流石に剥がれますって。それだけ準備をしていたって事は、よっぽど海水浴を楽しみたかったんでしょうね……ま、その頃の俺達の記憶は今の俺達にはありませんけど」


「ほんと性格キモいね、キミ」


「ククク。それを言うなら、悠人は自分の腕を切りまくる女とかを『キモい』と一蹴しそうですが」


「はァ……まァ、良いや」


「!」


「来栖クンに言わせてみれば……こんなの、大した悩みじゃないよね」


 そう言った廻の視線は────目をつむって砂浜に倒れてはいるものの、確かな『呼吸』をし続けている来栖悠人を捉えていた。


 どうやっても取り戻せなかった生命の輝きを、愛おしく眺めていた。


「来栖クンを助けてくれてありがとう────なんて、偉そうな事は言わないけどさァ。キミがいなきゃワタシ達は未来を歩めなかったっていうのは、事実だし。感謝してるよ」


「……当たり前だ。俺はいつも自分のために行動している」


「ふゥん。キミがそう言うならそうなんだろうけど」


「……チッ、さっさと行ったらどうですか?」


「え?」


「悠人を安静な場所へ。一度助かった以上は危険はないと思いますが、一応……」


「キミは?一緒に来ないの?」


「……遠慮しておきますよ」


「そう」


 互いに─────強がっているのが分かった。


 ポーチを拾い、悠人を背負い……別れの言葉はなく、灰崎廻は離れていく。砂浜に重い足跡を残しながら、線堂進から離れていく。


「……」


 やがて─────その後姿が見えなくなったところで。


 彼は一人、言葉を零した。


「ごめんな、四回も死なせて」


 一度目の悠人の死。桟橋に立ち入れなかったその時から……うっすらと、予想はついていた。


「でも、確信が持てなかった。もし違ったらどうしようって……別にどうって事無いのにな」


 だが、何故だか─────悠人に人工呼吸をして良いのだろうか、という気持ちがあった。


「お前はさ、ファーストキスとか拘るだろ?だから……今回まで待つしかなかった。灰崎廻が再びお前に人工呼吸をする、今回まで……」


 進は知っていたのだ。分かっていたのだ。来栖悠人という人間は、残機無限の自分の死よりも、ファーストキスがいつ誰となのかを気にする者だと。


「……ごめん、な……」


 ─────だが、線堂進はそうではない。自分の死という方面での価値観では、悠人とは異なり一般的なものを持っている。


 感じる必要のない罪悪感を、どこにもぶつけられず……内側に抑える。


「俺がこんな力を持ってるって、悠人が知ったとしても、お前はきっと……いつも通りに接してくれるはずなのに……」


 彼らは、親友。


『親友とは、とても仲がいい友人を指す。同音をもじった派生語に、心から理解し合える友人の事を心友、信じあえる友人の事を信友などが使われることがある。真摯に向き合っている真実の友人を真友と言うこともある』


 彼らは心から理解し合っている。


 が、彼は─────線堂進は、来栖悠人を信じ切れていない。真摯に向き合えていない。


「悠人は俺を拒絶しない、そんな事は分かってるはずなのに……っ」


 来栖悠人に対して能力が発動する。


 ─────つまり、自分は来栖悠人に恋愛感情を抱いているのではないか?


 ──────────ならば、もし来栖悠人がそれを知ったら、今までの親友という関係はどうなってしまうのだろうか?


「違う、違うッ!違う違う違う違う違う違う違う……違う──────────」


 もはや自分自身すら信じられなくなった彼の感情の行先は……どこにも無い。


 故に線堂進は─────隠匿者であり続けるのだ。

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