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「悠人」


「ん」


「帰ろうぜ」


「あぁごめん、今日は部活行くからさ」


「そうなのか、部活……は!?ぶか……部活!?」


 デカい声で驚きすぎだろこいつ。ホームルーム終わったばっかりでまだ皆教室から出てないから恥ずかしいんだけど。


「い、いつの間にそんな……」


「へぇ〜、何部入ったのぉ?」


「オカルト研究部。先輩に誘われたから、まぁ入っても良いかなって」


「オカルト研究部って、あの……っ」


 わなわなと手を震わせ、進は切迫した表情で俺の肩を掴んだ。


「怪しい。怪しすぎるって!悪い事は言わん、やめておいた方が身のためだぞ親友」


「……ま、それはそうなんだけども……」


 困った。出来れば灰崎先輩と進は遠ざけたい。あの人の興味が進に移動した時────ラブコメは加速するだろう。だからと言って変な言い訳をしても進にはバレる。


「─────自分で言ってるんだから行かせてやれよ、線堂」


「……高橋」


 ため息をつきながら近付いてきたのは高橋君。進達と仲良くやってるグループの中でも目立つ……というか目立ちたがり屋の陽キャ様だ。


「皆言ってないだけで、線堂には良い加減にして欲しいって思ってるんだよ」


「……何がだ?」


「お前がそいつと……来栖悠人と一緒にいる事に対して、だ」


「…………なんだよ、それ」


「三上もそうだ、なんで来栖から離れない?」


「なんでってそれは、友達だから─────」


「友達だからって女子に対して『あんな事』言うような奴と一緒にいて欲しくないんだ。皆、お前達の事を思って言ってる……」


 酷い言い草だが、まぁ……ごもっともです。朝見と俺の動画を見れば、誰が悪人かなんてそりゃ、俺一人としか思えない。それに……朝見が俺を虐めたのはあくまで過去の事。『今』では俺が悪人だ。


 ……事情を説明しても、どうせ理解は示してくれないだろうし。


「お前に悠人の何が分かる」


「汚ねえ言葉吐いて女を泣かせる奴の事なんざ理解出来る訳無いだろ」


「……そうか、なら─────」


「ダメだよ、進くん」


 立ちあがろうとした進を、三上の平静とした声が鎮める。


「悠人くんが黙ってるんだから、私達が余計な事しちゃダメでしょ」


「……そう、だな。……ごめん、悠人」


「あー……はは、良いって、別に。……じゃあな」


 進、三上、そしてうつ伏せになって修羅場をやり過ごそうとしている荒川を一瞥し、俺は席を立つ。

 平然としたような態度で、陰キャらしく強がって、傷付いた心を隠す。


 でも正直さ、マジで、あぁ─────俺一人が貧乏くじ引いて、誰かの幸せを守っている!罪を背負って、誰かを救っている!気持ち良すぎだろ、この状況!ラノベでよくある自己犠牲オナニーってこんな気分だったのか……ッ!


 ふふふ……やべやべ、まだだ、まだ笑うな。オカ研の部室で大爆笑してやる─────


「失礼しまァす」


 ガダン!という爆音。余裕ぶっていた俺の肩がびくんと震えた。


 それが勢いよくドアを開けた事による衝撃だと気付くのに一秒、そしてドアを開け、7組の教室に堂々と入っていく者に気付くまで三秒かかった。


「部員の回収に参りましたァ、2年4組の灰崎廻だよォ〜」


 ただでさえ、クラス内でいつも明るい進達が修羅場を形成して地獄の空気になっているというのに……校内で一番怪しい先輩の登場で空気はさらに凍りついた。


「さァ行こうか来栖クン、ワタシ達の愛の巣へ。ふははははは」


「あ、っす……え、ちょ、ま……」


 強引に俺の首を腕で捕まえ、教室の外へ引き摺ろうとする灰崎先輩。限りなく密着しているこの状況を活かさずにはいられないと感じた俺はなんとかして胸を触ろうとしたが、大胆に動く度胸ともしバレた時への勇気も無い俺にはいささかハードルが高かった。


 引き摺られるまま二週間前のように俺は離れていく教室を眺める。

 進と高橋がなんかを話して……うわ、めんどくさそうな事になってる。あぁ、荒川……進と席が近いせいでずっとうつ伏せになって寝てるフリしてやがる。大人しくお迎えを待つんだな、彼女持ちが。


「こんにちはァ!!」


「うぉびっくりしたあ、何ですかいきなり……」


 唐突に灰崎先輩が叫んだ。なんなんだろうこの人は。子供みたいに……まともに相手したらどんどんこっちが消耗してくタイプの人か。


「ほら、来栖クンも挨拶して」


「えぇ、誰に──────」


 身体の体勢を立て直し、灰崎先輩の視線の先を見て──────


「……んちは…………」


「……こんにちは」


 意味の分からないモノでも見ているような目線を向けてくる詩郎園七華に小声で挨拶をした。


 奴の向かう先は─────7組の教室。


「ほら因縁の相手だよォ来栖クン!放っておいて大丈夫なの?」


「別に……大丈夫ですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので」


「……ほう?」


 歩きながら首に腕を回してくる灰崎先輩……おぉ、背中に……当たってる。当たってますよこれは。


「線堂進は確か、キミの幼馴染だったかな?」


「なんで知ってるんですか」


「調べた。来栖クンに興味が湧いたって言ったでしょ?適当な一年生捕まえて聞き出したよ」


 その一年、気の毒に。急にこんなおっかない見た目の先輩に捕まってさぞ恐ろしかっただろう。


「線堂進と詩郎園七華にどんな関係が?」


「単純に詩郎園が進に惚れてるってだけです」


「来栖クンの動画を詩郎園七華が拡散した理由は?」


「動画の拡散を脅しとして俺を従わせる事で、進と親密になろうとしたからです」


「で、キミは脅しに屈しなかった訳だねェ。……そして、詩郎園七華が線堂進に悪影響を与える事が無いと言い切れるのは何故?」


「簡単ですよ」


 そうだ、簡単な事だ。こんな単純な事に詩郎園は気付かなかった。故に俺の動画を拡散してしまった。正義を全うしたつもりなのか、俺への腹いせなのかは知らないが、確実に奴は判断を間違えた。


「─────俺たち幼馴染の絆を舐めてたってだけです」

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