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ラブコメの波動を感じる能力を手に入れました

 ─────────とか言っても、まぁ信じてくれないだろうな。


「どう説明したら良いものか、この力を……」


 四月初旬。とは言えど夜は冷える。黒い空の下、冷たい空気を吸いながら俺は歩き慣れた道を進む。


 全く、俺の親友はこんなちょっとだけの距離すら面倒臭がって俺をパシリにしやがる……。


「……チッ、クソが」


 今の舌打ちと悪態はジュースを俺一人に買いに行かせた親友に対して、じゃない。


 ──────自販機へ向かうルートを阻む、『ラブコメの波動』に対してだ。


「こんな夜中にイチャつきやがって……」


 このまま狭い路地に入れば、最短で自販機へ向かえる。


 だが……波動を感じるという事はつまり、何かしらのラブコメがその通路に展開されている。


「クソが、クソが……」


 俺はソレに遭遇したくない。だから回り道をする。少し遠くても、それが俺の最善だから。


「あっ、うっ、イイ、イイよぉ……っ!」


「ふっ、ふっ、ふっ……おらっ!」


 回り込んで辿り着いた自販機。最短ルートの方向にわずかに見えた、イチャつくどころか盛ってしまっているカップル。


「……ほらな、遠回りこそが俺の最短の道なんだよ、結局」


 漫画の言葉を引用し、自分にしか聞こえない声でボソボソと呟き、親友の分のコーラと自分が飲むド●ターペッ●ーを買うために500円玉を入れる。


 それが俺。ラブコメの波動を感じる能力を持つ高校生、来栖悠人(くるすゆうと)です。


 ラブコメを嫌い、憎む俺はこんなふうに脳内にモノローグを表示させて語っている。それは心の中でどこか──────ラブコメの主人公と、主人公を取り巻く環境に憧れているから。


 こんなどうしようもない俺に、恋愛など許されるはずがないと言うのにな。








 ー ー ー ー ー ー ー









 まずは俺がこの能力を手に入れた経緯を説明したい。


来栖(くるす)ってさ……気付いてないの?二人の迷惑になってる事」


 中学一年生という、新たな環境に踏み出した子供が少しづつ大人の階段の登り方を学んでいく時期に。


 俺、来栖悠人(くるすゆうと)はようやく登った二段くらいの階段から勢いよく突き落とされた。


「……へ、迷惑……?」


線堂(せんどう)三上(みかみ)さんの事!来栖、あの二人といつも一緒にいるじゃん」


「う、うん。小学一年生の頃からずっと仲良くて──────」


「あの二人、『良い感じ』なんだから二人きりにさせてあげなよ」


 同級生の女子の言葉に、俺はとてつもない衝撃を受けた。


 まさか、まさか自分が邪魔になってるだなんて思いもしなかったし、幼馴染の二人が『そういう』仲になりそうだなんて気付きもしなかった。


「お前、最近どうしたんだ?」


「大丈夫?悠人くん……元気なくない?」


 だが、意識し始めた瞬間に見え方は変わった。


「な……なんでもない……」


 線堂進(せんどうしん)は頭脳明晰、容姿端麗、そのくせ運動も出来て話す事も面白い完璧人間。


 三上(みかみ)(はる)はその天然さと圧倒的な顔の可愛さでどんな相手や場所でも地位を確立し、人に愛される才能を持つ美少女。


 ……え、この二人の幼馴染って俺!?!?wwwwwwwwとか開き直って笑い飛ばせるような余裕は、中学一年生の俺は持ち合わせていなかった。


 一応スペックを羅列しておこうか。


 来栖悠人は勉強嫌い、容姿普通 (普通ではあると思いたい)、そのくせ運動がド下手クソで話す内容はゲームアニメ漫画ラノベしかない、家族と幼馴染にしか愛されないクソ陰キャ少年。


「……離れた方が、良いのかな」


 劣等感は拗れ、進と三上を妬んだりもした──────が、同時に二人には幸せになって欲しかった。


 俺は離れたのです。苦渋の決断で、二人以外の人間と仲良くなる事を決めたのだ!!


 その結果、どうなったと思う?



「く、来栖!来栖悠人君……好き、です!付き合ってくださいっ!」


 ──────彼女が出来ました。


 何故?世界のバグか?でもそのクラスメイトの●●は俺の事を好きと言ってくれた。それは紛れもない事実。

 陰キャだからと思って青春を諦めず、なんとか明るく振る舞おうとした成果が出たのだ。


 ──────出たんだよね。


「そういえば来栖って線堂と三上ちゃんと仲良かったよね。私、迷惑じゃなかった……?」


「あぁむしろ全然!あいつらとはもうあんまり仲良くしてないし、そんなことより俺は●●を優先するよ───────」


 何気ない会話だった。


 その翌日から、俺はクラス内の女子グループからいわゆる『イジメ』を受けた。


 その中には俺の彼女だったはずの子もいた。


「な、なんで……こんな、やめて、痛い……っ」


「はぁ……●●が進くん目当てでアンタと付き合ってたの、まだ分かんないの?」


「アハハ、でも付き合うまでするのは凄いよね!こんな来栖なんかと……」


 ●●は直接手を下す事なく、ただ俺を見て微笑んでいた。


 中学生女子の暴力は意外と遠慮が無い。ただ集団から蹴られるだけ、教室の床を這いずり回るだけだったけど……苦痛でしかなかった。



 イジメが長く続く事はなかった。引き際を理解している奴らだった。


 クラス替えするまでは保健室に登校し、二年生になった四月。


 いつも通りの日常が俺を迎えてくれる───────はずだった。


「……なんだ、これ」


 外に出た瞬間に気付いた。いつの間にか俺は──────得体の知れない『不快感』、波動のようなものを感じるようになっていた。



 いわゆる、『ラブコメ』と呼ばれる事象に対して。


 ……こんなもんで、ご理解頂けただろうか。



そしてこの物語は──────このどうしようもない俺がラブコメに立ち向かい……ラブコメのヒロイン達と戦う物語だ。

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