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奥田達矢

ヤツの敗北

作者: 弥生はじめ

待ちに待った生徒会長選挙。誰と誰が立候補して誰が落選するのか?

 「テラリ〜ン」

 今、僕はクラスの危険人物であるヤツにカッターナイフを首元に突き付けられている。

ヤツの名前は、伊藤賢人。

 僕は、

「急に何をするんだ」

 伊藤賢人ヤツは何を思ったのか気が狂い、

「てめぇの目をくり抜いてやろうか!」 

と、脅すのである。

 今度は、僕の左腕を掴みカッターナイフを手首に押し付ける。


 次の日。女子たちがヒソヒソ話をしていた。

「噂でしゃー、聞いたんだけど伊藤賢人アイツが生徒会長に立候補したらしいんしゃー」

「うわ〜!うげる〜…クスクス…」

 担任の

松川先生が教室に入って来た。 


 松川先生は、小顔で美人な女性。担任でもある。担当教科は英語。

 猪岡あやみは、単純明快で豪快な姉御肌。


「生徒会長に立候補したのは、伊藤賢人くんと猪岡いのおかあやみさんの2人です」

 それを聞いた伊藤ヤツは、 

「あやみのようなクズが俺に噛みつくなんて10万光年早いんだよ!」

と、小声で呟いた。松川先生は、

「それで生徒会長は選挙で決まる事になりました」

 周りは、

「ヤツが生徒会長になったらヤバイから、その時は俺退学するわ」

「もう、あやみが生徒会長確定じゃね」

「ヤツに投票する人いねんじゃね。クスクス…」

と、ザワザワする。

「静かに」

松川先生の声が響く。

 朝の会は終わった。

 

 僕の前の席の加藤祐馬かとうゆうまが、後ろを振り向いて

「後藤田!ヤツには入れんなよ」

という小声で助言された。

「あー!わかった」

と、僕は言った。何せ祐馬を敵にしたら僕なんかは――――――――。


 加藤祐馬は、メガネをかけていて目つきが悪いが、クラスの皆から頭が良いと言われ運動神経抜群と好評。身長はクラスの男子で背が高い。

 祐馬は、高校から家まではものすごく近いが故に、以前ヤツにストーカーされたらしい。かなり嫌な思いしたんだなぁって周りの皆も同情している。


 後ろの席の大牟田右京おおむたうきょうが、

「後藤田ちゃん、後藤田ちゃん」

と呼ぶので、後ろを振り向いた。大牟田は笑っていた。何せヤツと同じ中学の出身なのである。この生徒会長選挙の結末はどうなるのかは、わかっていそうな顔をしていた。


 大牟田右京は、丸顔で少しおっとりしている男子。筋肉質で女子から父さんと呼ばれている。

 大牟田右京と加藤祐馬は、最強コンビなのである。


 ある日の放課後のこと、教室にはヤツと僕だけ。

 ヤツは、不気味な笑い方をして僕の所へとやって来た。きっと選挙の事だろう、と僕は思った。

「なぁ後藤田!選挙は投票よろしくな」

やっぱりなと僕は、

「生徒会長選挙頑張れよ!僕も応援するから」

 ヤツの機嫌を損ねたらゴジラよりも、たちの悪い暴れよう。

 僕は、味方のフリをして握手をした。そして、不気味な笑いを振り撒きリュックを背負って

「後藤田!アデオス」

と、言って帰って行った。

 ヤツの態度が良いのは、生徒会長選挙中だけだろうな。


 その後、僕も帰ろうとバッグを背負ったら、

「ちょっと後藤田!」

と、猪岡あやみに声をかけられた。

「つーがしゃー後藤田!さっきヤツと握手してらっけしゃー」

「味方のフリしていたんだ。機嫌を損ねたら『テラリ〜ン』と言って暴れるから」

 あやみは手を叩いて笑っている。

「ヤツには絶対に投票するんじゃないわよ」

「わかった、祐馬にも言われた」

 そして、あやみは去って行った。


 そして、生徒会長選挙の演説と投票する日がやってきたのである。

 体育館に全校生徒が集まっていた。

「ヤツが落ちたりしてクスクス」

「ヤツがどんな良い事を言っても誰も投票しなかったりして」

「あやみ先輩が生徒会長なるって」

「投票する必要無かったりしてクスクス…」

 マイクを持った先生が

「みんな静かに」   

 体育館に響いた。そして、しーんと静まり返った。

「これから生徒会長選挙の演説を始めます。それでは、2年の猪岡あやみの演説です」

猪岡あやみがステージの真ん中のマイクの前に行き、一礼して

演説が始まった。

「私が…」

 あやみの演説は終わった。全校生徒から大拍手。一礼をしてステージから降りて行った。

 「次は2年伊藤賢人くんの演説です」

 伊藤は、自信満々にステージの真ん中で軽く礼をしてカッコつけながら演説が始まった。

「僕が生徒会長に立候補した、えー伊藤賢人です。そう!この学校に必要なのは正しい心です。全校生徒は僕の正しい心に触れることで物事の善悪を判断できるようになります。そして強くなる。明るい学校が待っています。これで僕の演説を終わります」  

 軽く礼をした。拍手はまばらだった。ステージから降りて行った。

 全校生徒が各教室に戻る。


 いよいよ投票する時間になりました。小松川先生がクラス全員の投票用紙を配って行く。配り終えた。

 皆が投票用紙に立候補者の名前を書き始めた。シャーペンの音だけが響く。

 書き終えたら、松川先生が投票箱を持って投票用紙を回収する。回収し終えたら小松川先生が投票箱を持って職員室へ行く。

 教室では、

「ねぇねぇ誰って書いた?」  

「もちろんだよ」

 加藤祐馬が話かけてきた。

「後藤田!女子の名前にしたよな?」

「女子の名前を書いた」

 ヤツの名前なんて書きたくなかった。


 スピーカーからピンポンパンポ〜ン と、聞こえた。放送で生徒指導の先生が

「えー、先ほどの投票結果をお知らせします。猪岡あやみさん78票、伊藤賢人くん2票で、猪岡あやみさんの当選です」


という放送が流れた。クラス中が、あやみおめでとう と、なった。但し一人を除いて…。

 

 帰る時間になった。クラスのみんなが帰った後で伊藤が1人教室で

「はぁー!なんで俺が落ちて、あやみが当選するんだハァハァハァ…!!みんな俺をハメやがって〜!ハァハァ…ハァー」

と、言って暴れているところを森田もりた先生に見つかって、こっぴどく説教されたそうだ。


 そして、伊藤賢人は、泣きながらカバンを背負って帰った。


 伊藤賢人ヤツは帰ったのではなく、自分探しの旅に出たのかもしれない。


終わり




 





筆者が高校時代に伊藤賢人のモデルになった男子からカッターナイフを突き付けられた事は本当です。 

 伊藤賢人のモデルの男子は直ぐにキレて暴れだす危険人物でした。キレる前には謎の効果音「テラリ〜ン」と言うのがお決まりパターンでした。


こんなつまらない短編小説を読んでいただきいつもありがとうございます。




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