異世界に転生した。でも名前が変だ。
突然だが、私は転生者である。
日本という国で過ごしていた……らしい。と言うのも、言語などを覚えているだけで詳しいことはもう覚えていないのだ。まぁ前世の記憶など、大抵がそんなものだろう。
そんな私も今年で十五歳である。文化的に困ることは無かったが、私は今、致命的に困っていることがある。
それは、この世界の名前はおかしい、ということだ。もちろん、人の名前を笑うなんて最低だと分かっている。分かっているんだが……おかしすぎるのである。
例えば私の名前はバニラ•コーシューニュである。いや、アレを思い浮かべるだろ。アレを。
そして、母はイホンナ•コーシューニュ。父はラクシティ•コーシューニュである。楽して違法な高収入?キツい。キツすぎる。
もうすぐ生まれる予定の弟には、普通の名前を激推しするつもりだ。……少なくとも、私が笑わない名前を。
でもまぁ、もちろんこの世界の人からすれば何も変なことはない。だが、前世の記憶がある私からすればどうも変な意味に聞こえてきてしまうのだ。しかも不意打ちにくるのが地味に辛い。
例えば、先日私がとあるパーティーに参加したときのこと。
このパーティーの主催者は国一番の貴婦人と呼ばれる人だったので私もかなり緊張していたのだが、
「この度はお招き頂き誠にありがとうございます。バニラ•コーシューニュと申します」
「あら、ご丁寧な挨拶をありがとう。私の名前はヘンナ•パンツーよ。どうぞパーティーを楽しんで下さいね」
……ヘンナ•パンツー?変な、パンツ?
もう、心の中は大爆笑だったね。死ぬかと思った。だって、キリッとした国一番の貴婦人が、変な……パンツ!?もう、笑うしかないよね。
他にもある。
私には幼馴染みの友達の男の子が居るんだが、その子の名前はナットー•ネッバネッバである。うん。まだここまでは良い。だがある日のこと……
名前にナットーとある彼だが、この世界にも納豆はある。なので私は聞いてみたのだ。
「ナットーはさ、納豆好きなの?」
聞いたところ、納豆は好きだそうで、一週間に一回は食べるらしい。
ナットーが納豆を食べる。納豆が納豆を食べる。
……納豆の共食いである。一週間に一回起こる納豆の共食い。もう、ムリだよね。我慢出来るわけないじゃん。
そんなわけで今、私は婚約者探しに手間取っている。
両家のお見合い的なのがあっても私は寡黙で居るし(だって、口開けたら笑っちゃうもん)、表情をピクリとも動かさない(多分表情筋を力ませないと笑う。確実に笑う)からだ。
正直、もう無理なのでは……と両親には悪いが諦め欠けている。
すっかり寡黙令嬢というあだ名が馴染んだ社交界では、今日は社交界で噂の二人のイケメンが来るそうで令嬢達の声がうるさい。
暫くすると、令嬢達の声がより大きくなった。ご本人様登場のようだ。
「あぁ、なんてかっこいいの!さすがアーム•ムッチムチ様ね!!」
何だって?
令嬢達の視線の先に居るのは筋骨隆々のゴリラマッチョイケメン。それが……アーム•ムッチムチ……だと!?腕がムッチムチ?……どこが?
腕を見渡しても見えるのはムッチムチならぬムッキムキの筋肉である。ここで笑わなかった私を褒めて欲しい。
少し経つとまた令嬢達の声が大きくなった。どうやらもう一人のイケメンのようだ。
「キャーなんてかっこいいの!さすがコーシュ•クサイ様ね!!」
先程と似たような言葉を令嬢達が言う。
いや、ちょっと待て。コーシュ•クサイ?口臭臭い?これは、いくら何でも酷すぎやしないだろうか。あんまりな名前に少し可哀想になってきた私である。
ちなみにコーシュ様からは何だかフローラルな匂いがした。断じて臭くなかった。
あと、コーシュ様とは目が合った気がするが、きっと気のせいだろう。
その夜、何故か家に手紙が届いた。送り主は……コーシュ様である。
何でも私に一目惚れしたらしい。
イケメンからの言葉に浮かれそうになったが、一瞬で冷静になった。
よく考えてみて欲しい。私の名前はバニラ•コーシューニュである。もし嫁ぐとなったら私が嫁に行く必要があり、コーシュ様はコーシュ•クサイという名前だ。
つまり結婚するとバニラ•クサイになってしまうのだ!
いや、バニラ臭いってなんだよ。バニラ臭いって。
というわけで嫌である。
なんて思っていたのだが。
一応お断りの返事を尤もらしい理由を付けて送ったのだが、断る度に口説き文句で満ち溢れた手紙が厚くなっていくのである。それはもう、律儀に一枚ずつ。
それもあり、バニラ臭くなってもいいかな?と思う今日この頃である。
読んで頂きありがとうございます。
果たしてこれは恋愛といって良いのか。
ギャグと言って良いのか。(知人からはつまらないの酷評←知ってた。)
いろいろ思うところはあると思いますが、一言。
この駄文を読むために時間を使ってくれてありがとうございます!