天上へ
とある双子の兄弟がいた。
二人は幼い頃から活発に遊び回る子供であった。中でも高いところへ登ることを好み、毎日のように庭へそびえ立つ楠の木に登ってはどちらがより高所へと到れるか競い合っていた。
「待ってよ兄さん」
「今日も俺の勝ちだ! ほら」
いつも一足先に頂上へ至るのは兄であった。彼は一段下の枝にしがみつく弟へと手を伸ばし、その腕で弟を引き上げる。するとようやく兄弟は同じ高さへと並び立つのであった。二人揃って眼下に広がる街並みを眺めては、飽きることなく語り合うのが日常であった。
やがて二人は成長し、競い合いの場は木登りのような遊びからそれぞれの生業へと移り行く。
兄は登山家を目指した。幼い頃から縦横無尽に駆け回っていたお陰で体力には自身がある。体躯にも恵まれていた。彼はみるみる内に実力をつけ、間もなく世界の最高峰へと到達しその名を碑に刻んだ。
弟はというと、兄ほど体力に自身はなく違うアプローチで高みを目指した。彼は航空学校へと進学しパイロットへの道を目指したのだ。兄が数々の峰へと挑戦するさなか弟は必死に勉強し、大空へと羽ばたく術を身に付けた。
彼はやがて人々を異国の地へと届けるため世界中の空を飛び回ることとなる。それでもその頃には兄は彼より高いところにいるのであった。
「おいおい聞いたぞ。この仕事辞めるって本当か?」
噂を聞きつけたらしい同僚が弟を問い詰める。
「ああ、もっと目指したい場所が見つかったから」
そう答え彼は空の頂きを指差した。
やがて弟は数々の試練を乗り越え宇宙飛行士となる資格を得た。勤勉な彼は間もなく打ち上げられる有人ロケットの乗組員として選ばれることとなる。
打ち上げは無事成功し、彼は宇宙船から眼下に広がる青い母星を静かに見下ろした。
「ここまで来ると、誰よりも高みへ到達したと思わないか?」
仲間の乗組員が弟に語りかける。だが、彼はその言葉に首を振った。
「いいや。僕の尊敬する人はもっともっと高いところにいるんだ。ここじゃない、もっと高いところへ。そこに辿り着くまでは僕の夢は終わらない」
彼は言葉を紡ぎながら首へと下げたロケットペンダントを握りしめる。それは十字架を模しており、中では在りし日の幼い二人が仲良く並び立っていた。




