白百合きょうだい奮闘記
「姉ちゃ……マルタ! 無事……か……?」
「あ、ディモント! ……兄様!」
リリィビアンカ家の家宝である妹が『暴君王』に連れ去られた、その事を聞いたリリィビアンカ家当主ディモント・リリィビアンカ公爵は大切な妹を取り返すべく、王城に殴り込んだ。
しかしそこで目にしたものとは
「……何故、我が妹に抱きついているのですか、ファフニール王。どういう状況ですかこれは」
この国の国王であり、『暴君王』であり、自身の友人であるファフニール王が、マルタ・リリィビアンカ《我が妹》に抱きついて離さない姿であった。
「あー、ディモント……お兄様、今ファフニール王は呪いが解けたばかりで話が出来る状況じゃないから私から説明するわ」
「頼む、姉ちゃん」
時はディモントが産まれた25年前に遡る。
公爵家の御令嬢にしては不自然な口調のマルタ、そして妹であるマルタを姉ちゃんと呼ぶディモント。
彼らは日本という国からこの世界に転生した姉弟であった。
2人はとても仲の良い姉弟で、弟がゲームをしてその横で姉がちょっかいを出すのが2人の日課であった。
2人は不幸な事故により、同時に命を落とす。
そして弟は|自分がプレイしたことのあるゲームの世界に転生した。ゲームのタイトルは忘れてしまったが、かなり強烈なシナリオだったので内容だけは覚えていた。
ディモントがその事に気がついたのは僅か2歳の頃だった。そして自身が転生したのは所謂モブキャラである事にも気がついたが、後に産まれてくる自身の妹が問題であった。
妹もモブに近い立ち位置だったが、妹はゲームの作中でこの国『ローザ・ロボ』の王でありゲームの悪役であるファフニール王に囲われ、陵辱され、最後は勇者の手によって殺されるキャラであった。
ファフニール王がそのような悪役になったのは作中でも理由が説明されていた。
ゲームの物語が始まる少し前、ファフニールの弟が事故とはいえ隣国の王に殺され、その賠償としてファフニールは隣国の王から多くの財宝を貰う。その中に『呪いの指輪』が入っていた。その指輪は持ち主の精神を侵し、やがて邪竜へと変質させる恐ろしいものだった。全ては隣国の王がローザ・ロボの土地が欲しくて謀ったものである。
こんな事をしでかしておいて、隣国の王は作中で敵ではないのだから不思議だ。
そして呪いの指輪により精神が侵されたファフニール王は、『白百合一族の家宝』と呼ばれる人物を城に呼び寄せ、彼女を陵辱し、彼女を孕ませる。それが『マルタ』であった。
そしてゲームでは『白百合一族の家宝を取り戻すクエスト』をとあるモブから強制的に受けさせられる。
そう、ディモントはゲームの主人公に『王に強奪された我が一族の家宝を取り戻してきてくれ』と頼むモブであった。
ディモントは焦った。
このままではまだ見ぬ大切な妹が王に陵辱されて勇者に殺されてしまう。
しかしディモントはゲームのタイトルすらも忘れた自分がどうやって対策を練れば良いのかわからなかった。
妹が産まれてくるまで、ディモントの胃痛は続いた。
そしてディモントが5歳の頃、妹マルタが産まれた。マルタは可憐で可愛く、目に入れても痛くなかった。ディモントは前世の記憶もあってか妹に対して過保護になっていった。そして毎日『ファフニールという人物には気をつけろ』と妹に言い聞かせた。
そして妹が5歳、自身が10歳の頃、ディモントはマルタから秘密を告白された。
「……にいさま、わたしのほんとうのなまえは『マルタ』じゃありませんの」
「それはどういう事だい、マルタ」
「わたしのほんとうのなまえは、『 』ですの」
ディモントは、その名前に聞き覚えがあった。
その名前は、『前世の自分の姉の名前』であった。
「……え? マルタ、君はもしかして『 』姉ちゃん?」
「……え? 兄様って、もしかして『 』?」
「「え?」」
姉弟は、兄妹になったのだ。
そこから話は早かった。
マルタが前世の記憶を取り戻していたのはかなり早い段階だったらしい。というのも、兄もとい弟がずっと『ファフニールには気をつけろ』と言い聞かせていたものだから早めに記憶を取り戻したらしい。
そしてマルタは兄がおそらく自身と同じ転生者で弟がプレイしていたあのゲームをプレイしていた人物であろう事にも気がついていた。まさか兄が弟だったとはマルタ自身も想像してはいなかったが。
そして2人はお互いの持つゲームの記憶を頼りに、以下のような対策を取ることにした。
まずは、ディモントがファフニールの親友になる事。
ゲームの作中ではディモントとファフニールが同い年で同じ学園出身の学友であることが仄めかされていた。また、公爵家の子息であるディモントと第一王子であるファフニールが同い年ともあれば繋がりを持つのは必然であった。現にマルタとディモントが前世の記憶の共有を行った1年後には、王族兄弟と兄妹の顔合わせがされた。(そもそも公爵家子息令嬢と王子達の顔合わせがそれまで無かった理由は、ディモントがファフニールを頑なに拒絶していたからであったが)
次に、マルタが1年で防御魔法を極めることである。
リリィビアンカ家の血族は防御魔法や他者へ加護を付与する能力が高い者が産まれやすい。マルタは一族の中でも一際その才能があった。そこに目をつけた2人は、防御魔法を極め、もしもの時があった場合は防御魔法を使い身を守る事にした。また、加護を付与する能力も極め、後に殺されてしまうファフニールの弟に加護を付与し、全てのきっかけである不幸な事故を未然に防ごうと考えたのだ。2人が記憶の共有をした1年後にディモントが拒絶するのをやめてファフニール達との顔合わせがなされたのも、それが理由である。
そしてマルタは無事に魔法を極めに極め、王弟と出会い、彼に自身の加護を付与したお守りを渡し、『これを肌身離さず着けているように』と伝えた。
そして最後に、白い犬を数匹育成し、彼らをマルタの専属騎士にした。
これはマルタの趣味が大きいが、ローザ・ロボの国の成り立ちも関わっている。
ローザ・ロボには伝説の狼が後の初代国王である1人の青年を助け、終生国王に献身的に仕えたという伝承がある。
その伝承により、王家をはじめとしたこの国の者たちは狼や犬を奉り、信仰対象としている。リリィビアンカ家はその中でも白い狼や白い犬を守護神として奉っている。
そしてマルタは前世の頃からの大の犬好きであった。今も昔も部屋には犬のグッズが大量にあり、前世では犬のブリーディングやトレーニングにも興味を持ち、そちらの道に進もうとしていたくらいだ。そんなマルタにとっては天国のような環境であった。マルタが15歳の誕生日に「守護神様の研究をしたい!」と両親に言ったところ、両親は喜んでマルタに白い犬を数匹授けた。
この世界では犬種名というものが存在しないが、犬好きのマルタにとっては前世で見覚えのある犬達を両親から与えられたものだから、マルタは愛犬達に彼らにそっくりな犬の種族名に纏わる名前を与えた。『ピレネー』『ウェスティ』『ビション』等々……。それを見たディモントは『安直すぎる』と呆れたのであった。
ピレネーたちはマルタから大きな愛を注がれ、毎日スクスクと成長し、やがて領民からも「守護神様」と奉られるくらい立派に成長した。
こうして2人は自分たちに出来る精一杯の対策をし、精一杯生きてきた。
それまでの間、ディモントとマルタは身を守る為にもファフニール達と関係を育んだり、マルタが「守護神様に一生を捧げる覚悟をしていますから」と言って両親が持ってくる縁談を断り続けたり、縁談を断るマルタを守る為にとディモントが両親を説得して若くして家を継いだり、前国王が崩御しファフニールが即位したりと、色んなことがあった。
そして、隣国の王が王弟の殺害を企てたが、マルタのお守りによって未然に防がれたのであった。
従者からそのような報告をされた時、2人は顔を青ざめたが、王弟の命が無事と聞いてホッとした。これでゲームのシナリオ通りには進まない、自分たちは助かったのだと。
そして安心したディモントは仕事の為、しばし領地を離れることとなった。留守を預かるのは勿論マルタである。
ディモントが領地を離れてひと月が経った頃、マルタの元に来訪者が訪れた。
「あれ!? オッテル殿下とレギン殿下!? どうしてこちらに!?」
「マルタ! 久しぶり!」
「だから『殿下』呼びはやめろと言っているだろうマルタ、昔のように砕けた口調で話してくれて構わない。いつものお前がいい」
王弟であるオッテルとレギンであった。
ファフニールには2人の弟がいる。今年で20歳であるマルタより2歳歳下のオッテル、マルタより3歳歳下のレギン。オッテルは昔から気難しい性格で他者を寄せ付けようとはせず、レギンも一見明るく好青年のように見えるが心の闇がとても深い。しかし幼い頃にそんな2人に粘り強く絡み続けたマルタには2人もいつしか心を許し、幼い頃は3人でよく遊び、青年と淑女となった今でも文通をしているくらい仲が良かった。
ちなみに隣国の王に殺害を企てられたのはオッテルの方である。
「じゃあお言葉に甘えて……オッテルくん、レギンくん、今日はどうしたの? 王都で何かあった?」
「うん……実は、少し前から兄さんの様子がおかしくなってしまったんだ。王都では民達に『暴君王』と呼ばれる始末だよ」
レギンからその言葉を聞いたマルタは一気に青ざめた。
ゲームのシナリオ通りに進んでいる。
しかし目の前には本来殺されているはずのオッテルが居る。どういうことだ。
「え、なんで、あの優しかったファフニール兄様が『暴君王』と呼ばれるほどまでにおかしくなっただなんて、信じられない」
オッテルやレギンと交友関係があったマルタは、ファフニールとも交友関係があった。初対面の時はゲームでの印象が強すぎたファフニールに対して終始怯えていたマルタであったが、ファフニールはマルタの事を妹のように大切にして可愛がってくれた。ファフニールの人柄を知ったマルタはいつしかファフニールを兄のように慕うようになっていた。
「僕達も信じられないんだ、でも、オッテル兄さんが隣国の王に殺されかけて隣国の王との賠償問題の話が終わったあたりからおかしくなって」
「……ん?」
「僕にこのお守りを渡して僕の身を守ってくれたのはマルタ、お前だろう? 加護の力を持つお前なら何か知っているんじゃないかと思った」
「待って待って、オッテルくんが殺されかけた件で、隣国の王から何か貰ったの?」
「? あぁ、隣国は魔力が込められた宝石が沢山採れる鉱山を多く有している。だからそのような財宝を賠償金代わりとして受け取ったのだが」
「……兄様は、その財宝から何か持ち出していない?」
「? ええと、ファフニール兄さんが気に入ったのは『クリスタルで出来た犬の像』と『黒い宝石のついた指輪』と『ダイヤのペンダント』……だったよね? オッテル兄さん」
「そうだな」
「あ〜〜〜……」
「マルタ?」
マルタは頭を抱えた。隣国の王にしてやられた。奴はオッテルが死のうと死ななかろうと、どちらにせよ呪いの指輪をファフニールに渡せるようにしていたのだ。
マルタは傍に居たピレネーに目配せした。ピレネーはそれを察知し、マルタの部屋に向かった。
「今からファフニール兄様に会いに行っていい? これ解決するの私じゃないと駄目だわ」
「わかったのか!?」
「原因がわかった、多分ファフニール兄様が正気に戻ったら隣国と戦争になると思うけど、2人とも覚悟してよね」
「やっぱり贈り物が原因だったんだね……」
「今ピレネーに私の武器を取りに行って貰っているからピレネーが戻ってきたらすぐに王都に向かいましょう。あとディモント……お兄様にも連絡しなきゃ」
「それなら僕達の従者に任せよう」
レギンはそう言うと従者に目配せをし、手紙を書いた。
「多分、ディモントは君が兄さんに誘拐されたとか大袈裟に書かないと飛んで戻ってこないだろうからそう書いておこうか」
「レギンくんってそういうところあるよね」
「兄上! 只今戻りました! そしてマルタを連れて参りました。」
「ファフニール王! マルタです! 『貴方の妹のマルタ』がやってきましたよ!」
「マルタは本当に変わらないなぁ。あの話を聞いて兄さんに向かってその名乗りをする勇気って凄いよね」
数日かけて、マルタ達は王都へと辿り着き、ファフニールの元へと参った。いつものファフニールならマルタに向かって優しく微笑み笑い飛ばすのだが、今回のファフニールは機嫌が悪く具合が悪いのが一目瞭然だった。
「マルタか……お前の声は頭に響く……」
「ファフニール王! いつもなら『お前の声はまるで仔犬のようだ』と笑い飛ばすじゃありませんか!」
「五月蝿い……大体何故お前はここに来たんだ」
「2人から聞きました、王の様子がおかしいと」
その言葉を聞いたファフニールはオッテルとレギンを睨みつける。
「2人は悪くありません、ファフニールお兄様を心配して私を頼って下さったのです」
「お前に何が出来ると言うんだ」
「私なら、ファフニール兄様を救って差し上げられます」
「出来るものか、この俺の事を知らないくせに」
「出来ます、私は幼い頃からファフニール兄様達と共にいたのですから」
「小さい頃から俺やあいつに守られてばかりのか弱いお前に!!! 何が出来るって言うんだッ!!! この!!! 内なるところから湧き上がってくる衝動を!!! 『人をコロセ、滅せよ』と誰かがこの俺の耳元で囁いているのを!!! どうやって鎮めてくれるんだ!!!」
ファフニールは思わず怒鳴り散らす。しかしマルタも負けず劣らずファフニールに対して怒鳴り返す。
「できますッッッ!!! お兄様たちを救うために私は5歳の頃からずっと修行をして生きてきたのですからッッッ!!!」
「マルタ! 危ない」
マルタは玉座に座っているファフニールに歩み寄った。思わずレギンとオッテルが制止しようとする。しかしマルタに同行していたウェスティとビションが2人の足に絡みつき逆に制止した。
「大丈夫、大丈夫ですよ、ファフニール王」
マルタはそう言ってファフニールを抱きしめ手を握る。マルタが握ったファフニールの手には『黒い宝石のついた指輪』がつけられていた。
「お前に、何がッ」
「出来ます。私なら貴方の痛みを無くして差し上げられます。ピレネー! あれを!」
マルタはピレネーを呼びつける。ピレネーは背中に背負っていたリュックから一本の『金槌』を取り出すと、マルタに渡した。
「何を」
「兄様の指を折らないように気をつけますが、もし折ってしまったらごめんなさい」
「えっ、待ってマルタ、君もしかして」
「うん、そのもしかして、だよ」
「待っ!!!」
マルタは金槌を握りしめ、ファフニールの指に向かって思い切り振り下ろした。
そして冒頭に至る。
「……で? 呪いは解けたって訳? 姉ちゃん」
「荒治療だったかなぁ? でももしもの時の為に対呪用金槌作っておいて正解だったね!」
「一歩間違えれば近衛兵に刺されてもおかしくなかったと思うんだけど、姉ちゃん」
「うん、私だから出来たと思う、この荒治療」
マルタに縋りつきグッタリとしているファフニール王、そしてそんなファフニール王をまるで『姉』のように優しく撫でるマルタ、そして2人の足元には粉々に砕けた指輪があった。
「ほんっっっとうに姉ちゃんは……」
「立派な『姉』で貴方たちの『妹』でしょ?」
「マルタの破天荒さには、僕達の心労が絶えることが無いよ……」
ディモントとレギンは笑いながら呆れていた。『家族水いらずのようなものだから』とレギンとオッテルが近衛兵を玉座の間から遠ざけていたのが幸いしたが、それをしていなかった時の事を考えると恐ろしい。
「マルタ、本当に助かった。礼を言う。さぁ兄さん、ひとまず部屋に戻って睡眠を取りましょう」
「とりあえずファフニール兄様の頭痛とか癇癪とかはこれで治ると思うよ。兄様、しばし休みましょう」
「……」
しかしファフニールはマルタを離そうとしない。
「兄様が元気になるまで私は王都に居ますから」
マルタがそう言うとファフニールはやっと手を離し、オッテルに支えられて自室へと向かった。
「えっ、姉ちゃん、しばらく王都に留まるつもり?」
「えっ、だってファフニール兄様の事放っておける? あの状態で?」
「いや、確かにそうだけど……」
「僕達は君たちの為に部屋を用意しているからそこを使っていいからね」
「ほら、レギンくんもそう言って下さっているし」
「はぁ〜〜……」
こうしてディモントとマルタはひと月ほど王都に滞在した。マルタは毎日献身的にファフニールのお見舞いに行った。ディモントは『姉ちゃんとファフニールを2人っきりにしておけないから』と言って律儀に毎回マルタに付き添っていた。
民には隣国の王の事は伏せつつも『王は呪いをかけられていて、白百合公爵の家宝と守護神によってその呪いが解かれた』と伝えられた。それを聞いた民たちは大いに喜び、しばらくのあいだ王都では白い犬と白百合を模したグッズが流行りに流行ったという。
そしてひと月経った頃、ファフニール王の体調が全快した。
「陛下、もう大丈夫なのですか?」
「また無理されて『妹』に迷惑かけられたら僕が困るんですよ」
「マルタ、ディモント、この度は本当にすまなかった。お前たちには迷惑をかけた」
「いや本当にそうですよ」
「ディモント! ……兄様! いくら陛下が同い年の友人だからって!」
「いやマルタ、本当のことだからディモントを叱るな。それにお前も『陛下』呼びはやめろ、いつものように砕けた口調で話してくれ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。ファフニール兄様、此度の件、隣国に対してどうなさるおつもりでしょうか?」
マルタはファフニールに問いかけた。隣国の王はやらかしすぎた、戦争になってもおかしくない。
しかしファフニールの言葉は意外なものだった。
「そうだな、奴等と関わると碌な事にならない。完全に関係を断つ」
「……と、言うと?」
「隣国との国交を断絶する。無論ただで断絶する訳にはいかないから諸外国の王族には今回の件を伏せずに伝えはするが、奴等とは今後一切の関わりを断ち切る。今回奴等から賠償金代わりに貰った財宝も全て公開処分とする。奴等から戦争をふっかけられようが土下座されようが何をされようが全て突っぱねる」
「その方がよろしいでしょう」
隣国から賠償金代わりに貰った財宝を全て公開処分という事は、それを見た民も諸外国も何かを察するであろう。隣国の王に殺されかけた王弟、何者かに呪われ暴君王と化した我が王、白百合公爵の家宝と守護神の活躍、そして元に戻った王が宣言した隣国との国交断絶、全てがわかりやすい。
「そこで、だ。マルタ」
「? はい? ファフニール兄様」
「お前には、この国を支えて欲しい」
「? と、言うと?」
「この俺か、オッテルかレギンでもいい、俺達3人の誰かと結婚して、王都に住め」
「……えっ?」
「はっ!?」
「えっ!? 兄さん!?」
「……はぁ!?」
突然のファフニールの宣言に、4人は驚愕した。
「待ってください! 私は誰かと結婚するつもりも家を出るつもりもありません!!!」
「そうだぞファフニール! 姉ちゃ……マルタは誰にも渡さないし家から出すつもりも無い! 今回は僕が居なかったからマルタが勝手に王都に来ちゃったけど!」
「待って待って兄さん! そんな話は聞いてない! いや、マルタなら結婚しても良いけど……ってそんな話じゃなくって!」
「僕もマルタなら結婚しても良いって思っていますが、そのような話は一切聞いていません!?」
慌てふためく4人を見てファフニールは笑いながら答えた。
「マルタの加護の力と防御魔法の力は素晴らしい。対呪用金槌とか作って王に向かって振り下ろすくらいだぞ? こんな逸材を誰かに嫁がせず公爵家で寝かせておくには勿体無い! 王族に迎え入れて王都の守護女神として居てもらった方がいい。隣国の奴らはこれで諦めるような奴らじゃないし俺達3人の命は狙われ続ける、2度も俺達を救ったマルタが王都に居てくれたら俺達とこの国は安泰だ」
「いや、だからと言って3人の誰かと結婚するっていうのは私はまだ考えられないというか、それに20歳で所謂行き遅れってやつですし、それに私は犬のブリーディングの研究をして生きていきたいので」
「お前の年齢とか俺達が気にすると思ったら大間違いだし犬のブリーディングくらい好きにやっていいぞ、何なら自国他国問わずお前の欲しがる犬の関連文献くらい好きに取り寄せてやる」
「私、王都に住みます」
「姉ちゃんッッッ!!!!!!!」
隣国の王はこの後も何度もローザ・ロボに侵攻するが、白い犬を侍らせた淑女の不思議な力によって何度も侵攻を阻められ、また諸外国や自国の民にまで自身の悪行が知れ渡り、最後は失脚した。
白い犬を侍らせた淑女は伝説となり、民達に愛され、王城で沢山の犬に囲まれながら幸せに暮らした。
そんな淑女は後にひとりの王族と結婚し、2人で末長く国を守っていったという。
そして淑女の元には、彼女の事を『姉ちゃん』と呼ぶ、ひとりの男が毎週のように訪れていたとさ。
最後までお読み下さりありがとうございます!
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(誤字一部修正)