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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アイドルを辞めた推しが色々あって彼氏になりました

作者: 月夜

はじめまして。

こちらでは初投稿となります。普段は主にpixivで創作、二次創作を行っています。興味を持っていただければ、そちらも見ていただけると嬉しいです。

俺はその日死んだ。生きる理由を失った俺は、死んだも同然だった。泥のように眠って、もうこのまま死んでしまいたいと、そう願っていた。あの人がいない俺の世界は、色を失い、真っ暗な闇に染っていた。


5年前。偶然ついていたテレビに映った大人気のアイドルグループ。次々に映り変わるメンバーを眺めていると、一人のメンバーから目が離せなくなった。熱狂的なファン達を楽しませようとしているメンバーの中で、一際輝いて見えた。しかし、ファンのペンライトは違うメンバーの色ばかりで。数少ないファンを楽しませようと、全力になっている彼に、いつの間にか俺は涙を流し、届くはずのないテレビの中に手を伸ばしていた。


彼は「KIZUKI」のメンバーで、名前は黒咲怜といった。イメージカラーは紫で、いつも右端にいる、少し影の薄いアイドルだったが、俺にはそんなことどうだって良かった。怜がいる日々は俺に光を与えてくれた。生きる意味をくれたのだ。退屈でどうしようもなかった俺の人生は、明るく光り輝いていた。

それからCDを買ったり、グッズ、ファンクラブ、と早速沼に沈んで行った。ライブやサイン会にも行って、怜中心の生活が始まった。その日々は、今までの日々の何倍も楽しく、何倍も幸せを感じていた。


そんな怜が脱退することになったのが昨日の話。卒業ライブには、沢山の人が訪れた。しかし、そのほとんどの人の本命は怜でないようだった。悲しくなった。泣き叫んだ。それでも事実は変わらなかった。ネットニュースを見る度に現実を突きつけられるような気がして、スマホを見ることもやめ、ただ眠ることだけをした。怜をもう一度推すことは叶わないようだ。涙をこらえ、怜に貢ぐためだけに行っていたバイトへ向かった。


近いから、というだけで選んだバイトは、チェーン店のファミレス。今日はいつにも増して客が多く、いつ辞めようかと考えながら注文を取っている時だった。黒の帽子を深く被った客に、見覚えを感じる。その帽子は、怜が好きなブランドのもの。服装も、顔も、ちょっと猫背なところでさえも、そのままの彼だった。それでもその時は忙しく、声をかけることは叶わなかった。きっとあれは怜だ。そう信じたかった。

翌々日のシフトでは、少しだけ身だしなみにも気を使い、本当に怜かも分からないのに、浮かれていた。その時店の来店を告げる音が聞こえ、「いらっしゃいませ」と言うと、またこの前のような格好をして、彼は訪れた。席へと案内し、状況を見計らって声をかけた。「あの、違ったら申し訳ないのですが、もしかしてKIZUKIの黒咲怜さんですか?」なるべく周りに聞こえないように、最低限の声で聞くと、頷く彼。「俺の事、知ってくれてるんだ。嬉しい」ふわっと笑う怜は、あまりにも眩しすぎて。舞い上がりすぎないように、好きだと伝えると、怜は嫌がることなく、話しかけてくれた。数分経った時、「バイト何時までなの?」と怜から思いもよらない疑問を投げかけられた。「あと30分ぐらいで終わりますけど…」なぜそんなことを聞くのかと思いつつ、そう答えると「じゃあ待ってるから、バイト終わったらこの席に戻ってきてよ」思いがけない誘いに30分ずっと集中することが出来なかった。


「お疲れ様〜」席に戻るとやっぱり夢ではないようで、怜が席を立って、こっちと手招きをしていた。「何か食べる?」そう言ってメニューを開く怜。推しに奢らせる訳にはいかない、と大丈夫ですと言ったが、結局怜に言いくるめられ、怜と同じ1番小さいパフェを注文した。真向かいに推しが、怜が座ってるという状況が未だ呑み込めず、今にも倒れてしまいそうだ。「いつもライブとかサイン会とか来てくれてたよね?あんまり俺のファンで、男性の人少なかったから…。覚えてる」まさかの認知まで頂いてしまい、もう死んでしまうんじゃないかと思うほど、幸せだった。二人でパフェを食べて、怜が時計を見ると先程から早1時間経ってしまっていた。「そろそろ行かなきゃ行けないんだった!ごめん、またここに来るから、その時話そう」そう言って慌ただしく帰ってしまった。俺もそろそろ帰らなきゃ。そう言って伝票を探すも見つからず、同期に聞いたところ怜が払ってくれたようだった。幸せを感じながら、きっと明日死ぬんだと思った。それか夢だったのだと。これが始まりとも知らずに。


翌日。俺はまたバイト先のファミレスに向かった。シフトは入っていなかったが、昨日怜と交換したメールアドレスに「明日、予定ある...?」とスタンプ付きで送られてきたのだから、「ないです!」と送る他ないだろう。まぁそもそも予定なんてなかったし、あったとしても推しのためだ。断るに決まっている。「じゃあ明日、昨日の場所で待ち合わせして、出かけない?」昨日ので終わりだと思っていたから、俺は驚いて、失神してしまうんじゃないかという興奮とともに「行きたいです」と答えた。


まさか相手の方からメールが来るとは思いもしなかった。相手は国民的人気アイドルだ。やっぱり騙されているのではないだろうか。考えすぎで頭がパンクしそうになる。それでも良い方向に考えたい俺は、あれは絶対に怜だったと考えることにした。考えることを辞めたのである。


ファミレスに着くと、もうそこに怜はいた。笑顔で手を振り、場所を知らせてきた彼は、圧倒的アイドルだった。「すみません、遅れてしまって...」頭を下げるとぱっと笑って「全然平気。俺も今来たところだから」と言う。その割には注文したと思われるパフェがもう届いており、珈琲は半分以下に減っていた。「何か食べる?」甘そうなパフェを頬張りながら、メニュー表を見せてくるが、奢る気で置いてある机の上の財布に恐怖を覚えてしまい、結局ドリンクバーだけを注文した。

20分ほど談笑した後、じゃあそろそろ行こうかと言われ、ファミレスから連れ出された。会計は知らない間にしてくれていて、彼氏力の高さを見習いたいと思いつつ、ドリンクバーだけにしておいたあの時の俺を心底褒め称えた。


そして、電車を乗り継ぎ、連れ出された先は渋谷。色とりどりの服を見に纏った人が行き交っている。怜は安定に馴染んでいる。当たり前だ。でも、俺は黒とグレーの当たり障りのないコーデだ。なのにこんなお洒落な人たちがいっぱいいるところに行っていいのか。そんな感じで悩んでいると、手を引っ張られた。「行くよ!」言われるがまま横断歩道を渡り、怜の後ろに着いていく。そして見えてきたのは、巨大なビル。怜曰く、ここに好きな店があるらしい。いつも被っている帽子の店だ…とロゴを見て感動した。買いたいものがあるのだろう。そう思い、店へ入ったそうそう、怜は「この人の前進コーディネートをお願いします」と慣れた口調で言った。俺の服を見に来てくれたのか…?そんな怜に戸惑いを覚えつつ、試着室へと連行された。


そして約10分後。試着室のカーテンを開け、怜に見せた店員は、「こちらでどうでしょうか」と笑いかけた。それに対して、早くもクレジットカードを出している怜。そのクレジットを出す手を、俺に止めることはできなかった。値段は見ていない。というか、目を塞がれて、見えなかった。それでもかなりするはずだ。店を出てから数歩歩いて、そして俺は止まった。「あの、お金…」申し訳なくなった俺は、足りるか分からないがとりあえず2万を渡そうとした。しかし、怜は「良いの」と笑うばかりで、一向に受けとってはもらえなかった。「次その服着て来てね」そう笑う怜に次があっていいのかと期待してしまう。あくまで俺たちはファンと元でもアイドルだ。関わっていいものでは無い。そうと頭ではわかっているのに。怜と会うとその感情のどれもが揺らいでしまう。これは恋なんかではない。推しに対する愛情だ。そんな言葉でさ、誤魔化しきれなくなってしまうほど俺は怜に特別な感情を持ってしまったようだ。


次のシフトの日。怜はいつもと同じ服装で、いつもと同じ席に座った。いつものパフェとドリンクバーの注文も、聞かなくたってわかってしまう。アイドル時代の無口で少しクールなイメージは、もう無かった。甘党で、優しくて、そして…。そして。好きなんだ。可愛いところも、彼氏力が高いところも、アイドルとしての怜じゃなくて俺は…。もう合わない方がいい。下心なんかがあったままじゃ、いつかきっと迷惑をかけてしまうから。だから今日を最後にするんだ。これを提案してしまえば、もう二度と怜には会えなくなってしまうだろう。それでも良い。夢だったと思うことにしよう。そうすれば、夢から覚めてしまっただけだと思えるから。


シフト終わり、いつものように怜の向かいの席に座った俺は、こう告げた。「もう、会うことはやめませんか?」と。

その言葉を口にした途端、怜の目に動揺が浮かぶ。「どうして?」そう言って少し前屈みになる怜に、俺は続けてこう言った。「あくまでも、俺と怜さんは元アイドルとファンという関係で、それ以上でもそれ以下でもない、と思うんです。」それ以上の関係にはなれない。そう告げているも同然だった。俺だってできることなら、怜とずっといたい。それに…。そんな俺の言葉に、怜は考えることなく「却下」と笑った。「神妙な面持ちで何言うのかと思ったら」あまり深く考えていない様子の怜は、その提案をあっけなく却下した。「藍斗くんはさ、会いたくない?それなら俺は、会わない選択肢を取るけど」会いたくないと言えば嘘になる。それでも怜のことを考えれば、合わないことが最適な方法なのだと思った。「そう…ですね…。出来れば、会いたくないです」だんだん小さくなる声を誤魔化すかのように、笑顔を作った。嘘でもいい。きっとバレることなんてないのだから。「そっか。そう思ってたんだ。ありがとう、言ってくれて」怜は悲しそうに笑う。あーあ。終わるんだ。全部が崩れていく。自分が会いたくないと言ったのに、言ったら言ったでこうやって落ち込む。最初に声をかけなければ、あの時怜を好きにならなければ、きっとこんな思いすることは無かったのに。自分の軽率さに腹が立つ。会いたくないなんて、嘘に決まってるのに。明日のバイトは行く気にならず、ため息をつくばかりだった。


そんなこんなで寝られないまま、朝が訪れた。酷いくまを隠すように、前髪を目にかける。今日からはきっとあの人はもう来ない。憂鬱な足取りでバイトに向かった。それから何時間経っただろうか。いつもの席に怜は来なかった。わかっていたことじゃないか。自分から突き放しといて、それは我儘すぎるだろう。あの時、会いたいと言えていれば、自分の得ばかり考えられるような人間であれば、後悔ばかりが浮かぶ。これで良かったんだ。そう言って自分の行動を正当化していないと、後悔とため息に飲み込まれてしまいそうで。もう一度、チャンスがあれば。その時はきっと、会いたいと答えるだろう。後悔ばかりのこの日々を、明るく照らして欲しい。あーあ。考えても仕方ないというのに。


来る日も来る日も、怜はバ先に来なかった。それもそうだよな。毎日後悔ばかりする俺は、くまを隠しきれなくなっていた。「寝れてないの?」店長にそう言われて、笑って誤魔化す。あの夢みたいな日々は、本当に幻であったかのように、跡形もなく消え去っていた。


2年して、怜は完全に芸能界から姿を消した。黒咲怜とエゴサしても、出てくるのはフォロワー2桁の俺のツイートだけだった。もう誰も黒咲怜を覚えていない。俺以外の誰もが、彼のことを忘れてしまっている。時の人だった彼を報道する人はいない。本名だったのか、そう出なかったのか。それすら知らない俺の夢は、儚く砕け散って、ボロボロと崩れ落ちたのだ。

それからどれだけ経っただろうか。怜の姿を覚えては、消えていく彼を、儚く笑う怜を追いかけて、追いつけなくて。こんなにも怜は俺を縛り付ける。幻想と幻覚で。ふと見た夢は、怜を追いかけている夢だった。やっと追いついたと思ったら、風に溶けて消えてしまう。あぁ、これは夢だ。そう気づいて目が覚めた時、俺は涙を流していた。同じ夢ばかりだ。


やっと追いついたのは、怜が芸能人から姿を消してから6年経った時だった。変わらない猫背、よく着ていた服のブランドの帽子を深く被った怜は、あの時と何一つ変わってはいなかった。「…怜っ」怜は俺の声にふりかえって、大きく目を見開いた。「藍斗…?」数年経っているのに、怜は俺を忘れてはいないようだった。「とりあえずどっか入ろうか」俺が働いていた、怜と出会ったあのチェーン店あの時と同じものを注文して、あの時と同じ窓側の席に座った。「久しぶり」そう笑う怜に、思わず緊張してしまう。「久しぶり…ですね…」自分から呼び止めたのに、言葉が詰まって出てこない。「お待たせしましたー」そう言って目の前に置かれた、小さなパフェに誤魔化すようにスプーンを入れる。先に口を開いたのは、怜だった。「あの時は、ごめんね」溶けて消えてしまいそうなぐらいやんわりとした笑顔で笑う怜に、思わず「いえ、こちらこそごめんなさい」と謝る。訪れた静寂。「あの怜さん」「藍斗くん」声が重なった。「あ、あの先にどうぞ」「ありがとう」さて、と話を切り替える。「正直に言うとね、俺は元アイドルとファンという以上の関係になりたい。友達からでいい。藍斗くんが嫌なら諦めるからさ」またあの笑顔だ。俺を縛り付ける笑顔。俺はどうしたい。答えなんて決まっていた。「俺で良ければ」精一杯の笑顔でそう伝える「それはどっち?友達として、それとも…「出来れば。出来れば恋人として、隣にいたいです」笑顔は、悲しそうなものから安堵の笑顔になっていた。「これからよろしくね。藍斗」唐突な推しからの呼び捨てに、俺の心拍数は上がってしまった。これからはこれ以上にドキドキさせられるのだろうか。そんなの俺の心臓が持たないのではないだろうか。「こちらこそ、よろしくお願いします。怜さん」

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