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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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ただいま③

地球から遠く離れた惑星アラミスにおいて、気の向くままに『強そうなもの』を『ケンカ』で破壊して回っていた解体業者スクラッパーの鬼娘、赤毛のブリジットは敗北することを知らなかった。


 アラミスの無法者達は10ほどの勢力に別れて抗争を続けていたがブリジットはあくまで親から継いだ家業の解体業者スクラッパーとして振る舞いどの勢力にも属さなかった。


 特に理由もなく目に付いたものを無差別に壊すその無軌道さから無法者達から、すべてを食らいつくす『フェンリル狼』とあだ名され恐れられていた。


 格闘スタイルは類い希なるタフさを活かした正面からの殴り合い。一発殴られる間に重たい連撃を叩き込めばどんな用心棒でも違法改造サイボーグでも血反吐を吐いて昏倒した。パトロール中の陸軍アーミーのホバー戦車の車列もブリジットと仲間達の機嫌が悪そうな時は道を譲った。八つ当たりで戦車を壊されてはたまらない。


 特注品のエグザスを着込めば天下無双、採掘プラントに住み着いたギガントアントラの巣の最深部まで潜り込んで女王蟻が精製した稀少鉱物を女王蟻の死骸ごと持ち帰ってきたこともあった。


 そんな無敵の赤鬼が、あろうことか素手同士の格闘において未成熟な体躯の少女に完封負けを喫した。


 ブリジットの攻撃がかすっただけで骨折または戦闘不能もあり得たほど華奢な身体をした少女相手の決闘は、悪趣味な残虐解体ショーを期待していた見物人達を落胆させた。振るう拳が一発も当たらない赤鬼が戦意喪失の果てに子供のようにうずくまり泣き出してしまったのだった。




『大人のくせに泣くほど悔しいの? 弱いものいじめをして虚勢を張る暇があるのならわたくしの稽古相手にならない? そうしたらこの銀河系で二番目に強い女にしてあげる』




 こうして力だけでは勝てない相手がいる事を知ったブリジットは自分より遥かに非力で小さなマーガレット・ワイズ伯爵の一番弟子となった。






 数年が経ち、すっかり牙の抜けたように大人しくなったブリジットだったが、腕前の方はアラミスにいた当時とは比較にならないほど洗練され、段々とマーガレットに近づいてきた。問題は戦闘中に我を忘れて本能に理性が負けてしまうこと。達人たる祖父が手放しで褒めるほどのセンスを有するマーガレットには出来て当然の駆け引きでも、ブリジットには相当難解なことのようだ。


 マーガレットも実戦の経験は少ないため、経験則からくる指導が出来ずもどかしさを感じている。理屈で説明しても高度な心理戦なとはブリジットの頭では理解できないため、痛みと共に弟子の身体に刻み込む他ないらしい。


 ヤバい攻撃をくらって危険性を身体でおぼえろ、という荒っぽくて非効率にも程がある修業方法ではあるが確実に身について来てはいるようだ……


 アラミスで何の目的もなく子供のように気まぐれに暴れ回っていたブリジットも変われば変わるもので、マーガレットや魚住の代わりにユイ皇女のお供を任されるほどにまで社会に適合できるようになっていた。それもこれも師匠格のマーガレットが行う厳しい躾の賜物であると言える。







 マーガレットの私室とも繋がっているトレーニングルーム(ブリジットが地獄穴ヘルピットと呼び恐れるシゴキの場)にブリジットと六郎のふたりが呼び出された。


 マーガレットの指定した時間にはまだ随分余裕がある、どうもマーガレットは入浴中のようで、ふたりはシーンと静まり返った部屋の中で年下の主人を待つ事になった。


「ここに来るとギガントアントラの巣に入り込んだ時より身が引き締まるんだよなぁ」


「そういやこないだの優性遺伝子なんちゃらのヤツ、相当ヤバかったけど──閣下はとうとう一発も攻撃食らわなかったな」


「あたしが何年かかけてまぐれで十五回しか当たらなかったんだぞ。あんなスカシ金髪ヤロー如きが簡単に当てられるわけ無いじゃん」俺達ふたりがかりでも負けそうだったじゃねーか、と六郎は苦笑いする。


「でもお前、十五回も閣下相手に有効打当てたんだ。お前やっぱすげえよブリジット。俺、騙し討ちでも勝てる気しねえ」


「当たれば勝つんだけどなぁ、当たれば。一発で即ノックアウトだかんな──それでも十五勝……千三百二十二敗」


「うっわ千回以上も負けてんのお前──勝率にすると何%だ?」


「考えたくにゃい」


「限り無くゼロに近いことはわかる」


 溜め息をつくブリジットは壁にかけられた歴代ワイズ伯爵の写真を指差す。


「ねえねえ六郎、閣下のお師匠、アレキサンダー伯爵ってさあ、六郎の目から見てどんぐらいスゴかったの? マーガレット様に聞いても身内びいきの賞賛ばっかしでよくわかんないんだよね」


「お前のタフネスとパワー、閣下のスピードとテクニックが融合した完全無欠の超人、と言えば理解できるか?」


「む、無敵じゃん? そんな強い人が強化服着てたら手がつけられないよ。なんで木星は戦争に負けたんだろ」


「歩兵ひとりの強さで軍艦使った戦争には勝てんさ……ましてや加齢による衰えもあるわけで……」


 ふたりは壁に掛けてあるアレキサンダー老の肖像画や数々の写真、ずらりとならぶ表彰状や勲章を眺めた。


「優しそうな顔してるよね。でも閣下のお師匠様だし、相当厳しかったんだろーなぁ……」


「いいや割とそうでも無かったぜ? 俺が出会った頃は丸くなってたのかも知れないけど、すげえ優しくて威厳ある紳士だったよ、怒っても怒鳴り散らしたりはしなかった。修業してる時は厳しかったけど理不尽な感じはしなかった」


 ブリジットはしばらく考え込んだ後、ああーん、と不服そうなうなり声を上げた。


「愛情たっぷり育てられたのにマーガレット様はなんで今のサドの権化みたいな加虐少女になっちゃったの~?」


「お前、本人がいないと結構むちゃくちゃ言うよな……」


 マーガレットの激しい性格は地球閥への憎悪がきっかけで生まれたと言っても過言ではない。地球閥のファルシナ家への処遇、ユイが怒らないぶん、マーガレットがユイの代わりに地球閥への怒りを身に溜め込んで増幅させてきたのだろう。


「あたしはもっと優しく教えて欲しいわけ。最近特にキツくて『アンタ馬鹿なんだから身体でおぼえなさい』って言ってさ、ズルッぽいコンビネーションで攻撃してきて一方的に蹴り倒した後で『わかった?』って聞いてくるんだけど──これって酷いよね? 虐待案件じゃないの?」


「そういう要望は本人に言え、俺は知らん」


「優しくして、って言ったら『甘えるな!』ってキレられた」


「そりゃ閣下の性格が悪いわけでもないし教え方に問題があるわけでもないし──寧ろお前の物覚えの悪さの方に原因がありそうなんだが?」


「な、なにそれ、それじゃまるであたしが物覚えの悪い馬鹿みたいじゃないのさ?」


「みたい、じゃなくて事実、馬鹿なんだよなぁ……店舗業務もようやく新人並みだし。お前を人並み以上に教育するのはほんと忍耐力がいるぜ」


「酷いィィイ!?」




 ブリジットが喚いてると奥の自動ドアが開く。シャワーで汗を落としてサッパリとした少女伯爵が奥の自動ドアから姿を表した。


「騒々しいわね」


 バーで良く見るようなウェイター・ドローンがマーガレットにミネラルウォーターのボトルを差し出した。


「す、すいません閣下」


 マーガレットはチラリと時計を見る。


「まだ随分早いわ」


「遅れて怒られるよりマシなので早く来ました!」


 ブリジットは背筋を伸ばして敬礼する。


「そう、いい心掛けね──お務めご苦労様。報告書は読んだわ──ところでその妙なファッションは何なの?」


「あ、こっ、これはですねえ!? その恐れながら閣下この格好どうですか。あたし垢抜けたと思いません?」


(やめとけよ)


 六郎がブリジットの足を小突きつつ小声で注意する。


(林檎も言ってたじゃん、もっと閣下と仲良くするためのきっかけ作りだよ! 閣下はお洒落するのが趣味だからさ、あたしも趣味仲間として話が出来るようになるんだ! ストップ不毛なドツキあい、こんにちは女子のお洒落トーク……だよ!)


(怒らせるだけだと思うがな)


 ブリジットは傘を立てて持ちあげシルクハットのツバを押し上げると澄まし顔でポーズを取る。


「お店の店員さんと一緒に頑張って選んでみました~」


「ふざけてるの?」


「いえ、結構本気で採点お願いします……!」


 一段高い椅子に腰掛けたマーガレットは上から下までブリジットを観察した。


「ふーん」


「まあその~、呆れてらっしゃいますでしょうけどどうぞお付き合いください。そんでこのバカはおだてると何処までも増長するんでバッサリ斬ってやってください」


「そうねえ……おまけして95点かしら」特に何の感慨もなく、マーガレットは真顔で弟子のブリジットのファッションを評価した。


「え? や、やったああ!」


 横にいた甲賀六郎はあんぐりと口を開けて立ち尽くす。


「えええ? 閣下、この手品師のアシスタントの出来損ないみたいなのが95点?」


「アンタにしては、ちょっと頑張ったわよね」


「ほらほらほら! 見る人が見ると違うんだってば! 六郎のセンスも大した事無いねえ」


 はしゃぐブリジットにマーガレットが釘をさす。


「ちょっと、何を喜んでいるの?」


「でも95点でしょ? 減点たったの5点ですよ」


「は?」


 マーガレットは、ふんと鼻を鳴らす。


「200点満点の95点は半分以下じゃないの。喜ぶような点数じゃないわ。志はもっと高く持たないとダメよブリジット、何事もね」


 今度はブリジットが真顔になって固まってしまった。六郎はホッとして胸を撫で下ろす。


「に、にひゃくてんっスか」


「ホラな、やっぱり見る人が見るとこうなんだよ」


「どこが悪いんでしょうか閣下」


「アンタの健康的な色気や明るさという数少ない長所を打ち消すような中途半端な黒色よね、アンタ地肌が浅黒いんだから黒を着るならもう少しクールさを強調したいわね。それに何その安っぽいロゴのタンクトップは? 木星王家に仕える人間が地球の首都ロンドンを宣伝する服を着て何を主張したいの? わたくしがロンドンの連邦政府にいい感情を持っていないことを知りつつ敢えて煽ってるのなら──殺すわよ」


(怒らせただけじゃねーか!)


(すびばせんでした、六郎の言うとおりでしたん……反省)




「ま、お遊びはこのぐらいにして本題に入りましょ──ブリジット、改めてユイ様の護衛任務ご苦労様。概ね良くやったわ上出来よ。あの連邦政府のマグバレッジ議長の政治パフォーマンスを妨害したのはアンタにしか出来ない素晴らしい働きだったと思う」


「え? 褒められてる……?」


「そうよ、褒めてるのよブリジット、もっとこっちへ来なさい」


 マーガレットはブリジットを手招きする、ブリジットはしゃがんだまま膝立ち歩きでマーガレットの足元にやってくる。


「な、なんでしょうか閣下」


「偉かったわね、ありがとうブリジット。アンタのおかげで地球政府に屈しない木星の強気の姿勢を示す事が出来ました。わたくし、正直言うとアンタがマグバレッジ議長を放り投げた時、長年の胸のつかえがとれたように感じました」


 マーガレットは頭を下げた後ブリジットの頭を撫でる。これは大変珍しい事であり、いつも馬鹿呼ばわりされて尻を蹴飛ばされるのが常のブリジットは師匠からの思わぬ高評価に驚いた。夢じゃないかしら、と感激しつつ自分の頬をつねってみた。


「今度こそ本当に、やったああ!」


「誇らしいわ、魚住も喜ぶでしょう」


「お~? 良かったなおい! お仕置きとか無さそうだな!」


「イエーイ! 私大活躍だったもんね! 木星王家に皇女親衛隊あり、伯爵家にブリジットあり、ってことを地球の連中に知らしめしてきましたよ!」


 マーガレットはニッコリと笑うとウェイタードローンが下げていた紙の束を引き抜いた。


「え、なんですかそれご褒美?」


「大活躍と言えば……そう、ブリジット、アンタ宮殿の晩餐会でも張り切ってたらしいじゃない」


「えっ」


「アンタからの報告書には『特に何も無かった』ってなってたけど──これは何? どう見てもアンタよね?」


 バサッと景気良くプリントアウトされた地球の地方新聞の裏面を広げるマーガレット。


「げええっ──!?」


「うわっ」


 バッキンガム宮殿の中庭らしき場所で全裸でうずくまっているブリジットの姿がばっちり動画におさめられていた。六郎も思わずびっくりする。


「えええええええ? なにそれ? いつの間に撮影されてんの?」


「ねえブリジット、なんで脱いでるの?教えてちょうだい」


 マーガレットはにこやかに笑っているが、今はその笑みが何よりも恐ろしい。武装した三人が相手だったとは言え、最強の看板を掲げている伯爵家の一番弟子が賊に不覚を取って服を剥かれ醜態をさらした上に結局取り逃がしてしまったのだ。こういう失態の後はとりわけ厳しいシゴキが待っている、ブリジットは全身総毛立って震え上がった。


「『深夜のご乱行、皇女の付き人まさかのストリップ?』ってなかなか興味をひくタイトルなのですけど──何これ? アンタにとっては宮殿の中庭で全裸になるのは特に何でも無い日常的なことなの?」


「あ、あうう──そ、それはその──実は宮殿に、目に見えない透明人間がいてスゴい殺気を出してて……」


「闘ったのね──で、負けて衣服を脱がされた、と?」


「あ、いえ隙を見て反撃して、三人いた内のふたりをやっつけたけど結局逃げられて──」


 少し前には優しくブリジットの頭を撫でていたマーガレットの指が、ワニのアギトのように開いてブリジットの顔面に深くめり込む。アイアンクローの要領で指がブリジットの顔面をギリギリと締め上げる。


「ぎゃあああああ!!!? ひぎぃやあああ!」


「なんで黙ってたの?」


「いだ、いだっ、いだいいい! 割れる! 頭蓋骨が割れるゥ!」


「まあ、アンタにも言い分はあるんでしょうけど──ユイ様が必死で回復させてきた木星王家の名誉と品位がね、この記事のせいで著しく落ちてるわけ。そりゃユイ様もふざけた格好をなさる時もありますけどね、全裸は無いでしょう、全裸は──」


「お、怒っちゃやだあああ! 不可抗力なんですぅ~!?」


「怒ってはいません。ただ残念ななけです。わたくしがお説教するのはねブリジット? わたくしに叱られたくないからっていうつまらない理由で大事な報告を怠ってしまったことなの。組織の一員であること、王家に仕える身であることについてもっと自覚を持って欲しいのよ。叱ったりしないから今度から報告は正確に、正直に行うこと、いいわね?」


「か、閣下! お怒りを鎮めて!」


「わたくしは怒ってませんよ、六郎」


 ゆっくりと笑顔で喋りながらも力は弛めないマーガレット。ブリジットと比べると随分細い腕だがその握力は驚異的で成人男性を遥かに上回る。


 六郎が何とかマーガレットをたしなめて、ようやくアイアンクローが解かれた。


「いま魚住に中心になって動いてもらって、この記事を抹消するよう、ニュース屋にはたらきかけています──まったく……手が掛かるわねえ」


「すいませぇん──」


 ブリジットはしゅん、として小さく縮こまった。


「でもまぁ、お前が服を剥かれるなんて珍しいな」


「なんだよ六郎どういう意味? 女として見られてないって言いたいわけ?」


「いや、その相手が厄介って事さ」


「そうね、そこはわたくしもちょっと引っかかってるところよ。透明人間ってどういうことなの?」


 ブリジットは緑色の奇妙なスカウティングアーマーについて説明を始めた。内蔵型の武器が充実した強力な装備だが何よりその空気の幕のような物を纏って肉眼においても電子的においても不可視の存在となる点が特徴的だ。


「強行偵察用の特殊装備か」


「六郎は何か知ってる? 金星ギャングや悦楽洞主達の中でそういう特殊装備を使う集団とかに何か心当たりは──」


「さあ、ブリジットの話に誇張が無いならそりゃ禁忌レベルのテクノロジーですよ。ギャングの装備にしちゃハイテク過ぎるし、隠れてこそこそってのは悦楽洞主の流儀とは相反します。金星の連中の線は薄そうですね」


「禁忌タブーとして制限されている技術……六郎も気にかけておいてちょうだい」


「かしこまりました閣下──で、ブリジットおまえそもそもなんでその連中と闘うことになったんだよ?」


「うん、なんかさぁ天井這い回ってる四つ目の化け物を見かけちゃって……ソイツがすっごい殺気出してて。もしかしたら殿下を暗殺しにきたんじゃないか、って。ホラあのスカシ金髪ヤローの仲間の生き残りがさ、ユイ様に報復しに来たのかな、と」


「キャメロットか、ああ、あいつらは確かに禁忌技術使いまくりだったからなあ。ヤツらの残党が元気なら厄介だな、ユイ様は相当恨まれてる」


「そうそう、だから追い掛けてったの」


「……でもなぁ、だからってひとりで行くから罠にはまって苦戦するんだぜ? 迂闊なんだよお前は。誘き出されてることぐらい気付かないと」


「だってさぁ、誰か呼びにいく間に逃げられたら悔しいし、1対1なら負けるとか思わないしぃ」


「六郎の言うとおりよブリジット……アンタの任務は護衛であって不審者の身柄の確保では無いのよ。相手が何人いるかわからない以上、ユイ様のおそばに戻るのが正解なのよ、わかった?」


「は、はい閣下、そのとおりです──」


「でもまあ罠にはまっても負けなかったのは流石ね……改めて褒めてあげます。ま、そういう事ね、言いたいことはそれぐらい」


 マーガレットが後ろを向いてミネラルウォーターのボトルから水分を補給する。ブリジットの顔がパッと明るくなる。


(この若干気怠い感じ、シゴキ無しで解散の流れっぽい! なんだよ六郎~、閣下いつもと違うけとむしろ機嫌が良い方じゃん? いつもだったら問答無用で即、乱取り始まってフルボッコだし)


(そうだな、機嫌良いのかも?)


「さて──と」


 マーガレットは立ち上がると上着を脱いで肩を回し始める。


「じゃ、早速着替えなさいブリジット」


「は?」


「三人相手でも遅れをとらぬよう、多人数相手を想定した立ち回りの練習をしましょう。今からみっちりと稽古を付けてあげます、念入りに」


「げえっ!?」


「六郎はもう下がってよろしい」


「あ、はい──良かったなブリジット『いつも通り』いや『いつも以上』に念入りに稽古つけてくださるそうだ『やったああ!』って言えよ」


 いやいやいや! とブリジットは首を振る。


「この部屋に呼ばれたからには最終的には稽古する流れだ、って考えなかったの?」


「あ、そのーぅ、私ちょっと旅の疲れが──お腹も空いてるし、稽古は明日にしませ──グブッ!?」


 マーガレットはブリジットが言葉を言い終えない内に喉輪を決めて黙らせた。


「口答えが多いわね! ファッションモデルの真似事を始めたりストリップやったりするぐらい地球で遊んできたんだから、ちょっとぐらいわたくしのストレス解消に付き合いなさいよ?」


「あああ、なんかひどい本音出たぁあ!? この人、稽古にかこつけて自分が暴れたいだけじゃん! 鬼! 悪魔!」


「う、うるさい──ちゃんと受け身とらないと怪我するわよ?」




 逃げ出そうとするブリジットを蹴り倒すマーガレットの顔がだんだん活き活きとしてくるのを眺めながら、六郎は頭を掻いた。


(う、うーん……こりゃ本格的に失恋の八つ当たりっぽいな。なんとかガス抜きしてもらわんとブリジットの身が保たんぞ……)

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