宴の終わりに
リオルがメインホールに戻ると周囲の大人たちから容赦ない奇異の視線が浴びせかけられる。
この享楽的な晩餐会に未成年者を連れてこようという親はなかなかいないため、子供がうろうろするのは大変珍しいことだった。
成人した子供の社交界デビューを見守るというケースは多いが、メアリー・ジーンはどう見ても11~12歳そこそこ。33世紀の連邦法における成人年齢フィフティーンには程遠い。
「フン、どれも見知った顔だわ」
長い年月、地球閥で裏方を勤め上げてきたリオルにはこの晩餐会に居並ぶ各界の著名人の顔で知らない者はいない。
「なんと愛らしいレディーのお出ましだ」
「皇女殿下のお連れになっていた娘さんかな」
「トイレにはちゃんと行けたかな、ハハ」
酒臭い息を吐きながら数名の男たちがリオルに寄ってくる。彼等は地球閥系の二世議員連中、大きく背中の開いたドレスを着た女性たちをはべらせ、その臀部に手をかけている。
「ごきげんよう、おじさまがた」
リオルは──皇女殿下の養女、無垢で礼儀正しいリタ・ファルシナになりきってみた。ドレスの裾を上げて小首を傾げてはにかむように微笑む。意図的に少し滑舌を悪く噛み気味に言葉を発する、あくまで少女らしく。
あまりにも堂々とした淑女ぶりをみた議員て取り巻きの女達は大いに湧きすまし顔を崩して笑った。子供が背伸びしてやってみる大人びた所作はすこぶるウケが良い、それが線の細い可愛らしい少女なら尚更だ。
「男への媚び方は皇女殿下直伝というわけだな、こんな年齢から淫売の素質十分とは恐れ入る、将来が楽しみだよまったく」
リタが彼等の横を通り過ぎようとすると背の高い議員が苦々しげに毒を吐き捨てる。
(たしかこやつは──ウェザース家の長男か、割とまともな人材かと思っていたが、まあ一皮むけばこんなものか)
聞こえなかったふりをして無視しても良かったがリタはニッコリと微笑むとその議員に返答した。
「奥様との離婚調停、今年こそ円満解決するよう、わたくしからもお祈りしておきますわウェザースさま」
「──っ?」
友人たちにも内緒にしていた家庭内不和を初対面の少女に暴露された議員は顔を絶句してその場に固まってしまった。
「ふん、この姿も割と面白いな。皆、童わらべだと思って油断しおる」
ウェザースの狼狽した様子を見て機嫌をよくしたリオルは、ニィ、と歯を剥いて笑った。子供らしからぬ邪悪な笑み、元の人格の少女ならばまず使わなかったような顔の筋肉を使っているに違いない。
リオルはユイと合流するのはやめにして、次々と知った顔の傍に近寄り密かにその会話に耳を傾けた。会場内はスパイドローンや盗聴器が規制されているので悪意あるニュース屋連中に内緒話を聴かれる心配が無い、大いに油断しているのか今夜も赤裸々な本音が大量にたれ流されている様子。
(おや──あやつは)
リオルは意外な顔見知りを発見した。
月基地憲兵隊、軍曹のナカムラ。かつて憲兵総監だったリオルの部下にあたる青年、背は低いが胆の据わった有能な番犬だ。
不意を突かれたリオルはラドクリフ率いる第七海兵隊に憲兵詰所を包囲された折にこの若者の機転で脱出に成功している。
「ほう、壮健なようだなナカムラ君。君のようなタイプは早死にすると思っていたが──」
思わず声を掛けてしまう。
「はい?」
怪訝そうな顔で振り向いたナカムラは声の主の意外な姿に混乱しているようだ。
(しまった、わしは何をしとるんだ……)
「あの~お嬢さん、どこかでお会いしましたか?」
「あっ、いえ──す、すいません人違いでした」
ンッンッ、と咳払いしながらリオルは耳まで真紅に染め上げて顔を背けた。
「ならいいんですけど──でもナカムラって確かに聞こえたんだよなぁ」
ナカムラは頭を捻りながらチラチラとリオルの様子をうかがってくる。
「あ、あっ、ケーキだ、わたしチョコレートケーキ大好き」
近くのテーブルにデザートが運ばれてきた。それに気を取られたふりをしてその場を無理矢理誤魔化す。
「は? なにこの子……」
「わ、わーい、カワイイなー、どれにしようかなー?」
(我ながら不自然過ぎて──死にたい)
怪しまれないようにケーキを選ぶ真似事をしているとナカムラの傍に数人の男女がやってくる。
神妙な面持ちのカンダハル大将が喪服を着た女性とその息子らしき少年を連れてナカムラの元を訪れた。
(あれはマダックの遺族か)
「彼がナカムラ軍曹、いえナカムラ特務曹長です、夫人」
喪服の女性は深々と礼をする、華美な衣装ばかりのこのメインホールでは、この喪服は埋没するどころか一際目を引いていた。
月の軍港、リオルを追ってきたマダック中将はキャメロット工作員の抵抗にあい凶弾に倒れた。居合わせたナカムラ曹長の救命活動も虚しく中将は帰らぬ人となってしまった──
「マダックの家内です……」
「悪いねナカムラ君無理をいって。夫人が是非とも君にお礼をしたい、ということだったのでな。本来なら慰霊式典の後で時間を取りたかったのだが議長のヤツが余計な真似を……」
紹介をうけたナカムラは恐縮しながら未亡人となった女性の前に出た。
「懸命に蘇生処置を施していただき、最期まで付き添って主人を看取っていただいたとか……なんとお礼を言えば良いやら」
「知らぬこととはいえ自分が海兵隊の邪魔をしたせいで、首謀者はまんまと逃げおおせてしまい──どう謝罪して良いやら」
「いえ職務を忠実に遂行なされただけのことですから、主人も私もあなたに感謝こそすれ恨み言などありません」
「ありがとうございます──閣下はご立派でした。閣下御自らの追撃にリオルも肝を冷やしたことでしょう。賊に占拠されていた軍港管制室から海兵隊の乗った追撃の船を出せたのはひとえに中将閣下の素早い判断あっての事です」
ナカムラはピンと背筋を伸ばし、見事な敬礼をした。
「父を撃った犯人を撃ち殺してくれたのはあなたですか?」
夫人の後ろに控えていた少年が口を開く。
「わたしをはじめとした数名の憲兵で対処しました。麻痺させて捕らえ、裁判に掛けるべきところでしたが……むざむざと殺してしまいまして面目次第もございません」
「とんでもありません! むしろ感謝しています、そのほうが気が楽ですから。首謀者の仲間も数多く死んだと聞いてせいせいしています、できることなら僕がこの手で絞め殺してやりたかった」
「えっ、そ、それはまた……」
なんてことをいうの、と夫人が息子の歯に衣を着せぬ物言いをたしなめる。憎しみを隠そうともしない少年に対してのうまい返答が見つからず動揺しているナカムラの代わりにカンダハル大将がマダックの長男と向き合った。その肩に手をかけて大きく頷く。
「誰かを殺したいほど憎むその激情は時に人を不幸にする。君は今回のことで暴力に訴える愚かさと被害者の苦しみを知ったね? それはきっと君の人生の教訓になる」
少年はカンダハルの目をじっと見据えた。
「憎むな、とは言わん。だが憎しみを解消する手段に暴力を選んだ者は必ず不幸になる。覚えておきたまえ、必ず報いを受けるのだ」
一同は押し黙ってカンダハルの言葉を聞いた。リオルもまた彼らに背を向けたままことの成り行きを見守った。
「暴力のような短慮に走らずとも犯罪者に復讐はできる──君が理不尽な暴力に負けず立派な人物となり犯罪者の数百倍も実りある人生をおくることもまた一種の復讐だ。お父上もきっとそれを望むはずだ」
「僕には無理です、そんな聖人君子みたいな割り切りかたはできませんよ、奇麗事だ」
「君は若い、そう感じるのは仕方のないことだ……そうだ、君も木星の皇女殿下を見ただろう」
「ユイ皇女が、なにか──」
「彼女は戦争という暴力ですべてを奪われたが、そこで安易な暴力による復讐に訴えただろうか? 傍観者となり憎き地球の内紛をせせら笑うこともできた。いや内紛に乗じて月基地を占領し、地球を実質的に支配下におくことさえもできたはずだ──彼女はそうしたか?」
「いえ──むしろ逆、です。今も地球と友好的に……」
「そうだ。木星と地球の戦争、勝ったのは地球だと言われているし、今までの歴史の授業ではそう教わる。だがこれからの歴史の授業では間違いなく我々連邦のかつての蛮行は非難され、木星王家の評価は上がり続けていくことだろう──これを木星の勝利と言わずしてなんと言うべきか? 奇麗事ではなく、ユイ皇女は賢い戦略家なのだ。暴力を振るわずに私達に勝利した、我々連邦市民の『心』を占領したのだ」
「心を、占領……した」
少年のみならず、リオルもナカムラも思わずごくりと生唾を飲んだ。
「憎い相手の命を奪うことだけが復讐ではないし、敵の命を奪ったからといって勝利者になれるわけでもない。ユイ皇女は善人でもあるがそれ以上にしたたかな人だった。逆境に腐らず短慮を慎み正しい行いを積み上げてきたからこそ人生に勝利し、我々連邦市民にも勝利できたのだ──あの女性の賢さ、したたかさを君のこれからの人生の参考にしたまえ」
「──勝利」
「拙い説明ですまない。しかし聡明な君ならいずれ私の言わんとしていたことが理解できるはずだ。なんと言ってもあのマダック中将の息子なのだから」
式典ではやや投げやりな態度をみせていたカンダハルであったが、少年の姿に亡き同僚のことを思い出したか、その弁舌には常ならぬ熱がこもっていた。この心からの説教、少年にも何か感じ入るところがあったのだろう、無言ではあるがカンダハルに深々と頭を下げた。そして、向き直り姿勢をただすと大将と特務曹長に対して宇宙軍式の敬礼をした。
「わかってくれた、と解釈しておく──さて、君が12歳以上ならば当方としても君を士官候補生として迎え入れる準備がある。気骨ある若者を宇宙軍は歓迎する──木星王家に占領された民心を少しでも連邦に取り戻すため、軍は気高い精神をもった一団として生まれ変わらねばならない。良かったら君も協力してくれ、英雄の息子よ」
「自分も──憲兵隊から宇宙軍に転属する予定であります、多くの有能な人材を失った宇宙軍はこれから試練の時を迎えるでしょう。不肖ナカムラ、あなたのお父上マダック中将から後事を託されたからには微力を尽くしてテロリストによって失墜した軍の名誉を回復するため平和維持活動に邁進する所存です」
少年とナカムラは握手を交わし、カンダハルが両者の肩を力強く叩いた。夫人はありがとうございます、と何度も何度も呟き、泣き笑いながらぽろぽろと涙を零した。
このやりとりを背中越しに聞いていたリオルは憤りに身を震わせていた。いつの間にか銀細工のついたフォークを逆手に持ち握り締めていたことに自分自身で驚く。
声を上げてカンダハルに殴りかかりたくなる衝動を歯噛みして何とか抑えていた。
(語りおったな──カンダハルごときが知った風な口を。戦争を体験したことのない小役人、使い走りの肩書き軍人風情が──おまえのような小物に天下国家の何がわかる、何が──)
メアリー・ジーンの身体、脆弱な少女の身体に精神までも引っ張られてしまうのか。
心かき乱されたリオルはナカムラたちから逃げるように駆け出した。招待客たちの笑い声すべてが惨めな敗残者となったリオルを罵りせせら笑う声であるかのように感じられる。
耳を塞ぎ、人と人の間をすり抜けていく。
(黙れ、黙れ……!)
◆
リオルは不意に何者かに襟を掴まれた。
大きな手によって抱きかかえあげられる。
「おー、いたいた。リタみっけ」
「──がっ、離さんか馬鹿者!」
殴りつけようと振り回した手が赤毛の大女の鼻にあたる。
「ぎゃ!? こら暴れるなって」
「ブリジット──なんだおぬしか……うわっ?」
手に粘着質の液体が付着している。
「これは、鼻水──!」
リオルは怒りながらブリジットの頬で鼻水を拭う。
「わっ、汚いだろやめろよ!」
「元はお前の体液だろうが、汚いのはどっちだ馬鹿者!」
「わざわざ鼻を叩いたのはリタじゃんかぁ、もう~!」
ブリジットは尚も暴れるリタを頭上に抱えあげる。
「な、なんだやめろ! 晒し者にするのか」
「こうしてれば殿下や牛島さんと合流出来るだろ」
他愛のないやり取りをしていると牛島に抱えあげられたユイが近付いてきた。何やら慌てているようで牛島は複数ある脚を最大限に伸長させて器用に人やテーブルを跨いでブリジットのほうへと向かってくる。
「な、なんだ? 追われている、のか?」
リオルは状況が把握できず軽く混乱していた。何か不逞の輩が紛れ込んでユイの命を狙っているのか──いや、それにしては他の客が平然としているし、ブリジットも比較的穏やかな表情をしている。
「え~と確か『ユイ・ファルシナ殿下を連邦議員に推薦するなんちゃらの会』がさ、しつっこいらしくて。例の議長とそいつらが喧嘩してる内に逃げ出そう、って話らしいよ」
ブリジットはニカッと笑った。
◆
空港に向かう車中で、ユイは安堵のため息をもらした。
「疲れましたねえ……そうだ、女王陛下には後でちゃんと謝罪のお手紙を出さねばなりませんね。逃げ出すように退出してしまって」
牛島の運転するリムの前後を車輪走行モードのヴィシュヌが走る。凶悪な面構えの多脚戦車が露払いさせながらリムジンはヒースロー空港へと急ぐ。
「そう言えばブリジットさん、何があったんです? そのお洋服はいったい」
「あ、殿下──こ、これはそのー、アハハ。中庭を散歩してたら──ええと、池! でっけえ池にハマっちゃって……宮殿のエラい人から着替えを用意してもらったんですよー。男物しか合うサイズ無くってえ、もう参っちゃいますよねっ!」
「……池? ああ、噴水ですか」
「そ、そう! そうとも言う、地球でいうところの噴水!」
「風邪気味なのに水を被ってしまったんですか。お加減は大丈夫です?」
ユイはブリジットの額に手を当てる。
「ちょっと熱がありますね、そういえばお顔もどことなく赤いですし、汗も沢山……もしかして鼻炎から本当の風邪に悪化したんじゃ?」
「だ、大丈夫! 大丈夫です、一晩寝たら治ります! 治してみせます!」
「そうですか? 念のためです、北極ポートに着いたら簡易検診してもらいましょう」
「は、はーい……」
この大女ブリジットの狼狽ぶり、何か主君にも言えないような恥ずかしいヘマを訪問先でやらかした様子、ここまではリオルにも理解できたのだが皆目見当がつかない。
この場に居ないはずのマルタ騎士団と一戦、交えてきたとは──まさしく神のみぞ知る真実であろう。
「リタ?」
「ん──」
リタは窓からロンドンの夜景を眺めていた。
「浮かぬ顔ですが、教皇聖下とのお話、うまくいかなかったのでしょうか」
「いや、それは──また後で詳しく説明するが取り敢えず心配は要らん。それよりお前のほうは何か問題はなかったか?」
「バッチリです! 雄大さんの妹さんともお友達になりましたよ! ホラ!」
ユイはPPを操作してホロを再生する。
宮城由梨恵とユイが指でVサインを作って雄大の名を呼び続け、それをにこやかに見守る宮城裕太郎とムナカタ少佐、そして渋い顔のネイサン少将が後ろに映っているだけ、というわけのわからない映像だった。
「いや、お前と小僧の結婚の話はもういいから……それよりも他の招待客と何かトラブルになったり、ジュニアから何か無理難題を出されたりはしなかったか?」
「一人、スゴく私のことを嫌いな女の人に会いました……あ、あとそれとネイサン少将ってどんな人なんです? 私、あの人と親戚になっちゃうの不安かも」
「じゃあ特にトラブルというわけもなさそうだな」
「はい、トラブルになる前に逃げてきちゃいましたから。議員さんたちには悪いですけど」
ユイはぺろっと舌を出して笑う。
「いいな、お前は毎日毎日楽しそうで」
「リタは楽しくありませんでしたか?」
「あんな場所楽しいものか。二度と近寄りたくないね」
リタは大きく舌打ちし、苦々しく吐き捨てるように言う。
「おっ、それリタに賛成! あたしも宮殿とかキライ! メシはうまかったけどちょっとお上品過ぎてさ、港の酒場とか食堂で食う牛島さんの日替わりのほうがあたしの舌には合うかなぁ、いつも大盛にしてくれるしさ」
運転席から牛島の笑い声がする。
『あはは、ブリジットさんお世辞がうまくなりましたね』
「ホントだってば」
「そうですね、結局いつものお食事が一番落ち着くのかも知れません」
クスクスと笑うユイから目を背け、流れる無数の光、住宅地の家々のささやかな灯火、雑踏の中で賑わうパブのレトロなネオンサイン。かつて、自分が焼き払おうとした街並みを、リオルは複雑な思いで眺めた──
(愚か者どもの生活の灯火……)
それはかつて見た光景──航路を埋め尽くすほどの数が集結したユイに味方する民間船舶のきらめきにも似ていた──
にわかにリオルの感情はかつてないほどたかぶり、メアリー・ジーンの身体を刺激した。溢れ、零れ落ちる涙を拭う気力もわかず、流れるままにした。
メアリーの眼球を通して見るロンドンの夜景は、ことのほか美しく幻想的だった。
(こんなに綺麗で慎ましやかな光を──か弱い命の灯火を──私はどうして消そうと思ったのか?)
騒いでいたブリジットが急に押し黙る、おそらくはリオルが泣いていることに気がついたのだろう。
(若い肉体は、感情の起伏に大きく左右されてしまう。無様だ、こんな粗忽者に気遣われるような自分が)
ふわり、と柔らかな感触に後頭部が包まれたかと思うと、リオルの上半身は後ろに引っ張られていく。ボリュームのある黒髪が視界に入ってきたかと思うと、仰向けに倒されたリオルの額に皇女の柔らかな唇が押し当てられる。
「つらかったんですね、ごめんなさい独りにして」
優しく抱きすくめられると内なる感情がとめどなくあふれてくる。リオルはユイの胸に抱かれたままむせび泣き、カンダハルの言葉を反芻した。
(心を、占領された──)
「早くおうちに帰りましょうね──リタ」
ユイの慈しみ溢れる言葉がひび割れた心に染み入る。
今のリオルは皇女が目覚めた時に失ってしまった妹リタの代用品に過ぎない。だが、リオルにとってこれは貴重な経験だった、長い生涯の中で、こうも無償の愛を注がれたことはなかった。尊敬と畏怖が入り混じった敬愛ともまた違う、柔らかく暖かな感情に包まれていた。
(恐ろしい女だ──どんな責め苦よりも甘く、そして苦しい)
涙は止まっていた。
子守歌を聞きながらリオルはゆっくりと目を閉じた。




