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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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欲望の城④

およそ千年前、23世紀ごろのお話。




 前世紀までに計画されていた他惑星やスペースコロニーへの移住は遅々として進まなかった。


 何故ならば地球の外に向かうはずだった人類の鼻先は翻って内へと向かったからだ、23世紀までの宇宙開発技術は本来とは少し違う使われ方をする事になる。


 人類社会は貧困の根絶と地域格差を解消するために惑星開拓技術を応用した『天体改造』に取り組んだ。これぞ人類と『七つの海』との長い長い戦争の始まりである。




 そうして人類は遂に『海』を征した。


 小型の人工天体を作る事で人類は潮汐をコントロールした。


 モーゼが祈ると神は、海を割り道を拓いた、数千年の後、聖人の代わりに現場監督が手持ちの携帯端末で政府にオンライン申請をすると働き者のコンピューターは、人工天体を動かして海を割ってくれた。


 海底を開発し終えた人類は地熱のエネルギーをより効率良く運用する方法を編み出した。気候を操り海底を改造することで災害という自然の猛威を無尽蔵のエネルギーとして利用する術を手に入れた人類は遂に創造主のごとき力を持つに至った。




 しかしなから。


 この成功は人類に万能の力を与え貧困を根絶したが、最悪なことに夢と希望までも人類社会から根絶してしまった。


 生きる活力を失った人々は自らの存在を無価値と判断した。滅亡と再生を謳う新興宗教によって『集団自殺』が推奨され、人々はこぞって自らに最後に残された娯楽である『自殺』を楽しんだ。




 創世記の神にも匹敵する力を手に入れた人類社会は次のステップに進むどころか絶滅の危機に瀕していた。科学技術の進歩がもたらす価値観の変化に人々は寄り添う事が出来なかった。




 神の如き科学の力に神の愛と智恵は宿らなかった。




 闘争心と欲望が消え失せた社会を埋め尽くしたのは停滞と虚無。


 星の姿を変えるほどの力を得たはずの人類は、自らの心に空いたちっぽけな虚無を埋める事が出来なかった。


 危惧されていた核戦争やテクノロジーの暴走による大破壊は起きなかった、テクノロジーは人々から闘争心を奪い尽くしたのだ。


 100年を待たずして人口はかつてないほど激減した──人類の約半数が生きる事に何の価値も見いだせず自ら命を絶っていくという種に訪れた最大の危機。




 この人類史上最悪の危機に言葉を上げたのは時のローマ教皇である。




 教皇は言った──人間は99の欲望と1の希望から出来た罪深い動物である。科学技術は我々を邪な欲望から解放したが、同時に生きる希望すら消し去ってしまった。この苦難を乗り切るために人類は勇気ある撤退をしなければならない。健全な精神を持っていた頃の生活を取り戻そう。狂ってしまった時計の針を戻すように──と。




 人類には過ぎた力であるテクノロジーを禁忌とする組織『禁忌技術管理委員会』が誕生した。


 神の名の下に影響力の大きなテクノロジーから順に封印され、平等という概念とともに少しずつ姿を消していった。


 天国のように平穏だった人類社会に再び貨幣経済が導入された。貧困、地域格差、そして激しい人種差別、階級差別が復活した。




 格差はエネルギーを、膨大な活力を生んだ。


 小さな不幸は大きな幸福を生み出し、大きな幸福は時に大きな嫉妬を生み──そして争いが起きた。争いが終わると人々は束の間の平和に小さな幸福を見いだした──こうして人々は再び生きる活力を取り戻した。


 欲望こそ人類の本質、格差こそ人類社会円満の秘訣。




『人類は楽園では生きられない悲しい生き物だ。次の千年、そのまた次の千年を経ても人類は大して成長していないかも知れないが──膨大な時をかけ全ての人類が楽園の住人に相応しい生き物に進化するその時まで、我々は神の御業を封印しよう』







 英国王室。


幾度となく存続の危機を切り抜けてきたこの古めかしい血統システムも現在では太陽系惑星連邦に「文化遺産」として登録されている。一般人と王家の間に横たわる格差は大きかったがその差が大きいほど人々は彼らを支持した。


 一般人は彼らの豪勢な暮らしぶりを羨み、妬むことで日々を充実させていた。当の王室関係者の中には人々の過剰な注目に耐えられず魂の解放を求めて自ら最下層民となった者も少なくない。理屈や綺麗事では計り知れないこれら「格差」と「負の感情」にこそ人間を人間たらしめる本質が隠れ棲んでいるのだろう。


 血統による特権階級は健康的な人類社会の形成に欠かせない要素であるとされ、代表格的存在である英国王室は33世紀においてもますますその注目度を高めていくことだろう。


 


 バッキンガム宮殿パレス。


 英国王室の人間が代々居住する旧英国領のシンボル。


 地球圏の政治の中枢が議事堂ならば、社交の場そして経済活動の中枢はこの宮殿である。幾度も建て替えられ、場所も転々としているため特に歴史的価値が高い建物ではないのだが、月末に催される定例の晩餐会には世界中から各界の名士が英国王キングオブブリテンにご機嫌伺いにやってくる。


 バッキンガム宮殿内のダンスフロア、ほろ酔いの紳士たちの語らいに参加出来た投資家は幸運である。ニュース屋に決して漏れる事のない大規模事業計画の一端や著名人のゴシップ、株式市場を揺るがすような大物の縁談や離縁の噂を入手する事が出来るのだから。




 欲望の城──誰が最初にこう呼んだか定かでは無いがこれが現在のバッキンガム宮殿の俗称である。太陽系惑星連邦の中でも群を抜いて欲の皮が突っ張った人々が集うこの宮殿に相応しい俗称ではないだろうか。


 飽くなき欲望は生きる活力となり人類の心を潤す、時に神の愛よりも強く、悪魔も舌を巻くほどに。あらゆる欲が渦巻くこの宮殿こそが人類繁栄の象徴であり人類社会が健康であることの証である。


 英国王室は俗な言い方をすれば銀河一排他的な会員制社交クラブの主宰者ホストかつ、ただっ広いクラブハウスの管理人に過ぎないが、その存在は神聖にして侵されざる聖職者の一族に等しいものとなっていた。




「歴史的な第一歩ですよ! ユイ殿下!」


 触角のようなカメラアイにネクタイを結んだ珍妙なロボット・コック牛島は装甲リムジンの後部座席ドアをうやうやしく開けて車中の貴婦人、ユイ・ファルシナ木星第一皇女の手を取り、その降車を補助した。


 萌葱色の花のようなドレスにめしかえたユイが緋色の絨毯に足をおろす。軟質クリスタルの輝くブーツからうっすらとのぞく素足の美しさに人々は息をのんだ。地球閥の社交クラブの中枢に、因縁深い木星帝国の王族が足を踏み入れる瞬間に是非とも立ち会いたいというもの好きな金持ち達が見守る中、ユイ皇女は大輪の花が開いたかのような溌剌とした笑顔で集まった人々に笑いかけた。表情とは対象的に身体は固く身のこなしはぎこちない。人集りに少し驚いたような、緊張が未だほぐれていないような硬さが若干残る所作だったが、社交界の面々にはその初々しさも加点の対象となっているようだった。


 ユイがバッキンガム宮殿に招待される──これは旧木星帝国のシンパならずとも火星や金星を始めとした開拓惑星移民全体にとっても歴史的な快挙だった。火星西部の大商人や個人資産数百億ギルダを保有する金星コロニーの悦楽洞主ドラッグクイーン達が何度となく申請しても立ち入りを許可されなかった場所に、弱冠二十歳の亡国の皇女がこの社交クラブに主賓として招き入れられた──誇張ではなく、地球閥による専横の打破を象徴する出来事だ。


 木星の皇女が開けた風穴をきっかけに各惑星移民達の社会的な地位のドラスティックな変動が起きるのは日をみるより明らか。その結果として富の再分配が行われるのもまた当然の流れであり、開拓移民達は熱狂し、地球閥と縁の深かった者達はこれから吹き荒れる嵐に耐えるための道を模索し始めた。




「歴史的、ですか?」


 ユイは面映ゆいような表情を見せ衆目の遠慮ない視線から頬の火照りを隠す。


「牛島さんったら大袈裟です……もう、また緊張してきたではないですか」


「いえいえ、歴史的ですよ。魚住さんがこの場に居合わせたら号泣するぐらいの快挙です」


「これしきのことで号泣、しますかね?」


「するする、最近よく泣いてるってさ! 魚住さんももう涙もろくなる歳なんだよ」


 そう言うのはパリッとしたスーツとタイトスカートに身を包んだ長身大躯のブリジット、トラディショナルな紺のスチュワーデス風だが小さなサイズを無理に着込んでいるせいか、いかがわしい店舗の改造制服に見えない事もない。皇女と同じ女性とは思えないほどの逞しい腕にリタを抱えている。着替えを終えてから何度も何度もドレスの裾につまづいて転びそうになるのでブリジットが荷物代わりに抱える羽目になっていた。


「おいユイ・ファルシナ。浮かれる気分もわかるがな、改めて忠告しておく。ここは言わば地球閥の中心、長年軟禁状態だったお前にとっては未知の世界、地球圏の社交界だ。特に害意は無くともお前の名声や美貌を妬み、そして過度に恐れる者が多く集まっている」


「はい……?」


「ここは敵地だから十分気を付けろ、という事だ」

リタはブリジットの腕からぴょこんと飛び降りると、ポーチでユイの背中を叩く。


「気合いを入れろ」


「それを言うなら、しっかりしなければならないのはリタの方ですよ」


「大丈夫だ、さっき裾を上手いこと曲げておいた。もう躓いたりはせんぞ」


「違いますよ、もう……頼んでおいたじゃないですか。リオル大将として正直に事の経緯を説明して教皇様──教皇聖下のご機嫌を取っておいてくださいって。お知り合いなのでしょう?」


 リタは呆れて口を開けた。


「本気だったのか……しかしメアリー・ジーンの姿で行くのはどうかと思うぞ」


「説明下手な私が釈明するよりも、あなたが喋る方が色々と手っ取り早いと思うのですが」


「え? リオル? メアリー?」


 不意にリオルの名前が出たことで、詳しい事情を知らないブリジットが首を傾げる。ユイは慌てて腰を屈めてリタに耳打ちを始めた。


「禁忌技術の無断使用について、お知り合いのあなたから上手く説明して欲しいのです」


「かえって揉め事が起きても責任はとれんぞ」


「大丈夫ですよ、リタは賢いですから」


 真顔でそう囁くユイの真意をはかりかねたリタは両手の人差し指でこめかみの辺りを抑えた。


 酷い頭痛がする、これはポジトロニック・ノードと身体機能のシンクロが不調な時に感じる痛みだが、こういう度し難い言動を前にした時にも同じような痛みを感じるらしい。


「おや、リタさん大丈夫ですか?」


 ポジトロニックノードの開発者、牛島実篤博士のコピーでもあるロボット・コック牛島がリタの変調を気遣う。


「心配無い、牛島博士。この脳が天気な小娘の言動に嫌気がさしただけの事」


「え?」


「まあその、教皇のことはさておき、わしが言わんとしているのは……地球閥の連中は昼間の式典のジュニアみたいにお前をどうにか身内に取り込もうとしてくるだろうし、ジュニアと敵対関係にある議員連中はどうにかしてお前を連邦議員に立候補させようとしてくるに違いないのだ」


「は、はぁ──」


「それだけならまだいい。お前のような血統書付きの美しい女がこの宮殿に入って社交界デビューしてしまう事に危機感を募らせてる年頃の御婦人方も多いだろうし、未だ木星を盲目的に敵視している過激な連中だっているはずだ。飯を食っておしゃべりして一曲踊るだけでは済まない可能性もある。これ以上の要らぬ恨みを買わぬよう、揉め事を抱え込まぬよう、振る舞いには十分気をつけろ。目立たず、無難に過ごせ、そして自らの身の安全に細心の注意を払えよ」


「わ、わかりました、十分気をつけます──」


 ユイは素直に頷いた後、小声で「一度に色々言われても……魚住よりお小言が多いんだから」と口を尖らせながらブリジットに同意を求めた。


「そうだよね実際さ、リタは魚住さんより偉そうだよね、こーんなちっこいクセにさ!」


 ブリジットはニヤニヤと笑みを浮かべつつ人差し指でリタの額を押す。リタは押されて倒れそうになるがブリジットの手に捕まって何とかバランスを保った。


「おい、ユイ・ファルシナ、偉そうついでに言っておく」


「ま、まだ何か?」


「お前がフワフワ、そわそわ、落ち着かないのはアレか? 宮城の奴と何か関係あるのか」


「は、はい」


 ユイはこっくりと大きく頷いた。唇をぐっ、と真一文字に引き締める。この晩餐会は立食形式で催される、ユイはこの機会に雄大の父親、宮城裕太郎大将とごくごく個人的な話をしようと考えていた。


「宮城裕太郎大将閣下は先の争乱の功績を讃えられ女王陛下から直接ねぎらいのお言葉を受ける段取りのようです──その時、私もご一緒出来るはずですので──お義父様に、雄大さんとの交際そして結婚のお許しをいただかねばなりません。今回の地球訪問における最重要のミッションです!」


 ユイは両の拳を握り締め軽く振り上げた、試合前のアスリートのような気合いの入れ方。


「く、くだらん……婚約の許しだと? 教皇に侘びを入れる方が遥かに重要だろうに。お前は物事を知らなさ過ぎる」


 リタの頭痛はおさまるどころかよりいっそう酷くなる、どうやらこの頭痛、ノードの不調とは無関係のようだった。


「くだらないとは何ですか! お義父様への最初のご挨拶、これが一大事では無いと仰いますか」


「まあ、お前個人にとっては一大事なんだろうが、正直どうでもいいと言うか……優先順位を間違えるでないぞ。お前は一応、木星帝国の代表なのだからな。公人としての節度をわきまえろ。軽挙妄動が要らぬ争乱の種に……」


 説教を垂れるつもりだったがユイとリタを取り巻く周囲の空気が妙な具合に変わってきた。


 事情を知らない者達から見れば11歳かそこら辺りの少女が保護者であるはずの皇女にガミガミと小姑のように説教を垂れているのである。ニュース屋ならずとも天涯孤独のはずのユイ皇女の傍らにいる少女の素性に興味がわいてくる頃だろう。


「もう勝手にしろ。わしは知らん」


 目立つのを嫌ったリタは説教を切り上げユイ達より先にひょこひょことエントランスホールへと歩を進めた。


「あっ、もう──! リタ?」


「手っ取り早く教皇から事後承諾を得てくる、いいか必ずお前自身も時間を作って教皇に謝罪するんだぞ」


「おいこら待てよリタ!」ブリジットもリタの後を追う。


 リタは──リオル大将はそれこそ何度もこの宮殿を訪れている。


(それにしても……エントランスまでこんなに歩数がかかるのか)


 長身痩躯のかつての男性体と違って今のリオルの身体は第二次性徴前のか弱い少女のそれである。


(かつての私にとってこの宮殿はとても小さく、目の行き届く場所であった。しかし、この脆弱なメアリー・ジーンの身体で──地球閥の外にいる立場からこの城を眺めてみると)


 リオルはこのバッキンガム宮殿を覆う澱んだ空気を初めて「禍々しい」と感じてしまった。


 無垢な少女の眼球と記憶野が、この宮殿の真実の姿を写し撮ったのだろうか。


(何故だろう、かように華美な外観の宮殿が、悪魔の巣窟の如きおどろおどろしい城塞のように見えてくる)


 ──開拓惑星移民達にとってロンドンとは現世にある地獄、そしてこの宮殿は近寄り難い伏魔殿パンデモニウムだったのかも知れない。







 リタは入室許可証代わりに配られた胸飾りを衛兵に見せながら、勝手知ったる宮殿の中を進んでいった。一足先に到着しているはずの教皇のいるゲストルームへとやってくる。


 東側の最も奥にあるゲストルームはカトリック教会関係者の指定席であることをリオルは熟知している、憲兵総監としての知識だけでなく百年近く地球閥の実務を取り仕切ってきた彼には我が家も同然であろう。


 教皇はゲストルームの中には入らず、手前の長椅子に腰掛けて供の数名と談笑していた。


「聖下、お客人のようです」


 めざとくリタの姿を発見したボディーガードが小さな訪問者に顔をほころばせる。ユイ皇女の連れであることは式典の際に十分知れているようだ。


「少し個人的なお話があります、よろしいですか教皇聖下」


 少女のしっかりした物言いに供の者達は一際大きく笑った。


「やあこれはこれは……どうされましたか小さなレディー、信仰について興味がおありかな?」


「信仰には興味がありません、それよりも禁忌タブーについて聖下の教えを請いたいのですが」


「──おや」


 教皇は少し首を傾げ少女を見下ろした。


「フゥム、内々のお話ですかな?」


「はい」


「そうですか、それではレディーのために人払いをしましょうか」


 教皇が手を上げると供の者達は部屋の前を去っていく。そうして教皇と少女はゲストルームの中に入っていった。




 紅茶のような琥珀色で統一されたこざっぱりとした部屋だったが中央にある巨大な金細工のシャンデリアだけがその風合いと不釣り合いに華美で浮いた印象を与える。


 教皇が扉を閉めると、リタも駆け寄ってくる。扉に耳を当て部屋の外に気配が無いのを確認してから鍵を掛けた。


「これまた変わったお嬢さんだ」


「おい、イノケンティウス18世よ……私を見て何か気付く事は無いか? それともわかっていて敢えて素知らぬ振りを通すのか」


 教皇の顔が少し歪む。子供や老人に相対する時のような余所行きの和やかな雰囲気は消え失せ、悪ふざけをする前の若者のような、どこか侮蔑的でにやけたような表情が見え隠れする。


「式典の時からまあ、私共がこの間から捜している『聖遺物』に良く似ているとは思っていましたがね、本物ですか? 俄には信じ難いですね」


「門外不出の禁忌技術がこんな感じでうろうろ出歩いていたわけだが……感知していなかったのか? 教皇であるお前が」


「ふうん、頭の中は少女では無さそうですね……中身は誰なんです? 私の知人かな?」


「おおかたの察しは付いているだろうが──名乗らせたいようだから名乗ってやろう。私はリオル・カフテンスキだ」


「リオル? リオル大将か」


 教皇は眉間に皺を寄せて少女の顔をマジマジと眺める。そして盛大に噴き出すと口をおさえて笑いを必死でかみ殺した。


「……気付いていたのだろう? お前はそういう奴だ。おい、おい! 笑い過ぎだ!」


「笑い過ぎ? いやこれほど滑稽な事はないよ! お嬢さんがあの厳めしいリオル・カフテンスキですって? 私の知ってるリオル大将はかつての仇敵のペットに成り下がってまで生に執着するような腑抜けた男では無いのですよ」


「信じられなくても信じろ。こんな時に嘘を言っても仕方無いことぐらいわかるだろう?」


「我々カトリック教会が全面的に支援して新しい秩序を創るよう期待をかけたあの傑物リオル! 彼は木星帝国の皇女に返り討ちにあって敗れて死んだ! 少なくともかつての高潔な武人としてのリオル卿の魂はもう死んでるでしょう! 無様な姿になってまで生きようとは、なんとあさましい」


「め、面目次第も無い……レムスだけでなく数多くの同志も死なせてしまった」


「……無能にも人類の至宝を使い潰し、多くの同志をむざむざ死なせた罪を告解しにこられたのですか? 殊勝な事ですね。どれ、仔羊が告解に来たのなら私も神父としての務めを果たしましょう。さあ懺悔なさい、汝の罪を神に告白して許しを請うのです」「懺悔か。いや、今の私の立場はな、見ての通りの哀れな虜囚だ。あの木星亡霊から恥ずかしめを受けているのだ。そういう意味ではもう懺悔するまでもなく十分な責め苦を受けているよ」


「そうかな? 少女の未発達で瑞々しい肉体を楽しんでるんじゃないのか……?」


「茶化さんでくれ。お前に隠し立てをしても仕方ないから単刀直入に言う。この身体、わかっているとは思うが禁忌技術の管理対象、人工知能融合実験素体メアリージーンだ」


「小型ポジトロニックノードを搭載した機械と人類のハイブリッドですね。ある意味で、一番危険な存在でもあります……管理レベルは最高で枢機卿でも簡単にはアクセス出来ぬはずですよ。セキュリティーレベルの高い聖棺ヴォルト51に安置されてるはず。どうやって我々に気付かれずに持ち出せた?」


「私が知るかと言いたいところだが、おそらくは非常時における元帥権限だ。宇宙軍のトップは戦時下において枢機卿副尚書と同格の権限を得るのだろう?」


「なるほど! 第二十一条五項特例! さすがはポジトロニックノード、委員会の条文ぐらいは暗記してますか、優秀優秀」


 とぼけた表情でポンと手を打つ教皇。


「まったく……禁忌の管理がいい加減ではないのか。カトリック教会の権威失墜にも繋がる話だぞ」


 教皇はハハハ、と軽く笑う。


「しかしあの老人オービルはとことんユイ皇女に甘いのですね。武装解除してない軍艦を提供したり、私に無断で聖棺からテクノロジーを持ち出したり──まるで」


 まるで地球閥の崩壊を目論む木星帝国の残党のようだ、と教皇は続けたかったのではないか。リオルにはそう思えたが教皇はチラリと視線を天井に向けた後、何事か少し言いよどんでから咳払いをした。 


「まあな、オービルは元々木星王家への処遇に最後まで反対していた。あやつは幼年学校時代に木星に留学していたからな。王家に親しみを寄せるのもわからなくはない」


「ふーむ、今回の木星王家の復讐劇にはあの老人は欠かせない存在だったということかな。しかしこうまでやりたい放題やられては流石にお咎め無しとはいくまい。オービル殿には副尚書権限の剥奪、いや枢機卿から除名も考えなければなるまいて。来週にも枢機卿全員を招集して審議をしよう」


 もう遅い、とリオルは歯噛みした。教皇がオービルの行動に目を光らせていれば少なくとも教皇の眼前に少女となった我が身を晒すような恥辱をあじわうことなどなかった。


「それよりもな、私がわざわざ恥をしのんでお前に会いに来たのは──」


「ほほう、革命の夢破れた敗残の将たる貴殿が生き恥を晒してまでやっておきたい頼みごと、ね。多いに興味があります、言ってみなさい」


 


「これは虫の良い頼みなのだが……どうかユイ・ファルシナが禁忌技術を使うことについて教皇聖下直々に直筆の免状をいただきたい」


「オホッ……これはこれは」


 これは意外なこと、というような口振りで教皇は首部を垂れ下を向いたリオルを腕組みしながら見下ろした。


「意外、意外……」


「…………」


 教皇はリオルの自尊心の高さを十分に承知している。何より現在の地球圏の繁栄を確固たるものにしたのは他ならぬ彼であり、さらなる飛躍の為に起こしたクーデターをユイ皇女から阻止されたのもこのリオルである。ファルシナへ報復する手助けでも頼まれるのか、と思っていたのか、教皇は目を丸くして驚いていた。


「まあそれはね、私はユイ・ファルシナという人物がそこまで嫌いではないですよ。二十歳とは思えぬ聡明さがおありになるようで、四十になる頃には立派な指導者にもなられるでしょう──そういう特別扱いをしても角が立ちにくい好人物です。しかしですね彼女を推薦するのが敵対していた貴殿だというのが解せませんな。あの小娘がさぞや憎かろうことでしょうに。どういう心境の変化がありましたか?」


 数秒間の沈黙の後、リオルは口を開いた。


「もはやファルシナに私怨はない、レムスが死に、私が敗れたのは必然、いわば運命だったのだ。そうでも思わなければ納得いかぬ」


「達観していますね、ファルシナが勝つのは神のさだめしところだったと?」


「そうだ、危険な禁忌技術タブーもあやつならば人類社会のために役立てることが出来るだろう」


 教皇は腕組みをして天井を見上げながら右に左に歩き回る。


「ふーむ──リオル卿、貴殿はあの木星王家のプリンセスを特別扱いしろ、と?」


「このままだとこの身体、メアリー・ジーンは管理委員会による『浄化』の対象となる」


「そうですね、ポジトロニックノードによる人の意識と機械の融合など……倫理観を大きく揺さぶるのは明白です」


「この身体、悪用されぬように人類社会の利益となるべく私が責任をもって管理しよう」


「ンン~、本来ならば此処でこのままあなたを拘束して聖棺51に連れ戻すところですが……そうですね、その身体を御しているのがリオル、貴殿ならばまぁ下手なことにはならないでしょうかね」


「そう言ってもらえると助かる。教会も現在勢いのある木星帝国と関係を悪くしたくはないだろう?」


「確かに。いまのところ最も敵に回したくない相手です」


「あの皇女はな、よく言えば無垢で善良、天真爛漫だが、悪く言えば単なる阿呆の世間知らずなのだ。特別扱いして恩を売れば帝国再興の暁には教会の影響力は木星圏にも及ぶことになるだろうさ」




「いやはや、あなた口が達者ですね……わかりました、リオル卿、貴殿のこれまでの人類社会への貢献とユイ皇女の今後に期待してこの件は不問にしましょ」


「すまない、恩に着る」


「それはそれとして、此方からも少し提案させてもらってもよろしいかな?」


「ん? なんだ?」「我々カトリック教会は貴殿がこの地球閥という悪性腫瘍を人類社会から切除することを期待していたのですが──その始末はどう付けるつもりですかな?」




「何だと?」


「このまま地球閥を野放しにするのか、と訊いているのですよ。貴殿が悪役に仕立て上げた地球閥の二世議員、三世議員の豚共や財閥の亡者共、その元締めであるマグバレッジ親子はどうするのですか。予定では彼らのような悪魔は浄化の炎で清められていたはずなのですが?」


 リオルは返答に詰まってゴクリと生唾を呑み込んだ。


「ロンドンの空気はまだ濁ったままです」


「──予定通りに奴らを殺せというのか」


「社会の害悪となる前に内なる悪魔は自然な形で排除するべきでは無いか、と申し上げているだけです」


 現在のローマのカトリック教会とはこういう組織である。それはリオルも理解するところではあったが──この温和そうな聖職者からすらすらと物騒な言葉が紡がれていくのはやはり肝が冷える。


「あなたの力が及ばないのであれば、我々の方で何とかしましょうか──」


(狂信者どもめ、一片の慈悲もない。こやつらの皮をひん剥いたら中から爬虫類か昆虫でも出てきそうだ──いや、こいつらからすれば地獄に行くはずの魂魄を浄化するのだから──殺しも救済行為、なのだろうさ)




「教会が表立って動けばいたずらに混乱を招くことになるぞ」


「わかっています。そこで提案があるのですが、リオル? ユイ・ファルシナに貴殿の代わりを務めてもらうというのはどうですか? 地球閥に取って代わるべき人類の指導者として、かつてのあなた、リオル・カフテンスキが目指した事業そっくりそのまま引き継いでいただくというのは? そうですね、木星王家による報復行為として地球閥を経済的に弱体化させる算段を立てる、というのは如何でしょう、これなら直接的な浄化は最小限にとどまるでしょう」


「おお──そうか。自然な流れではあるな」


 リオルはついつい同意を口にしたがすぐに首を振って打ち消した。


(ユイ・ファルシナに、あの小娘に私の夢を託す? 馬鹿な──)




「いや待て、待ってくれ教皇よ」


「貴殿が後見人となってユイ・ファルシナを新世界、理想郷アヴァロンの女王に据えれば良いではないですか。我が教会は全力で女王の統治を支持しますよ」


「わ、私があやつの元にいて、こうやってあやつの使い走りをするのはだな──強制されて甚だ不本意ながらやっていることだ」


「その可愛いひらひらドレスを着ているのも? まんざらでもないのでは?」


「こんな服は趣味ではない! と、とにかく、だ──少し時間をくれないか」


「時間、ですか?」


「どうにかして、私は再起する──その時までどうか待っておいてくれ。私は後継者レムスと肉体を失ったが幸いにして全てを奪われたわけではないのだ」


「ほー……しかし長くは待てませんね」


「お前が力ある教皇でいられる内には必ずや再起してみせよう、その時はあの皇女如きに大きな顔はさせぬ。私が木星帝国ごと取り込んでみせよう」


 教会にとってみればユイ皇女とリオルのどちらが主導権を握っているかなどは関係無い話だが当事者であるリオルにとっては天と地ほども差があることだ。


(ユイ・ファルシナに人質にとられている『王』の所在さえわかればあんな小娘の下で屈辱的な日々を過ごす理由も無くなる──私は──レムスの仇もとらねばならぬのだ)


「まあ、木星帝国であろうがあなたの立ち上げた結社キャメロットであろうが、今の地球閥よりまともになるのは確実なのですから、そりゃあどちらでも構いませんがね──ただ、あまり長くは待てませんよ。私が待てても枢機卿の何人かは現状を良しとはしないでしょう。現副尚書のサルタイア卿は私やオービル翁と違って相当にせっかちですからね、それに──」


「マルタ騎士団か」

リオルは舌打ちする。


「そうマルタ騎士団が赦さない! 貴殿も知っての通り現団長のエンデミオンは狂信的なまでに信仰心に篤い修道士である! 聖棺の外でのさばる人類を堕落に導く禁忌の存在を一刻たりとも赦すような男ではない。必ずや『浄化』に向かい邪悪の尽くを討ち果たすであろう」


 マルタ騎士団の名を口にする時の教皇の顔からは柔和な笑みが消え軽妙だった口調は途端に重々しく厳かなものに変わっていった。


 ぞくり、と少女の背筋を冷たい汗がつたう。それと対照的に幼い手のひらは激しく汗をかく。


「──おいまさか」


「安らかに眠っていた清らかな少女メアリー・ジーンに老獪な悪魔の魂が宿り、言葉巧みにこのイノケンティウス18世を誑かして破滅に導かんとす。汝エンデミオン、信仰の守護者マルタ騎士団の長よ! この悪魔の尖兵を疾く滅ぼしたまえ」


 教皇は不意に胸を反らすとリオルを指差して大声で朗々とのたまった。教皇の指先を突き付けられ動揺したリオルは慌てて壁際まで飛び退き物陰に注意を配る。


「や、約束が違うぞ」


 なにせ此処はロンドンで最も焦臭い欲望の城である。冷徹無比の教会の猟犬、エンデミオンが教皇の護衛としてイタリアから出向いていたとして何の不思議があろうか。


「おい待て、待ってくれ。このような無力な姿となった私を脅すのか教皇? 聖職者の長とも思えぬ──居る、のか? あいつは近くに居るのか? やめさせろ、私は教会の敵になったわけではないぞ! あくまで人類社会の奉仕者だ」


 俊敏な肉体を持ち、屈強なる部下を引き連れていたかつてのリオルならいざ知らず非力な少女の姿をした彼にマルタ騎士団から逃れる術などありはしない。


「なんちゃって~!」


「──ハァ?」


「大丈夫ですよ、騎士団長は別件で外してます。此処に来てはいません」


「クソッ、脅かしおってからに! なんて趣味の悪い奴だ」


「おもらしはしてませんか?」


 教皇は底意地の悪そうな顔で笑う。


「してない!」


「悪ふざけはこれぐらいにして……今回の一件、サルタイアとエンデミオンに理解を求めるのは骨が折れそうですね……先ずはリオル卿が生きていたというところから説明を始めないといけないというのが──」


「私の意識がこういう形で存在していること、出来ればこの場だけのお前と私の秘密にはしてもらえないだろうか。サルタイアは利を説けばどうとでもなるだろうがあのエンデミオンは融通が利かん」


「ア、ハ──そうですね、私も彼を完璧に制御する自信はありません」


「すまんな、迷惑をかけるがマルタ騎士団には今回の件は伏せておいて欲しい」


「いえリオル、あなたが生きていたことは教会にとって喜ばしいことです。そしてユイ・ファルシナの傍らにいるということもまた、大変喜ばしい。これぞ神の御加護。安心して引き続きあなたとそしてあなたの育ててきたキャメロットの騎士たちに対して支援が出来ます──そう、これで」


「これで?」


「これでユイ・ファルシナや木星王家が人類の害悪となった時に処分するのが楽になりましたね」


 教皇はニッコリと笑った。


「…………処分、か」


 教皇とは対照的に少女の顔は曇った。


「そういう役目、お嫌ですか?」


「いや──私は昔からそういう役回りをしてきた。いまさら汚れ仕事に抵抗はない」


「強い光の影となり、裏で働くのは貴殿の最も得意とする分野でありましょう。神もきっと貴殿の働きをお喜びになられていることでしょう」


 それはどんな神だ、とリオルは苦笑いした。


「そうだな──ではこのやり取りについては伏せた形でユイ・ファルシナには報告しておこう」


「はい、それでは『カトリック教会と教皇は木星王家を支援するものである』とでもお伝えくださいな……あなたの新しい主人であるユイ皇女殿下にね。免状はいずれ、正式な物を送りましょう」


「ありがとう」


 リオルは屈託のない笑顔を見せた。


 老人は少女の肉体を完全にコントロール出来てはいない。メアリー・ジーンの肉体は表情豊かにその心情を教皇にさらけ出していた。


「では失礼する……」


 リオルはドレスを少し持ち上げて軽く礼をした。満足げにゲストルームを後にする。少女が去った後、だだっ広く薄暗い部屋で教皇は独り言のようにつぶやく。


「──だ、そうですよ、エンデミオン卿。リオルは明言こそしませんでしたが機械感応力者の少年はどうやら生きているようですね。ユイ・ファルシナが保護しているのでしょう──どこに隠したかは知りませんがまあ泳がせていればその内リオルか皇女本人が接触するでしょ」


 天井の吊下照明シャンデリアの裏から赤く光る四つの瞳が見え隠れする。壁と同化していた「異形の何者か」の輪郭が一瞬垣間見える。


『機械感応力者の能力は、強力過ぎて人類の手に余る──邪悪なる者の手に落ちる前に、浄化、せねば──ユイ・ファルシナは聖か、邪か。実際にお会いになられた教皇聖下のお見立て、は、いかが?』


「さあどうでしょう? 勘の鋭い女性だとは思いますが。リオルの見立てでは聖邪がどうこうという前に単なる阿呆、ということらしいですが」


『阿呆ならば愚かだ。愚かなるは容易に邪悪に転ずる。禁忌をもてあそぶ邪悪なるユイ・ファルシナ、疾く討つべし』


「ちょっと! だ、ま、ちょちょっと待ちなさいな!」


 流石の教皇も驚いて声が裏返ってしまう。


「いまユイ皇女が何者かに殺されたらそれこそ人類社会は大混乱だ!」


『しかし──ユイ・ファルシナはあのリオル・カフテンスキを滅ぼすほどの実行力を持っている。これ以上力を付ける前にいま、浄化しておかないと手遅れになる』


「ですから! そのためにリオルを見逃しておくのです。こういう駆け引きをいい加減あなた達マルタ騎士団も学びなさいな」


『……ウム?』


 シャンデリア付近で空気の塊がゆらめき、赤い光がエンデミオンのまばたきに合わせて微かに明滅する。


「これまで方々をさがしても見つけられなかったのでしょう?」


『探索は始まったばかりだ。アラミス星系、木星圏、金星コロニーの調査は未だ実施されていない──』


 反論するエンデミオンの言葉尻に被せるように大きな声をだして教皇は彼を制した。


「とにかく、我々が躍起になって探せば探すほどはあちらも警戒して守りを堅くしてしまいますよ。機械感応力者の少年についての情報は私の方でなんとか探り当ててみますから。そうそう、リオルの処遇についても保留ということで」


『任務クエストを途中で投げ出すのは無念だが、神に愛されし智恵者である教皇聖下がそうおっしゃるのなら仕方が無い。マルタ騎士団は機械感応力者の捜索を中断する。そして、不死鳥のごとく復活した神の使徒、同志ブラザーリオルに再起する猶予を……奪還目録から人工知能融合実験体メアリージーンを一時的に削除しよう』


 肉声とは程遠い機械による無機質な合成音声が天井から聞こえてくる。


「おわかりいただいたようで何より、その代わり回収し損ねた行方不明のニースの捜索の優先順位を上げてください。ついでにプロモにいたキングアーサーの設計者、まだ何人か生きてるみたいですからそっちの方もいずれ、ね。浄化の方よろしく頼みますよ」


『ニース・クローンの発見、と浄化、を騎士団の任務の最優先事項に設定するのか?』


「いやいや、優先順位は低くて構いません。当面問題なのは正体の知れない連中のことです。火事場泥棒と例の巡洋艦についてお願いします」


『ギャラクシィ号と接触している所属不明艦の建造元とその目的、に、ついての調査だな。次に混乱状態の折にキングアーサーから盗難されたと思われるノードとワープコア、その他数々の禁忌技術の奪還──を最優先、だな』


「お願いします。聖棺ヴォルトから引っ張り出した禁忌は適正に管理出来ないのであれば速やかに処理せねば……闇市場に流れでもして金星の悦楽洞主や土星海賊のような心卑しき者共に悪用されては教会の面目丸潰れですからねェ」


 教皇は帽子をとって頭を掻いた。水差しからグラスにミネラルウォーターを注ぐと喋り過ぎて渇いた喉を潤す。


「しかし喉が渇くこと……あ、そうそうオービル元帥の件ですが……おやエンデミオン──エンデミオン卿?」


 いつの間にか四つの赤い光を持つ使徒は姿を消していた。音もなく気配もなく──まるで最初からその場に居なかったかのように。


「やれやれ……私の警護は二の次、ですか」


 教皇は一人、溜め息を吐き出すと鏡台の前で帽子を被り直し襟をただす。


「女王に挨拶を済ませたらば、私も早々に切り上げますか。正直、愛想笑いも限界だ」







 リタを追って宮殿内に入り込んだブリジットだったが完全に目標を見失って右往左往していた。


(道、わかんなくなっちった……)


 リタの気配を察知しようと集中していると視界の隅に不自然な空気のブレのような現象が飛び込んでくる。


「なんだぁアレ?」通路の先、30メートルほど向こうの天井の隅、複数の赤い光が微かに見える。同時に何者かの射るような視線を感じた。まるで宇宙害獣のような、獰猛な生物の放つ殺気のような視線。


 ブリジットは自らの細胞が俄かに活性化するのを感じた。浮かれた気分から闘争モードへ、瞬時にスイッチが切り替わり身体が活性化する。


 ブリジットは自らの闘争本能に従うことにした。


「なんかわかんないけどヤバそうなのいたッ!」


 ブリジットはタイトスカートの裾を自ら破いて動きやすくすると天井を這う何かを追って走り出す。


(よォーし、不審者とっつかまえて点数稼いでおくか)







 教皇とリオルがやり取りをしているその時、メインホールでは既に数多くの紳士淑女が集い、酒食を楽しんでいた。地球閥の重鎮である資産家、個人投資家、各界の名士が数多く列席していた。


「皆様、大変お待たせ致しました」


 こざっぱりとした水色のスーツ姿、背は低く美形というわけでもないが嫌みのない穏やかな笑顔をたたえた人物がホールに姿をあらわすと、ざわついていた会場が一瞬静まり返った。ほぼ全員がその人物、バッキンガム宮殿の主の方へ向き直り杯を掲げて敬意を示した。


 現在、英国王の位にあるのは奇しくも女性であった。


 未だ40代半ばの若い女王は貫禄たっぷりに木星からの賓客ユイ皇女をホールに迎え入れた。続けて礼服を着た宮城大将が姿をみせた、娘である宮城由梨絵が介添えについているようだ。


 この晩餐会は戦没者慰霊式典の続きのようなもので、ロンドンを火の海にせんと軍事クーデターを起こしたリオル大将を打倒したユイ皇女、そして軍部の功労者である宮城裕太郎大将、モエラ少将の三者を讃えるための宴であった。


 唯一、モエラの姿だけが見えないのだが、人材不足の折に長々とサターンベースを空けるわけにもいかない、ということで少将は無念の欠席となっていた。


 二人の救国の英雄に英国女王からの讃辞と王室から勲章が贈られた。宮城大将はモエラ少将宛ての直筆の御礼状を胸にしまうと二人分の勲章を誇らしげに掲げて見せた。


 ホールに大きな拍手が起こる、クーデターを未然に防いだ大将は今や地球閥にとっても救世主的な扱いで人気が高いのだが、当の本人はこれまで地球閥や議会とは対立関係にあったため複雑な心境のようであった。


「モエラ少将にもよろしくお伝えください」


 女王は宮城裕太郎と再度握手をする。


「彼は私よりこういう華やかな場所が似合う男なのですが、女王陛下にご紹介できず残念です」


「後々の楽しみにしましょう」


 女王との会話が終わると裕太郎の顔はいつもの面白みのない厳格な軍人の顔に戻る。実際、大怪我の後で体調もあまりよくないようだった。愛想笑いを続ける元気も出ないのが正直なところだろう。


 続けて、女王はユイの前にやってきた。両手を広げて実の娘のように抱擁し、両の頬にキスをする。


「光栄です陛下」


「何をおっしゃいますか皇女殿下、私のようなお飾りの王族と違い、殿下こそが人類社会唯一の高貴なる女王の器。その美しさ、凛々しさには嫉妬さえ覚えますわ」


「陛下の聡明さとお心遣い、このユイ、手本とさせていただきたく思います」


「お上手ですね、地球と木星には不幸な過去がありました。そのことについては謝罪の仕様もありませんがせめて私達王家の女同士だけでも変わらぬ友情を育んでいきたいものですね」


「はい、早速アドレスを交換しましょう。陛下は個人のPPをお持ちですか?」


 ユイが得意気に自分のPPを取り出したので女王は思わず噴き出してしまいしばらく笑いが止まらなかった。


 ホールにいた紳士淑女は気の利いたジョークだと思って聞き流していたがユイは割と本気で英国女王と電話番号を交換するつもりだった。どうも調子が狂うのか、首を傾げながらユイはPPをしまった。


「ユーモアのセンスも抜群でいらっしゃるのね、脱帽だわ」


 女王は改めて一歩前に出て列席者達を見回す。


「今宵、このような楽しい宴を催せるのもこの皇女殿下と勇敢なる騎士、宮城大将とモエラ少将のご活躍あってのこと。御三方の勇気に感謝しましょう、そして木星と地球の更なる繁栄を願って──乾杯!」


 女王がシャンパンの入ったグラスを天井な煌びやかな照明に掲げると、揃えたようにホール全体に「乾杯!」の声が響きわたった。


 白地に金縁、高帽子を被った楽隊が現れ祝賀の曲を高らかにかき鳴らした。既に酔いの回っている紳士の一人が威勢良くシャンパンの栓を抜いて自らの頭の上にかけ始める。


「あのシャンパン、一本十万ギルダはくだらないような? 大丈夫なんですか」ユイはあまりの勿体なさに仰天して女王に尋ねるが女王はユイが何を言いたいのか理解出来なかったので首を傾げて愛想笑いする他なかった。小売り業の社長であり個人投資をやっているユイと、価格に無頓着な女王では金銭感覚がまるで違う。


 そうこうしていると女王やユイに自分を売り込むたい人間が列を為して押し寄せてくる。


「それではユイ殿下、楽しんでちょうだい。クッキーだけは忘れずに食べてね。私と子ども達で昼の内に大量に焼いたの」


 ウインクしながらそう言い残すと、女王はユイから離れて列席者達の輪の中に入り姿が見えなくなってしまった。


「えっ──あの?」


 ホストとして横についていてくれるものだと思っていたユイは不意に一人にされて戸惑う。案の定ユイは大勢の人々に囲まれてしまった、それこそ身動きが取れないほど。


「ど、どうしましょう──」







 それからしばらくの間、ユイは人、人、人の波に呑まれていた。


 ユイは人の顔と名前を記憶することに結構な自信を持っていたのだが、今夜はそのささやかな特技も役に立ってはくれなかった。懇意にしておくと商売を続けていく上で有利そうな人達も何人か混じっていたような気もするが次々と記憶を上書きするかのように見知らぬ人が挨拶をしてくる。十人ほどと握手を交わした後で現れたのは忘れたくても忘れられないほど個性的な人物だった。


 その人物は順番待ちをしていた紳士達を無視するかのように真っ直ぐユイの方へと歩いてくる。


 艶めかしいカーブを描くボディにフィットした白いチャイナドレスを着込んだ長身の女性であった、ヒール込みで190センチほどの長身。女性は男たちを押しのけ、人集りを掻き分けながら真っ直ぐユイを目指して突き進む。


「どいてくださる?」


 女性は──目を見張るほどの美女──はユイに話し掛けている中年の紳士の肩を掴んで脇に無理矢理押しのけた。


「お、おい君ィ、失礼じゃないか」


「あら」


 美女はごめんなさいねと言いながら紳士の顎を持ち上げるとまるで口づけでもするかのような距離まで自らの顔を近付けた。


「は、はぅぁ……」


「ごめんなさいオジサマ、私、ユイさんと大事なお話があるの。すぐに終わるから譲ってもらって良いかしら?」


 そのまま耳元に唇を寄せると、フッ、と紳士の耳に息を吹きかけた。


「は、はひィ……」


 だらしなく鼻の下を伸ばした紳士はどうぞどうぞ、と長身の美女に順番を譲った。


「ありがと」


 それまでこの一角はユイが主役のように目立っていたが、このスタイル抜群の妖艶な美女はその注目を一気に奪いとってしまった。この美女の素性について知っている者もそこそこいるようだが、ユイは勿論初対面であった。




「どうも、ようやくお会い出来たわね。私は航宙安全保障ファイネックスのランファ・シン・タチバナ。貴女と同じ女性実業家よ。皆はランファと呼んでいるから貴女もそうして? ねえユイ?」


 ウェーブがかかったボリュームのあるユイの黒髪と違い、このランファという女性はしっとりと肌に張り付くように濡れたワンレングス。


 ニィと目を細めて笑うその表情。肉薄の唇、口角が絵に描いたようにつり上がったその様子はどこか恐ろしくも艶めかしい。まるで獲物を見つけた蛇が細長い舌を出して距離を測るかのような雰囲気。その不健康なまでに青白い肌、どことなく暖かみのないガラス片のような鋭さを残した笑顔。美しく白い陶磁器のような、はたまた白面の大蛇のような──近寄りがたいほど透明感のある、常世ならざる美貌。


「はじめまして、タチバナ社長」


「まあ! 他人行儀でいやだわ、ランファと呼び捨てになさって」


「はい、ではランファ、さん……あなたファイネックス、民間警備会社の……先の戦いにおいても進んで参戦表明していただき心強く思いました、誠に感謝しております。特にガニメデ沖海戦ではファイネックス社の戦闘艦艇の助けあればこそ……」


「あーら、おべっかは良いのよ、ユイさん? ウチのサタジットが挨拶に行ったはずですけど──あの子は思っている事を包み隠さず言ってしまうやんちゃな子でして。何かご無礼があったんじゃありませんこと?」


「いえ──そんな」


 ユイの愛想笑いが止まないことに苛立ったのか、ランファは大きく聞こえるように舌打ちする。


「チッ……あくまでお澄ましかい?」


「え、あの?」


 先程まで和気藹々とした雰囲気だった周囲が俄に凍り付く。雲行きが怪しくなってきたのを察知した噂好きの連中が美女二人の只ならぬ険悪な様子を遠巻きに観察し始め、その他は揉め事に巻き込まれないよう離れていく。


「童貞の男とか、ジジイは、あんたみたいなカワイイのが好きだよね」


「そ、そうですか。ありがとうございます、ランファさんもスタイルがよくて同性の私から見てもとっても格好良いですね、憧れます」


「何なのそれ、馬鹿にしてるの? 木星王家直伝のイヤミ?」


「あの、私、知らず知らずの内にあなたのお気に障ることをしたのでしたら謝罪を──」


 長身のランファが品定めするかのような不躾な態度でユイを見下ろす、ユイも言葉こそ丁寧だが毅然とした表情で応酬する。


 


「へえ、こんなに長い事、私と視線をぶつけ合う事が出来るなんて。肝の据わり具合は本物の風格だね」


「何か私に御用がおありなのでは……」


「そうだよ、ちょっといい気になってる木星の田舎娘に釘を刺しておこうかと思ってね。ちやほやされるのも今のうちなんだからまあ、せいぜい尻尾でも振って愛想良くしておくんだね」


「あの、女性起業家同士で共通点もありますし、私達は仲良く出来るのではありませんか? 良かったらお友達に──」


「は?」


 ユイの差し伸べた手をランファは持っていた扇子で打ち据えた。


「痛っ!?」


「汚い手で触ろうとするんじゃないよテロリストの淫売! いい加減いい子ちゃんぶるのやめれば?」


「貴方が私を目障りだと思う理由を教えていただけませんか? 出来れば直したいと思います」


「あんたの存在そのものが気に入らないね、ずっと冷凍庫に入ったまま腐っちまえば良かったのに」


「……それは」


「私はね、アンタみたいに男に媚びを売って女を売り物にしてのし上がろうとする奴がいっとう気にくわない質でね。そういうのを何人も、何人も叩き潰して、のし上がってきたのさ」


「……どうしてそれをわざわざ私に伝えるのでしょう?」


「喧嘩するなら先ずは宣戦布告するのが礼儀だろ」


「特に理由のない無意味な喧嘩ならやめにしませんか?」


 ふーっ、と溜め息を吐くとランファは髪をかきあげて改めてユイに向き直る、一歩前に出たので互いの胸と胸がぶつかるほど接近する。


「じゃ、ハッキリ言うよ。私はね、苦労して地球でのし上がるために女王陛下やマグバレッジJr.のご機嫌とりやって晩餐会の常連になったんだよ。それがあんたみたいなのが主賓ヅラして私のポジションかっさらおうとしてるのがムカつくんだよ。わかった?」


「よくわかりました、これが女の嫉妬──いえ縄張り争い、というやつなんですね。社交界デビューの新人をイジメにやってきた意地悪な先輩というところですか」


「わかったらさっさと失せな、木星に帰れ」


「それは出来ません、私、是非ともやり遂げなければならないことが」


「へえ──今度は誰に狙いをつけてるんだよ? 清純ぶってるけど一皮剥けばとんだ淫乱女狐なんじゃないのかね。宮城大将とモエラ少将のアレのお味はどう? どっちが美味しかった?」今まで平静を保っていたユイ皇女の顔が目に見えて変わった。眉根が寄り、頬は紅潮して口はへの字に曲がる。淑女然とした落ち着き払った立ち居振る舞いを見せていた皇女の素の表情は幼く、まるでへそを曲げた子供のようであった。


「ちょ、ちょっと言い過ぎなのでは? 私の事をろくに知りもしないくせに。よくそこまで下品な物言いを思い付くものですね!」


「あら? ようやく怒ったのかい。それとも軍人専門の淫売やってるのが図星だったかい? おしゃぶり上手の高級娼婦さん?」


「供の者から事前に妙齢の御婦人の嫉妬に気をつけろ、と言われております。嫉妬に狂った妙齢の御婦人とは貴方の事でしたか。そう言えば首の辺りお肌が不自然に白いですね。そろそろお手入れしないと粗い地肌が見えてくるのではありませんか?」


「あっ──」


 余裕綽々でユイを攻撃していたランファだったが「首の辺りが不自然」という言葉に動揺を隠せなかった。思わず指で首筋をなぞり、状態を確認する。


「過剰な化粧はご自分を安く見せますよ? 私、ラメラキャラバンのイヴォンヌ会長と親しくさせていただいております。加齢に応じた自然なお化粧のやり方を特別に聞いておいてあげましょうか?」


 被せるようにまくし立てるユイ。


 女狐とお肌の曲がり角。


 美女2人は互いの地雷ワードを踏んだようで罵り合いは更に激しさを増すような雰囲気だった。


「まあまあまあまあ──お二方ともそのぐらいで。喉が渇いてはいませんか? レモネードかパンチはいかが?」


 ロボットの牛島が2人の間に割って入る。


「何よこの無礼なロボットは!? こんな不恰好な物まで連れ込んで──」


 ランファは扇子で牛島のボディを叩く。


「まあまあ御婦人、威勢がよいのは結構ですが、あなたいま、物凄く悪目立ちしてますよ?」


 ただでさえ注目を集めていた美しすぎる女実業家2人。


 ホールに咲いた二輪の花が互いに敵意剥き出しの口喧嘩を始めたのである。周囲の招待客は少し遠巻きにユイ達を囲んでおり、楽隊も演奏を止めて二人の口論の行く末を見守っていた。


 牛島に注意されるまで気付かなかったがよくよく見回すと、英国女王を含めたほぼ全員がユイとランファの口論に注目しており、賑やかなはずのメインホールは水をうったように静まり返っていた。


「あ、あら──ごめんあそばせ。嫌ですわ皇女殿下ったら、フフ……ちょっとどきなさいよポンコツ」


 スレンダーボディが自慢のランファは牛島をお尻で弾き飛ばしてユイに密着すると、その妖艶な肢体をユイに巻き付けるように絡めてきた。ランファはついつい異性を誘惑する要領で胸を押し当て腰に手を回す。仲のよいアピールというよりこれでは『同性愛レズビアンアピール』になりかねないがランファはボディタッチ以外に親密さをどう表現してよいかわからなかった。


「皆様ご心配なさらず。トラブルではございません。女性起業家同士、意気投合して仕事の愚痴をこぼしあっていた所でございます。ねっ、ランファさん?」


「そうですの、そういうことなのですわ~、ねえユイさん?」


 そんなわけはないだろう、と招待客達は苦しいにも程がある言い訳を続けるユイ達に複雑な表情で会釈する。楽隊が演奏を再開したのをきっかけに、晩餐会は本来の喧騒を取り戻していく。


 ユイとランファはホッと胸をなで下ろした。


(あなた、いつまで私に密着してるんですか。人前でこんな破廉恥な、もしかして貴方、最初から私にこうして触るのが目的で──)


 ユイは少し青ざめて慌ててランファを引き剥がしにかかる。ランファの方ももちろん、そういう趣味はない。ユイに指摘されると顔を真っ赤にしてとっさに飛び退いた。


(誰があんたなんか触りたいと思うもんですか、ぶりっこが伝染するわ、あー! なんか痒くなってきた!)


「も、もう──まったく何なんですかあなたは? 女王陛下の前で恥をかいたじゃありませんか」


「それを言うならダメージがデカいのはこっちだよ! あ~! もういい! あんたが帰らないなら私が帰る!」


「え?」


 ランファはくるりと踵を返すと足早にエントランスへ向けて歩き出した。


「テムズ川クルーズでもして飲み直すわ、付いて来る方はいらっしゃって?」


 ランファの形のよい臀部に引き寄せられるかのように数名の男達と取り巻きの女性達が彼女の後に続いた。お騒がせ美女のランファはギリギリと親指の爪を噛みながら何度か振り返りユイの方に射るような視線を送ってくる。


 ようやくランファが視界から消えるとユイはがっくりとうなだれた。


「ハハハ、なんか嫌われましたねえ殿下」


「もう、笑い事では無いのですよ?」


 ユイは牛島が差し出したレモネードのグラスに口を付ける。


「でもお陰で人集りが消えました、個人的にご挨拶をするなら今が好機なのでは?」牛島のロボットアームが指し示す方向には壁際の椅子に腰掛けて休憩をとっている宮城大将の姿が見えた。


「まあ本当! 牛島さんありがとうございます!」


 ユイは顔を綻ばせるとレモネードを一気に飲み干し、子供のように小走りでそちらへ駆け出した。


 牛島はユイの後ろ姿を見送ると、戻りの遅い残りの連れの姿を探し始めた。


「しかしリタさんもブリジットさんも……何をやってらっしゃるのやら……」


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