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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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半世紀前の約定①

木星宇宙港の運航長官は戦艦衝突の危機が回避された旨を宇宙港全体に通達した。


 宇宙港の職員達、戒厳令のために港内に留めおかれた利用客達はユイ皇女への喝采をもってこの報せに応じた。


 皇女殿下のスピーチを一手に引き受け放送したミルドナット社や、直接ぎゃらくしぃ号宛てに祝福と感謝のメッセージが次々と送られる。宇宙船に送る電子メッセージなんてものは大半は弾かれてしまうし、届いたとしてもろくに読まれもしないのはわかっているが、人々は気持ちを言葉にするのを止められなかった。


 肝心の戒厳令解除の報こそ月基地から未だ出ないものの、この一連の事件はキングアーサーの機能停止をもって終息した。土星木星連合艦隊はガニメデ沖海戦で勝利して最高の形でその役目を終えたのだった。







 雄大、ラドクリフ、そして制御コンピューターの代役をやっていた牛島がアラミス支店号に回収された。


(何気に支店に入るのは初めてだなぁ)


 歩きながら雄大は内装をチェックする。外観も割と古めかしい印象を受けるが内装は更に古い。一目見ただけでもなかなか年季が入った船だと言うのがわかる。


(シャイニーロッド程じゃないけど結構古いな)


 雄大が珍しそうに剥き出しの計器やパイプを眺めているのを見て牛島が話し掛けてくる。


「雄大さん──あ、こうお呼びして構いませんか?」


「ええ勿論です」


「雄大さんはそう言えばこの支店号に乗るのは初めてですよね。ハイドラ級を商船に改装したり、諸々の準備をやってる期間、最初の15ヶ月ぐらいはこの船に皆さん乗り込んでたんですよ、御存知でした? 若いのにやたらしっかりとした魚住さんを中心に自分、小田島先生、六郎さんが支える形で色々やりました、懐かしいです──」


「へえ~」


 雄大はパネルを触る手を止めて牛島の話を聞いた。ラドクリフは雄大と牛島の後から付いて来る、余計な物を触って誤作動を起こさないように大人しく雄大達の話を聞いていたがどこか落ち着かない。彼が自分と喋りたくてウズウズしている様子は雄大にも見てとれた。


(近況を語り合うにしても一旦話が始まると一時間や二時間では終わらないだろうからなぁ、ラドとはもう少し事態が落ち着いてからゆっくり話そう)


「あの頃は魚住さんがちょうど今の雄大さんみたいにバリバリ大活躍してましてね~。幼い殿下やマーガレット閣下を守りながら、ホント鬼神のように頑張っておられました」


「いやいや、俺はそんなに活躍してませんよ」


「ハハハ、ご謙遜を」


「そういや、本店にあるみたいな社長の部屋、あの番犬みたいなロボット付きの監獄ってこの船にもあったんです?」


「いえ、最初はもう少しおとなしい監視でした。看守代わりに連邦の軍人さん達が数人乗っていましてね~」


「うわ、それはやりにくいですね──大変だったでしょ」


 そう言われると牛島は少し返答に詰まった。


「大変、ですか? 看守と我々、どっちが大変だったと思います?」


「そりゃー、魚住さんとか社長が大変そうだと思いますけど」


「──いいですか雄大さん。幼子とは言えあのマーガレット閣下と、小娘とは言えあの魚住さんですよ? 自分達の生活スペースに入り込んでる『不倶戴天の敵』に彼女達がどういう仕打ち、もといどういう態度で接するか、ちょっと想像してみてください」


 雄大は魚住とマーガレットの普段の言動を思い出す。


「……うっ」


 


「最長で3ヶ月、中には一週間で精神を病んでしまった看守の方もいらっしゃいました。だから監視役はロボットに変更されましてね。あの黒いロボットにしても二代目なんですよ。最初の奴はもっと小さくて──そうそう、檻に入ってる殿下を見たブリジットさんが『皇女殿下が可哀想』って言って檻ごとロボットをぶっ壊しましてね。そういやブリジットさん、お店に出るようになって随分と聞き分けがよくなりましたね~」


 雄大は少し胸焼けがしてきた。


 あの過剰なまでに強力なガードロボットが配備された経緯がなんとなく理解出来ただけでも良かったが、これ以上牛島の話を聞き続けるとせっかくの晴れ晴れとした気持ちが曇ってくる。


「あ、あのですね牛島さん、昔話はもうその辺で。なんか胃がキリキリと痛くなってきましたし」


「あれ? お気に召しませんでした?」


「ま、またいずれ聞きたくなったら此方からお願いしますので続きはその時にでも」


「はい、それじゃまたの機会に」


 牛島は歩調を早めて一人(一体?)でブリッジに向かう。


 牛島が遠くなるのを確認するとラドクリフが雄大に耳打ちしてきた。


「おい雄大──大丈夫か? 精神を病んだりする前に逃げるんだぞ?」


 牛島の昔話に異常性を感じたラドクリフ、今更ながらこの木星残党という組織を胡散臭いものだと認識しはじめたらしい。


「まあ俺には合ってると思うよ」


「ならいいけどよ、しかしお前も運が良いやら悪いやら……こんな一大事が進行してるその渦中にお姫様のところに再就職したんだからなァ……出来過ぎって気もするぜ」


「ああ、確かに不思議な縁があるよな」もしも。


 ──もし士官学校を辞めたりせず、月に残ってくすぶっていたら?


 ──もし海賊ヴァムダガンに殺されてたら?


 ──もしリンゴに会わず、ぎゃらくしぃ号に乗らなかったら?


 ──ぎゃらくしぃ号がガレス号に敗北していたら?




 リオル大将のクーデターは成功していたかも知れないし、皇女殿下が表舞台に出る事も無かったかも知れない。




(俺がいなくても、なるようにはなってた──誰かが俺の役目をやったんじゃないか? だけど──偶然にしても俺の行動が引き金になってユイや多くの人達を助ける事が出来たのなら)


 雄大は胸の内に熱い物がこみ上げて来るのを感じた。


(俺は、自分自身を誇りに思っていいのかな)


 ラドクリフは立ち止まると、雄大の胸をポンと軽く叩く。


「なあ、お前はもうやるだけの事をやっただろ? もういいんじゃないかな」


「え?」


「月に、戻ってこねえか? お姫様を助けて木星宇宙港も救ったお前の事、親父の七光りとか親父と比べて無能だなんて陰口叩く馬鹿はいねえよ」


 ラドクリフは寂しげな表情を作る、彼も雄大に似て考えてる事が素直に顔に出るタイプだ。


「──ごめんなラド。ここの人達、操舵士、航海士としての俺を必要としてくれてるみたいなんだ。そっちはさ、俺が居なくても大丈夫だろうけど、ぎゃらくしぃ号は案外人手不足でさ。たまに店の手伝いとか修理の手伝いとかもやらされて」


 性に合ってるというのは案外でまかせでも無いらしい、雄大の笑顔は愛想笑いでは無かった。


「……そっか」


「軍に戻っても月の実家で暮らせるとも限らないし」


 ラドクリフは雄大の「実家」という表現にどこかよそよそしさを感じた。雄大の心が既にぎゃらくしぃ号の方に移ってしまったから出て来る言葉なのだろう。


 これ以上説得しても無駄だ、ラドクリフは悟った。


「でも正月ぐらいは月に帰って来られるんだろ。親父も──」


「ああっ!」


「な、何だァ?」


「……親父、そうだ、親父! 無事なのか? レイジングが撃沈されたみたいだったけど」


 雄大はラドクリフの両肩を揺さぶる。


「呆れた奴だよ、知ってるもんだと思ってたぜ。安心しな、親父はタイダルウェーブに乗り換えてて無事だぜ」


 別な船に乗り換えてた、というのが雄大には少し引っ掛かる。


(キングアーサーを衝突コースからずらそうとしていた戦艦、あれがタイダルウェーブ?)


「まあ俺からもそれとなく援護射撃しとくからさ、良い機会だろ、仲直りしろって」


「おいおい勘弁してくれ、そもそもソリが合わないんだよ、あの人とは。ほっといてくれ」


 渋い顔を見せる雄大。


「──そういう変に意固地なトコ、お前の嫌いなあの人とそっくりなんだがなぁ」


 ラドクリフは呆れ顔で溜め息を吐いた。


 レイジングが切り刻まれている映像を見ている時、雄大は父親の死を覚悟し生きた心地がしなかった。しかし、こうハッキリと無事だとわかると今度は無性に腹が立ってくる。


(何だよホント、心配して損した)


「無事がわかれば十分、もう親父の話はよそう。これ以上あの顔、鉄面皮を思い出すと益々気分が悪くなる──口を開けば嫌みばかり──俺が軍人嫌いになったのはオヤジのせいと言えなくもないんだからな」


 ラドクリフが想像していたよりも2人の関係はこじれているらしい。


「ま、まあ正月まで随分あるから気が向いたら挨拶ぐらいしに来てくれよ。こないだの正月は由梨恵もオフクロもお前の事で親父と言い合いしちゃって不機嫌でなぁ、居心地悪かったんだよ。訓練、訓練で休暇が少ない海兵隊の俺を哀れに思うのなら新年ぐらいはめでたい気分でいさせてくれ」


 ラドクリフは両手をあわせて雄大に頼み込む。


「そ、そこまで言うなら……他ならぬラドの頼みだしな。由梨恵はともかく母さんにはキチンと報告しておきたいし」




 そうこうしているとブリッジに到着する。


 ブリッジクルー達が、わっ、と雄大の周りに集まってきて手を握り肩を叩き歓迎する。


「見てたよ、あんた若いのに凄い度胸だな」


「さすが、マーガレット様が惚れただけの事はある!」


「確かにあれぐらい乗りこなせなきゃ閣下の相手は務まらない」


「俺達、小さい頃から知ってるからなぁ、感無量だよ」


「よろしく頼んだぞ!」


「え?」


(何故にマーガレットの話題になる?)口々にクルー達はマーガレットの名前を出してくるが雄大は訳もわからないまま頷いて愛想笑いを浮かべた。




「宮城さん、ちょっと」


 艦長席の魚住が手招きする。


「はい?」


「一仕事終えてお疲れのところ申し訳ありませんけど、別室でお話が」


「え、ここじゃ駄目なんです?」


 魚住は頷いた。


「はい、ある意味では今回の事件よりも、殿下にとっては一大事──その事であなたに相談が。ついてきてくださいますか」


「殿下……ユイ社長の事で?」


「はい、あなたにしか頼めない事です」


 魚住はラドと軽く挨拶を交わすとブリッジを出て行く。雄大も後についてブリッジを出ようとするとラドクリフが肘でつついてくる。


「おい雄大──念のために確認しておくがな。お前が月に帰りたくない理由って『年上、年下思いのまま、女所帯で手広くよろしくやってるから』って訳じゃないよな?」


 魚住の方を見ながら小指を立てるラドクリフ。雄大は乾いた笑いを浮かべて「いやいやいやいや」と何度も全力で首を振った。


「宮城さん?」


 魚住の少し苛ついたような声と舌打ち。


 顔だけ振り返った魚住、切れ長の瞳から冷たく射るような殺気が放たれてくる。


「殿下の一大事、って……言いましたよね?」


「ひっ?」


「うぉっ……?」


 この迫力満点の睨みにはラドクリフも雄大も驚いて軽く悲鳴を上げる。


 雄大は少し裏声で「はい只今!」と威勢良く返事して小走りでブリッジを出て行った。その少し情けない様子にラドクリフは驚いた。これではまるで女主人と飼い犬か、サドの女王から離れられないマゾ奴隷のように感じられた。


(う、うーん。もしかして雄大のヤツ、木星の悪女達にマインドコントロールされてんじゃないの?)


 ラドクリフは親友の将来が少し心配になってきた。







 通路脇にある小さな倉庫に入る。替えの照明や催事の飾り付け、横断幕のような物がしまわれている埃っぽい一室。当然、椅子もテーブルも無い。


 魚住は自分のPPを取り出すと木星帝国の歴史について軽く、昔話を始めた。その内容はまあ、ごくありきたりの後継者争いについてだった。


「……それが何か?」


「雄大さんもご存知のように殿下はビルフラム陛下の長女、皇太子殿下は陛下、皇后陛下と一緒に処刑されたため現存する直系の王族唯一の生き残りなのです。私は国家として最低限の体裁が整い次第、戴冠式を行いユイ殿下に正統木星帝国の皇帝に即位していただくつもりです──それは勿論、早いに越した事はありません。今すぐにでも皇帝となっていただきたいぐらいです。殿下は惑星を丸ごと支配するに足る器の持ち主、宮城さんもそうは思いませんか?」


 女帝ユイ・ファルシナの誕生。


 世間知らずで幼い所作も見られるユイではあるが皇女としての凛とした振る舞いとその決意の固さは女帝という名に恥じない物だ。


 民を守る強さと優しさを兼ね備えた立派な皇帝になれるだろう。必要以上に責任を背負い込み、気に病むところがある彼女だがマーガレットや魚住のような忠誠心溢れるしっかりした家臣が支えてやれば良いだけの事。


 雄大は少し考えてから、早めの即位に対して特に不安要素は無いと魚住に結論を伝えた。


「ありがとうございます、ハダム大尉にも少し相談しましたが同じ意見です」


「ハダム大尉にも?」


「ええ、あの人はなかなかの人物ですよ。政治の事がよくわかってらっしゃる。木星近隣コロニーの出身という事もありますし、ゆくゆくは爵位など与え参謀として身内に迎え入れようと思っています」


「──あの、俺にそういう国家体制の話をするって事は」


 雄大は生唾を呑み込んだ。


「はい、宮城さんには木星帝国の一員──それもかなり重要なポストについてもらいたいと考えています」


 魚住の瞳は真剣そのものだった。コンテナごと廃棄間近の弁当を買わせた時のような威圧的な雰囲気はない。


 しかし、それがかえって雄大を不安にさせた。


(この人、たぶん物凄いイヤ~な役目を俺に押し付けようとしているな?)


 直感的に雄大は身の危険を感じた。目前の女性は踏み入れてはいけない領域に雄大を引きずり込もうとしている。


(ここは一発ガツンと言って断ってやろう、うん)


 シーンと静まり返った倉庫、ブリッジからラドクリフとアラミス号のクルーが大笑いする声が聞こえてくる。


「魚住さん。勿体ぶらず具体的に、簡潔にお願いします」


「はい、驚かないで聞いてください」


 魚住も少し緊張しているのか深く息を吐いて気を落ち着かせてから口を開いた。




「宮城雄大さん、木星帝国の宰相代理として正式に依頼します──ユイ様と『結婚』してもらえませんか」




 雄大は口を半開きにしたまま、ふぇっ? と情け無い声を上げた。


「あのー」


「皇帝として即位したユイ様の配偶者となり世継ぎを産みお二人で次代の木星帝国皇帝を育てて欲しいのです、可能な限り早く。何ならもう今日婚約を発表して明日からでも子作りを始めてもらってもかまいません、我々には時間が無いのです」


 魚住も自分が相当無茶な事を言っているのを理解している、理解した上で真剣に雄大に話をしているのだろうが……


「いやいやいやいや……ちょ、ちょちょ、とんでもない!」


 雄大は顔面を真っ赤にして両手を前に出す、とんでもない、とんでもない、と首を振る。


「俺が木星帝国の、こ、皇帝に?」


「いえ。木星帝国の皇室典範によりますと皇帝に即位出来るのはあくまでも直系の子孫であり配偶者は該当しません」


「じゃあ俺の立場は──こ、皇后?」


 雄大の顔が青ざめる。


「宮城さんもしかしてふざけてます? 私は真面目な話をしているんですよ?」


「ででで、でも皇帝の配偶者は、皇后になるんじゃ?」


「だから先程後継者争いで揉めた時の話をしたでしょう──木星帝国には過去、3人の女帝がいらっしゃいました。その旦那様、女性の皇帝陛下の配偶者である男性は『皇配殿下』と呼ばれ、帝国序列第三位の存在となるのです」


「皇配殿下?」


 共和制である太陽系惑星連邦の中心部、月一等市街で育ってきた雄大にとってはまったく聞き慣れない呼称であった。


(あれ? 待てよ──以前にマーガレットから殴られて正座させられて『序列第三位』がどうのこうのと説教された事があるような──)


 ぞわぞわ、と背筋が痒くなってくる。


「ねえ魚住さん? そんな、こ、子作りとか、女の子の人生を大きく左右するような勝手な事言ってますけどね──当人同士の気持ちというものがですね、だいたい社長はこの事についてどう思ってるんですか? 社長と話をさせてくださいよ」


「ユイ様と結ばれるのは不本意ですか? 女性として、あなたの妻としては不十分だとおっしゃる?」


「とんでもない! 土下座してでもお願いしたい──あ、いや変な意味じゃなくて!」


 雄大は頭から血の気が引いたり充血したり、忙しく顔色を赤くしたり青くしたりしていた。立ち眩みがして立て掛けてあるハロウィンの立て看板の脚に足を取られて無様に尻餅をつく。


「お気を確かに! 宮城さんには皇配殿下としてもっとしっかりしてもらわねば困ります!」


 魚住にはまったくふざけた様子がない。


「ユイ様、殿下にはまだ何も話してはいません。この話をしたのはハダム大尉と宮城さん、あなただけです」


「そ、そんなムチャな。何より社長の気持ちが大事なんじゃ」


「殿下はあの通りずっと軟禁状態、男性との接触機会は極端に低い上に世俗との接点もなく、ひとりの年頃の女性として見た場合、かなりの無知です。恋なんてまず経験した事も無いでしょうが──そんなものは、そんな好きだの嫌いだの国家の安寧にとって些末な事はどうでもよろしい、皇位継承第一位の姫としてその職務をまっとうしていただくのみ、でございます」


「ひ、酷いじゃないですかそんなの! 魚住さんの都合で……そんなのあんまり可哀想だ。社長には、ユイさんには人並みに恋をしたりする権利があるはずでしょう?」


「だまらっしゃい! 私の都合ではありません、これは多くの木星帝国臣民の命運を、いえ太陽系惑星連邦の未来すら左右しかねない一大事なんです! 私の都合など──コホン、それはそうと宮城さんは皇帝になるのは男性であるべきだ、とは思いませんでしたか?」


「ま、まあそう、ですね。男が皇帝とか王様になるケースの方が多いので無意識にそう感じてしまいました。でもそれが何の関係があるんですか?」


「あるんです、実は」


 魚住はPPを操作してホログラムデータを出力する。


 そこには年の頃14、5ほど、輝くような黒髪を短く切りそろえた少年の姿が映し出された。ユイの社長室に飾られていた肖像画の貴人と良く似た雰囲気で華美な礼服を着込んでいる。細身で華奢だがその澄んだ瞳からは強固な意志が感じられ、全体の印象を凛々しく見せている。なんとなくだが雰囲気はユイと似ている。


「この御方はセレスティン・ファルシナ大公殿下──つまりユイ様の従兄弟にあたる存在です」


「へっ? 大公殿下って──ええ?」


「この御方のお祖父様はオーウェン大公。ビルフラム陛下の弟君の孫にあたる方です──このまま我々が手をこまねいていると何十年も昔の約定に従い、ユイ様はこの御方の『皇后』になってしまうのです」


 雄大にはもう何が何だかわからなくなってきていた──

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