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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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激突!①

「警告、監視対象が逃亡しました。監視対象が逃亡しました。監視対象が──」


 ユイを閉じ込めていた黒塗りの看守、地球閥が監視用に配備した最新鋭のガードロボットは長い手足を駆使してキングアーサーの通路を這い回る。ぎゃらくしぃ号よりも通路が広いせいか、これまでは縮こませていた手足を最大限に伸長していて更に巨大に見える。


 乗用車並の速度は出ているようだが……雄大は振り落とされないように必死でしがみついて、なんとかこのロボットを止める手立ては無いかを考えた。


「逃亡犯ユイ・ファルシナまで直線距離でおよそ300メートル」


(コイツ、社長の位置が精確にわかるらしい)


 ユイが両手に付けている手錠が発信機になっていると考えるとしっくりくる


 隔壁が下りて通路が遮断されていようとなんのその、行き止まりにさしかかると、この看守はピタリと止まり、プラズマカッターが先端に付いた副腕で隔壁を焼き切り始めた。


「──多機能だなぁ」


 雄大は感心しながらロボットの手際良い作業を観察する。


 ある程度切れ目を入れた後でスパイクの付いた腕と強靭な脚部で隔壁をぶち破る。


「政治思想犯ユイ・ファルシナまで直線距離でおよそ280メートル」


 看守ロボットは再び通路を走り出す。眼前にキングアーサーの防御システムである戦闘ロボットの集団が見える。


「うわっ、と、と!」


 雄大は慌ててロボットから飛び降りて、ヒートガンを構えた。雄大は迂回するルートを探したが看守ロボットは怯んで撤退するどころかむしろ更に加速すると、大きくバッタのように跳ね上がる。


 ふた回りほど小さな敵方の戦闘ロボット達の発射したヒートガンをかわし、二発目を撃たれるよりも早く、看守ロボットは『宙に浮いたまま』前足に相当する部分でこの戦闘ロボットの頭を蹴り飛ばし、サブアームで掴み、メインアームで殴りつけ床に叩き伏せる、そして着地後にはプラズマカッターでの胴体切断を完了させていた。


 ほぼ一瞬で三体を無力化、残る一体の胴体を掴み、振り回して何度も何度も壁に叩きつける。ロボットは妙に活き活きとした様子で相手を蹂躙していた。


「え? お前もしかして──『広い場所』だと物凄く強い? ていうか射撃するより殴る方が得意なんだな、お前って」


 鉄が擦れ、曲がる際に響く激しく刺々しい耳障りな音、そして鉄とプラ、硬質ゴムの灼ける何ともいえない有害そうな臭いが辺りに充満する。


「しかしそこまで格闘強いのに、何でみすみす監視対象の社長を奪われたんだよ? 職務怠慢、看守失格だろそんなの。狭い場所が苦手だろうが何だろうが、もっと必死で抵抗しろよ」


「相対距離およそ335メートル、ルート変更の必要性、対象の逃走経路からこの建造物の内部構造を推測して追跡を効率化します」


「おい聞いてるのか根性無し」


「───未登録船舶、類似の規模のステーション型建造物と比較開始」


「なぁちょっとポンコツ!」


「───追跡ルート変更中」


(ロボットとは言え、こうも完全無視を決め込まれると少し悲しいな……)


 何事も無かったかのように、看守ロボットはユイの追跡を再開するべく動き出す。雄大は慌てて看守ロボットの背中の辺りに飛び乗った。今、この看守ロボットに置いていかれたら敵地での雄大の生存率はほぼゼロになってしまう。自慢では無いが雄大は頭脳労働と船舶系の操縦、ホログラムモデルの製作以外に取り柄はない。身体能力はほぼ一般人、いや同世代の一般人より劣るかも知れない。そのあたりは雄大本人が一番自覚しているところだ。


 不意に看守ロボットのメインカメラが動き、背中にしがみついている雄大の顔の目前で止まる。ここにきてロボットの方もようやく雄大の存在を認識したらしい。思わず目と目が合った、という感じだ。咄嗟に銃をズボンに突っ込んで笑顔を作る。


「え、えーと。あの──俺だよ俺、覚えてるだろ? 宮城雄大だよ、ここんとこ何度も顔を合わせてるじゃないか」


 看守ロボットは数秒ほど雄大を観察していたが、雄大の服装を確認し終えると急に興味を失ったかのようにカメラを定位置に戻す。雄大を特に脅威とも妨害者とも見なさなかったらしく、振り落とすような事はしなかった。まあ、味方として認識されてるとも思えないが、とりあえずは助かった。


 雄大は何で自分がこの『仕事熱心な看守ロボット』がユイを追跡するのを止めようとしていたのか、少し疑問になってきた。このまま看守に付いて行けば、雄大はユイの元まで楽に連れて行ってもらえるだろう。


(こんなに強いんなら何でもやっつけるだろ。こんな好都合な事はないぞ)


「ユイ・ファルシナまでおよそ180メートル」


(──社長に、ユイに追い付いてからが大変そうだけど、何にも思いつかん以上、無茶でもこいつに付いていくしかない)







 ワープドライブコアがある機関部に向かう六郎とブリジット達。その遥か前方に開けたスペースがある、覗くスコープの向こう側、二人の人物の姿が六郎の目に飛び込んでくる。


「なんだありゃ」大男と女──武器など持っていない、と一目でわかるような軽装だ。船内に敵兵が侵入し防御システムがどんどん突破されているこの非常時に気密服も着込まず何をやっているのだろうか、六郎は何かの視覚トラップを疑ったが特にPPには反応が出ない。


 大男は3000年以上前の地球、ローマ帝国時代の戦士やギリシャ神話のに登場する力自慢の神々か英雄を思わせる風貌だった。よく見ると彼らの足元に何かカーキ色の丸太のような物が転がっており、大男はその上に右足を乗せて胸の前で腕組みをしている。


 この2人はまるで映画の世界から飛び出してきた英雄と美女。そして彼等が仁王立ちで待ち受ける空間は古めかしい闘技場のようにも見えてくる


「──おいおい、ありゃあ……」


 カーキ色の丸太、いや、ずだ袋のように見えたのはどうも人間、カーキ色のスカウティングアーマーを着込んだ人間のなれの果てのようだった。


 ゴロゴロと床に幾つも転がっているずだ袋は全てファイネックス社の傭兵連中だった。六郎はファイネックス社の歩兵部隊がキングアーサーに乗り込んでいる事やファイネックスの装備を知らなかったので、何か同士討ちでもあったのかと訝しむ。


(強化服を装備した集団を素手で?)


 六郎はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「ぜ、全員止まれ!」


「おととっとっ……?」


 ブリジットは腰をおとし身体を横滑りさせてブレーキをかける。ギャリギャリと床面を削る音がする。


「このルートは駄目だ、ヤバい!」


「何で? あそこの変電蓄電施設キャパシタ・ルームを抜けたらすぐに機関部、動力炉ワープドライブなんでしょ?」


「おい、引き返してマーガレット様と合流するぞ、走れ」


 六郎は部下達に指示を出すとコアに仕掛ける予定だった吸着爆薬を通路に貼り付け始める。


「ちょっとちょっと! 何してんのさぁ!?」


 顔を青くしてぎこちなく爆薬を柱の基部や動力パイプに仕掛ける六郎。その変調にブリジットは驚く、彼女の知る六郎はこんなに臆病ではない。


「何ビビッてるの? らしくないよ?」


「何とでも言えよ、俺は俺の勘を信じる──よし通路塞ぐぞ、ブリジットお前も走れ!」


 六郎は爆発を10秒後にセットすると自らもキャパシタルームに背を向けて走り出す。ブリジットはわけもわからずそれに続く。


「ナニが居たって言うのさ~?」


 暴れ損なったブリジットは走りながらも未練がましくちらりと後ろを振り返る。


「んお?」


 ブリジットの目には何か棒のような物を掲げた髪の長い男の姿が飛び込んでくる。此方を向いてちょうど槍投げのように助走を付けて──ビュンと音を立てて勢い良く棒を放る。


 ギュラギュラギュラ、と何かをねじり込むような音がする。


 ちょうど10秒後、予定通り爆発が起きる。


 巻き上がるはずだった爆風や粉塵はその飛翔する『棒状のそれ』の巻き起こした小さな台風に吹き飛ばされた。


 爆風に負けないどころか、何事も無かったかのように突き抜けて真っ直ぐにブリジットの心臓を射抜くような勢いで迫ってくる。


「───!」


 ブリジットは咄嗟に盾を構えて腰を落とした。


 ガン! と何か堅い物が盾に当たる。謎の大男から投擲された『それ』は盾に着弾すると盾の多重層を高速回転しながら食い破っていく。


 盾の裏側に10㎝ほどその尖った棒の先端が飛び出してきた。


「うわぁ」


 ブリジットは摩擦熱で溶けて盾と一体化した鋼鉄製の投擲槍ジャベリンを見て目を丸くする。


「なんだコレ、どれくらい回転させたらこんな風に貫通すんの?」


「ホレ見ろ、とんでもねーバケモノがいるんだよ! こんなのまともに相手にしてたらいくらお前でも──」


「へえ~! へえ~! 凄い凄い! 面白い! 今度アラミスの港で休暇もらったらあたしも『コレ』に挑戦しよう!」


 ブリジットは手を叩いて起き上がり軽く飛び跳ねて無邪気にはしゃぐ。


 そしてこの槍を投げた男、レムスの方を興味津々の顔付きで見つめる。 大男は通路を塞いだ柱やパイプを肩で押し上げて、女を通してやると自分もその後に続いて悠々と歩き始めた。


「生身であんなエグザスみたいなパワーが出るのか? 強化サイボーグ、いや人間型ロボット?」


「何だよー、このゲテモノみたいな船にぴったりな、面白そうな奴がいるんじゃんか!? 型落ちのショボい戦闘ロボットの相手ばっかでちょっと飽きてきたしさぁ──」


 六郎の制止もブリジットの耳には届かない、前に出て止めようとする六郎や親衛隊員達はブリジットから子犬でもつまみ出すようにあしらわれ後ろに放り投げられる。


 好敵手を見つけた赤鬼は自らゆっくりとレムスに向かって歩を進め、そして笑った。


「目の前にこんな楽しそうな相手がいるのに、逃げるなんてもったいないじゃん? ねえ、そっちの金髪のあんたもさ、全力でぶつかっていける相手がいなくて退屈してる──そうだろ?」


 金髪の大男レムスからの返答はない、しかしその顔に浮かべた笑みはブリジットと同じく、純粋かつ野卑、原始的な欲求に突き動かされた『狩りをする者』の笑みだった。


 部下から通信機をひったくると六郎はブリッジへ向かったマーガレットに緊急事態を報告する。


「閣下! マーガレット様、大変です! ブリジットが暴走しちまってて、俺らじゃ止められねぇ!」







 皇女を小脇に抱えたまま、八番目のニースはリオルの待つブリッジに戻る途中で防御システムと戦闘中の青い巨人の集団に遭遇した。ラドクリフ率いる海兵隊のエグザスだ。


 八番目は腰の端末を取り出すとブリッジに連絡した。


「ニースはユイ・ファルシナを確保しました。ブリッジにほど近いBF-3-1区画で侵入者のエグゾスーツと戦闘中。最優先で救援を求めます」


 八番目とユイの存在に気付いたエグザスが数体、指を差して此方に向かってくる。


 八番目の体色が赤黒く染まり、臨戦態勢に突入する。


「えいっ!」


「な!?」


 ニースの目の前が急に暗闇に包まれる。想定外の方向から何者かが自分に目隠しの大きな布を被せてくる。


 視界を奪われ混乱したニースは反射的にそれを外そうとして両手を使ってしまう。通信端末がこぼれ落ち、意識を失っていたと思い込んでいた大切な人質がニースの腕をスルリとすり抜けていってしまった。


 ユイはニースに気付かれない内に羽織っていたマントを脱いでおり、隙を見てそれをニースに被せてきたのだ。忌々しいマントを投げ捨て、足音のする方向を見るとユイ皇女が既に30メートルほど離れていた。


「お前は──気絶してたんじゃないのか!?」


「誰か! 誰か助けてください!」


「抵抗するなら足を切り落としてでも連れて行くことになるよ!」


 海兵隊のエグザスが2体、此方へ跳躍してくるのを見て舌打ちしながらニースはユイに向かってとびかかる。30メートルの距離を一気に縮めるようなジャンプ、横になぎはらうように蹴りを繰り出す。ユイはよろめきながらもニースの攻撃を何とかかわして今度は海兵隊の方へと反転して走り出した。


 しかし、ニースは後方へとその長く美しい足を伸ばして鋭い足払いをユイに食らわせた。たまらずユイはバランスを崩して倒れ込む。


「ちょこまかちょこまか! ネズミみたいな奴! 逃げられるぐらいならもういっそここで処刑──」


 ドガッ──!


 横の通路から飛び出してきた巨大な何かに八番目は吹き飛ばされ、そのまま通路の壁面と黒塗りの巨体の間に挟まれる。メキメキと身体中の骨が軋む音を聞きながら、ニースは悲鳴すら上げられずに絶命した。その身体から血の気は失せ、燃えるように赤く染まり上がっていた体色は本来の青紫色に戻っていく。


「ユイ──!」


 黒塗りの看守ロボットの背中から颯爽と飛び降りてきた青年にユイは荒々しく抱きかかえられた。


「ユイ! 良かった!」


「──えっ……?」


 ユイ皇女は目前の男性が誰だか一瞬わからず困惑した。


 自分を『ユイ』と呼ぶ力強い声、凛々しい顔立ちの青年。


「宮城──雄大、さん? ですか? ですよね?」


「とにかく今は逃げます! 首に掴まっててください社長!」


「は、はい!」


(社長、って──やっぱり宮城さん、ですよね? こんなに真剣な表情をされる方だったんでしょうか──)雄大は両手でユイを持ち上げると走り出す。


「きゃっ」


「お、落ちる落ちる! もっとしっかり掴まっててくださいよ社長!」


「ご、ごめんなさい」


 首にしがみつくように腕を回すと海兵隊の方へ何事か叫ぶ青年の真剣な横顔が間近に迫ってくる。


 ユイは激しく高鳴る胸の鼓動を抑える事が出来なかった。自分の激しい鼓動が目前の男性にどう伝わるのか──急に恥ずかしくなって、離れてしまいたいような、このまま力強い腕に抱かれていたいような──そんな複雑な気持ち。




(風が──風がこんなに気持ち良いなんて)


 荒い息遣い、少しだけ出た喉仏、額を伝う汗。


 この男性はこんなにも必死で走っている。


(52年も囚われの身だった私を──あなたはいったい、どこに連れて行くつもりなのですか?)


 檻から出た解放感。頬に当たる風と、雄大の鼓動の心地良さにユイは目を閉じ、幼子のようにその身と心を雄大に委ねるのだった。

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