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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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北極ポート沖海戦②

戦艦レイジング・ブル、重巡ゴルゴン、軽巡イザヨイツキヨ、軽巡ヨイマチサクラからなる第一艦隊の分隊4隻と相対するのは航戦キングアーサー、軽巡ギャラハッド、軽巡パーシヴァル、軽巡ガウェイン、軽巡グリフレット、そして所属不明巡洋艦を加えた改装特務艦隊プロジェクト・ナイツオブラウンドの6隻である。




 後退を続ける分隊、そのランチベイから艦載機が発進、脇に逸れた4機の戦闘機シュライクが小型の対艦魚雷を射出する。これは特務艦隊の進行速度から予測される位置にちょうど『置いてくる』ような攻撃で、魚雷を当てる事よりも特務艦隊に回避運動をさせて前進する速度を遅らせる狙いがある。


 分隊の航空隊は16機のシュライクを4部隊にわけてローテーションを組み、上下左右から対艦魚雷を間断無く放ってくる。


 絶妙な位置への射撃に対して特務艦隊はやむを得ず艦隊全体の進行速度を緩めた。逆噴射などで速度が落ちた瞬間を見定めたように粒子砲が撃ち込まれていく。腹を晒したグリフレットにレイジングブルの主砲が命中、衝撃に耐えかねたグリフレットは跳ね上げられたように大きくのけぞり、バチバチと激しいプラズマ発光を艦底に抱えながらレイジング・ブル追撃戦から脱落していく。


「グリフレット小破、動力部の軽微な損害確認。完全復旧まで推定2時間弱」


 十二番目トゥエルブのニースがグリフレットのダメージをリオルとレムスに報告する。


「これは初めてお目にかかる運用だ、ネイサン少将は防衛戦が得意分野かな? 即興で考えた連携にしては付け入る隙が無い」


 リオルは素直に感心するが、あまり悠長に構えているとレールガンの再装填作業が終了してしまう。


「少々困った状況だ。レムス、この局面どうする? お前が考えてみてくれ」


「敵が最大の武器を準備するなら、此方も最大の武器をもってそれを打破するのみ、私はそう思います。この状況で出し惜しみする事も無いでしょう」


 美しい筋肉と輝く金髪を持つ身長2.5mの威風堂々たる美丈夫、超優性遺伝子的怪物、男性体レムスは彼の主である『陛下』の力を使う事を提案した。


 リオルは少しばかり逡巡したが、このままだとネイサン少将の思惑通りロボット艦の被害が増えるばかりである。


「あわよくばこのまま平押しで乱戦に持ち込みたかったが艦隊を必要以上に損ねるのも良くない。しかしな、私は陛下の体調が多少心配なのだよ」


「リオル、レイジングを黙らせればもう後は烏合の衆です」


 リオルは何か嫌なイメージをどこからともなく受け取った。


(ここでキングアーサーの手の内を、あの宮城に、そしてあのユイ・ファルシナと宮城の小倅に見せても良いのか? あの規格外品イレギュラーどもに考える時間を与えるのは──面白くない)


「元より第一艦隊などあの超級戦艦を有効に運用するための単なる介添え役に過ぎません。閣下、ニースもレムスの意見に賛成します。第三艦隊やユイファルシナが到着した時に頼みの綱のレイジングが破壊されていれば、その士気を大いに削ぐでしょう」


 ニースがレムスの言を後押しする、リオルは信頼を置いているニースの判断ならばそう間違う事もないだろう、と心を決めた。


「うむ……十三番目サーティーンまでもそう言うのならここは陛下にご出陣していただこう。十三番目サーティーンよ、陛下と御典医をブリッジにお連れするのだ、至急だぞ?」


 ニースはリオルが全て言い終わる前から常人離れした脚力で飛ぶように駆け出した。それはまるで「自分の言葉なら必ずリオルは賛同する」という自信の表れのようでもあった。


 それを間近で見せつけられたレムスは憤慨した。自分よりもニースの言葉の方が重く受け止められているという事実、若いレムスは苛立ちを隠せない。


「どうした、何故敵の戦闘機を一機も落とせんのだ」


 レムスは通信で砲手を呼び出し、当たり散らすが芳しい返事が返って来ない。


「くっ、やはり一般人ではこんなものか」


「そう言うなレムス。味方の不甲斐なさを嘆くな、敵の奮戦をこそ褒め讃えるのだ。将たる者の焦りは2倍、3倍になって部下に伝染していくのだからな」


「すいませんリオル」


 ほどなくしてニースが矢のような速さでブリッジに帰還する。右手で陛下と呼ばれる少年、左手でクジナ技術大尉を抱えている。クジナを放り投げるように手放すと、ニースはブリッジ全体を見下ろすような高台にまで少年を運び玉座に座らせ、ベルトで少年の身体を固定した。


「リオルよ、ニースから話は聞いたぞ。余の出番であるとな」


「陛下、早速ではございますがまた臣のために剣を振るっていただきたく」


「良い良い、そう恐縮するでない。して、どの船じゃ?」


 外見年齢推定10歳前後の細身の少年は濁りのない澄んだ瞳でビューワーと三次元レーダーの情報を見比べる。


「あの左右非対称の大型戦艦、レイジング・ブルを葬り去っていただきたく……あとお気を付けください、レイジングにはふたつの心臓、2個のワープドライブコアがございます。綺麗に破壊して機能停止させるか、もしくは刃を当てぬようお願い申し上げます」おおそうか、と少年は笑う。


「いつぞやの『試し斬り』ではコアを中途半端に傷付けて暴走させてしまったからのう」


 雄大達が、猫の乗った脱出ポッドを見つけたあの暗礁宙域──新しい『渦』を作ったのはこの少年とキングアーサーの仕業であった。


「北極ポートにほど近い宙域なれば、ここにあのような『渦』を作るのはよくありません……渦を除去するのも楽ではございません」


「うむ! 万事余に任せておけば安心じゃ、今度は上手くやってみせるぞ。いずれ余もこのアヴァロンに住まう身である。宮殿の正門にあたる場所ならば荒らさず大事に、な」


 少年は今からビデオゲームでも始めるかのような気楽さで玉座の肘置きにあるスイッチを押す。手のひらを置く位置に指を差し込む穴が空いており、少年は軽く舌で唇を舐めながら両手を突っ込んだ。


「ではこれから、余がアーサーのコントロールを預かる。皆の者は身体を固定して衝撃に備えておれ、多少揺れるかも知れんぞ?」


 艦長席のリオル、操舵士席のレムス、そしてニース達はシートや柱から引き出したベルトで身体を固定する。サーティーンはベルトの引き出し方がわからずオロオロとしているクジナを抱きかかえると自分とクジナ、2人まとめて一つのベルトに括ってしまった。


 少年の身体の周囲にプラズマ発光によく似た現象が発生する。




「エクスカリバーを使う」




 少年は念を込めるように目を瞑り、玉座を通じてキングアーサーと生体回路をリンクさせていく。


 少年は今、その小さく華奢な身体を抜け出し、巨大な船となり宇宙空間にその身を投じた。







「少将閣下! もうすぐレールガンが射撃可能になりますぞ! 今からカウントダウンします」


 レイジング・ブルを自ら操舵するムナカタ艦長が歓喜の声を上げる。


「そうか! 予定より随分と早かったな!」


「装填作業のマックス曹長を褒めてやってくださいよ」


「よし、私からオービル元帥にマックス曹長の働きをお伝えしておく。楽しみにしてろよ?」


(これは行ける、あと一分でレールガンの再装填が完了する! シュライクでの時間稼ぎはパイロットの疲労度を考えてもそろそろもう限界だが、あの新型航空戦艦にどんな機能が備わっていようとレールガンの一撃は防げまい)


「これなら土星宇宙海賊アステロイドパイレーツどもの方がまだ骨があったぞ。大逆人リオル、死んだ第三艦隊の将兵の仇、討たせてもらう」


 ネイサン少将は勝利を確信して吠えた。


「なァーにがキングだ、アーサー王だ! 図体ばかりでかい醜悪な烏賊型怪物クラーケンめ。だいたい図体のでかさならこっちの猛牛ブルだって負けちゃいない。怒れる紅き猛牛の角で串刺しだ!」


 パチン、と指を鳴らし砲手席に駆け寄り直接レールガンの照準を調整し始める。


(あと25秒!)


 ターゲットスコープが前方の巨大な異形の船をとらえる。先程の狙撃と違ってこの距離ならば先ず外しようもなく、レールガンの初速を避けられる兵器など存在しない。射撃の名手ネイサンで無くとも『撃てば当たる』状況だ。




 不意に、照準内のキングアーサーの姿が霞む。まぱらなプラズマ発光の帯を纏った黒い闇のようなものに包まれたキングアーサーは黒い闇を残してかき消えた。


 ざわっ、とレイジングのブリッジが俄かに騒がしくなる。


「電子暗幕か?」


「違います、レーダーからも、 肉眼からも、完全に消えました! 消失! 敵艦消失、です!」


 先程までキングアーサーが存在していた空間を粒子砲の光の筋とシュライクの魚雷が素通りしていく。電子暗幕で目を誤魔化した訳ではない。完全に姿を消した、その場から消滅したのだ。


「馬鹿を言うな! そんな、単独で船がワープしたとでも? ワープが出来たとして、いったい奴はどこに行ったと言うんだ?」


 ミシッ、という何か固いものに亀裂が入るような、そんな不安を煽るような音がブリッジのあちこちから聞こえてくる。ガタガタ、ガタガタ、と巨大な船体が細かくぶれ始め、2秒後には地震のように激しく 揺れ始める。


「な、なんだ──」


「高熱源体出現、本艦直上! アーサーです!」


 光の渦と黒煙のような物を纏った何か得体の知れない巨大な口腔が出現した。禍々しい八方に裂けた顎を持った六枚羽根の怪物がレイジングブルの真上に姿を現した。それは花が花弁を開いた姿のようでもあり、魔物が獲物をひと呑みに喰らってしまおうとする姿のようでもあった。


「本艦のコントロール、まったく効きません! びくともしない!?」


 緊急避難警報が鳴り響く、レイジングの対空銃座はアーサーが出現した発光する黒い雷雲のような空間に吸い込まれていく。


「計器類がデタラメな数字を──ダメだ、イカレちまった!」


 無数のロボットアームから何かスキャニングレーザーのような物がレイジングに放たれる。今から食う獲物の位置を確かめるクラーケンの触手だ。


 そして八本の顎の内、四本が発光し始め、各々が剣のような形状を取りはじめる。




 キングアーサーの四本の高出力フォトンブレードがレイジング・ブルの船体に刃を立てる。ちょうど、熱したナイフでふわふわのスポンジケーキを切るような、そんな造作もない優雅な動きで戦艦の船体は細切れに分断されていく剥がれた装甲や運悪く即死しなかった乗組員が次々とアーサーの纏う雷雲に吸い込まれていく。


 時間にして5秒。


 悪夢のような5秒が終了した。


 アーサーはエクスカリバーの発動を停止させ、ゆっくりと顎と羽根を閉じていき、再び黒い渦の中にその身を沈めた。




 レイジング・ブルの船体はブロック毎に綺麗に18個に解体されていた。大きな爆発は無い、完全なる無力化だった。


 最強をうたわれた第一艦隊の旗艦を構成していた鉄の塊は、ただ静かにその場に漂っていた。

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