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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
182/186

邪竜集う①

 ガッサ将軍率いる帝国艦隊はあっと言う間に月のほど近くにやってきた。先行していたドナ級駆逐艦六隻は何処に向かうでもなくゆったりと漂い始めた。


 管轄のパトロール艦が二隻ドナ級の進路を塞ぐようなルートで向かって来ているにもかかわらず、逃げるでも電子暗幕で隠れるでもなく、敢えて待ち構えるような陣形を取っているようにも見える。


 その後方、月宇宙港目掛けてフォトンエンジンで巡航していた帝国海軍。旗艦神風号はその歩をゆるめた。

 ぎゃらくしぃ号ことハイドラ級一番艦ハイドラは神風号と合流すべく最大戦速で航路内を爆進していた。


 妹分に当たる同型艦タイフォンとの距離が縮まっていくにつれハイドラの動きからは慎重さや遠慮が消え去り、他の航路通行艦に対する気遣いが感じられない。仲間に会える喜びに制御AIの感情が昂ぶっているのだろうか──


 ファイネックス社の巡洋艦ワイルドローズ級の二隻の脇をやや乱暴に通過していくぎゃらくしぃ号。高出力粒子シールドがワイルドローズのシールドと干渉し合う。エンジン出力、船体質量共に華奢なワイルドローズは当たり負けして姿勢制御が大きく乱される。

 たまらず回避運動を行うワイルドローズ。ブリッジではランファ社長のヒステリックな怒号が飛び交っているに違いない。


 ◆


 初顔合わせの姉妹艦。

 ハイドラとタイフォンは横に並び、速度を同期させドッキング体制に突入する。くるりと回転すると互いの艦底部を晒した。増設された店舗エリアを重なり合わせる。

 宮城雄大が操舵している時と違ってハイドラは少し余計な動きが多い。

 タイフォンの方も無意味で雑な姿勢制御を頻繁に行う、姉貴分のハイドラとのランデブーを少しでも長く楽しもうとでも言うのだろうか。

 ハイドラもタイフォンも、誰が操縦しているでもなく制御AIの自動操縦オートパイロットでドッキングシーケンスをこなしていた。

 遠目に見ればリズムに合わせてチークダンスを踊っているようにも感じられる。


 ◆


 タイフォンからファイネックス社の傭兵達がドヤドヤとぎゃらくしぃ号になだれ込んでくる。

 皆が一様にスカウティングアーマーにショックライフルを持ち腰に予備カートリッジをたんまりと提げている。

 彼らの目前にホログラムが投影され、迷彩コートを着込んだ少女が映し出された。ソーニャである。

「よーお、お嬢ちゃん。艦内の制圧はどのくらい完了しているんだ?」

「無礼者、先ずは名乗りなさいこの傭兵風情が」

 ホロ越しに会話するサタジットとソーニャ。

「俺は帝国海軍サタジット大尉、って設定になってるよ」

「わたしはワイズ伯爵家の家令ソーニャ。一時的にこの船の船長代理を務めています」

「知ってるよ。じゃあ家令さん手っ取り早く状況説明してくれや。時間が勿体無い」

 めんどくさそうに耳垢の掃除を始めるサタジット。

 その後ろからひとり、和装モチーフの派手な服装をした女がPP片手に小走りでやってきてサタジットを押し退けて前に出た。背中に背負った錫杖の無数の輪が隣り合う木刀とぶつかってシャリンシャリンと小気味よく鳴る。

「ねえちょっとお話し中に悪いんだけど! いますぐ買い物出来る?」

「は?」

 首を傾げるソーニャ。

「ぎゃらくしぃは食料品たくさん置いているんでしょ? ほら、お金ならあるわよ。なんか美味しいもの売ってちょうだい!」

 PPだけでなく金貨を巾着から出してじゃらじゃらと掌中でもてあそぶ。一枚ニ十万ギルダほどの価値があるものだろうか。

 サタジットと傭兵達は金貨の枚数に驚いた。ざっと四、五十枚はありそうだ。

「誰?」

「わたしはジンバ・タチカゼ──賞金稼ぎ」

「え? 陣馬?」目を見開くソーニャ。

「あっ、ええと説明めんどくさいから今のナシ。わたし桃子、足柄桃子よ。取り敢えずセレスティンちゃんの味方の用心棒」

「まあどうでもいいわ……貴女に別に興味無いし」

「ね、ね、名乗ったわよ、買い物していい?」

「呆れた。帝国海軍は普段の食料にも事欠いているの? 節度をもって礼儀正しく振る舞うのであれば食料品は無償で提供します」

「取り敢えず後で払うからね! もらっていくわよ!」

 店舗エリア、食料品コーナーに向かって飛ぶように駆けていく足柄桃子。その俊敏さに一同呆気に取られる。

「なんなの?」

「俺にもよくわからんが相当な腕前なのは確かな姐さんだ。菱川十鉄に負けるとも劣らずだろうぜ」

「あんなのが六郎さんと同格とでも? ふふん」

「サタジットさん俺らもなんか食い物か金目の物──」

「何言ってんだこの間抜け野郎が、もっと緊張感持て。保安部員が待ち構えてるかも知れねえんだ」

 改めてショックライフルを構え直すサタジット。

「ちょっと傭兵……商品は別にうるさく言わないけどね、もしわたしの仲間のクルー達に必要以上の危害を加えたら……相応の報いを覚悟してもらうわよ。いいわね? 傷一つでもつけてみなさい、命で対価を支払ってもらう」

「ったくよぉ、調子狂うヤツだぜ。あのなあ、俺らはぎゃらくしぃ号を乗っ取りに来たんだぜ? 無傷で済むわきゃねえだろ。抵抗されたら撃つ」

「思い上がるなゴロツキ。制圧はほぼ完了している。余計な事はしなくていい。同志ガッサかセレスティン殿下が来るまで大人しく待機していなさい」

(どうしますか兄貴。なんか予定と違う感じに……)

(確かにやりにくいな。この陰気臭いガキ、やっちまうか)

(そうしましょう)

 サタジットは部下との密談を終えると素知らぬ顔でソーニャに語りかけた。

「なあ家令さんよ。そっちに八代目太刀風陣馬ってヤツがいると聞いたんだけどよ。そいつと話しさせてくれないか」

「同志陣馬………さあ、どこかで膝でも抱えてうずくまっているかもね……」

 ソーニャは監視カメラと人感センサーでサーチを開始する。

「……?」眉をひそめ険しい顔付きになるソーニャ。

「わかったか?」

「ちょっと待って──」

 ホログラムのソーニャはショックライフルを手に取り迷彩フードを被ると通信を一方的に切断した。

「トラブルですかね?」

「へっ、こっちはこっちで好きにやらせてもらおうぜ。菱川十鉄も居ねえ、伯爵も居ねえ──どんだけ強い軍艦だろうが、こんだけ敵兵が侵入した船が助かった試しは無いんだよ」

「確かに。ヒヒヒ……」

「おい、三下みたいな下衆な笑い方してんじゃねえよ。俺たちゃもうすぐ連邦に取って代わる帝国海軍正規兵様だぜ?」

 サタジット達の後ろから現用の物とは異なる規格の強化装甲服エグザス装着の機動歩兵が十名と小型の戦闘ロボットが十数体、姿を現した。

 これらはファイネックス社の所有する歩兵戦力をかき集めたもの、そしてドサクサ紛れにキングアーサーの宝物庫から強奪した禁忌技術タブー装備品が含まれている。


 ◆


 もう一隻の邪竜ハイドラミドガルズオルムの消息はつかめていない。予想針路どころか目的が不明なので現時点では対処の仕様がない。


 ミドガルズオルムの反応消失点から航路を絞り込んでもそもそも航路の中を通るかどうかはわからない。危険を度外視して航路の外を航行すれば見付からずに逃げ回る事は可能だが──

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