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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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波乱の年明け②

 急電による不確定な情報ではあるがリクセンは素早く行動した。士官学校教官執務室の端末にハイドラ級三番艦からの連絡が数十秒途絶えた、という連絡が入ったのを受けてから70歳近いとは思えぬ速度で駆け出した。

 この三十三世紀はスポーツのシニアリーグで活躍する70代の現役アスリートが珍しくない一方で、50代で既に身体全体にガタが来ていて何度も再生臓器のお世話になっている者も多い。不健康で自堕落に生きる事も個人の自由、そして権利──という、やや金星圏ヴィーナス的な怠惰も価値観として許容されている(……カトリック教会は認めていない……)

 ルナテク社製のエアカーに飛び乗ると元日の早朝から法定速度超過を繰り返しながら荒い運転で宮城家に到着、裕太郎ネイサンラドクリフの三名を乗せて慌ただしく出発した。


 宮城家前にたむろしている四つの団体の面々に緊急事態を悟られないよう『正月休暇で浮かれている』という設定の小芝居をうったネイサン達。

 英国諜報部のJBはさすがに何か勘付いた様子だった。

 目を細めて注意深く自分達の挙動を凝視してくるのでラドクリフは演技がバレやしないかとヒヤヒヤしていた。

 裕太郎が新年の挨拶もそこそこに恩師であるリクセンの運転に文句をつけたり緊張感の欠片もないネイサンに怒りながらよろめいたりしているのを見たJBは『休暇も楽しめない噂通りの堅物』と判断して疑いを解いた。

 リクセン士官学校長の荒い運転も『単なる下手くそ』として認識された事だろう。



 ◆


 人気の無い士官学校の教官執務室。

 カンダハルが詰めている幕僚会議本部ビルでは出来ない密談をこそこそ行う羽目になっている──

 新年の挨拶回りという名目なので会う人会う人と話をしないわけには行かない。


「なんとか英国諜報部はごまかせたかな?」

「裕太郎のおかげじゃなぁ。あのグダグダ感、妙にリアルな感じじゃったぞい」

「どういう意味ですか先生──それはそうと小芝居を打つならわたしにも事前に知らせておいてくれないと。バレたら意味がない」と裕太郎。

「教えんで正解じゃったわい。ネイサン少将はワシ以上に裕太郎の不器用さを理解しとるのぉ」

「恐縮です」

 チッ──と舌打ちする裕太郎。

「しかしモエラ先輩の不在を狙う辺り、賊もなかなか情報通というか……」ネイサン。

「さてどうじゃろな。偶然かも知れんが……ワシがもらった一報はプロムのハドソン技術大尉からのプライベート急電でな。詳報が幕僚会議本部に到達するまではもう少し時間がかかる。ワシらはこのアドバンテージを活かして火種が大きくならん内に問題を解決せにゃならん。モエラのためにもな」


「有事に私用で不在──基地司令の責任問題になりかねんな──先生、モエラへのご配慮ありがとうございます」と裕太郎。

 新鋭艦が強奪され反政府勢力の戦力になるのは宇宙軍内でのモエラの立場を悪くする。おまけにハイドラ級には禁忌技術のワープドライブコアが搭載されている。カトリック教会からも管理責任を問われそうである。

「モエラのヤツがおまえの家でぶっ倒れたと聞いておったもんでな。心労に心労が重なると大変じゃから内密にしておいた方が良かろ──いやモエラだけでなく諸々、なんとか内密に、穏便に済ませたい……マグバレッジJr.やカンダハル達につけ入る隙を与えたくないもんでな」

「えっ先生? カンダハル大将にも連絡をしないつもりですか!?」

 驚く裕太郎。

「地球閥寄りの将校が出てくる前にワシらが片付けておきたいからのぉ」

「馬鹿な。カンダハル大将にだけは協力をあおぐべきです」声を荒らげる裕太郎。

「さすがにそれは。もしかして校長や僕の言わんとしてる事わかりませんか?」とネイサン。

「まったくわからん……! カンダハル大将は幕僚会議の現責任者なのだぞ?」逆ギレ気味の裕太郎。

「カンダハルは敵では無いが身内でも無いじゃろ。ヤツにとっての身内は地球閥じゃ…………地球出身将校からすれば月市民ルナリアンは正月に長々と休みを取る、その体質は前々から連中から批判されとる──現に今、裕太郎おまえさん深酒して足下もおぼつかないじゃないか、その姿は宇宙軍第一艦隊司令官に相応しいか? ん?」

「いやまあ、それは……」

「そういう細かい事を皮切りにして此方の勢いを削ごうとしてくるんじゃよロンドンの議長あたりがな」

「ま、まあ確かに面目ありませんが。しかしですね。それはそれ、これはこれ──緊急時にそうは言ってられません。カンダハル大将もわかってくれます」

「すみません提督聞いてください。ユイ皇女殿下のおかげで地球閥勢力が大人しくなって、宇宙軍の改革がやりやすくなってきたんですよ。提督は御自分の発言力が増して幕僚会議での提案がどんどん通っているとは感じませんか? これは月の宇宙軍が単なる地球閥の用心棒から脱却するチャンスなんですよ。逆を言うと相手も此方の失態ミスを執拗に突いてくる。そういう状況なんですよ」


 地球閥勢力の手助けを得ずに月出身者だけで問題解決しないと月出身者、ひいては開拓惑星出身者の発言力に陰りが射す。ユイ皇女の登場で逆転しつつあった両者の関係がまた逆戻りしてしまう。


「いやいや、そういうくだらない組織内政争の前に、我々軍人には治安を維持する最優先の責務があるだろうが。大事の前の小事にこだわり被害を拡大させては本末転倒……まったく! 聡明なネイサン君の言とは思えんな」

 怒り出す裕太郎。

「落ち着かんかい、そんな正論一辺倒だからおまえさんは元帥にはなれんし、リオルに一杯食わされたりするんじゃ」

「ならずとも結構です、そういう小賢しい政争をやるために軍に入ったのではありません。オービル元帥は政府や教会との調整役としては確かに優れていらっしゃったが一歩間違えば人類を間違った方向に導きかねない。軍人はその力を恣意的に行使して政治に介入してはなりません」

「あのなあ、政府と軍の調整役に留まらず元帥は地球閥と開拓惑星移民との関係性という更に大きな視座で物事を──」

「それこそ軍人の領分を逸脱しているでは無いですか!」

「ああもうなんじゃ……ネイサン少将交替してくれ」

 リクセンはネイサンにバトンタッチする。

「わかりましたリクセン校長──ええと提督、聞いてください……元帥がユイ皇女への手厚い支援を続けた事が実を結んで開拓惑星と地球とのパワーバランスがようやく正常に──」

「リオル大将は軍人としての領分を逸脱して軍事クーデターを計画したのだが? オービル元帥が如何に素晴らしい行いをしたとしても軍人が好き勝手に振る舞ったという点に置いてはリオル大将もオービル元帥も変わらないではないか。結果良ければ全て良しと安易に政治介入を正当化してしまう風潮こそが『悪』なのだ。わたしをそういうのに巻き込まないで欲しい。わたしは何かおかしな話をしているかね、ネイサン君」

「ああ、なんていうかスジ通ってるから反論しにくいなあ。校長スミマセン僕では無理です……」ネイサンは困り顔でリクセンにバトンタッチする。

「ほ、本当に面倒くさいやつじゃのぉ」

 この面倒臭い男を旗頭に担ぎ上げねばならない……地球閥の専横と闘う者達にとって宮城裕太郎のこの頑固さは甚だ迷惑である……宮城家、めんどくさい──


「ああもうごちゃごちゃうるさいわい! 酔っ払いは黙っとれ。いっぺん自分の顔色見てみんかい!」

 恩師から一喝された裕太郎はやや怯む。

「そんなに酷いですか」

「そ、そうですよ提督! 今の提督は判断能力が正常より数割落ちているはずです。取り敢えずは我々に任せて、今はアルコールからの回復に専念を。カンダハル大将には事態が沈静化してから理解を求める方向で」

「た、確かに。わたしはいま血中アルコール濃度のせいで冷静さを欠いている──かも知れない」

 ようやく裕太郎は反論をやめた。


「しかし、酒を飲んだ途端にこんな事が起きようとは」深酒したことを後悔する裕太郎。

「そもそも雄大のヤツがビシッとしとらんのが悪い……」とブツブツ文句を垂れ始める。


「親父ィ〜雄大を悪く言うなよな。関係ないだろ」

 年始の挨拶にかこつけた暗号文を送り、部下に招集をかけていたラドクリフまで裕太郎をたしなめてくる。

「ラドクリフ、おまえまでわたしを非難するのか」

「頼むから仲良くしてくれよ──」

「──」

 味方が居なくなった裕太郎は不貞腐れて押し黙った。

 少し頭が揺れていて目が虚ろである。酔い覚ましを服用しているがもともと大怪我の後なので体力的に本調子では無い。それなのに口数は減るどころか舌は滑らかに回っている。

「ラドクリフ君──いや少尉には正月早々働いてもらうよ」

「任せておいてください少将閣下。こういう時のための海兵隊レンジャーです。まとまった数になりそうですよ」


 太陽系の海図ホログラムを広げると刻々と変化していく航路の様子が映し出される。太陽を中心として広がりを見せる航路は、豊かに伸びた大樹の枝のようにも感じられる。

 何かしらのアート作品のような星々の営みはどこか幻想的ですらある。

 しかしながらここに集った一同に天体ショーの鑑賞に浸る余裕はない。ミドガルズオルムの消失点を起点に、何が起こるか予想を立て始める。

 識別信号はプロム近辺に留まっているが偽装された物だと考えた方が良い。三番艦本体はどこかに移動中だろう。


「ん?」

「どうしたネイサン君?」

「見てくださいこれ! ヒル少将の第三艦隊──!」

 高速で移動中の艦隊は嫌でも目立つ。

「おおお!?」

「演習予定のコースを大きく外れて、なんかいい感じのコースに移動中ですよこれ! ミドガルズの消失ポイントに向かってる!」

「ヒルに先を越されるのは癪だが正直助かった! 奴の演習狂いが役に立つ時が来ようとは──ハハハ!」

 裕太郎は拳をグッと握り、珍しく大きく口を開いて快笑した。

「ありゃ? 何かビミョ〜に違う宙域に向かっとりゃせんか」

「あれ? 航路、逸れましたね……」

「ええ……ど、どこ向かっとるの?」

「ど、どうしたのだヒル少将?」

「ネイサン少将、急いでヒルの旗艦に繋いでくれんかな。高速通信を使うぞ」リクセン。

「ええとログが残りますが──」

「この際構わん」

「わかりました準備します」


 そうこうしている最中に執務室に珍客が乱入してきた。

 モエラの権限ならリクセンのロックを解除出来る。裕太郎の権限で電子施錠するか、物理的な鍵をかけるべきであった。

「うわっ、誰じゃ」

「校長、失礼します」モエラを押し退けて真っ先に飛び込んできたのは雄大。続けて柔道着姿のモエラが入ってくる。

 

「雄大に──えっモエラ?」

「リクセン先生! どうも新年あけましておめでとうございます──!」呑気に挨拶するモエラ。ひとりだけ状況がよくわかっていない。

「クッソ〜……このオッサン割と運転うまいんだもんな……チッ」

 意外に、というと失礼だがモエラはGT-R、BNR34を乗りこなしていて、雄大目線から見てもなかなかに速く走った。大口を叩くだけの事はある。

 雄大はあんまり情けない運転だったら途中で『俺に運転させろ』とか『宝の持ち腐れ』とか扱き下ろすつもりだったがその期待は水泡に帰した。

「グレードワンで最速記録コースレコード出したかなんか知らんが、月市街地ホームでわたしのGTRに勝てるヤツはそうそうおらんわな! ガハハ! 十年早いわ小僧!」


「あちゃ〜、間が悪いときに来ちゃうんだよなぁこの人……」と顔を手で覆うネイサン。


「そんなことより! 何かあったんでしょ?」

 雄大がリクセンに詰め寄る。

「こうなったら隠しても仕方が無いわい、雄大にも聞いてもらおう。プロムで『案件』が発生したんじゃよ」と観念したリクセンが告げる。

「え? 『案件』って何ですか」

 案件は当然ながら問題発生の隠語である。プロム工廠での有事と言えば建造された軍艦に何かが起こった事を意味する。

「まだ確定では無いんだけど……高確率でミドガルズオルムが賊の手に渡ったようなんだよ」

「ブフォッ!? な、なんだって?」とモエラ。

「えっ? ミドガルズオルム、ってぎゃらくしぃ号と同型のヤツか……」

「それが──ミドガルズオルムは武装商船仕様ではなくて、本来のハイドラ級巡洋艦の設計通りにミサイルサイロに艦載機搭載機能ランチベイ完備のフルスペック──」

「ええ? や、厄介だなぁ」

「とは言っても艦載機シュライクも対艦長距離ミサイルも積んで無いし、魚雷も発射試験用の模擬弾頭しか装填されていないからね。大丈夫だと思うけど」とネイサン。

 店舗機能に多くを割くため実弾兵器の容量キャパが制限されたぎゃらくしぃ号とフルスペックのハイドラ級とでは戦闘能力に差が出るのは当然だ。ただプロム工廠には各種弾薬の備蓄は少ないので補給出来なければ意味がない。

「でも高出力の粒子砲とシールド、それに加えて駆逐艦にも見劣りしない機動性を持つハイスペック艦ですよ。ハイドラは」

「雄大君、キミが操舵しているなら脅威にもなるだろうがね。それに艦載機無しならやりようは幾らでもあるよ」

 実際にネイサンはキングアーサーとの交戦において艦載機運用で戦果を出している。凡庸な指揮官ではネイサンの相手にはならないだろう、と雄大には感じられた。

「大丈夫だ兄弟、海兵隊がなんとかするぜ」

 ラドクリフが雄大の肩を叩く。

「気をつけてくれよ」

「ハハハ任せとけ、しかし結局今年の正月もゆっくり出来なかったなあ」ラドクリフは苦笑いする。その表情には余裕が感じられた。この場で一番落ち着いているのはラドクリフかも知れない。


「だいたいプロム工廠の管理どうなってんの? 土星基地司令オッサンの管轄だろあそこ……キングアーサーに今回のミドガルズオルム……ガバガバじゃんか。こんなとこで遊んでる場合かね、まったくさ」


「えっ、えっ──いやその」

 雄大にズバリ言われて真っ青になるモエラ。この年末年始、いやここ最近、人生最大の正念場が起こり過ぎである。

「ゆ、雄大君、それ言わないであげて……」ネイサン。

「あわわ念願の幕僚会議入りが益々遠のく、いやこれ降格、下手すりゃ辞任の危機なのか〜っ!?」


「どうするモエラ? 土星基地司令代理にも連絡を取るか?」

「本部任せとるヤツよりカーチス少佐! 太陽系外縁部警備第二艦隊司令をやっとるカーチスなら信用出来るぞ。ヤツはわたしの一番弟子みたいなもんだからな。ミノタウロスに駆逐艦二隻を随伴させて対処すれば──」

「ああ、あのカーチスさんか」火星の通天閣沙織を海賊艦隊から救出した時に出会った若手将校である。

「ですね。カーチス少佐は開拓惑星出身ですし──何より有能です」と実質的な師匠をやっていたネイサンも太鼓判を押す。

「あ」

 と一瞬固まるモエラ。

「ああ……たぶん、間に合わんわ……ミノタウロス」

「え?」

「アラミス航路の外れ、暗礁宙域の何処かに潜伏しとる宇宙海賊の取り締まりを強化する、みたいな提案を承認した気がするのだが……あ、やっぱり」モエラがPPでスケジュールを確認する。

「えっ間に合わない?」

「ハイドラ級を制圧するなら重巡ぐらいのをぶつけんといかんけど……たぶんアラミス航路の方へ向かって──」

 海図にミノタウロスの位置が表示された、アラミス航路に程近い位置を見て落胆するモエラ。

「うわツイてないなぁ」

「ツキが無いだけならともかく──内部情報がダダ漏れなのかもな……」

 頭を抱える一同。

「ふーむ」

 リタにはなんとなく思い当たる節があった。リタは雄大を呼び付けると耳打ちをした。

「今回の件の首謀者に心当たりがある──かも知れんぞ」

「えっ、おまえマジか!?」

「うむ。かつてのわしの部下で未だ逮捕されていないキャメロットの構成員が数名居る。その内の誰かかも知れんな」

 キョロキョロと周囲を見回し他の面子に聞かれないように執務室の隅に移動するふたり。


「でかした、それは助かる! んで具体的にはどんなヤツなんだ?」

「タダで教えるとは言うてはおらぬぞ。取引をしようではないか。我が王の所在を公開するのならこちらも情報を提供しても良いぞ」

「は?」

「おまえらが秘密にしている我が王の軟禁場所だ」

 雄大はしばらく考え込んだ。

「ええと──王ってアレか? キングアーサーの制御やってた機械感応力者の子供だろ? そりゃコッチが聞きたいぐらいだわ」

「何? 知らんのか」

「知るわけないだろ」

「そうか小僧、おまえはこの件にはノータッチだったのか──では取引不成立だ」

 舌打ちするリタ。

「ま、待て! なんかアイスかケーキか好きなだけ買ってやるから」

「食い物で釣ろうなどと。まったく話しにならん……」


 リタは独り言のようにブツブツとつぶやいた。

「……わしの予想が正しければ、アイゼナハかヘンケルスの仕業──いや両方か。しかし軍艦一隻でテロを起こして連邦がどうにかなる、と思うような愚者タワケでは無いはず」

 ふたりとも憲兵隊による執拗な捜査・尋問を切り抜ける事ができた優秀な部下である。

「え? なんだって? ヘンケル?」

「まあ忘れてくれ。よくよく考えてみればこんな成功の見込みが薄い自暴自棄な破壊活動をやるとも思えない……首謀者は別にいると考えたほうが良いかもな」


「そうなのか? おまえの仲間じゃ無ければ誰だ?」

「まあ、バカな事をしでかしそう……と言えば金星の麻薬中毒者ジャンキーが筆頭だがな」

悦楽女洞主ドラッグクイーンか──でも目的は?」

「──わからん」

「俺思うに、金星マフィアって案外小心者だからリスクがデカ過ぎる博打はやらないんじゃないか?」

「そうだな……ではアステロイドパイレーツはどうだ?」

「いやいや、アイツ等に計画性があるとは思えない」

「ウムそうだな小僧、おぬしの見解は概ね正しい」

 リタは雄大とのブレインストーミング的な会話を楽しんでいるようにも思える。

「じゃあ誰だろ? やっぱりおまえの仲間なんじゃないのか?」

「うーん、いやまさか……」

 リタはピクピクと眉根を痙攣させた。

「あー、やらかしそうな馬鹿、居たな……」

「おっ、わかったのか!?」

「……お前達木星帝国の身内、例の帝国海軍アラムール・ガッサだ」

「えっ?」

 おどろく雄大。

「不思議ではない。ヤツは事ある度に地球閥、地球連邦政府への報復を口にしておったではないか。風体から受ける印象とは真逆で、大局が見えていないというか、常識外れなところがある男だろうが」

「いや、だからって……そこまで大胆な事するかなぁ」

「馬鹿の行動力を甘く見てはいかんぞ」

「いや、たかが知れてるよ」

 雄大は由梨恵やブリジッドを──リタは雄大とユイを──『行動力のある馬鹿』としてそれぞれ頭に思い浮かべていた。

「いや違うと思うなぁ」

「ふむ、ではわしの推測が的中していたら待遇の改善を検討してもらうからな」

「はあ、待遇──?」

「ぎゃらくしぃ号内の個室をひとつ、それとわたし名義の預金口座を準備してそこにとりあえずの資金五百万ギルダをチャージしておけ。後は木星宇宙港内とロンドン近郊辺りの貸し物件をそれぞれひとつずつ、わたし専用のオフィスとして用意してもらおうか」

「ず、図々しいにも程がある……ユイさんのアップルパイでいいか? いいよな?」

「なんだそれは。今とあまり変わらないではないか」

「派手に敗けたクセに。生きてるだけ有り難いと思えよなあ……」

「ふん、では協力するのもここまでか」


 この時点でタイフォンの件やぎゃらくしぃ号内部で何が起こっているかを知らない雄大はミドガルズオルムに神風号と同型艦三隻による軍事的行動を想定した。

 疲弊した月駐留軍といえども大事おおごとになりはしないだろう、と高を括っていた。

「ええと……ユイさんの身内としての立場から何か協力させてくれませんかネイサン少将?」

「木星帝国の人間として、か。なるほど? そうだなまずは一応口約束だけでも公式記録を残そう」

 ネイサンはモエラの権限を使ってミドガルズオルムの譲渡日を現時点に設定し直した簡易申請を管理AIに提出した 受取側の同意人はユイ皇女の婚約者である雄大だ。

「よしよし、これで色々とごまかしが効きますよ」

 こういう事をテキパキと進めることが出来るネイサンは本当に頼りになる。

「そうか、ミドガルズオルムが問題を起こしても木星側で内々に処理してもらえば土星基地司令の失態とはなりにくい」リクセンはウンウンと頷く。

「口約束だけじゃなくてコッチで何とかしますよ。俺、ぎゃらくしぃ号に戻ります」

「いや、そこまでしなくても──俺達がなんとかするって。雄大おまえはゆっくりしててくれ」ラドクリフがたしなめた。

「おまえを信頼してないわけじゃないけどさ……」

 帝国海軍ガッサ大将の常日頃の危険な言動を皆に知られるのはあまりよろしくない。

 雄大はそう言いながら神風号との戦闘をシミュレーションし始めた。

(くそ、悩ましいな──マーガレットに来てもらえば強制接舷から揚陸戦闘であっさり制圧出来るだろうけど)

 ユイの護衛も兼ねているのでふたり一組で行動して欲しいところだが、ユイが急遽予定を変更してぎゃらくしぃ号に戻れば各方面に今回の『有事』が知れ渡る。

 地球からやってきたマルタ騎士団や英国諜報部の目をごまかす事は不可能だ。政府側の付けた過剰な警護はやはり歓迎ではなくユイに対する警戒の現れに過ぎないのだ。


「考えていても時間を浪費するだけ! こうなったら腹を括りますか!」

 突然ネイサンがパチンと指を鳴らして大きな声を出したのでモエラは驚いて肩を揺らした。

「な、な、なんだ突然!?」


「第一・第三艦隊合同、新年大演習を開始しましょう──!」


「え、演習〜?」

 リタ以外の一同は目を丸くしてネイサンの顔をのぞき込んだ。

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