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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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鬼の居ぬ間に悪巧み③

 宇宙空間にパッと大きな大輪の華が咲いたような特異な形状の赤色の船がふたつ見える。前後上下左右の区別がよくわからない妙な船である。


 二輪の花の正体はファイネックス社保有のやや大柄な巡洋艦ワイルドローズ級の『ワイルドローズ』と『ロサ・キネンシス・アルバ』であった。


 そして軽空母タートル級『シュレーゲル』──それに随伴するのは民間船舶を改装した小型水雷艇が五艇、中型の工作艦『ワイプアウト』と小型揚陸艇が三艇。

 以上がランファ・シン・タチバナが保有する主な航宙戦力である。


 宇宙軍には遠く及ばないまでも民間軍事会社として海賊から商船や客船を護衛するには過剰とも言える、まとまった戦力である。

 宇宙軍が介入し難い紛争地域へ出向いたり、私的な闘争などにおいて金持ち個人に雇われたりする中で蓄財し、規模を拡大してきた。


 連邦正規軍が動くに動けない時にロンドンの地球閥議員の暴力装置となりデモやストライキを妨害することもあったため、ファイネックスの評判はすこぶるよろしくない。


 これに神風号を旗艦とした帝国海軍四隻が加わればそれは最早立派な艦隊であり、疲弊した第二艦隊の戦力を凌駕する。


 セレスティン大公一派に加勢するのは実業家ランファ・シン・タチバナにとって一世一代の大博打。


 地球閥の圧倒的優位だったこれまでのパワーバランスがユイ達の登場で一気に正常に戻りつつある。その影響は各所に波及していて、汚れ仕事で急成長してきたファイネックスも例外なくその波に飲まれた。

 地球閥の力で揉み消されてきた数々の暴力行為への訴訟が着々と準備中であるらしい。いわゆるトカゲの尻尾切り──議員達がランファ達だけに責任を押し付けて逃げ切ろうとしているのだ。

 ジンバからはババア、加齢臭などと散々な言われ方をしたり、20歳そこそこのユイから肌のたるみを指摘されたりする彼女だが、花も実もある32歳の女盛り──人生これからと言う時に権力者の爺婆共に捨て駒にされてはたまったものではない。


 ガッサ達の説明によれば疲弊した宇宙軍にそこそこの打撃を与えて一時的に月を占拠、停戦条件としてかつての木星帝国の領土である木星本土からの総督府撤退──つまり木星の自治権回復を要求するつもりらしい。


 それこそ連邦政府の議事堂を焼き払おう、地球閥親類縁者から権力と財産を没収して連邦政府に取って代わろう、と過激な主張をしていたガッサだったが随分と態度が軟化している。

 より被害の出ないラインへ方針転換しつつ、地球閥への直接的な報復を最低限盛り込んだ計画らしい。


 連邦市民の心胆を震え上がらせ溜飲を下げたいのは山々だが、本気で連邦と戦争をやるとなると、弱小勢力に過ぎない現在の木星帝国では一時的な勝利を得られたとしても所詮は奇襲による局地的勝利に過ぎない。

 その後、永続的に体制を維持するだけの体力は無い、という至極当然の事実にようやく気が付いたのだろうか。



(このガッサって男、どうも身内にも話していない隠し事がたくさんあるみたいだねえ)とランファは察している。


 まず第一に──ガッサは博物館レベルの珍しいソーラーセイルの付いた巡洋艦を四隻も保有しているが、これらは旧木星帝国で使用されていた物ではない。

 それこそ第二の地球型惑星アラミスが開発される前の時代に活躍していたタイプの古い船である。なぜこんな物を保有しているのか。


 第二に──月宇宙軍、ひいては連邦という大きな組織相手に、その四隻ぽっちで立ち向かおうとしている点が引っ掛かる。戦力差がわからないほど馬鹿でも無さそうなのに、やたらと強気なのは何かがあるはずだ……


(秘密兵器、秘策……なにかしらの隠し玉でもなければこんな大それた事は計画しないはず。セレスティンぼうやも勝算はある、と言ってたし)


 ランファはひとり唸った。

「まさかねえ……連邦政府とやりあえるだけのバックでもついているのかしらね……?」


 パッと思い付いたのは金星麻薬組織ドラッグカルテル火星東部イーストマーチャントぐらいだが……連邦のやり方に不満を持ちつつ、それなりの資金力や拠点を有している組織がどれほどあるだろうか。

 火星商人達の護衛である私設軍隊も総数で見れば馬鹿にした物ではないが──それぞれ別々に行動してまとまりが無い烏合の衆であるため、ランファのファイネックス艦隊や傭兵達を差し向ければどうにかなる程度。


 そもそも。

 ガッサ達に戦闘艦を数隻支援したところで連邦政府の支配が揺らぐはずもなく──

「どこのお人好しかは知らないけどさ。なんだか中途半端な支援だね」

 まあ、そのランファ自身もまた中途半端な支援をしているのだが──


 第三に──セレスティン大公殿下、という人物について秘密主義を貫いている点だ。

 病気がちという事であまり姿を見せないし、多くを語ってくれない。ランファが見る限りではそこまで不健康そうでもないのだが、一体何の病気なのやら──

 自分やジンバの近くには出て来たが、クルーなどと触れ合う事はほぼ無い、という。


(このセレスティンという若者、何か秘密がある)とランファの女の勘が告げているが、秘密の詳細までは見当が付かない。

             

「まあ──その辺の細々とした事情なんてこっちにゃ関係ない──あの調子に乗ってる小娘ユイをへこませてやれれば何でも良いってこと……!」


 フフフとランファはほくそ笑んだ。


 ◆


 ぎゃらくしぃ号のブリッジ、艦長のユイ姿も操舵士の雄大の姿もない。

 ただひとり、猫を膝に乗せたラフタが通信士の席でホロデータ状の本を読んでいるだけだった。大きなタイヤを路面に接地させるタイプのバイクの整備図面や部品交換、整備方法などが説明されている。エンジンの構造解説図のホログラムを解説図面から引き剥がすと実物大の大きさになる。指をひねるとドライバーやレンチなどの工具をネジに当てたように映像が変化する。興味深げにホログラム上で再現されたエンジンをいじり、分解していくラフタ。

 これにしよう──と独り言をつぶやきながらエンジンの部品を注文するラフタ。地球の古物商から仕入れる事になるためいつ届くかはわからない。仕事絡みではなく純然たる趣味の買物、猫を撫でながら鼻唄はなうた混じりにリラックスしつつコーヒーを飲んでいる。


 ユイ不在の留守を預かる魚住京香。現在、会議室で人事ファイルとにらめっこ中。

 こちらは溜息ためいき混じりである。

 二番艦の人員配置が悩ましいだけでなく、採用枠に入りきらなかった大勢の応募者達をどう扱うべきかが目下最大の悩みであった。

 三番艦が貸与可能になればふたたび募集をかけるのだから囲い込みをして良い人材を確保しておきたいところ。


(ダブついた人員を養うだけの体力──あるにはある)


「ユイ様は気楽に『せっかく応募していただいたのですから出来るだけ採用を』とか言うけど」


 宙空を眺め、これまで経費を切り詰めてきた事で蓄えてきた資金とダブついた人材の確保を天秤にかける。


 ──ユイの発想・提案はいつも奇抜で突飛、そして躊躇なく実行する──魚住には理解し難い事が多いが不思議と大きな選択ミスは無い。株式投資においてもその「勝負勘」は冴え渡っていた。


(ユイ様の理想、いえ──『私達』の悲願……木星王家再興を実現するには立ち止まってはいられない。ユイ様のあの演説のインパクトが人々の脳裏に強く残っている内に出来る限りの事をやった方が良いのは理解できる……)


 つい先日も菱川十鉄との関係性で黒い噂が流されたばかりである──ユイ達が利益を得たぶんだけ、誰かの利益が減った事になる。彼等からの反発は時間が経てば経つほど強くなっていくことだろう。通天閣沙織のパクリ商法程度で済めばまだ可愛い方で、銀河公社から本気で潰しにかかられたら今のぎゃらくしぃグループでは到底耐えられない。


 鉄は熱いうちに打て、とは言うものの。

 このまま突っ走っても良いものか。アクセルベタ踏みなユイの暴走をコントロールするべきなのか。


 眼鏡を直しながらうんうん唸っていると、フワッ、とした芳しいコーヒーの薫りに包まれる。

 いつの間にかソーニャが背後に立っていた。コーヒーカップを出すタイミングを計っていたようである。

「お疲れ様です魚住さん。よかったらこれをどうぞ。お砂糖はひとつ、入れてあります」

「あら──! ソーニャじゃないの。貴女非番なんじゃないの?」


 気配を一切感じなかった。

 幽鬼ゴーストのような、生気のない人形のような──長い黒髪の女性、ソーニャ。


「ええ、ですからこうしてお茶をいれてます」

「悪いわね、こんな事までしてもらって。伯爵家の家令だからってわたしにまで気を遣う事は無いのよ。せっかくの年末休暇、他のクルーと楽しんできたら良いのに」

「いえ〜……マーガレット様もいらっしゃいませんし……特にやる事が思いつかなくて〜」

「そうなの? あらまあホントに……ちょうど気分転換に休憩するか考えていたところよ。貴女って本当に気が利くわねえ。閣下が六郎さんの代わりに伯爵家の執事役に任命したのも納得だわ」

「──いえ〜……」

 恥ずかしそうに頭を下げるソーニャ。

 ソーニャが淹れたコーヒーを手に取ると再度薫りを楽しんだ後にスッ、と口に含む。

 熱過ぎず、さめているわけでもない適温。少し甘みも感じる。たとえ角砂糖ひとつ分でも疲れでヒビの入った身体の隙間に染み入るような感覚になる。


「ああ〜、美味しい! 染みるわ!」

 魚住はコーヒーを楽しんだ、調子に乗って二杯目も飲み干した。

「もう一杯おかわりはいかがですか」

「大丈夫よ、ありがとうね」

「よかった。ではごゆっくり──」

 カップを受け取ったソーニャは頭を下げ、扉の外に出る。通路の前に停めておいたカートに手を掛けると一礼してから立ち去った。

 年末の浮ついた空気感や昂揚感から休憩するのも忘れて活発に動き回る店舗スタッフ。

 ソーニャは非番なのに、はしゃいだりくつろいだりせず、就業中の他のクルーのためにお茶を淹れて休憩を促してまわっているのだろうか。


「周りに気配りの出来る良い子ね──うん?」


 魚住はクビを傾げた。集中するために会議室にはカギをかけていたつもりだったが──ソーニャはいつ、どうやってここに入ったのか。


「まあいいか──」

 魚住はあらためてロックをかけた。

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