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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
144/186

新生する世界②

 営業再開したぎゃらくしぃ号に乗船希望申請をする者達の中に、屈強な戦士がひとり。スカウティングアーマーの上に荘厳な刺繍があしらわれた僧衣を着込んだ偉丈夫である。若いながら威厳に満ちた表情──修道騎士団内での位階は相当に高そうだ。元々の体格の良さに加えてこの重装備、客船の中でも浮いた存在でとにかく目立っていた。

 大事そうに抱えられた鞄には教皇の使いである事を示す札が何枚も貼られている。


 一般人にとっては警察や軍隊よりも頼もしいカトリック教会の教義と信仰の護り手、修道騎士団の僧侶である。

 集団戦闘はさておき、禁忌タブー装備を扱えるため、宇宙軍の特殊部隊レンジャーよりも個々人の戦闘力は高いとみなされている。


 敬虔な信者が有り難いものを見るように拝んだり、挨拶をしていく。

「もし修道士さま、教皇様のお使いでいらっしゃいますか」

 老人が声を掛けてきたので僧は答えた。

「ご推察の通りですご老人、拙僧はユイ・ファルシナ皇女殿下にヴァチカンから治安維持貢献の御礼として、献上する物がありまして。教皇聖下の文と共に献上品を携えて参った次第──ようやくお会い出来ます。いやあ思ったより時間がかかってしまいました」

「それはそれは御苦労様でございます」

「いやいや、あなたにも神の加護があらんことを」

 僧は十字架を掲げ、簡易な祝福を授ける。

「よろしければ修道士さまのお名前を──」


「ドイツ修道騎士団、騎士団長グランドマスターマクシミリアン・ボヌックです。言うなれば使い走りではありますが、運ぶ物の重要度ゆえ拙僧が任を受けました。教皇聖下から皇女殿下への親書ですからなあ」


「騎士団長さまですか、ご立派な立ち居振る舞いに納得が行きます。教皇さまの親書ですか、何が書いてあるのでしょうなあ」

「わたしも内容はわかりませぬ。無事手渡せそうで何よりですが確かに中身も気になりますな」

 しばしふたりは談笑する。

「ああ、そうだ、もしよろしければこれをどうぞ」老人は思い出したように手荷物を漁るとオレンジの実を取り出した。枝からハサミで切った痕跡がある。宇宙空間では貴重な本物のフルーツだ。

「これは──地球の空気をまとっているような?」

「おわかりになりますか、これは息子からもらった土産のうちのひとつです。息子は地球で農園をやっておりまして。どうぞ味見をしてみてください」

「ほおー、これは見事だ。こういう場所でいただけるとは」

 マクシミリアンはオレンジの皮を剥く。

 彼の片側にいた男性が「あっ」と声を上げて上司の腕をを引っ張るがビクともしない。

 任務中、何があるかわからない。素性の定かでない食物は無闇に口に入れないのが鉄則である。毒が盛られていなくとも、何かの病気になる可能性もある。

 マクシミリアンは大きな口をあけてシャブリとオレンジにかぶりつく。

「これは美味! 太陽の恵みを感じますな! やはり地のものは風味が良い」

「ありがとうございます、息子に騎士団のお偉い修道士さまからお褒めいただいたこと、伝えておきます。ますます励むことでしょう」

 慌てふためくお供の僧を尻目に、騎士団長は老人としばし歓談してからわかれた。ぎゃらくしぃ号乗船シャトルに先に老人が乗り込んでいく。老人は買い物をするというより、ぎゃらくしぃ号にしばらく留まり、別な客船に乗り継ぎをして帰りの日程を短縮する予定だとか。

 なんとぎゃらくしぃ号側から銀河公社に持ちかけて実現した乗り継ぎサービスらしい。

「実に面白い。列車の乗り継ぎを思わせる宇宙旅行の仕方だ。庶民の知恵よな」

「そんな事よりマックス様、なんと軽はずみな事をしたのですか!」

「よいではないか。わたしはこの通り無事だ」

「よくはありません。もし一服盛られていたら使命が果たせなくなるところですぞ」

「善良な市民と教会の敵の区別もつかないようではまだまだ御坊も精進が足りぬと見える」

「むちゃくちゃな言い訳ですよ」

「ここでわたしは死なぬ、この任務は必ず無事に終わる」

「はあ、また例のお告げですか」

騎士団長グランドマスターぐらいになると、神の声が聞こえるのだ、『その実は美味いぞ、食せよ我が子。存分に食らって糧とせよ』とな。ハハハ」

「そんなものですかねえ」

「そうだ、ブラザー・エンディミオンも神の声が聞こえるらしいぞ」マクシミリアンはパチンと指を鳴らす。

「げっ、あのクモですか──」

「そう毛嫌いするな。ミュータントだからと蔑むのか?」

「やはりマルタ騎士団の団長にはマクシミリアン様がおなりになるべきでした。あやつは何を考えているかわかりません。あれにセキュリティレベル最大の特別な聖柩ヴォルトを管理する権限を与えるなど枢機卿会議はよほど揉め事を起こしたいとしか──」

「またそれを言う──わたしはマルタ騎士団の『浄化』に特化したお勤めは好かん。適材適所、これも神の采配よ」

「その荒っぽい『浄化』のお勤めこそ、人格者のマックス様が携わるべきだと拙僧は思うのです」

「そう持ち上げてくれるな。30歳そこそこで騎士団長というのもむず痒いのに信仰心において勝り経験も豊富な兄弟子ブラザーエンディミオンを差し置いてわたしが栄えあるマルタ騎士団の団長を拝命するなど──エンディミオンならあのオレンジを食べるどころか、老人の接近をも許さなかったはず。わたしのように迂闊な事はせず、御坊の期待に沿う慎重な行動をしたことだろう。より重要な機密を守るに相応しい、仕事熱心な男だよ」

「──誰があんな薄気味悪いヤツにオレンジを振る舞おうなどと思うものですか。あのご老人はマックス様の徳に惹かれてやってきたのですよ」

 供の者のエンディミオンへの悪口雑言とこちらへの説教はなかなか止まない、マクシミリアンはさすがに辟易してため息を吐いた。

「おお、次のシャトルが来たぞブラザー。さあ行こう。神々しいと評判のユイ皇女殿下との接見も楽しみだが、帰りには存分に宇宙船店舗での買物を楽しもうではないか」

 これぞ渡りに船、とばかりに説教から逃げ出すマクシミリアン。

「まったく──困ったお人だ」


 ◆


 ──木星、リオネルパレス跡を見下ろす山脈の合間になだらかな部分があり、雪山遊びが出来るスポットがある。ユイが買い戻した土地。

 木星王家が数十年前に所有していた別荘地である。

「おはようクジナ!」

「おはようニースさんおかえり。まだ暗いけどどうしたの?」

「朝市に買い物に行ってきたよ!」

 食材などを中心に買い込んできたらしい。小さなコンテナごと、どかどかと床に置き始める。

 ニースは木星中心市街地に完全に馴染んでしまっていた。ジェルを塗り体色を隠して買い物に行く。聡明で物怖じしない明るい性格のニースは、ユイの山荘の管理人として有名人になっていた。

 クジナとしてはあまり出歩いて欲しくないのだが、この調子で出掛けてしまうので止めようがない。

「あはは、ありがとう。すごい量だね」

「クジナはこれ、もう見た?」

 ニースはPPでホログラムを再生する。

「さっき見たよ。大変だったみたいだね──」


 エアレース会場での大立ち回りは大々的に報道されており嫌でも目に入る。


「マーガレットはレムスとリオルを倒した。サイボーグ相手でも負けるはずがない。そしてマーガレットに雪玉を当てられるのはニースだけ」


 ニースはふふっ、と笑いながらクジナの頬にキスをする。

「そうかも──」

 クジナは苦笑いしながらホログラムの映像を見る。


(ニースさんの身体能力もとんでもなかったけど。マーガレットさんはちょっと別格かな)


「ニースは賢いからわかります。マーガレットはロクローを殺していない。ウソをついている」

「そうなの?」


「マーガレットは華奢な見た目通り、精神力が弱く脆い。彼女にかつての仲間・ロクローを処刑する強さは無い」


 ニースは鋭い眼光で映像を分析する。リオル大将が頼りにした『十三番目サーティーン』がそこにいた。

 ニースの体色は一貫して喜びと安堵の穏やかな色合いで満ちている。厳しい言葉だけを聞くと冷徹に感じるが感情が目に見えてわかるのでこういう時に困惑しないで済む。


「マーガレットは優しい。木星の人達はみんな優しい」

 そうだね、とクジナはソファに腰掛ける。

「朝市も楽しかった──ニースは幸せです」


「火星お気に入りだったけど火星と比べてどう?」

「火星の人達も猫祭りも、みんな面白くて好き! でも話し掛けてくる全員に返事しなきゃだからちょっと疲れるかな。住むならニースは木星が一番──あ、違った」

「一番は?」

「ここ!」

 ニースはクジナの膝の上に飛び乗るべく跳ねた。猫のジローも混ざりにやってくる。

「うっ」

 腹に飛び乗られて悶絶するクジナ。

「──クジナ、筋肉つけよっか? 腹筋」

「う、うん──」

「ふふふ、シアワセだなー」

 クジナの膝の上で仰向けに寝転がり、胸の上に置いた猫の頭を撫でる。

「そうだね、いてて……」

「クジナひ弱〜、鍛えよう」

「頑張ります……」

 こんなに幸せで良いのだろうか。笑いながらニースは、ふと思い出す。

 自分の姉妹、十二番目トゥエルブはどうしているだろう、陛下をお守り出来ているだろうか、今でもどこかに隠れてひっそり暮らしているのだろうか──

 体色に不安の黒が交じったのをクジナが心配する。

「どうしたの?」

「『十二番目トゥエルブ』はあれ以降どうしているかクジナは経過をユイ・ファルシナから聞かされていませんか」


「然るべき場所に陛下と一緒に保護されているそうだけど。それからどうなったかはわからないんだ」


「今度、ユイ・ファルシナに直接聞いてみる」


「教えてくれるかどうかはわからないよ」

 ニースにもわかっている、自分達の命を守り匿う事がユイの立場を怪しくするリスクにもなっている。


「うん、それでも聞いてみる──『十二番目トゥエルブ』にも幸せになる権利がある」


 ◆


 セレブの豪邸や名門旧家が建ち並ぶ静謐な雰囲気の月一等市街地を離れること約15kmほど、繁華街のある中央区画で、生涯のパートナーとの出逢いの場、いわゆる婚活パーティーが行われていた。


 都ノ城麻里みやこのじょうまりはタイトなキャリアウーマン風のスーツを着込んでパーティー会場の化粧室でお化粧のノリの確認をしていた。


婚活というよりは就活ファッションに近いが麻里にとってこれは就活である、間違ってはいない。


 胸元を開けるかどうかでかなり悩んだが、これ見よがしな胸の谷間アピールは、月一等市街地での婚活では少々下品な娘としてとらえられるだろう。


「名札よーし、化粧よーし、笑顔よーし──銀河公社の花形、元・木星宇宙港サービスカウンター勤務。婚活戦士・都ノ城麻里、いざ参る!」


 小さく気合いを入れ、握り拳を作って自らを鼓舞する。


 月宇宙軍クーデター事件の際、木星宇宙港に大型機動要塞が衝突するかどうかの瀬戸際に麻里は居合わせた。

 脱出シャトルの待機列がパニックになっているのを、麻里は正義の鉄拳、腰の入ったフックの一撃をもってして混乱を収め、スムーズな避難誘導を行ったのである。

 この一件は社内報に掲載、お手柄かつスカッと胸のすく嬉しいニュースとして銀河公社全体で共有されたが──


 ──ブン殴ったパンク女は銀河公社役員の孫娘だったことで事態は一変した──


 連日のように上司や幹部達が麻里の元を訪れ、入れ代わり立ち代わりどうか退職してくれないかと土下座された。

 自己都合退職扱いで退職金も出たが、実質は解雇クビに近い。


(役員のじじいも赤っ恥晒して辞めたらしいからまあ、痛み分けではあるのだけど──納得はしてないのよね、民意はわたしに味方するだろうし、最大手の割に退職金そこまで出なかったし)


 麻里はPPのカメラ機能を使って簡易な自らの三次元モデルを作成、客観的にどう見えるか最終チェックを行った。


 軽くカールさせた黒髪ロングの末端を手で払い肩の後ろに流すと、美しいうなじが現れる。キレ長のまぶたからのぞく活力溢れる瞳。意志の強さが垣間見える肉薄の大きな唇。どこか男性的な強さを感じさせる美女──都ノ城麻里・22歳独身。


 整い過ぎて整形顔、と言われて甚だ迷惑している。


(そもそも──わたしが銀河公社に就職し、花形の受付勤務を目指したのは婚活に置いて優位に立ち、人生に勝利するため! 結局、ろくな出逢いもなく退職の憂き目にあったが──わたしはここで再起する。木星の仇を月で討つ!)


 木星宇宙港で見初められ、良家との縁談や芸能人著名人との交際に発展した事例は実に千八百件以上である(麻里独自調べ)

 デートのお誘い、合コンの申し込みは確かに頻繁にあったのだが麻里のお眼鏡にかなうハイクラス男性は現れなかった。

(まあ、潮時だったのかも知れないわね──)


 木星宇宙港の次にホットな出逢いの場、それはやはり月。


(ここ、月市街地の婚活で、草食系の箱入り上品御曹司を一本釣りするのよ!)


 パーティー会場に入ると男女別に分けられテーブルの対面に着席させられる。名札には番号と名前が記されている。麻里はまずライバルになりそうな女性参加者をチェック。

 フフフ、と不敵な笑みを浮かべた。

(ザッと見た限りでは、わたしの覇道の妨げになりそうなのは──8番と12番。それ以外は警戒する必要もなし)


 男性の方を確認すると視線はやはり麻里と8番に集中していた。第一印象アピールは順調のようだ。


 時間になってもなかなかトークタイムが始まらない。司会のアナウンスに寄るとひとり、遅刻している参加者がいてその到着待ちらしい。


 数分後、会場入りしてきた遅刻者に参加者の視線が集中する。

「申し訳ありません、遅刻して──お待たせ致しました」

 突如として会場の空気が一変する。

「で、デカッ──」誰からともなく声があがる。

 どこのスーパーモデルがやってきたのか、と思うほどの強烈なオーラ。

 パッと見、二十代後半から三十代前半、成熟した大人の女性である。

 推定身長180cm、スラリと伸びた脚、キュッと引き締まったヒップライン。

 極めつけは引き締まった長身細躯の身体に不釣り合いな豊満なバスト。かなり押さえつけられているのであろう、上着がパンパンに張っている。100cm超は確実、推定120cm。カップはK〜Mあたりか、もしくはそれ以上。


 『じゅんこ』と書かれた名札を左乳房の上に貼り付ける。

 ファッションはシンプル、

 スポーティーでラフなパンツルック、ナチュラルメイクでありながら、周囲の過剰装飾な婚活戦士達よりも高い攻撃力を有している。

 よく見るとブランド品。なおかつ妙なフィット感から特注品オーダーメイドの疑いもある。


 キリッと精悍な顔の造作や胸の大きさが印象的なのでファッションはむしろシンプルにした方がバランスがとれる、という──素材の良い人は着飾る必要がなく何を着ても似合う、という理論を体現していた。


 月市街地での婚活だけあってこの場に集う婚活戦士達の戦闘力は他と比べてハイレベルなのだが『じゅんこ』は明らかに二段階ほど上位の存在だった。


 御曹司も会社役員も、ベンチャー社長も、めぼしい男性の視線が全て、謎のスーパーモデル「じゅんこ」の引力に吸い込まれていく。


(──終戦、始まったばかりだけど終戦ね──ひとりだけ遅刻作戦で視線釘付けアピールまでやってのけるとは、一切の妥協が無い──あなたこそ銀河最強婚活王者チャンピオンオブギャラクシーよ、『じゅんこ』さん。完敗だわ──)


 麻里はフッと寂しげに笑うと次の婚活パーティーに向けて気力を温存することにした。撤退戦である。


「ごめんなさいね、後ろ通ります」

 

 しかしながら爆乳スーパーモデル『じゅんこ』が座ろうとしているのは麻里の真っ正面、男性側の席である。


「あの、じゅんこさん、女性はこちら側に──」


 おそるおそるこちらに来るよう促すが『じゅんこ』は朗らかな笑顔で断る。

 暦や天候は地球のもの、いわゆる銀河標準時に合わせてあり月でも冬の設定になっている。そんな中、この『じゅんこ』からは真夏の太陽のようなエネルギッシュさを感じる。


「ああいえ、こちら側で良いんです。わたし、女性の方とお話に来たので──ふふ『まり』さん、ありがとう」

 

「あっ──失礼しました」


 よく見ると、女性20名、男性19名──確かに『じゅんこ』は男性側としてカウントされている、

 この時点で全員が「じゅんこ」は同性パートナーとの結婚を望んでいるのだと解釈した。この時の男性陣の困惑ぶりと心境は言葉で表現するのが難しい。


(お〜! 助かったわ! この人、男性に興味ない人だ!)


 ここで重要な問題が。

『じゅんこ』は超がつくほどの美形で、お金を払ってでも眺めていたいレベルの容姿をしている。

 強気な性格の麻里と気が合いそうなサバサバとした雰囲気。一緒に居るだけで元気になりそうな生命力溢れるオーラを発散している。


(待て待て『じゅんこ』って、この会場にいる男性陣の誰よりも素敵で優良物件なのでは? 問題は女性であることだけ)


 そういう目線で対面側を眺めてみると今まで良さそうに見えていた御曹司やベンチャー社長が、華美な服に着られているだけの、中身が伴わないハリボテに見えてくる。


(綺麗事抜きに言えば、見た目や雰囲気を気に入るかどうか、ってのはパートナー選びでは最重要──)


 カトリック教会はいい顔をしないが、女性同士・男性同士の夫婦でも厳正な審査をクリアすれば子供を作れるらしい、幼年学校の時に、友達の両親が女性同士だったことがある。


 ゴクリと喉を鳴らす麻里。


(わ、悪くは──ないわね。女性男性どちらでも、と積極的にアピールすべきかしら)


 司会進行スタッフが割り振りをしていく。

『先ずは正面に座っている人同士で、五分間お話してもらいます、男性側が移動して1番の人が2番に、20番の人は1番に──』


「あ『まり』さん、最初はあなたからね。よろしく」


 スーパーモデルが笑いかけてくる。


(えっ、いきなり?)


『それではスタート〜!』


「──でもなぁ〜、いきなりは心の準備が──女性同士ってどうやるのかわかんないし、やっぱ無理ってなった時、相手にも超失礼だしな〜……」


「『まり』さん大丈夫? どこか具合でも?」


「いえ〜、あ、わたし都ノ城麻里と申します」


「はじめましてわたしは『じゅんこ』宮城純子と申します。都ノ城さんとおっしゃるのね。実はわたし、訳あって息子の嫁候補を探しておりまして──わが宮城家に相応しい女性がいないか、月市街地中を駆け回っているところです」


「あ、そうなんですか〜」ホッと胸を撫でおろす麻里。


(紛らわしい事するなよ〜、って──え? この人、既婚者? 息子って何歳? 15歳とか? 出来れば同年代かやや歳上希望なんだけど)


「紛らわしくてごめんなさいね。はい、これが息子の雄大です。現在、わけあって無職ですが将来性はわたしが保証いたします。必ずや天下に号令をかける英雄となるでしょう、よければ一度会ってみませんか?」


「ん? んーっ!?」


 ホロに投影されたのは見覚えのある顔である。


 高身長・月一等市街地・航宙ライセンスAAAトリプルな高学歴──超がつく優良物件だ。AAAはあまりにも珍しいのでよく覚えている。婚活用のアドレスを添えたホロカードを渡してある。


「もしかして息子さん──木星宇宙港から客船おおすみまるのアラミス行きチケットを購入されませんでしたかっ?」


「あら? おおすみまるをご存知──?」


 おおすみまる事件は、純子の夫である裕太郎が身内の恥としてかなり早い段階で揉み消している。息子の雄大が活躍しているニュースではあるが、任官直前で士官学校を中退したことまで広まってしまうのはよろしくない。


 いまや運航スケジュール管理者、土星の軍関係者ぐらいでしか真相は語られていないはず──


「若いのに航宙ライセンスAAAをお持ちの方なんて本当に珍しいので──息子さんが事件を解決なさったとおおすみまる関係者から聞き及んでいますが本当なのでしょうか。世間では、極秘任務中の特殊部隊員数名が事件を解決した、と言われていますが」


「うちの雄大と既に面識がおありになるのね。なんて偶然なのかしら──確かに、雄大は海賊の頭目を独力で逮捕して、治安維持に多大なる貢献をしておりますわ」


「息子さんのご活躍でしたか〜! やはり! 大変失礼いたしました。わたし、ご子息の雄大さんと少なからぬ縁がございまして。木星宇宙港にてお会いし、正にそのおおすみまるのチケットの販売で応対をさせていただいた者です──初めて息子さんを見た時からなにか運命的なものを感じておりましたが、こんな場所でお母様にお会い出来るとは!」


 キラキラと目を輝かせて純子の手を取る。


「──あなた良いわね。そのぐいぐい押して来る感じ。わたしの若い頃を思い出すわ。若い人はそうじゃなくちゃ」

 元々、星野純子は男勝りでガチガチの体育会系。

 星野家の跳ねっ返り娘、として有名だった。こういうガツガツとした麻里の態度を好ましく感じている。


 純子はPPを操作、どうも麻里について採点をしているらしい。


(いかん、決めなければ、他の有象無象に雄大クンを渡してなるものか! 最初にツバつけたのわたしなんだからね! ここで勝負をかける!)


「お母様、少々おまちください」

 機敏な動きで席を立つと、トークタイム後に予定された立食パーティー形式のテーブルからサッ、とお茶を持ってくる麻里。司会進行が注意を与える前に戻ってきた。


「お急ぎのご様子でしたので、もしや喉が渇いていらっしゃるのでは? どうぞ──」

 スッとごく自然な動きでお茶を置く。

「あら綺麗な所作ね──でも喉は渇いてはいないわ」

「失礼しました──差し出がましいようですが、これから何人もの方とお話しなければなりません。先ずは喉を潤したほうが良いのでは、と勝手ながら判断させていただきました」


「──そうね、あなたの言う通り」

 心底感心する純子。


 まだ五分には少し早いが、純子はお茶をくいっ、と飲み干すと立ち上がった。

「わたし、この方に決めました。都ノ城麻里さん、良かったら場所を変えて今後のことについて詳しくお話しませんか?」


「はいお母様! 是非とも詳しく念入りに!」


 立ち上がったふたりは今から試合でもするかのように気合い十分でお互いの目をしっかり見る。

 純子の鷹のような視線にも目を逸らさない麻里。


「いいわね麻里さん、本当に気に入ったわ。宮城家は武家の名門、あなたのような気迫を持った人こそ息子の嫁、そして宮城家を切り盛りしていくに相応しい──行きましょうか」


「はい、よろしくお願いします!」


 ふたりは脇目も振らずにパーティー会場を後にする。


 開始五分のカップル成立──婚活パーティーにおける最短記録ワールドレコードが大幅に更新されたのであった

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