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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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銀河パトロールSOS 嵐の前触れ

銀河パトロールSOS~嵐の前触れ~

 ぎゃらくしぃ号は微弱な救難信号をキャッチしていた。


 マーガレットと雄大は海図を開いてその光短信の出所を検討していた。本来であればユイ皇女にお伺いを立てるところだが、彼女はちょうど就寝時間中だったのでマーガレットは雄大に意見を求めた。


「どう? 何か見当は付いたの?」


「民間の救難信号に混じって軍で使われている暗号文が織り込まれていたんですが……俺、あ、いや小官の記憶が間違ってなければこれはかなり古臭い暗号で、今じゃ破棄されてるものなんですよ。使われるケースがあるとすれば本来の軍事行動と区別を付けるために訓練航海や大規模演習で本来の暗号の代わりに用いられる場合があるんです。演習の攻撃命令で本物の軍艦が戦闘行動を起こさないための配慮ですよ」


「こんな航路から大きく外れた暗礁宙域の近くで演習なんてやるものなの?」


「それはありえません、演習宙域は予め銀河公社を通じて全ての船舶や基地に通達されますし、他の船影が全く見えません」


 雄大は海図の横にサブスクリーンを開いて、ぎゃらくしぃ号宛てのメールボックスや公社発のニュース、民間のニュース屋が有料販売している速報を全てロボットにチェックさせたが演習の話などどこも報じてない。


「あ、それよりもアレ。暗号の内容の方が肝心でしょう。なんて内容なの?」


「円卓に集え騎士達よ、アーサー王がキャメロットで待っている、イチナナニイハチゴーロクロクマル」


 マーガレットはムッとして雄大を睨む。


「ねぇちょっと。もしかしてふざけてる?」


「ホントにこれなんですってば」


「17285660ってのが鍵になってて前の文章に代入すると別の意味を持った文章になるとか、そういう二重の仕掛け?」


「この文自体はこれで完成でこれ以上何か解読出来るような物じゃないかも」


 マーガレットは大きく溜め息を吐いた。


「じゃあ無視していいわね。救助は他の船に任せましょう。暗礁宙域に入って難破船を牽引するなんて御免だわ。ぎゃらくしぃ号まで二重遭難したら目も当てられないわ」


「宇宙船が航行不能で仮に生存者がいた場合、助かるものも助かりませんよ。もしかしたら一刻を争う事態かも」


 雄大も本音ではマーガレットの案に賛成なのだが、ユイ皇女だったらどうするかを考えると生存者の確認もせずに通り過ぎるのはユイのイメージには合わない。


 ぎゃらくしぃ号はユイの船、ぎゃらくしぃ号の行動がユイの意思として世間に知れるのなら、大事にすべきかも知れない。


「……じゃあ何よ、ぎゃらくしぃ号で渦に飛び込めってこと?」


 マーガレットは救助にあまり乗り気では無い様子で、カールさせた巻き毛を指でくるくると弄る。


「いいえ。航路ギリギリまで暗礁宙域に船を寄せるだけで十分です。小荷物配達用のボートがありましたよね? あれならデブリや小惑星、磁気嵐の影響を比較的受けにくいはすです。状況の確認が最優先ですけど」


「どうしても救助に行きたいらしいわね」


「見捨てるんですか。まだ助かるかも知れないんですよ?」


 チッ、とマーガレットは舌打ちしてから雄大の顔をジロジロと観察する。


「はいはい、正義の味方の言うとおりやっておけば間違い無いわよね」


 マーガレットの投げやりな態度にも雄大は腹を立てたがそれ以上に正義の味方という言葉にとげとげしい意図を感じて憤った。


「当たり前の事を言ってるつもりです」


「……あ、そうか。救助して世間様に評価されたい? 点数稼ぎしたいわけか。おおすみまるの時みたいに」


「そういう言い方って……」


 雄大は顔を曇らせて顔を逸らした。


「な、何よ……怒ったの?」


 マーガレットはいつもの調子で軽い嫌みを言ったつもりだったが想像していた以上に雄大を苛つかせてしまったようだ。


「いえ何でもありません」


「ちょっと何よそのふてくされた態度は? まるでわたくしが立場を利用してクビにされたくないあんたをイジメているみたいじゃないのよ。むかつくわ、何なのよあんた急に繊細ぶっちゃってさ」


 言葉では強い事を言っているが、マーガレットの瞳は潤み少し涙の雫が貯まっていた。声を震わせて雄大を罵倒する。


 罵倒されてる間、雄大は何も言い返すことなくじっと目を閉じ下を向いて耐えた。口を開くと関係を余計こじらせてしまいそうだ。


「……そんなに救助活動したいならあんたが全部やんなさいよね」


 マーガレットはツンと鼻を上に上げてくるりと踵をかえすと、大股でわざと大きな足音を立てながらブリッジから出て行く。


 喧嘩相手が出て行ったのを確認すると雄大は大声で悪態をつき軽く壁を蹴った。


「言われなくたってお前の手は借りねぇよ!」






 ぎゃらくしぃ号のランチベイから、直径8センチほどの太さがあるケーブルが問題の渦に伸びていった。雄大が乗り込んでいる貨物運搬用のボートはこのケーブルを伝って移動する。ボートはドッキングベイの形がどうしても合わない場合や荷物だけ移動させたい時に用いられる装備で簡単な手動操作で動くので磁気嵐に精密機器を晒したくない時にも使われる事がある。


 このボートを暗礁宙域に差し向けるのは、海の上から深海調査のために潜水艇を海底めがけておろしているような感覚だと思って良い。


 案の定、ここに流れ着いた無数の船の残骸の中にまだ生きている船のワープドライブ・コアがあり、それが過放電してちょっとした磁気嵐現象が起きている。昔、戦場になって放置された死に損ないの大型船の心臓が仲間の肉を喰らおうと渦に吸い込み雷を浴びせこの宙域の犠牲者を増やしていくのだ。そうしてより深くより複雑な構造に変化を遂げた魔境となる。海図によるとなかなか古株の成長の止まった「渦」で本来はもっと小さいはずだが、現在は活発に動き成長を続けている。


深部ではプラズマか何か放電現象が起きていて黄緑がかった稲光がせわしなく走っている。


 雄大は船外活動用の宇宙服……もとい重歩兵が使うエグゾスーツの中にすっぽり収まっていた。大袈裟ではなく、これぐらいの用心をして然るべき状況なのだ。


(活動を再開した? いや新しいワープドライブのコアを取り入れたか、何かの弾みで死んでいたコアが動き出したのか)


「六郎さん、ここは想像していたよりかなり危険です。ただの暗礁宙域より厄介な生きてる渦です」


 ケーブルを通して雄大の音声がランチベイまで伝わり、ランチベイに詰めている六郎がそれをブリッジに送信した。


「わかった。それで難破船か何か、それらしきものは発見出来たか?」


「いえ、まだ」


「画像データを確認した、どのみちこれじゃ犠牲者も助からんだろう。もういいから引き上げて来い。皇女殿下と鏑木嬢ちゃんがお前の事をたいそう心配なさってるぞ。ちょっとうるさいぐらいだ」


 何かの駆動音と、光短信の明滅を発見した雄大はその言葉を無視してボートを更に奥に進めた。


 ボートに備え付けのアームを操作して、雄大は軍の大型艦の外部装甲を掻き分けていく。


「これは?」


 ボートよりは多少大きい、という程度の球形をした脱出ポッドが姿を現す。傷だらけではあるが外壁が周囲の残骸と違ってかなり新しい。


(比較的浅い場所に引っかかって難を逃れたみたいだな)


 雄大は少しホッとしていた。


 大きな駆逐艦や客船、貨物船だった場合、牽引アンカーを撃ち込んでぎゃらくしぃで引っ張り上げる事を考えていたが、こうも渦が活発に活動していると引き揚げるつもりが逆に呑まれかねない。難破船の中の生存者だけをボートに乗せるか、最悪の場合、要救助者を見捨てるというつらい判断を迫られるかも知れなかった。


 この程度の大きさならケーブルで一緒に引っ張っていける。雄大はポッドにジョイントを吸着させ、ボートと連結させようとするがなかなかうまくスーツのトルクを調節出来ずジョイントを一つ潰してしまった。


(エグゾスーツでの訓練、もう少し真面目にやっておけば……)


「なんだ、どうした。宮城おまえちゃんと報告してくれよ。なんで俺が殿下に怒鳴られなきゃならんのだ」


「六郎さん、救難信号の発信源を見つけました。取り敢えず引っ張ります、ボートと繋ぎましたからケーブルを巻いてください」


「待て待て、危険性は無いんだろうな? ケーブルで引っ張る、って何をだ?」


「小さな脱出ポッドてすよ。何にせよ、安全な航路上にまでは戻してやりましょうよ」


 数十秒ほどの間、船からの返事がない。


 待っている間、渦の中心の蠢く様子が振動として雄大に伝ってくる、まるで地鳴りのようだ。


 数発ならヒートガンの射撃も無効化するエグゾスーツを着ていても何の安心感も与えてくれない、渦の前ではちっぽけな鉄の箱も同然だ。雄大の鼓動は高鳴り不安で呼吸が荒くなる。ぎゃらくしぃ号とボートをつなぐケーブルが切れたら雄大もこの脱出ポッドの中にいる者と同じ運命をたどる事になる。


 ガタッ!


 まったく予想してない方向への激しい振動がボートを襲う、激しい揺れ。そして目が潰れるような発光現象。


 渦の左側で炸裂したプラズマ流が船の残骸に命中し、細かく引き裂いていく。残骸は熱を帯びた鉄の塊を四方八方に撒き散らし、その一部があたかも雹のように雄大のボートに降り注いできた。


 トラブル発生、と報告したつもりが振動がノイズになって通信がうまくいっていない。


 いつの間にか脱出ポッドにとりつけたジョイントの掛け金が、流れてきたデブリの衝突か何かで外れてしまっている。ぐらつき、今にも流れていきそうなポッドを固定しようにもボートに付いている作業用アームを操作する時間的余裕がない。


「ハルバード」


背中からエグゾスーツの戦闘用ハルバードを抜き取ると柄を出来るだけ長くもって片側の鉤爪部分をポッドに叩きつけた。脱出ポッドの装甲に爪がガッチリと食い込んだ。


(よし!)


 エグゾスーツの内部機関が常人の何倍ものトルクを雄大に与えてくれる、なんとか脱出ポッドをボートまで引き寄せるとジョイントのロックをかけ直し、なおかつロボットアームをエグゾスーツの腕力で無理矢理折り曲げて2つの鉄の塊をしっかり固定した。


(非常時だ、ボートの修理代ぐらいどうってこと無いだろ)


 ほっと一息ついたのも束の間、此方の事情がわからないランチベイではちょうどケーブルの巻き上げが始まった、再び起きた激しい揺れ。完全に油断しきってバランスを崩した雄大はボートの上から放り出されてしまう。


「うわ!?」


(こ、んな……こんな……間抜けな死に方は)腰に付けている吸着マグネットが先端に付いた登攀ロープを射出するが操作ミスであらぬ方向に飛んでいく。


 プラズマ光がチリチリとエグゾスーツの装甲の上を走り表面を焼いて細かい溝を残していく。渦の奥から伸びた死神の手が雄大の襟首を掴み、緑色に発光する渦の中心へ落とそうと力を込めているようだ。


(海兵隊用のエグザスの装備……!)


「ハープン」


『OK S-Harpoon Ready for assault』


「ファイア」


 雄大は視線とウインクでEye click入力、左腕固定装備の銛状の武装ストライクハープーンを起動させるとボートに撃ち込んだ。敵の戦車や戦闘ロボット相手に使う巨大なモリはボートの外装を突き破り内部で傘のように広がった、ハープーンとスーツを繋ぐ特殊綱のロープが雄大の命綱となる。後はハープンを巻き上げるだけだ。


「ウィンチ……アップ? えーと巻き上げ? あれ、どうやるんだ?」


 このロープを巻き上げるコマンドが咄嗟に出て来ない。宙吊り状態のまま引きずられていった。


 スーツの中は適温に保たれているはずなのに絶えず寒気を感じていた。






「死ぬかと思った!」


 雄大は、エグゾスーツのメット部分を開放して艦内の空気を吸った。ずっと興奮状態だったのかしばらくワー、ワーと吠えまくっていた。


 ランチベイには野次馬が集まってきて雄大が拾ってきた珍客の見物を始めていた。


 ポッドの汚染除去をしていたブリジットが雄大を呼ぶ。


「雄大、あんたの仕事まだ終わってないよ、それまだ脱がないで」


 脱出ポッドは歪んでいてハッチが上手く開かないらしい。


 手を使えない雄大はペットボトルを持って駆け寄ってきたリンゴから水を飲ませてもらうと一息ついて気を落ち着かせた。


「だ、大丈夫だか? 具合は悪くないだか? ほら、これ首にかけるといいだよ」


 リンゴが家内安全の御守りを雄大の首に下げてくれる。


「スマン、リンゴにも心配かけたみたいだな。ちょっと待ってろよ」


 リンゴを肩からおろすと雄大はエグゾスーツをポッドの側まで寄せた。


「慎重にな?」


「ゆっくりやれば力加減も何とか……」


 ブリジットに言われなくてもわかっている、と雄大は


ハッチを小突くように軽く拳を叩きつけ隙間を作るとそこに手を突っ込み引き裂くように装甲板をねじ曲げていった。


 脱出ポッドが分解されると、中にいた人の姿形が明らかになってくる。


「男? 女? 子供? 大人?」


 分解作業を手伝っていたブリジットに好奇心いっぱいのリンゴが質問を浴びせかける


「う、うーん……わたしにはよくわかんない」


 ブリジットは困り顔で珍客を人間用の担架に乗せかえる。


「猫」


 首輪を付けた仮死状態の地球産動物は灰と黒の縞模様をしていた。

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