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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
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三文芝居③

 エアレース会場VIPルーム、菱川十鉄とマーガレット・ワイズ伯爵は乱入してきた甲賀狭霧キングを間に挟む形でにらみ合っていた。市長やレポーターといった人質も十鉄のいる窓枠側に残っていて、通路側からやってきた警官隊は防盾の後ろでその顛末を見守るしか無かった。


「良いところに来た狭霧! 手を貸せ、その腐れ金髪を潰すぞ! 金星マフィアきっての武闘派集団、三弦洞の矜持にかけて!」


「前の三弦洞を壊滅させた張本人が言いますかね普通。あなた達のお芝居の設定、どうなっているんですか?」


「ふたりでかかって来なさい。恥では無いわ。わたくしこそ銀河最強王者チャンピオンオブギャラクシーアレキサンダーの魂と技を受け継ぐ者なのですから」


「ちょ、無視しないでくれます?」


「援護するぞ、行けえ!」十鉄が叫ぶ。


「なんで僕が十鉄さんに指図される立場なんです?」


「受けて立つ!」マーガレットの勇ましい声がVIPルームに響き渡る。

 

「ああもうなんなんですかこれ! 死角から僕を撃つ気満々でしょあなた!?」


「…………」十鉄はチラッと狭霧キングを見る。

「…………」マーガレットも基本は十鉄に集中しているが狭霧キングの顔色をうかがっている。


「僕の反応待ちなんです? 黙らないでくださいよ、放送事故になるでしょ……」


 レポーター、市長、警官隊の面々は目の前で何が起こっているか理解できていなかった。お互いがお互いの主張をしているが何がなんだかよくわからない──


「行けえ、狭霧ィ!」


「遠慮なくかかってきなさい!」


「わかったわかった! 行きますよ! 行けばいいんでしょ!? まったく馬鹿げた三文芝居だこと!」


 キングは一応、背面に気をやりながらマーガレットへ向かって床を蹴った。拡げた右手の指を折り爪を立てたキングはマーガレットの肉を刈り取るように振りおろす。

 鋭い一撃ではあるがおおよその軌道は予想がつくため、この初撃が当たるとはキングの方も考えていない。


(本命は次撃、横薙ぎの回し蹴り──)


 ステップバックしたマーガレットに対して蹴りを繰り出す準備をするも、後退の距離が想定よりも速くそして長いため実際に蹴りは出せなかった。むしろキングの方にリカバリー出来ない大きな隙が生まれ、有利状況を取られる。

「くっ?」


(甘く見過ぎましたか?)

 

「──!」

 マーガレットが回避運動で上体を反らしたため、反撃は無かった。十鉄の銃撃が少女伯爵の動きを大きく制限しているのだ。的確な射撃に晒され足を止めざるを得ない。少女伯爵最大の武器『スピード』を完全に殺している。


(ナイスアシスト! 本当に掩護してくれるとはね!)


 脚を開いて腰を落とし防御姿勢を取ったマーガレットに対して、マーガレットをキングは悠々と予備動作をとり、渾身の前蹴り『迅雷砲』を繰り出す。


(容易い、アレキサンダーの孫が聞いて呆れる!)

 サイバネティクスボディーによる強化で威力が増した戦車砲弾のような蹴りが少女伯爵の腹部に着弾する。

 マーガレットはカッと小さく発声し気を放出した。


 敵対する洞との抗争中、キングはこの必殺の『迅雷砲』でバリケードや隔壁を破壊してきた。エグザスの装甲すら軽くへこませ大ダメージが通る威力、人間がこれを受けたのならば骨は砕け内臓は破裂、手足はばらばらに四散する。


(そのスカウティングアーマーでどこまで軽減出来ますかね?)


 次の瞬間、思いもよらぬ事が起き、キングは混乱した。


 最高の強度を誇るハルコネン鋼より堅く、衝撃吸収複合素材のように柔軟で、岩山よりも大きな質量を持つ『小さな壁』がそこに存在していて『迅雷砲』で打ち破ることが出来なかった。


 キングの足は前へ進まない。反対に押し返され大股で五、六歩後退させられる。

 弾き返されただけではない、キングの方の被害が大きい。膝関節など脚関節全体に結構なダメージを受けていた。


 盾の強靭さに、矛が砕けた──生身なら片脚損傷で戦闘力が半減していた事だろう。


 自動修復を開始するサイバネティクスボディー。物理的なダメージはこうやってなんとかなるが、いまキングが受けた精神的なダメージはどう修復すれば良いのか。


(???)


 キングは咄嗟にマーガレットからの攻撃に備えた。しかし、既に少女伯爵は十鉄からの射撃をかわす体勢に入っていてキングの方を見てすらいない。


(僕が、無視されてる?)


 美しい少女伯爵の小柄な身体のいったいどこにあんないわおのような頑健さが備わっているのか。


(多脚重戦車ヘヴィタンクの蹴りより重たい僕の蹴りを──科学的に説明がつくとは思えない。あ、甘く見ていた──アレキサンダー翁の伝説は、尾鰭おひれ付きで誇張された物だとばかり──)


 人間を見たら死を恐れず攻撃するように遺伝子操作デザインされた宇宙害獣スニーキングデビルが逃げ出すだの、ひとりで連邦宇宙軍海兵隊の猛攻を何日も食い止めるだの──戦車砲弾を弾き返すだの──


 甲賀狭霧キングはあまりの実力差に戦意と血の気が失せていくのを感じた。軽い目眩。

 ズキン、と心臓に激しい差し込み。

(サイバネティクスボディーのデメリットが──また)


 身体のほうはまだ戦闘続行可能だが、心のほうが折られかけている。狭霧の頭の中に『逃走』という選択肢が生まれた。キョロキョロと忙しく状況を確認して逃走ルートを考え始める。


「騙されるな! 効いてないように見えるが今のは確実に効いてる!」


「の、ノーダメージにしか見えませんけどっ!?」


「ダメージじゃない、体力だ! ああいう防御の大技は呼吸を乱し、体力を消耗する! 華奢なオンナの身にアレキサンダーの格闘術は負担がかかり過ぎるんだ──それがこの金髪最大の弱点!」


「仇敵の言葉を信じろ、って言うんですか? そもそも僕はあなたのほうを仕留めたいんですがね!?」

 

「頼むからおまえも攻撃を継続しろ! いまのコイツは反撃する余裕が無い、防御しながらなんとか呼吸を整えようと必死なんだ!」


 マーガレットの表情から余裕が消えている──と言えばそう見えなくも無いが……


「人の話、聞いてます!?」


禁忌タブー装備の聖鎧アクバルを装着してない今が、この増長金髪を倒す最大の機会チャンス! 体力無尽蔵の戦闘サイボーグと精確な射撃で攻撃し続ければ必ずこの女を倒せる!」


 十鉄は実包弾が不足する前にショックライフルに切り替えつつ、キングに向かって大声でアドバイスを出す。


「狭霧、俺とお前との決着はこの金髪を片付けてからだ!」


(どういうつもりだ十鉄──芝居ではなく、このアレキサンダーの孫を殺す気でやっているのか)


 キングは首筋を撫でる──連邦の誇る衛星ネットワークへのアクセス。戦術脳にデータを送り分析させた。

 AIの解答アドバイスによると菱川十鉄の言葉の信憑性は高く、現状打開策として最も効率の良い選択肢ということだ。


「上手く利用されている気分ですが」


 最終的に金星の利益に繋がる選択肢、とAIが判断したのなら問題は無い。


 戦闘サイボーグならば十鉄から誤射されても致命的なダメージにはならない。キングは半信半疑ながらマーガレットへの攻撃を再開した。


 ◆


 ジェットバイクで市街地を疾走する銀翼水龍メンバーにも、メガフロートシティの様子がおかしくなっている事がわかる。

「リーダー、なんかヤバげな雰囲気ッス──なんか戦争ッス!」重たそうな旗を括り付けたマシンに乗っている親衛隊長のマオが戦争・戦争と慌てている。


「確かにこんなの初めてだぜ……やっべーな」


 五代目総長タオ・レンレン長髪をたなびかせながら、トンボ人形による騒動を横目で確認する。


「市警察は怖くないけどウチ戦争は怖いッス! もう走るのやめにして、建物の中に隠れましょうよ〜!」


「マオもこんな怖がってるし、アタシ達も避難します? 狭霧姐さんには悪いですけど、また別の日に──」


 特攻隊長のアサギも不安そうだ。しかし──ここでイモを引いては先々代、先代、そして狭霧姐さんに面目が立たない。


「アサギ〜、アンタまで甘えてんじゃないよ。こんな非常時にこそ、あたいらの日頃鍛えてきた根性が役に立つんだ。もっとドンと構えろよ。アンタの気合いはあたい以上だろ?」


「は、はい!」


「マオもちょっと聞きな? ブレーキ踏むよりアクセル踏んでカッ飛ばしてた方が、鉄砲の弾には当たりにくいと思うけど? ──どう思う?」


「た、確かに──そうッス!」


「よし、いいかヤロ〜共。先々代総長のウチの母親ババアが言ってたんだけど──こういうのはな、だいたいビビってイモ引いたやつから事故るんだってよ! だから自分の整備した愛車バイク銀翼水龍チームの旗を信じてシティを駆け抜けようぜ!」


 自信たっぷりの顔でビッと親指上サムズアップげした。めがふろ学園のコスプレ姿でバイクに跨っているので、ほぼ下着丸見えの酷い姿ではあるが、この混乱の最中、怯える仲間を説得する器量はさすがである。


「さすがリーダー。アタシらとは根性が違う……! ねえマオ、下手に単車バイク降りて避難するよかリーダーに付いて行ったほうが安全かも知んないよ」

「だね〜アサギっち、やっぱしリーダーはまじでシビィ〜ッス!」


「まー、そうは言ったものの。あたいらがビビってなくても見てくれる人達が居なきゃ伝説は作れねえんだよな〜……」


 マオが挙手する。

「はい! ウチ提案なんスけど。なんか救助活動とかして表彰されたら結構目立つと思うッス!」


「人命救助かー……アタシら、テクはあるけど取り敢えず走るだけですからね。単車バイクじゃ救助出来る人数にも限りがありますし。市警察の傘下に入って避難誘導する、ってカンジが関の山かも?」


「え〜、市警察の手下はヤダな〜……」


「まあね、普段散々追い回されて目ぇ付けられてるし」


 タオはバイクに跨ったまま腕組みして状況を整理した。


・狭霧姐さんからひと暴れして根性見せろ、と言われている

・とにかく銀翼水龍の知名度や好感度が上がればそれでいい

・この騒ぎでは誰も単に走ってるやつらを相手にしない


「うーん、市警察の手下にならない方向でなんか考えてみっか!」


「ウス、リーダーお願いするッス!」

 タオは大きな複合商業施設のインフォメーションパネルを眺めた。エアレース中継がいつの間にか超人バトル映画に切り替わっている。

「うっせえな〜気が散る、こんな時に不謹慎な映画流すなよ、爆発音とか紛らわしいだろ。避難状況とかシティマップとか映せよな〜」

「いやリーダー、これエアレース会場からのライブ中継ッス」

「……マジ?」

 確かに、たまにシティの市長が映ったり、偉そうな人達が警官に保護されながら避難する様子も映し出されている。

「マジこれ戦争ッス、最悪のクレメンスデーッス……」

「なんか菱川十鉄って超やべえ伝説の殺人鬼が人質取ってわめいてるんだってさ……ウワサ本当だったんだね」


「なんだよ、サイッコーじゃん──」


「最悪じゃなくて?」


「これこれこれだよ〜! 命知らずのあたいら銀翼水龍、その根性見せるサイッコーのデッケエ仕事があそこに転がってんじゃん!」


 タオ・レンレンは喜色満面で、今度は大きなドローン管制塔に設置されたインフォメーションパネルの映像を指差す。そこには菱川十鉄に首根っこを掴まれているシティ市長の姿があった。


 

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