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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
132/186

銀翼水龍

 港に停泊させてある大型貨物船の格納庫、そこに高所作業用の建築ロボットとして大量に持ち込んだ『トンボ人形』の起動シグナルを受信したキングはフフフ、と笑みをこぼす。



(見方によっては僕が設計した『トンボ人形』のお披露目に相応しい舞台です、楽しみですね──さて念には念を入れて水龍の五代目リーダー『タオ・レンレン』に連絡を)


 銀翼水龍──直に会った事は無いし構成員がどれほどの戦闘力を持っているのかは未知数。

 三十年ほど前から存在しているらしいが、遠方という事も手伝ってまともな活動記録が残っていない。金星悦楽女洞主ドラッグクイーン達全体の下部組織扱いで、特定の洞主に仕えているわけでは無い。キングが代表を務めるドラッグカルテルから活動資金の供給を受けているが現在のリーダーとコンタクトが取れるのは狭霧だけなので、実質は三弦洞直属と言って良いだろう。

 十年前、なかば強制的に三弦洞のトップに据えられた狭霧が、初期に着手した改革のひとつが休眠事業のチェックだ。この銀翼水龍への活動資金提供は長い期間滞っていたので、物は試しとばかりに復活させた。

(こんな事もあろうかと投資をした甲斐がありました──)

 市警察やエウロパ陸軍ガードと戦う際に、現地在住の味方のサポートは心強い。

 初コンタクトの際、長距離通信のためごく短い時間しか話せなかったが、向こう側で、四代目リーダーのタオ・パイレンがむせび泣き『ありがとう狭霧姐さん』と連呼していたのが印象に残っている。かなり初期に連絡を取ったので、サイバネティクス化の手術は済んでいない女性の甲賀狭霧として相手は認識しているだろう。

 彼等は恩人である狭霧の現在の苦境を知れば奮起してくれるに違いない。


 ここメガフロートシティは市長直属の市警察の力が強い、そんなシティでしぶとく生き残っている組織なのだからきっとエウロパの街に適応した、闇に潜む影のような戦闘集団に成長しているに違いない。


 キングの精神は平静を取り戻しつつあった。


 ◆


 ところ変わって、メガフロートシティの外れの方。


 再開発構想の序盤に着工予定だったのに用地買収問題でつまづいて放置されているかつての中心市街地・大波留区オーバル、にある喫茶店『市立めがふろ学園・大波留駅前店』にキングが期待を寄せる戦闘集団『銀翼水龍』のリーダーが居た。

 大波留駅前店の店舗面積はかなり広く、中央にある大きなホロスクリーンはエアレースのG1マシンをほぼ実寸サイズで投影しているため迫力満点である。

 店員も客も夢中で眺めて──いや、客は割と店員のほうを眺めていた。


 腰までたっぷりあるわさわさのくせっ毛、やや釣り目の童顔のウエイトレスは客以上にエアレース終盤の怒涛の展開を楽しんでエキサイトしていた。小柄で黙っていれば美少女に見えなくも無いが、何せ声がデカくて喋り方のクセが強い。

「スッゲ! なんだこの宮城ってヤツ、シビィ走りだぜ! 攻め攻めに攻めてンな! 命知らずなライン取り! ボッテガがタジタジじゃん?」

「あの〜タオちゃん。お仕事中ですよ?」

「ちょっと待ってってばさ〜、いまいいところじゃないかさあ」

「……3番テーブルさんと15番テーブルさんの追加注文『元気と気合いをチャージ!タオちゃん手作りオムライス』なのよ」

「これだからなあ、わかってねえよ店長は。スピードに命を賭けたオトコの浪漫ってヤツがさあ、こう胸の奥がギンギンにアツくなんの、わっかんねえかなぁ〜? くう〜っ! タマンネ〜ッ!」

「いいからはやく厨房入って」

「このバトルをキッチリ見届けた後の方が気合いバリバリ乗ってオムも美味くなるからさー! 注文した『お兄ちゃん』達、ちょっと待っててな!」

 待ってまーす、と野太い声。

 タオと呼ばれた少女はフリフリのレースがついた『セーラー服』(のような何かいかがわしい露出度の高い服)を着用していた。元気に飛び跳ねるたびに短いスカートがひらひらとひるがえり色々見えてしまう。

「もー店長もウエイタードローンとか調理ロボットの2台や3台ぐらい買えよケチくさい。こんな原始的で非効率なサ店、なんで流行ってんのかねえ? 意味わかんねンだよな。それよっかソッチのアンタらも今はレースに集中してくれよ! マジシビィから! ミンナでペンドラゴン応援しよーぜ〜!」

 3番テーブルの客に尻を向け、他の席の背もたれに寄りかかり身を乗り出してエアレース中継を楽しむ。タオの豊かな胸が頭に乗った客は昇天寸前だった。

「あのねタオちゃん、何度も言ってるけどウチのお店はね……」

 この喫茶めがふろ学園、とはかわいい女のコや男のコが『セーラー服』『ブレザー』『体操服』『ジャージ』『各種部活動ユニフォーム』などでお給仕してくれるのが売りのお店。お茶や軽食を楽しむのは二の次の準風俗営業的な営業形態──すこしえっちなコスプレ喫茶である。席にもうけられた投影機は給仕の子達のあられもない姿を映していて、ほとんどの客はそちらのほうに意識を集中している。


「おい見ろよ! ウィリアム覚醒キタ────!」


 タオはここがいかがわしい店だとはまったく気付いてない。誰よりも純朴ピュアなタオの黄色い声で実況されるエアレース──エロ目的で女体を鑑賞しに来た夢狩人達だが、美少女が何かに熱中している姿を眺めるのは彼等にとってもなかなかオツなものだったようだ。

(タオちゃん出勤日に来たの始めてなんだが天然ガサツ系って思ってたより破壊力高いな。推せる)

(その粗忽さで隠されているものの、本来の容姿では並の金星アイドルを凌駕するレベルですから)

(タオちゃんは強めの貧乏属性も持ってるらしいですぞ?)

(──機械整備メカオタク女子、も合わせるとかなりの多重属性マルチロールですな)

 店長はオムライスを注文した客達に、申し訳なさそうに頭を下げるが客達のほうはタオのスカートと形の良いヒップのほうに夢中でそれどころではなかった。普通の飲食店なら即クビだが、この場合に限っては、タオは誰よりも『良い仕事』をしている。


 ウィリアムの年間王者ワールドチャンピオンが確定するとタオは絶叫してから各テーブルを回り客の『お兄ちゃん』達ほぼ全員とハイタッチしていく。どさくさ紛れに色々タッチされたがエキサイトして我を忘れているタオはまったく気にもとめなかった。

 そのままの勢いで「行っくぜ〜!」と厨房に飛び込み上機嫌でオムライスを作り始めた矢先にPPが鳴る。

「ん──うっさいな──? ん、んん──っ!??」

 タオは腕に付けたバンドを見て血相を変えた。

(さ、狭霧姐さんがお呼びだーッ!)

 タオは隣で調理をしていた同僚の子にオムライス作りをむりやり押し付けると厨房を飛び出した。厨房滞在時間わずか5秒、ピット作業なら合格のタイムだが──

「タオ・レンレン、休憩入りマース!」


 駐車スペースで辺りに人気が無いのを確認してから通話をオンにする。

「サーセンッ! お待たせしやしたーッス! タオです!」

『タオ・レンレンさん──甲賀狭霧です、はじめましてですね』

「狭霧姐さんチィーッス!! はじめまして、先代の頃から大変お世話になっております! あたい、いや自分が、五代目総長タオ・レンレンです! 召集ッスか、召集ッスね!?」

『はい、事前にメッセージを送っておいた通りです。エアレース会場で派手に──やっちゃってもらえますか──』

「来た来たキタ〜ッ! ウチらの磨いてきたテク、存分にお見せいたします! 銀翼水龍、そして三弦洞の名に恥じない活躍を披露するつもりです。死ぬ気でやるんで見といてください!」

「おお、頼もしいですね。ではよろしくお願いしますよ──」


 厨房に戻り爆速でオムライスを仕上げたタオは『一世一代の大仕事のため』という謎の理由で早退した。着替えている暇が惜しいのかコスプレの上にに調理エプロンを付けたまま仲間に集合の号令をかける。


 なんと数分で全ての銀翼水龍の構成員が、めがふろ学園の駐車スペースに集結した。


 その数、三名──


「良いか〜ヤロー共! 太陽系でも名の知れた伝統ある三弦洞! その直系チーム、あたいら銀翼水龍! 初の大立ち回りだぜ! テメーら警察官ポリにビビってハンパかますんじゃねえぞ。市警察マッポが怖くて単車バイクに乗れるかってんだ! シティのアタマはこの水龍、って他のハンパな走り屋連中に見せつけてやろうぜ!」

「お〜っ!」

「リーダー最高ッス! シビィ〜ッス!」


 銀翼水龍──


 あまりに速度が出るので禁止されているジェットバイクを乗り回す、走り屋レディース・チーム。


 構成員──ぴちぴちのうら若き女子三名。


 三代目総長、母親であるタオ・パイパイが腰痛で引退。娘のタオ・パイレンが四代目総長として跡目を継ぐ。パイレンが堅気の男性と結婚して寿引退。歳の離れた妹のレンレンが十歳にして五代目総長として跡目を継いだ。それから五年──ストイックにドライビングテクニックを磨いてきた。


「あたいらの支援者、大恩ある狭霧姐さんから『エアレース会場で暴れてこい』とのご依頼だ! なんの収入も取り柄も無いはなたれ小僧だったあたいらが自分のバイク仕入れて、整備覚えて、ドラテク磨いてこられたのはぜんぶ姐さんのおかげ!」

 コクコク、と頷くタオの幼馴染ふたり。

「エアレース会場で堅気な観客の皆様方にジェットバイクチーム『銀翼水龍』の華麗かつ過激な爆走を見せて女子ジェットバイクレースの復活を連邦政府にアピールすンだよ! てめーら死ぬ気で、気合い入れて行くぜ!」


 うおおおお、とかわいい声が響き渡る。


「リーダー、ウチめっちゃガンバる〜!」親衛隊長マオ

「アタシも! 警察ポリなんて怖くないかんね!」特攻隊長アサギ

「よーし、この五年間の成果全てを今日、出し切る! シビィ走りで太陽系にカチ込みだぜ〜!」


 銀翼水龍──金星の戦闘部隊として生き残ったわけではなく、比較的無害な団体としてシティに最適化されてしまったようだ──

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― 新着の感想 ―
[一言] 犯罪組織だと思って投資してたらただの走り屋チームになってたでござる
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