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銀河コンビニぎゃらくしぃ  作者: てらだ
122/186

VIP席にて②

 エアレースグレードワン、

 チーム・ペンドラゴン最終ミーティングが行われていた。


 蝶ネクタイ、グレーのモーニングの上からスタッフジャンパーを着た赤毛の地球貴族モート・ペンドラゴン卿がスターティンググリッド近くにある各ワークスチームの整備作業所を訪れた。子供がパーティーで被るような白い縁のついた赤いトンガリ帽子を被り、ラッパとタンバリンが合体したような楽器を右手に、ドン・ペリニヨンの瓶を左手に持っている。

「ハピハピハッピ〜、クレメ〜ンス! めでたいめでたいポールポジションっ!」


 そこまで長くない脚でぴょんぴょん飛び跳ねながらやってきた陽気なちょび髭酔っ払いおじさん。持っている酒がドン・ペリニヨンではなくて安酒で、VIPパスを首から掛けて居なかったらここに到達する前に秒で会場からつまみ出されていたことだろう。

「いやー、とにかくめでたい。こんなに愉快痛快なのは初めてだよ」

(あれがオーナー?)

(ま、まあな)

(英国貴族で、確か由緒正しい男爵家、だよな?)

 真顔でウィルに尋ねる雄大。気分よく謎の歌を唄い始めるモート卿。

(この人が特別、個性的なんだよ……)

(な、なあこれ、本物?)

(本物……)

(なあウィリアム。おまえさ、少し前に……オーナーは敢えてバカの振りをしてるとか、処世術がどーのこーの、言ってなかった? これ、振りじゃなくて本当に──)

(それ以上言うな)


 突如として幼女が、気持ちよく唄っているモート卿の後頭部をポーチで叩く。肩紐の遠心力で勢いを増した一撃がおもしろ酔っ払いを容赦なく襲う。スパーン!と小気味よい破裂音がしてとんがり帽子が宙に舞う。

「──消え失せろ」

 お花摘みから戻ってきたリタが、モート卿を迷い込んだ酔客と勘違いしてはたいたらしい。

「宮城の小倅、はやくこのバカをつまみだせ。急がないとオーナーが来てしまうぞ」

「ひどいなあ。それわたしだよ。モート・ペンドラゴン男爵だよ。一応このチームのオーナーね! ウィルから聞いたんだけどリタちゃん、キミが新しい監督なんだってねえ。小さいのに偉いもんだねえ」

 リタのキャップを取り頭を撫でるモート卿。

 相当酔っているのか、素で天然ボケなのか。

「ああ、ペンドラゴンとはあのペンドラゴン男爵家のことだったのか。そういえばおまえの目鼻立ち、どことなくユーゴの面影がある。まあ、お父上はお気の毒にな」

 リタは軽く頭を下げる。

「……? えと、キミってわたしの父……ユーゴ・ペンドラゴンとお知り合いだった方?」

「うむ、おまえの父がまだ学生だった頃、何回か家庭教師役をしてやったことがあってな、その縁で少々付き合いがあった。しかし遠乗り中の落馬で命を落とすとはな。洒脱で粋な紳士だった、彼を失ったのは英国社交界の大きな損失だな」

「父の死を惜しんでくれてありがとう。息子として感謝します」

 幼女の手を取り頭を下げる酔っ払いおじさん。

(おまえのとこのオーナー、すごいな。謎の百歳超え幼女と普通に会話出来てるぞ。疑う、という事を知らないのかな)と雄大。

(は、ほら、良い人だろ?)ウィリアム。

 褒めていいのか、と雄大は少々ペンドラゴン家の行く末を案じた。

「それはそうとペンドラゴン家は馬主はもうやらんのか?」

「あれは父の半生を費やした道楽だったけど、その頃から赤字だったからね。牧場も手放してしまったよ、競馬がわからない者が弄くり回すよりもっと良いオーナーの手に渡ったほうが調教師の先生やお馬さんたちにとっても幸せだと思ってね」

「で、馬の代わりにエアレース、というわけか」

「そうなのよ! いや〜正直な話さ! 飛行機のレースがこんなに面白いとは思ってなくてさ! まさか家名と家紋を冠したチームが優勝争いするようになるなんて! 家族親戚総出で応援に来たくもなるよ!」

 ドンペリをラッパ呑みしながら笑顔をふりまくモート卿。

 この金満道楽オーナー、チームの人事にすら興味がなかったようだが、ウィルが勝ちまくっている今年度は流石にのめり込んで観戦しているらしく、地球北極ポートからエウロパまでの直行便の中でエアレースやグランプリマシンの性能などについて色々勉強してきたらしい。

「皆さん、ウィルの友達なんでしょ? ほんとうにありがとうございますねえ。大事なレースを棄権しなくて済んだのは皆さんのおかげです」

 あまり父親とは似てないな、とリタは苦笑する。

「モート卿よ、このわしが仕切るからには金星マフィアごときに好きなようにはさせぬ。大船に乗った気持ちで結果を待て」

 ニヤリ、とリタは自信満々に笑った、女児に似合わぬ邪悪な笑み。

「マフィア?」

 モートおじさんは怪訝そうな顔で口髭をいじる。

「ああいやオーナーさんこいつたまに変なこというけどあんまり気にしちゃ駄目です」

「え? じゃあ気にしない――そうそうウィル、ここまで来たら年間チャンピオンとってくれたまえよ〜! 一位は無理でもなんとしても表彰台! 雄大くんも直筆サイン50枚、しびれてる最中に無理して書いてくれてありがとね」

「おうよ! 俺にチームを一任させてくれたこと、後悔させないぜオーナー。勝ってあんたを男にしてみせる!」

「え? わたしは元から男だが?」

 首を傾げるモート卿。

「……え?」

「どういう意味なのだろう?」

 会話が噛み合わない。

「……ま、まあとにかくだ、期待していてくれ!」

「もちろんだ、ペンドラゴン家の総力を上げて声援を送るからね!」モート卿は空になったドンペリの瓶を置いてサムズアップする――登場した時は半分以上残っていたはずだが、もう飲んでしまったらしい。

 真顔の雄大と赤面するウィル。

(このオーナーにしてこのチームあり、というか……まあ確かにこんな出たとこ勝負のチームが勝ったらコツコツやってるボッテガ達もキレるよな、うん)

(それ以上言うな雄大。勝った奴が速い、結果が全て……だろ?)

(そうそう。オーナーがボケ倒そうが、監督が女児だろうが、な。勝負の世界は非情、ってこと)

 

「ねえ、そろそろ準備を」とラフタが切り出す。寡黙な彼がわざわざ急かすという事は、かなり時間的な余裕が無くなっているということだ。

「小僧、痺れの方は大丈夫そうだな」

「ばっちり大丈夫、任せておいてくださいよ監督」

 緊張も昂ぶりもなく自然体の雄大。対してウィリアムは少し緊張気味だった。今回の大一番、表彰台に乗れなければ年間チャンピオンは消える、しかしウィリアムが一位になればハッキネンとボッテガの順位次第では最終戦を待たずしてウィリアムが初の栄冠に輝くことになる。緊張するな、というほうが無理なのだ。

 ドライバーズポイントは以下の通り。

 一位12点、二位9点、三位6点、四位5点、五位4点、六位3点、完走1点、最速周回タイム1点

 現在トータルでウィリアム78点、ハッキネン74点、ボッテガ65点、マーフィー52点

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