Prologue
その日はひどい雨だった。
日付も変わりそうな深夜0時。
終わらない仕事量を押し付けられて、職場を後にするところだった。
高校を卒業してすぐに入った会社は所謂ブラック企業と呼ばれる類いの場所で、毎日終電コースが普通の会社だった。
高卒で卒業した自分に、経歴もないうえに仕事もできないお前なんかを雇ってくれる会社は他にはないと毎日のように豪語し、上司も同僚も仕事も仕事以外のこともなんでも押し付けてきた。
今日も先輩のクレーム処理を肩代わりして、こんな時間になってしまったのだった。
「うわー。やっぱり降ってきた」
ザアザアと音を立てて降り出した雨を見上げて、私――水月 雨璃はため息をついた。
雨璃が外に出ると雨が降ることなんていつものことだった。
名前からして雨に好かれるような名前だ。
生まれた日に雨が瑠璃色に輝いてみえたのよ。と死んだ母が付けてくれた名前だが、なんて名前をつけたんだとつい恨みがましく思ってしまう。
この名前のせいでずっと学校では雨女と言われいじめられ続けていた。
実際、雨璃が外に出るだけでどんなに晴れていても雨が降るし、遠足も運動会もいつも雨で中止になっていたのだ。
いつからか運動会は体育館でできるものに変更になり、青空の下食べるおにぎりはどんな味がするのだろうか、と憧れていた。
常備している折りたたみ傘を取り出して、雨の中を突き進む。
風が多少強いが、このくらいの雨は慣れたものだ。
傘の意味もないほど冷たい雨が体に降りしきる。
帰ったら速攻湯船を沸かして体の芯から温まろう。
そう決めて前に突き進む。
――ピカッ。
次の瞬間、目が眩むほどの光が雨璃の体を包み込んだ。
え? と声に出す前に耳をつんざくような慟音が鳴り響く。
雷に打たれたとわかったのは体が地面に倒れてからだった。
不思議と痛みはない。
――こんな形で死ぬなんて、なんて数奇な人生なんだろう。
降りしきる雨音が遠くなる感覚に、雨璃の意識も薄れていく。
生まれ変わったらもっともっとたくさんの人に愛される人生を送ってみたかったな。とそんなことを思いながら、雨璃はそっと目を閉じた。
日々の合間にのんびり更新していきます。楽しんでいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。