1食目 麺所Fの特製中華そば×2玉
ラーメン待ちの皆様お待たせしました(待ってない)
そこはかとなく始まります。
「いつもスミマセン、こんな辺境まで脚を運んでいただいて」
地球神ちゃんいつもの通り深々と頭を下げている。
「いえいえ先代には大変お世話になリましたから、困ったときはまた何時でも呼んでください」
受け持ち世界持ちのA級が空き世界まちで助っ人専門のB級に頭下げる図ってのも珍しい。
そうはいっても世知辛いこのご時世こんな三千世界の果て銀河系の更に辺境、地球界まで世界の綻び補修に来るぐらいなら神界中央でコンビニのバイトでもしていた方がマシだと思う人…神の方が普通だろうからね。
相当時給上げないと空き待ちB級クラスの神は来てくれないだろうし、下手なノービスとか無認可の雑魚神に任せて次元崩壊でも起こされて世界をお釈迦(様)にされちゃあたまらんだろうからねぇ。
まぁぼくが地球神ちゃんの依頼を断らないのには多分に理由があったりする。
もちろん先代の地球神様、現地球神ちゃんのお祖父さんに神としての御業を教わって実地訓練と言う名の強制低賃金労…ゲフンゲフン。
まぁ師匠なのは間違いないし地球神ちゃんは保育園のころから遊んであげて(貰って?)いた仲だし。
地球の運営に協力してあげたい気持ちももちろんある。
でもそれだけじゃなく…。
「目的地に到着しました、音声案内を終了します」
キタ―――(゜∀゜)―――― !!
本日の目的地、麺処F。
もちろんラーメン屋だ。
地球神ちゃんの存在階層を辞去し、意識を地球の日本地域で活動しているときに使っているアバター36歳独身君へ戻す。
彼の愛車パールホワイトの1BOXから降車し、目的の店舗へ向う、フードモールの一角に設えられた和風な外観は一見居酒屋の様相だがれっきとしたラーメン屋なのだ。
時間はそろそろ午後1時を迎える頃。よかった行列にはなっていない。
ぼくの直前に店内に入ったカップルが券売機の前でメニュー選択中。
邪魔にならないよう少し離れて待つ。
ぼくはもう何を食べるかは決まっているけどね。
皆スマホ持ってるんだから事前にリサーチしておけばいいのに。
「1.5玉にするぅ?」
「やだぁ〜食べきれなぁい!」
なら素直に1玉にしておけばよろしい。
ここの名物は麺の量を1玉、1.5玉、2玉と無料で増量出来ることなのだ。
ぼくですか?もちろん2玉一択ですが何か?だって無料だよ?お残し?誰に向かって言ってるのかね?
他の選択肢は醤油or塩 ラーメンorつけ麺 以上。餃子すら選択肢に無いストロング・スタイル。かろうじて白ご飯のみがその存在を許されている世界。
特製になると+150円を贄にチャーシューが3枚→5枚へ海苔が+1枚増量の上味玉が付く。
味玉トッピングは120円なのでコスパ良し。
食券を購入したらセルフでお盆、箸、レンゲを取り横一列に並ぶ。
カウンターに置いたお盆を横にずらしながら進んでいくバイキングスタイルだ。以前食べに行ったW屋さんと同じだね。
カウンター向こうの兄さんに食券を渡すと兄さんの前に丼がセットされカエシが入る。前のカップルの分も同時進行だ、彼氏は特製塩つけ麺1.5玉、彼女は中華そば(醤油)1玉チョイスの様だ。
お残しはしないスタイル。嫌いじゃない。
手際よく仕立て上げられていくラーメンつけ麺達。イケメン。
ドキドキワクワク。
うん、こう見ると塩つけ麺もなかなかに魅力的だぞ、また来なければなるまい。
基本的にぼくは初めてのお店では看板メニューを頼んでいる。
メニューで言えば店長イチオシ!ってヤツだ。
利益率高い奴がそう載っていると捉える向きもあるが経験上 店長が本当に客に食わせたいものが看板メニューな場合が殆どだと思う。
高利益率商品をオススメしてくる様な店は空気でわかるじゃん?
曲がりなりにも神なんだから店長の心を読め?
仕事でもないのに神通力使うなんて野暮だしイケてないじゃあない。
「特製中華そば2玉 お待ち!」
きたっ!目の前に置かれたラーメン丼を両手ですくい上げる様に捧げもつ。
あ、熱っつ!
ちょっと、手のひらヤケドしそうじゃん!
思わず一回丼置いちゃったよ。
そりゃ麺大盛りでスープもフチ1センチ残しでタップリ入っているからさ。
熱量マシマシなのは分かるけど物事には限度ってものがある。
一応借り物の身体だからさ、あんま粗雑に扱うのもはばかられるんだよね。
だがそれがイイ(・∀・)ニヤ!
熱っつアツのラーメンには勝てなかったよ!!許せ独身くん。
ラーメンをお盆に乗せて、カニ歩きしながらカウンターの端まで行きタッパーから自分のレンゲで刻みネギを救い入れる。
上品にレンゲ山盛り一杯にとどめておこう。
今日は初見だし。ネギだくは後日の楽しみに。
冷水機からプラコップへお冷をついでお盆を抱えたら。
席探しだ。
この店にはカウンター席しかない。さり気なく全体を一望し空席を探る。
奥まった一角に空きが多い。あそこだ。獲物を追うチーターのごとく一直線に突き進む。
昼飯時を少し外してきて正解だったかも知れない。
お盆抱えたまま席が無くて弁慶立ちなんて想像したくもない。
着席して着丼、カウンター席にはおなじみギャバンのコショーとナプキン。
醤油ラーメンにはコショーな原理主義者は居るからね。
コショーかけたときの旨さも解るし原理主義者の存在も否定はしないけど店主が これで食ってみてくれ と差し出した物を味見もしないでいきなり調味料で味変しちゃうその神経がぼくには理解出来ない。
たまに、
このラーメンはコショウ入れて完成、量はお好みでね(はぁと)
なラーメン(町中華に多い)もあるから完全コショー否定派では無いんだけれどね。
まぁその人が美味しくいただけるなら何でもいいです。
でも
ぼくのスタイルに口出したら血ィ見んゾ、マジで。
まずは外観。
特製装備チャーシュー5枚、味玉、角海苔2枚が◆◆に丼フチに突き刺さる。
そしてメンマとネギ。
芸術的とも言える具の配置。いゃあ、ネギの置き場所には苦労しました。
丼の底が透けて見える程のクリアな薄茶のスープに浮かぶほどよき量の背脂達。
おもむろにレンゲを持ち、丼の縁に沈める。
沈没船に流れ込むスープの海を観察。澄んだ醤油の薄茶に僅かに脂の薄膜と背脂、よき。
箸割。メンマとネギの間を掻き分け具とスープの底にたゆたう黄金の糸をたぐり寄せる、観察。
黄金色に濡れ輝く縮れ中細麺。箸で挟んた瞬間そのしっかりとした感触に力強さすら感じさせる。
流石に、やるね?
店名に麺処と銘打つだけある。
色から判断しなくてもスープと絡みづらく、製造、取り扱いが難しい多加水麺、麺製造業者の直営店なのだから当たり前なのかも知れないが この麺を食ってみてくれ と言う店主の意気込みがヒシヒシと伝わって来るようではないか。
受けて立とう。
でも、スープからね?
レンゲにすくった最初の一口をすする。
お、これだよ、これ!
こーゆーのがいいんだよ!中華そばってなぁ。
流石、わかってるぅ。でも熱っつ、最高。
基本は鶏ガラ、あと多分豚骨か?煮崩れて白濁まで行かないヤツ。スープ澄んでるからトンコツ醤油一歩手前寸止め的な?
あー安心する味だ。しょっぱ過ぎないから最後までイケるスープだよコレ。
よし、続けて麺行くぞ、麺。
ぞぶぞぶっと金色の麺をススル。
おぅうぉオウおウオ。
すげぇ、麺のちぢれと絡むスープの濃さが奇跡的なバランスだ。
けして濃い訳じゃなく、トロみもついていないスープを程よく絡ませるちぢれ、そして硬さすら感じられる程のしっかりした歯ごたえの中細麺。
麺一本一本が噛むたびにしっかりと存在感を主張ししかもほどよき腰を残しザグリと噛み切る時の快感。
噛み切った麺をゴブリと、呑み込む時の喉越し、喉に醸す快楽。
いやさ、これはたしかに麺だ。
このラーメンの主役は麺に違いない。
ぞぶぞぶとススリ。
ザグザグと噛み。
ごブリと呑み込む。
なんぞこれは、止まらん、止まらんぞ。
無心で麺を掻き込み続けている自分に気が付いたとき。
既に麺の半分は胃の中に収まっていた。
危なかった、意識を持って行かれるトコロだった。
でも、安心してください。
普通ならこの時点で完食宣言ですが、今回は麺が2倍。つまりこれから始まりなのです。
具だ具を試すときが来た。
ここはやはり王道にチャーシューだろう。
何しろ5枚もあるのだ、ここで海苔は消極的だし、煮玉子は一つっきゃないのだ。
チャーシュー行きま〜す。
おうっ!
一口に頬張るチャーシューの芳ばしき香りが口腔一杯に広がり鼻から抜けていく。
やられたぁ!こいつぁ炙りチャーシューや。
いい方に裏切られた感。
改めて残りのチャーシューに目をやればフチの部分が僅かに焦げている。
炙ったあとにスライスしたがために見た目には普通のチャーシューにみえてしまっていたのか。
不意打ちとは卑怯様。ありがとうございます。
ふがふが。
まだまだ麺は一杯残っている。
レッツ、エンジョイアンドエキサイティング!
煮玉子は完璧に黄身トロトロ。
海苔のサイズもアクセントとして最適。
ぼく達の闘いは始まったばかりだ。
〜〜〜
戦いすんで日が暮れて、いやまだ暮れてはいないけど。
殆どの固形物を胃袋の中に格納し、レンゲで残スープを味わいながら本日の一杯に思いを馳せる。
多分、おそらくはこの一杯はまず麺ありきなのだろう。
この店の大本は製麺業を生業としているという。
その生業で長年培ってきた製麺技術の集大成としてこの麺を生み出したのではないかと考える。
だが、麺単体ではラーメンは成立しないのだ。
スープも具もこの麺をラーメンとして成立させるために生み出されたのではないか。
麺のポテンシャルを最大限に引き出すためのスープと具には奇をてらわず基本をしっかりと抑えたうえで麺に負けない工夫が必要だった。
麺の強さに負けない程にスープを纏わせるためのちぢれと麺の太さにたどり着く。
スープを強くするため塩っぱくしたりトロみをつける訳には行かなかった。それではシンプルに麺を味わうスープにならない。
麺の強さに負けないためには鶏ガラ醤油以外に必要だったのが豚骨と背脂だったのげはないか。
濁るまで煮込んだトンコツは麺の繊細さを前面に出すためには邪魔になる。だから寸止めで抑える。
同じ理由で味噌も許されない、食材に力のありすぎる味噌は中細麺の微妙な味わいを塗りつぶしてしまう。麺のパワーを上げるため中太ストレート麺にしてしまうとこの配合では硬すぎて噛み切れなくなってしまうのではないか?。
すべてがこの至高の麺の為に用意された舞台。あぶりチャーシューの香ばしさですら麺の味わいを邪魔しない。むしろ口休めとしてささやかなアクセントを示す大道具の一つ。
一件基本を押さえ、客をほっとさせる昔ながらの“中華そば”の体を醸しながら、その実“俺様の麺をくらってみやがれ、万全の舞台は用意した”と客へ投げられた挑戦状。
店主、その意気やよし。
脳内の勝手なドラマに思いを馳せながら、スープの最後の一滴までをレンゲに掬い取り啜る。
堪能させていただきました。
ご馳走様。
1:00 2:00 に連投します。
それ以降は随時更新。
更新情報は「活動報告」とツイッターで流します。
https://twitter.com/DarJack51