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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第5章―1

「家の地下に井戸があったら楽なのにな」

 自宅の居間で、寝る前のささやかな家族の団欒――会合と言うべきか――の最中、不意にいつもの思いつきをハルヒコが口にする。

「村のときみたいに、またあんな深い穴を掘っていくつもり?」

 トウコは、そんなことできないでしょうと疑いの眼差しを向けてくる。だが、もし実現できたならと、どこか期待している色も見受けられる。

「地面を掘るんじゃなくて、融かしたらどうかなって。シュウのフラーモなら岩だって融かせるんだ。時間はかかるかもしれないけど、毎晩少しずつ掘り進めて――融かしていったら、できるんじゃないかな」

 ハルヒコはシュウの顔色をうかがった。

「魔法を使いすぎて疲れたら、あとはベッドで寝てしまえばいいんだし」

 翌日の朝にはすっかり回復していることだろう。

 じゃあ、やってみるよ――二つ返事ですぐにシュウが快諾してくれるものとハルヒコは期待していた。

 だが予想に反して、シュウの顔は曇っていく。

 ――あれ……?

 シュウはハルヒコとは目を合わせず、ぼそっと呟いた。

「魔法はもういいかな……。あんまり使いたいとは思わなくなったんだ」

 シュウの言葉は消え入りそうに弱かった。だが、その密度と質量は、ハルヒコの胸を押し潰そうとするには充分であった。

「そっか……」

 どうしてと、ハルヒコはその場で詰め寄るようなことはせず、

「あとさ――」

 さらっと別の話題をふる。できるだけ自然な感じで、皆に違和感を覚えさせないように。

 だが、話を変えてみても、ハルヒコの頭の中はシュウが放った言葉で埋めつくされていた。追いはらっても追いはらっても、しつこく付きまとう羽虫のように、何度も何度もその言葉が頭をもたげる。

 ――何があった……。

 いいや、何が起こった?

 嫌な感じだと、ハルヒコは何かねっとりしたものが身体にまとわりついてくる感触に軽い目まいを覚えた。

 シュウの心は混濁した池の底で、ひとり体育座りをしているみたいだ。無理に手を伸ばして探れば、泥を巻き上げ、視界はより不鮮明に見通しを失ってしまう。慎重に観察していかなければならない。

 ――最近、仕事のことばかり気にかけていた……。

 もっと家族で過ごす時間を大切にしないといけない。

 ――寄り添い、互いに支え合っていくのが家族だったはずだろう……。


 そんなふうに、シュウに関してもやもやしていた時期の話だ。ハルヒコがマギアで図書室の蔵書を仕分けていると――まだ地下の書庫までは手をつけていない――一冊の魔導書の表紙に目がとまった。題名を一瞥しただけで、思わず作業の手を止めてしまう。

 ハルヒコは直感した。まさに今、自分が必要としている知識がこの書の中に記されている。そう確信できた。

 ――まさか、こんないいタイミングで……。

 何か運命的なものを感じた。それはハルヒコがもっとも毛嫌いする類いの言葉であったが、このときは、まるでその知識の方からハルヒコの元へと歩み寄ってきてくれたような感さえあったのだ。

 ――土属性の魔法……。

 いつかマギアの崩れた塀やひびの入った壁を修復しようと、ずっと思い続けていた。時も忘れ魔導書を読み進めていくと、これほどその目的に合致した魔法はない。

「土を操る魔法……」

 しかも、その応用の幅はかなり広いときている。土や砂、岩石――土の属性を持つ物質を意のままに操ることができる。すなわち、動かす、形を変える、融合・分割させる――自由自在だ。ただし、土や石などの物質そのものを生み出すことはできない――厳密にはできるのだが、それは伝説に残るような大魔導師にしか成し得ない技なのだ。つまりは、そこに実在する土属性の物質を操ることしかできない。そして、意のままにとはいえ、やはり大規模な変化を促すには大魔導師と呼ばれる者にしか扱えぬ膨大なフォント、魔法の源を制御する資質が必要となる。

 ――それでも充分すぎる。

 塀や壁を修復するのに、これほど適した魔法はないだろう。

 ハルヒコはその日のうちに魔導書に書かれた土魔法を試してみた。はたして、ささやかながらも砂つぶが転がり集まり、一部は融合して小さな石を形成していったのであった。ハルヒコは自分に土魔法の素養があると知ると、ただちに鍛錬を始め、数日後には校舎の壁に入った小さなひび割れを修復しようと試みた。

「すごくきれいに直るものなんですね。土魔法の使い手は貴重なんですよ……」

 結果は上々。マルロの褒め言葉まで引き出して、ハルヒコは意気揚々と、より上位の土魔法を修得しようと努めていった。だが、やがて限界を知ることになる。

 いや、確かに魔法の威力は順調に増していった。炎の魔法フラーモのときのように、ハルヒコは魔法の効果や威力を高めるコツをすでに経験からつかんでいた。限界というのは、要は土魔法の原理そのものに、ハルヒコが最終的に要求する特質が備わっていなかったということなのだ。

 ハルヒコの探究心に火がついた。しばし、シュウに関するもやもやをハルヒコは保留することになる。


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