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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第4章―7

 その後もマギアの学生達は試行錯誤を重ね、大通りの街灯を灯す仕事は町の人々からも大歓迎されるイベントへと成長していった。

 普段、魔法を見慣れていない庶民達である。夕刻迫る街中で、マギアの若き魔法使い達がまさに目と鼻の先で奇跡を行使していく。その様はいつまで見続けても飽きることはなかった。子ども達にいたっては、城門まで学生達につきまとってしまう者まで現れるという始末であった。

「ずいぶんと灯りの色も統一感が出てきましたね」

「それだけじゃない。灯りが消える時間もそろってきたんじゃないかな」

 えっと、マルロは思わず驚きの表情をもらしそうになった。

「朝、ここまで確認にきてるんですね……」

 その問いかけに、シリウスは小さな笑みを一つ浮かべただけであった。

 ――そうか、シリウスさんも……。

 実はマルロもまだ日が昇らないうちに大通りにやってきて、街灯が消えるタイミングを観察していた。前日に誰がどの街灯を担当していたのか、その情報を元に日の出の時間より極端に消灯が早かったり遅かったりする者にはそれとなく伝えている。どうやら同じことをシリウスもしているようであった。およそ、そんな地味な作業をシリウス本人が好んでするはずがない――似合わない――と、勝手にマルロは思い込んでいたのだ。

 ――かなわないな……。

 そりゃあ、マギアのみんなから慕われて、信頼されるわけだ。

 嫉妬を覚えたわけではない。マルロは本心から、ただただ感心するばかりだったのだ。

 最終的にこの大通りの街灯を灯す仕事は次のような形になっていく。毎日、夕刻、人員は六名。この仕事を希望した学生達でローテーションを組んでいく。大通りを城門に向かって下っていくときは馬車は使わない。全員徒歩で、呪文を唱えながら大通りの両側の街灯を手分けして灯していく。

 普段、運動をしない彼らであったから、最初はもちろんきつかった。だが、この仕事を続けているうちに体力もついてきて、中には自ら進んで運動をしようとする学生まで現れたのだった。

 城門に到着すると、学生達は衛兵の待機所でマギアの馬車を待つ。ハルヒコがサイアスにかけ合って、待機所の利用を許可してもらったのだ。この頃には学生達も腹がすいてきて、持参したアマンダの弁当をぺろっと平らげている。

 このようにして、大通りの街灯を灯す仕事は軌道に乗っていき、西のもう一本の大通りの方も任されるようになる。夕刻近く、バラディンの町の大通りを若き魔導士達が厳かに街灯のランプに灯をともしていく。いつしか、それはマギアの伝統となり、その幻想的な光景はバラディン観光の目玉にもあげられるようになっていく。

 だが、それはまだまだ未来の話。そして、これから数百年の後、アクラ国とマギアが滅びるまで続く、うたかたの夢のようでもあったのだ。


 これ以降もハルヒコは確たる意志をもって学院の改革を推し進めていった。

 詳細と経緯の説明は省くが、一つにはアマンダら学院の使用人の子ども達を雑用係として雇ったことがあげられる。

 そもそも子ども達は、家計の足しにと、自分達で町中に転がっている雑用の仕事を見つけてきていた。それならばと、ハルヒコは親の目が届く場所で働けるように、子ども達に雑用の仕事を任せたのだ。

 高い賃金は出せない。町中で得られる雑用の報酬――子どもだからと足元を見られて、よほど酷い報酬しかもらえてなかった――に少し色をつけた程度だ。それでも、子ども達は仕事を探す手間が省けたし、食事はマギアの食堂で昼も夜も食べられるように計らった。

 さらにハルヒコは、希望する子どもに対しては、かつて村でそうしていたように、文字の読み書きや計算を空き時間に教えた。無理強いはしていない。だが、多くの子ども達が、進んでその勉強の集いに参加したのだった。

 ――村でもそうだったけど……。

 みんな、できるなら勉強をしたいんだ。

 学ぶ機会がないだけで、誰もが知りたいとか、できるようになりたいだとか、そんな欲求を本能的に持ち合わせているのだろう。つまるところ、生きるために人は学ぶのだ。生存していくために有用な知識や技術を、自然と身体が欲しているのだ。

 また、別の取り組みとして、ハルヒコはマギアが所持している馬車を貸し出す事業も始めた。

 馬車は元々、定例会議などでザイン学長を城に送り届けるためのものだったが、それ以外の日はまったく活用されていなかった。

 朝の市への買い出し、夕方の城壁への学生の迎え、そういった日常の用途以外の空き時間に、主に馬車を所有できない中流階級の庶民を相手に貸し出す。彼らは人の送り迎えや物の運搬などで馬車を必要としていたのだ。

 ガボットも嫌な顔ひとつせず、その仕事を引き受けてくれた。

「何もしていないと、こいつもわしも体がなまっちまう」

 そう言って、ガボットは馬の背中を優しく撫でた。

 それ以外にも数々の改革をハルヒコは断行していった。もちろん、幾ばくかの抵抗を受けながらではある。まだまだ財政は厳しかった。だが、厳しいながらも皆がより納得できる、幸せだと感じられる状態には近づけたとハルヒコは信じている。もれ聞こえてくる少なからぬ賛同の声が救いであった。

 ――これでようやくあれに取りかかれるな。

 ずっと先送りにしていた懸念事項をハルヒコは思い浮かべる。

 ――まさか水が入り込んでいるなんて……。

 そこは図書室の地下。貴重な蔵書が――先人達の叡智が――大講義室ほどの広大な空間いっぱいに収められている。

 ――まずは水が漏れ出している場所を特定しないとな……。

 そして、その箇所を強固に塞いでやるのだ。そのための手段、すなわち奇跡――魔法はもう手に入れている。

 ――地下にはどんな本が置かれているんだろうか……。

 図書の仕分けはもう始めていた。これからは地下の蔵書にも手をつけていかなければならない。

 楽しみだ――。

 ハルヒコはあふれる好奇心に胸を躍らせた。

 だが、それは好奇心という言葉などではとても収まらぬ事態へと急転していく。偶然か、はたまた必然か、ハルヒコはそこで世界を揺るがす力との邂逅をはたすことになる。

 それは待っていたのだ――。

 持ち主の帰還を、何百年もの眠りについて……。


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