第二部 第4章―3
「仕事の内容は、校内の照明を魔法で灯してもらうこと。食堂の厨房で、かまどの火を魔法で起こしてもらうこと。とりあえず、その二つを考えています」
勘のするどい者なら、それを聞いただけで、いったいどこから学生達に支払われる給料が捻出されるのか、理解できたはずだ。
「つまり、照明に必要な油やロウソク、かまどにくべる薪、今までそういったものにかかっていた費用を皆さんへの給料に当てていきたいということです」
マギアの光熱費は正直ばかにならない。日が落ちれば――場所をしぼっているとはいえ――どうしても、この広大な敷地を照らしていかなくてはならないのだ。厨房で料理を調理するときにも大量の薪を必要とする。冬になれば暖炉にも薪をくべなければならない。ハルヒコは、そういったものをすべて魔法でまかない、代わりに、浮いた燃料代を学生達の賃金に変えようと考えたのだ。
もともとは、自分の魔法で――できればシュウにも手伝ってもらい――なんとか、できる範囲だけでも節約してみるかと考えていたことだった。だが、学生達に手伝ってもらえれば、学内全域でそのアイデアを実行できる。
「ただし、月毎に支払われる給料は半分とします。残りの半分は、みなさんの帰省費用として学校で積み立てさせてもらいます」
これには、いっせいに文句の声があがった。横領するのではないか――そのような危惧の声が多く聞こえてくる。さすがにこれは、一向に静まる気配がなかった。
「だから――」
ハルヒコは声をはり上げる。
「私は、そのお金の管理をいっさいいたしません。仕事も斡旋するだけで、誰にいつその仕事を割り当てるとか、管理はすべて他の人にゆだねます――」
皆、最初はハルヒコの言っていることが理解できないようだった。何を言ってるんだ――居並ぶ面々の表情からは、そんな無言の疑念がひしひしと伝わってくる。室内は、ささやき声さえ凍ってしまったかのように、いびつな形で時を止めてしまっていた。
そんな不均衡な緊張がはりつめる中、一人の学生が手をあげる。
「それでは、その管理は誰が行うのですか?」
勇気ある若者だとハルヒコは感心した。背の高い、ほっそりとした青年だ。だが、その眼差しは眩しいくらいに力強い。ハルヒコは彼の中に、将来このマギアを率いていくリーダーとしての資質を見出していた。
学生達の目がハルヒコに集まる。ハルヒコはゆっくりと口を開いていった。
「あなた達が行うんです――」
そこにいた全員が――質問を投げかけてきた聡明な学生でさえ――言葉を失う。
「あなた達学生が、仕事のローテーションを組んだり、自分達に支払う給料を管理していくんです」
ハルヒコはつまり、それまで不思議とマギアにはなかった、学生自治を提案したのだ。
ザインは思わず、ほうと口を開けた。予想外のアイデアが飛び出てきたと感じているのだろう。ハルヒコに不満をもつ教師らは、そんなのは責任の放棄だと、戸惑いの色を浮かべながらも叫んでいた。
ハルヒコはお構いなしに続ける。
「だから、仕事をきっちりと実行する責任も、その対価として受け取る、お金を管理する責任も皆さんにあるということです。どうですか? もし不服ならば、この話はなかったことにしますが――」
自分達で働いてお金を稼ぐ――その選択をハルヒコは学生達にゆだねたのだ。
講義室は――仕方がないこととはいえ――耳が痛くなるほどの喧騒につつまれた。各所で小さなグループが話し合い、隣のグループにも意見を伝達していく。その様子を、ハルヒコは教壇からつぶさに観察していた。それは、この後すぐにでもしなければならないことと関わってくる。
ひとしきりの話し合いが収束に向かうと、各グループの意見は自然とある学生のところへと集まっていった。ハルヒコに質問をした、あの学生だ。その状況をハルヒコは見逃してはいなかった。
案の定、ハルヒコから話をふらなくても、学生の方から手をあげる。
「理事長、それでは私達は何から始めれば良いのでしょう?」
ハルヒコは満足だった。そして、微笑みながら、こう言ったのだ。
「まずは、君達のリーダーを決めることから始めませんか――」
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
まだまだ物語は続きますが、8月は別作品を書くために更新を休ませていただきます。
9月にはまた再開しますので、どうぞよろしくお願いいたします。




