第二部 第4章―2
数日後、ふたたび学校の関係者全員が講義室に集められていた。今回、召集したのはハルヒコ本人だ。
もちろん全員集合というわけにはいかない。ハルヒコに不満をもつ何人かは顔を出していなかった。一方で、何かしら問題を見つけ、あげ足を取ってやろうとの思惑をもつ輩は、きっちりと出席している。
そんな不穏な予感を秘めた講義室を眺めていても、ハルヒコには大して感じるところはなかった。
――自分もずいぶんと図太くなったものだ……。
元の世界でも、仕事がら些細なことには動じなくなっていたが、こちらの世界にやって来て、やれ村長だの理事長だのと重責を担わされ、ハルヒコの図太さにもいっそう磨きがかかっていたのだろう。
ハルヒコは、すうっと大きく息を吸いこみ、肺にいっぱいの空気をため込んだ。それから、教室の隅々にまで行き届く声で、彼は説明を始めたのだった。
「みなさん、お忙しいところ集まっていただき、ありがとうございます」
本当に、この忙しいときに何用だ――そんなぼやきも聞こえてきたが、無視して続ける。
「今日は学生のみなさんに、お伝えしたいことがあります」
学生達がざわつく。それは仕方のないことであったろう。ハルヒコは、そのざわめきが落ち着くまで口を開かなかった。
このような場で騒がしさを収めるのは恫喝によってではない。無言の沈黙こそが、皆に口をふさがせるのだ。ハルヒコは経験的にそのことをよく知っていた。
案の定、間もなく教室は、誰かのツバを飲みこむ音が聞こえてくるほどに静まり返っていった。まるで音を発することが罪深いとでもいうように。
「ところで、みなさんが故郷に帰ったのはいつ頃の話ですか?」
教室内はまた喧騒に包まれる。だが、今度はすぐにおさまる。学生達は一刻も早く、この先の話を聞きたくてうずうずしているのだ。
「もしかすると、この学校に入学して以来、故郷に帰っていない人もいるかもしれない。家族が元気にしているか、いつも気になっている人もいるかもしれない。帰れなくても、せめて手紙の一つぐらいは出したいよね――」
そんなこと言ったって……そこかしこから恨み節が聞こえてくるようであった。ハルヒコはかまわず続ける。
「かといって、そのためのお金を稼ぐことも難しい。働きたくったって、そんな時間も仕事もなかなか見つけられないもんね」
そこまで話すと、ハルヒコはいったん口を閉じた。
ここまではマルロから聞いた話を元に、学生達の気持ちを代弁したにすぎない。ハルヒコは教室内を見回し、彼らひとりひとりの表情をうかがってみる。おおむね同意は得られているような気配が感じとれる。
ハルヒコはもう一度、大きく息を吸った。たっぷりの間をあけて、皆の耳に自分の声が紛うことなく届くタイミングを見計らった。
「だから――」
学生達は固唾を呑む。
「これからは、学校から皆さんに、仕事を斡旋していきたいと思います――」
どよめきの後、喧騒の大波がやってきて、教室内は隣りの人間の話し声も聞きとれないような有様であった。




