第二部 第4章―1
「マギアでは、学生は授業料を免除されています。ですが、在学している間、私達はお金を稼ぐ時間も手段も持ち合わせてはいないのです――」
マギア魔法学院は、いわば国策として、魔法使いを無償で育成する機関だ。学生達の中から魔法に秀でた者が現れれば、まずは優先的にアクラが国の魔導士として雇い入れることができる。もし、その申し出を断れば、それまでにかかった学費や生活費の返還など大きなペナルティが科せられる。だが、アクラ国の魔導士になるかどうかは、最終的には、その者の意思で決めることができるのだ。強制ではない。
一方で、アクラ国から声がかからなかった学生はどうするかというと、これはもう自分達で仕事を探すほかない。才能ある学生なら、他国の魔導士になったり、貴族や地方領主のお抱え魔導士になったりと――その際、支度金との名目でマギアに幾ばくかの金銭が支払われることもある――その就職先はさまざまだ。在野のフリーランスの魔導士として活躍する者もいる。
――国の機関とはいえ、在学中に給料なんて払えないからな……。
マルロに聞いたところによると、裕福な家庭の学生の中には仕送りを受けている者もいるらしあ。だが、それは大いに稀なケースだろう。マギアで学ぶ学生達のほとんどは、例外なく貧しかった。
――出納帳に書かれていた、あの数字のこともようやく納得だ……。
理事として学院の経営を一手に引き受けてより、ハルヒコは時間が許すかぎり帳簿とにらめっこする日々を続けていた。その中に首を傾げたくなるような数字がいくつも並んでいたのだ。
――あれが学生への貸付金だったんだ……。
まさか利子を取ってたなんてことはないよな――ハルヒコは、あらためて出納帳に書かれた数字を精査しなければと決意を固めた。
だが、気になりだすと、もう我慢ができない。それがハルヒコの性分でもあった。聞きにくいことではあったが――なぜなら、今のハルヒコは学校の分身とでもいうべき代表の立場にあったから、過去のこととはいえ、自分の汚点をほじくり返すような気がしていた――マルロにそれとなく尋ねてしまう。
「学校から借りたお金には、利子がついていたんだろうか……」
マルロも首をかしげる。
「いえ、それは分かりません。私も学校からお金を借りたことはありませんし、実際に借りたことのある学生も、借りたことそのものをあまり口にはしたがりませんから」
――そうか……。
これはもう、帳簿を隅から隅まで、穴があくまで目を通すしかなさそうだ。ザイン学長にも確認せねばならないだろう。
――せめて、学生達が普通に帰省できるようにはしてあげたいが……。
それに、彼らだって勉強ばかりではなく、少しばかり自分で好きなものを買ったり、楽しんだりもしたいはずだ。
――そのためには、お金がいる……。
だが今のマギアには、彼らにそんなお金を支給する余裕はない。
――どこかでアルバイトでもできればいいんだけど……。
でも、魔法使いをバイトで雇う……?
――どんな仕事だ? そんな仕事があるのか?
ハルヒコは思わず自嘲していた。だが、その最中、ふと思いついたことがある。
――いや……。無ければ、作ったらいいんじゃないのか……。
ハルヒコが考えていた学校再建の別のアイデアと、学生達に仕事を創出する難問とが、そのとき図らずもぴったりと重なったのだった。
――上手くいくかもしれない……。
これは本当に、夜通し帳簿とにらめっこすることになりそうだ。
大変な作業になることは目に見えている。にもかかわらず、ハルヒコはなぜか嬉しい気持ちがわき出てくるのだった。
すぐにでも理事長室に戻り、出納帳の数字を確認したい衝動にかられる。学生達に少しばかりの明るい未来を見せてあげることができるかもしれない。




