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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第3章―7

「さあさあ、はやく取らないとなくなっちまうよ。今日から早い者勝ちさね。だからって食べ残しなんてするんじゃないよ。そんなことした奴には容赦しないからね」

 食事をビュッフェ形式にすることは、事前の告知なしに、その日からすぐに実行された。ハルヒコやマルロがカウンター前に立ち、昼食を食べにきた者に順次システムを説明していく。

「まずは、そこにあるトレーにお皿をのせて――」

 並べられた料理――この日は、メインが鶏肉と豆の煮込み、豚のロースト、それと数種類の副菜が用意されていた――を、食べられる分だけ自分でよそっていく。積み上げられたパンの山からも好きなだけ取っていってかまわない。

「食べ終わったら、テーブルに置いたままにしないで、カウンターまで返しにきてくださいね」

 若い学生は戸惑いながらも、この食事の方式を楽しんでいるようだった。

「たくさん取ってもいいんですか?」

「ああ、早い者勝ちだよ。ただ取りすぎて食べ残すのだけはやめてね」

 食べ盛りの年頃の学生だ。彼は嬉々として料理を大盛りによそうと、パンも二個、手にとった。

 それでも足りなくなる心配はない。皆が自分の適量を見きわめるまでは、今まで個別に配膳してきたときと同じ量の料理を用意するつもりでいたからだ。やがては、準備すべき適切な量が定まっていくことだろう。

 学生達は順応が早い。文句も言わずセルフの後片付けもこなしていってくれる。それよりも厄介なのは数名の教師達であった。あの初対面の講義室でヤジを飛ばしてきた連中だ。

「どうして自分で料理をとらないといけないんだ! 最初から皿に盛りつけておくのが当たり前だろう」

 まず、自分で料理をよそうことが気に入らないらしい

 ――プライドが許さないのか?

 だが、その小さなプライドの蓄積が、この学校をここまで追いつめたのではないか。

 そして、変化を頭ごなしに否定する。

 ――変わるべきところは、そのままにしていちゃいけないんだ。

 改革から目をそむけて見ないふりをする――もうそんなことができないところまでマギアは追いつめられてしまっている。

 ――もちろん、次の世代に伝えていくべき大切なものは、しっかりと残していかないといけないが……。

「すみません。今日からはこのような形式で行っておりますので――」

「そんな勝手が通るものか!」

 だが、ハルヒコは先ほど述べた文章を一字一句たがえることなく、ただもう一度繰り返す。

「すみません。今日からはこのような形式で行っておりますので――」

 そんなやり取りが延々と続く。

 ぶつぶつと文句を言うだけの者、腹を立てて食事をとらず食堂から出ていってしまう者――だが、ハルヒコはその場で彼らに説得を試みようとはしなかった。ただひたすらに、今日からはこうなりましたと繰り返すのみであった。

 ――どんなに誠意を示して説明したところで、気に入らないものは気に入らないんだ。

 要は、このシステムに不備を見いだしたり、不満を覚えているわけではない。ハルヒコという――得体の知れない――突如現れた人間に対して不信を抱いているにすぎないのだ。

 ――時間はかかるさ……。

 人が分かりあうのは簡単なことではない――。

 学生達は、おおむね、このやり方を受け入れてくれているみたいだし、大勢がこの方式に傾いてくれれば、あの分からずやの先生達も否応なしに折れてくれるはずだろう。

 ――そんな日が来ることを、ただ祈るばかりだ……。

 ハルヒコは大きな溜め息をついていた。

 だが、そう思ってはいても、抗議のつもりなのか、片付けもせずテーブルの上にトレーが残されていく光景を見ると、やはり悲しい気持ちがこみ上げてくるのだった。

 ハルヒコがそのテーブルに向かおうとすると、アマンダがカウンターから顔をのぞかせ、その背中に声をかける。

「理事長さん、置いといてくれよ。後でやっとくから」

 だが、ハルヒコはその申し出をやんわりと断り、みずから取り残されたトレーを片付けにむかう。

 自分がしなければと思った。率先して自分が動く姿を皆に見せなければと思った。

 ――先頭に立つ者が、どうしてイスに座って、ふんぞり返っていられるだろうか……。

 と、そこにハルヒコに話しかけてくる学生がいた。

「あの……。理事長、お話があるのですが……」

「ん? 何でしょうか――」

 だが、その学生はためらうばかりで、なかなか本題を切りださない。

「どんなことでも、話してもらって大丈夫ですよ」

 それでも、その学生は言いあぐねているようだった。

 マルロがやって来る。

「なあ、チムニ。もしかして、あのことを相談したいんじゃないのか?」

 チムニと呼ばれた学生は、よく見知ったマルロに声をかけられ安心したのかもしれない。こくんとうなずくと、意を決したようにハルヒコに向かい、こう言ったのだ。

「理事長、お金を貸してはもらえないでしょうか……」

 何を聞いても驚かないつもりでいた。だが、ハルヒコは表情を変えないよう、努めて顔面の筋肉に力をこめなければならない。

 胸の内では、

 ――えぇ……。

 と、少し引き気味の自分がいることを否めなかったのだ……。


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