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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第3章―5

 人々が活動をはじめようとする朝も早い時間帯のことだ。ガボットが操る馬車がハルヒコの家の前に停車した。ハルヒコはただちに玄関から飛び出してきて、おはようと馬の背中を優しくなでてから御者台に上る。

「こんなに朝早く本当にすみません。今日から、よろしくお願いします」

「なあに、お安いご用だ」

 そう言うと、手綱を軽く叩いてガボットは馬車を発車させた。二人を乗せた馬車は、まだ静けさの残るパラディンの町を下っていく。

「こんな早い時間から、お店が開きはじめてるんですね」

「みんな、毎日、一生懸命に生きてるのさ。戦争なんかなくても、明日が今日と同じようにやってくる保証なんてないからね。目の前にある生活を、ただ、こつこつとこなしていくしかないんだよ」

 ――先を考える余裕がないってことか……。

 そんな日常に人は何か楽しみを見出せるのだろうか――ハルヒコはふと考えた。

 人は明日が来ることを確信しているからこそ、今日という日を頑張れるのではないか。休みになったら何処かに遊びにいこう、何かおいしいものを食べにいこう――楽しみは人それぞれではあるが。

 ――少し違うけど、国や領地……村なんて小さな集まりでさえ、組織を動かす人間は先を見通して物事を考えないといけないんだ……。

 それも余裕があるから――明日が来ると信じて疑わない確固たる下地が備わっているからこそ、できることなのだろうか。

 ――だから、庶民を政治に参加させるなどと……あのマグダル様でさえ否定的だった……。

 いやいやいや……また変な方向に考えが向かっている――。ハルヒコはもう一度、最初に思いついた問いかけに戻る。

 こんなささやかな毎日にも楽しみはあるのか――。

 明日を考えられなくても、そこに幸せはないものなのか――。

 ――そんなことはない……。

 家族で寄りそい、一緒にご飯を食べ、その日あった何気ない出来事を笑いあいながら語り合う。そんな楽しみだってあるだろう。

 ハルヒコはそう思った。そう信じたかった――決して負け惜しみなどではなく….…。

「理事長さん、そろそろ到着するよ」

 ガボットに声をかけられ、ハルヒコは顔を上げる。

 ――もう、そんなに時間が経っていたのか……。

 ハルヒコが照れ隠しに笑うと、ガボットも前を向きながら、ほっほと穏やかに笑った。

「なんだか真剣に考えごとをしとったんじゃね。自分のことじゃない――誰か他の人のことを考えるときの顔つきを理事長さんはしとった……」

 そう言われて、表情を見せるのが恥ずかしくなったのか、ハルヒコは視線を前に向ける。目の前にはもう城門前の広場が見えてきていた。お祭りでもあるかのように、露店がひしめき合い、人々が行き交う、巨大な市がそこに出現していた。

「すごい……」

 この町にきて城門前の市を見るのは二度目のことだ。だが、前回は夕刻で、すでにほとんどの店が撤収しはじめていた。だから、今ハルヒコが城門前の市の全容に圧倒されても、それは仕方のないことであった。

「お、アマンダ達がおるわ」

 馬車で下ってきた道と広場が合流する場所で、厨房の面々がこちらに向かって手を振っている。

「すみません、お待たせしました」

「なあに、私達も今きたところさ。さ、とっとと用をすませちまおうよ」

 アマンダ達を馬車に乗せ、まずは城壁に沿って走る道路に向かう。そこには停車した馬車の列がすでに長い連なりとなって延びていた。近隣の農村から市に出す作物や商品を運んできた馬車の群れであった。城壁沿いの地面に、馬をつないでおく馬繋場がしつらえられていたのだ。

「それじゃあ、ここに馬車を停めておくんでな。わしはここで待っとるよ」

「そんなに時間はとらせないさ。さっさと買い物をすませて戻ってくるからね」

 アマンダ達は馬車の荷台から飛び降り、ふたたび市が開かれている広場へと向かう。ハルヒコも彼女らのあとについて行く。その途中、ハルヒコは何気ない疑問を口にしていた。

「うちの馬車はガボットさんが乗ってくれてるから大丈夫だけど、ここに並んでいる馬車は誰も見張りがいないんですね。簡単に盗まれたりしないのかな……」

 ハルヒコの声がアマンダの耳に届くと、彼女はいつもの豪快な笑い声をあげながら、こう言ってのけたのだ。

「この国で馬を盗もうなんて奴はいないさ。理事長さん、あんた何も知らないんだね。馬を盗んだ奴はその場で殺されても文句は言えないんだよ。馬泥棒は死罪なんだ。その場をうまく逃げおおせても、その後で捕まっちまえば死刑は免れないのさ――」

 ハルヒコはぎくっとした。

 ――ルアンから逃亡するときに、自分がやったことじゃないか……。

 無知とは恐ろしいものだなとハルヒコは思った。彼がクイール王子――王族の逃亡を手助けしていたからこそ、馬車を奪った罪は不問にふされていたのだ。もし、その逃亡がハルヒコたち家族だけで行われていたならば、今頃どのような罰を受けていたことだろうか……。

 ――いや……死罪か……。

 その罪は自分だけに適用されるのだろうか?

 できるならそうであってほしいと思った。家族にまで、その重い処罰が及ばないでくれと、起こりもしなかった事態にもかかわらず、ハルヒコはそう祈らずにはいられなかった。

「理事長さん、何、ぼーっとしてんだい。お財布役がいなきゃ、買い物が始まんないよ」

 アマンダに声をかけられ、ハルヒコは、はっとする。すでに多くの人々でにぎわう市のまっただ中に、彼の身は混じりこんでいたのだった。


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