第二部 第3章―4
ハルヒコは学内にある馬屋に出向いていた。マギアの敷地の中でも正門からもっとも離れた場所、北東の角に位置している。本棟からそこへと至る道は、馬車が通行するには差し支えがない程度には雑草が刈りとられていた。だが、人の足で歩きづらいことには変わりない。ハルヒコは馬車が地面に刻んだ轍をたどって、学生寮や教師の宿舎を左手に眺めながら何とか進んできたのだった。
ーー端から端まで歩いて、なんとなくマギアの大きさを実感できたな。
はじめて学院を訪れた日、ハルヒコは塀の外を延々と歩き続けてきた。今歩いてきた道は、そのとき進んでいた方向から垂直に折れ曲がった側にある。
ーーほぼ正方形の形をしてるってことか。
ハルヒコは頭の中で、空から俯瞰したマギアの敷地を思い浮かべた。そこに本棟や学生寮といった建物を配置してみる。
ーーけっこう、スカスカだな……。
ハルヒコが別に考えているアイデアには、うってつけのように思われた。
「おお、理事長さん。こんなところに何用かね?」
白い髪と髭をもじゃもじゃに伸ばした、一見、魔法使いだと言われても誰も疑わない容姿をした爺さんが、突如、物陰から気配もなく現れてハルヒコに話しかけてきた。
「えっと……ガボットさん……?」
本当は心臓が飛び出てしまいそうなほどドキドキしているのに、そうとは気取られないよう、ハルヒコは努めて落ち着いたふうを装う。
「さっきまで、あんたの子どもさん達がやってきとったぞ」
ガボットは顔をくしゃっとゆがませ、人懐っこい笑顔を見せた。
「馬を見せてもらってたんですか?」
「ああ、ニンジンを手でな、おそるおそる馬の口に運んでおったわ」
ーー二人とも臆病だからな……。
シュウとカナが、びくびくしながら馬に餌をやっている光景が、ありありとハルヒコには想像できた。
「私にも馬を見せてもらっていいですか」
「ああ、もちろんだとも」
ガボットはハルヒコを馬小屋の中へと案内した。四つに仕切られた馬房のうち、手前から二番目の部屋にダークブラウンの筋骨たくましい馬が立っている。馬屋では、その一頭しか飼育されていないようであった。
「立派な馬ですね」
「わしと同じだよ。もう年寄りで、足も遅くなってしもうた」
「でも、とてもたくましい体をしている。重たい荷物でも運べそうだ」
ガボットは一瞬ハルヒコを推しはかるような目で見た。
「へえ……理事長さんは本気で、この馬を立派だと思ってくれるのかい……」
ハルヒコは思い出すように遠い目をして言った。
「私がいたルアンの村にも馬がいたんです。この馬によく似ていました……。人も荷物もいっぱい遠くまで運んでくれたんですよ。畑を耕すのも、たくさん手伝ってもらったなーー」
村の人達もそうだが、馬や家畜といった動物達もその後どうなったのだろうか……ハルヒコは捨ててきた村の情景を懐かしむ。
「そうか……それだけ活躍できる場があるというのは、うらやましいかぎりだの……。この馬はかわいそうにな、もうザイン様を城へ送り迎えするぐらいしか仕事がないんじゃよ」
ガボットは我が子のことのように寂しげな表情を、つぶらな瞳をした馬に寄せる。
そのとき、唐突にハルヒコが口を開いた。まるで渡りに舟だと言わんばかりに、自分の提案を並び立てていく。
「ガボットさん、少しご相談があるのですがーー」




