第二部 第3章―3
「ビュッフェ形式ってのは悪くない考えだね。要は家族で鍋を囲んで、食べたい分だけ自分の器にとっていくってことだろう。普通の家で当たり前にやっていることさね」
早い者勝ちってとこもね――アマンダに厨房の仲間から合いの手がはいる。
――確かに……。
お上品な家庭では、最初から各自の料理が取り分けられて食卓に並べられている。だが、村や下町で暮らす人々は、大皿や鍋に盛られた料理を自分の食べたい分だけ取っていく――奪い合うと言った方が適切なときもある――のが一般的であった。ハルヒコの家族も村人達にならい、そのようにして食卓を囲んでいたものだ。
「つくる量もうまく調節してやれば、無駄を減らすこともできそうだね」
「それはやってみないと分かりませんが、料理の量や出し方は試行錯誤して決めていきましょう」
何事も小さな改善の積み重ねで良くなっていく。一度決めたからといって、その決定を盾にとり頑なに物事を変えていかないのは愚の骨頂というものだ。かといって、がらっと一気に変えてしまうのもまた違う。大事なのは、それをしようと最初に考えたときの切実な思い――物事の本質――を忘れないこと。つまりは、どうして自分や彼らは「それ」をはじめようとしたのだろうか、はじめなければならなかったのか、ということなのだ。
「食事のことで、まだ相談があるんですが……。材料をもっと安く仕入れることはできないものなんでしょうか。今は食材をどこで購入してるんですか?」
「町の市場にある店から、肉や野菜なんかは配達してもらってるね。小麦や塩は城から支給されているよ」
「アマンダさんから見て、配達してもらっている食材ってどうですか。品質とか値段とか――」
アマンダは、ああ……参考にはならなけどねと前置きをした上で、彼女ら下町で暮らす人々の食料事情を説明してくれた。
「私達はもちろん下町の店で買ってるよ。値段も、ここら辺の店よりも断然安い。だけど品質はやっぱり落ちるね。野菜の大きさや形なんかは不揃いだし、肉も野菜も傷んでいるものがよく混じってる。だから、そんなのをより分けて使わないといけないのさ……」
だから、マギアに納入される食材は品質が保証されているので、量が多くても気をつかわずに安心して使えるということなのだそうだ。
「けど、幸いにも私の家は城門に近いところにあってね。理事長さんは見たことはあるかね――城門前の広場で毎日のように市が開かれているのさ。近くの村から、新鮮な野菜や肉が大量に運ばれてきていてね。とても安く購入できるんだよ」
そのとき、ハルヒコは直感した。
――これだ!
今まで自分が見聞きしてきたものが――点と点が線で結ばれた瞬間でもあった。
「アマンダさん、その城門の市で食材を仕入れるっていうのはどうですかね?」
ハルヒコがあまりに目を輝かせてつめ寄るものだから、アマンダは思わずのけぞって、両手を壁のように前につき出した。
「さあ、どうだろうね……。買うのは問題ないとして、それをどうやって学校まで運んだらいいんだい? 私や他の連中を合わせても難しいと思うよ」
ハルヒコは少し思案してからアマンダに尋ねる。
「アマンダさんは、どうやってここまで来てるんですか。乗合馬車とかがあるんですか」
アマンダは、はき捨てるように笑って言った。
「はっ、そんな便利なもんが、この町にあるもんかい。これだよ、これ――」
そう言うと、彼女は自分の足をぺちぺちとたたく。
「歩くに決まってるだろうさ」
下町から通っている彼女らは、毎日坂道を徒歩で上ってきている。
――軽く登山をしているようなものだよな……。
ハルヒコの家から学校までの道のりも大概であったが、下町から――しかも城門に近いといえば、このパラディンの町が築かれた丘陵の麓だ――では、その倍ほどの距離もある。城門前の市で購入した大量の食材を、担いで学校まで来るのは無理というものだろう。
――運ぶ手段が問題か……。
それに、アマンダ達がここまで徒歩で通っているのも何とかしてやりたい。
――そんな上手い方法があるだろうか……。
ハルヒコは頭の中で、今まで自分が見聞きした、あるいは経験した、さまざまな情報をぐるぐると回転させた。情報と情報を結びつけ、自由に連想の鎖をつないでいく。そして、ある瞬間、アイデアがひらめいたのだ。
――いや、あるじゃないか!
城門前の市から食材も運べて、アマンダ達も歩いてこなくてすむ方法が――。




