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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
78/150

第二部 第3章―1

 ――さて、どうしたものか……。

「問題が山積みなのね――」

 夕食後、ハルヒコは自宅でトウコに今日の出来事をうちあけていた。話しながら、自分の考えをまとめていく意味もある。

「それはもう……本当にね、いろいろあるんだよ……」

 言いながら、ハルヒコはそのいろいろを頭の中に思い浮かべていた。

「赤字なの?」

「そりゃ赤字だよ」

 話すまでもない、といった調子でハルヒコは大げさにうなだれてみせる。

「帳簿も見せてもらったけど――ああ、ちなみに前任者がいたときは適当に記録されていたんだけどね」

 ザインが会計を引き継いでからは幾分まともにはなっていたが、それでもざっくりとした、どんぶり勘定の数字が並ぶばかりであった。やはり手がまわらないのだろう。

「ただ、借金だけはないんだよね。それだけは救いかな」

 だが、ハルヒコは帳簿に記録されていた勘定科目と数字の中に、あまりに強い印象を抱かせる、不吉な項目を見つけてしまっていた。

「どうしても足りなくなったときは、アクラ国に無心して、何とかしてもらっていたみたいなんだ……」

「さっきの話じゃ、前の人――前の理事長さん?――が、人を辞めさせたって言ってたけど。それで、ずいぶんと人件費はおさえられたんじゃない?」

 ハルヒコはまた、ため息をつく。

「その分の浮いたお金は、どこかに消えてるんだよ……」

 トウコは自分でも気づかぬうちに、ぽかんと口をあけてしまっていたようだ。普段なら、決してそんな顔は見せないはずなのに。

「できれば、辞めさせられた人も戻してあげたい気持ちはあるんだけど、それだと財政的にはもっと厳しい状況になるんだろうな……」

 学院を初めて訪れた日、学長室から退出するハルヒコにザインは何と言ったのだったか――。

『自分の食いぶちも捻出するのだぞ』と。

 ――どうやったら、自分の給料まで、まかなえるっていうんだ……。

 あの言葉は、城にもっと掛け合えと、暗にうながしていたのだろうか。

 ――いや、それはもう本当にどうしようもなくなってからの話だ……。

 まずは、今のこの現状でやれることを、とにかく考えないと――。

「もらえるお金が変わらないのなら、出ていくお金を減らすしかないわよね。今の学校に、無駄なところなんてないのかしら?」

 すぐに数えきれない場面が――視察した幾多もの場所が――ハルヒコの頭の中で再生されていく。

「いや……それはもう、本当にたくさんあるんだよ……」

「じゃあ、その無駄な部分を減らすところから始めないといけないわね」

「そうなんだ……」

 そう言うと、ハルヒコはためらいがちにトウコに尋ねた。

「もう、いろいろと考えはじめてはいるんだけど……。あのさ、学校の食事のことについて意見を聞きたいんだ」

 突然、予期せぬ方向から質問がやってきて、トウコは戸惑いがちに言葉を返す。

「どんなこと?」

 ハルヒコは意を決したように口を開く。

「学校の食事を……ビュッフェ形式にしてみたらどうかなって思うんだ――」

 いったん口に出してしまうと、堰を切ったように、ハルヒコは自分が思っていることを次から次へと並び立てていった。

「みんな、無茶苦茶食べ残してて、捨てる量が半端ないんだよ。夕食の残りものは厨房で働いている人達が家に持って帰ったりしてくれてるんだけど、昼食はそういうわけにもいかなくて……。畜産をやってる農家に家畜の飼料として引き取りにきてもらってるらしい」

「それで少しはお金が入ってくるの?」

「もちろん、タダで引き取ってもらってるんだよ。さすがに下水には流せない量らしいからね。――考えたら、すごい量だよな。ビュッフェにすれば、無駄にならないように、準備する食事の量を調節できるんじゃないかって思うんだ。それに――」

 ――早く来ないと、食べたい料理がなくなってしまう……。

 みんな、とっとと食堂に集まってくるだろう。いっぱい食べたい者はたらふく、少量でかまわない者は自分にあったちょうどいい量で。

 ――きっと満足できるはずだ。

「食材も一括で購入したら、材料費も安くあがるんじゃないかな」

「悪くない考えかもしれないわね」

 まだ机上で考えた空論にすぎない。それでも誰かに賛同してもらえると、それだけでとても心強くなれる。ハルヒコは、トウコの言葉に勇気をもらえた気がした。そして、その勇気がハルヒコに次の言葉を続けさせる。

「実は、それ以外にも考えていることがあって……。もしよかったら、トウコにも学校の仕事を手伝ってもらえないかなって思うんだ。食事の準備を手伝ってもらったりとか……」

 ハルヒコの提案に、トウコは思案している様子だった。すぐに答えは返ってこない。

「ほら、ずっと家に閉じこもっていても気が滅入るだろうし。学校で働いている人達も、すごく気のいい人ばかりなんだよ」

 村のみんなみたいに――そうハルヒコは付け足した。

「それはいいけど……」

 トウコの表情から、ハルヒコの提案を嫌がっている様子は見られない。むしろ、積極的にやってみたいという感触が伝わってくる。

「でも、子ども達はどうするの? 家で留守番なんてさせられないと思うんだけど……」

「だから、シュウとカナも一緒に行くんだよ」

 ハルヒコは目を輝かせて言った。

「子ども達も、学校の中で思いっきり体を動かせるんだ。本だって、たくさんあるんだよ」

 ――これなら、村にいたときのように、家族がずっと一緒にいられる。

 それは、元の世界でもなかなかできなかったことではないか――。


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