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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第2章―7

「あの……理事長が今、村とおっしゃいましたが……」

「ああ……」

 自分の立場をどこまで話して大丈夫なのだろうか――ハルヒコは思案した。

「ここに来る前までは、ルアンの開拓地で村長を任されていたんです」

 ――いずれは知られることになるだろうし、その程度なら問題はないはずだ。

「ああ、あのクーデターのあった……。それは大変でしたね……」

 マルロの中で、ハルヒコの境遇を勝手に理解してくれたみたいであった。

「僕もすごい田舎の村から、ここにきたんです。てっきり理事長は、この町の貴族階級のご出身かと思っていました。だからかな、なんだかとても親近感がわきます」

 人の良さそうな笑顔をマルロが見せる。

「ああ、そうだ。ルアンといえば、この学校の卒業生で宰相になられた方がいらっしゃいましたよね。確かマグダル様とおっしゃったと思うのですが……」

 純朴そうな青年は目をきらきらと輝かせ、

「僕の憧れです」

 きっぱりと、そう言うのだった。

「その方も、アクラのあまり裕福とはいえない村のご出身だったそうですよ。そっか……クーデターで何事もなければいいんだけど……」

 表には出さなかったが、マルロのその話をハルヒコは興味深く聞く。

 ――そうなのか……。

 ルアンの状況は正確には伝わっていないんだな……。

 同時に、もう一つ――ベクトルの異なる、別の思いも抱いてしまう。

 ――自分も、マグタル様のことはよく知っているつもりでいたけど……。

 いや、むしろ近すぎる場所で関わりすぎたくらいだと思っていた。

 ――それでも自分は、まだまだマグダル様のことを本当には分かってなんかいなかったんだ……。

 この学校で、彼がどのように学び、過ごしていたのか。そして、そのさらに前、貧しい村の出身だったという話も、これからマギアで働いていれば、おいおい詳しく聞いていくこともできるだろう。

 ――いつまでも、あの方の温情を忘れないようにするためにも……。

 だが、マルロに詳しく話を聞くのは今ではない。

 そんなことをすれば、大の大人が、大勢の人前で、ぼろぼろと涙をこぼすのは目に見えていたからである。


 昼食後、しばらくしてハルヒコはザイン学長に伴われ、ある講義室の扉を開いた。

 ――こんなにいたのか……。

 そこにはマギアに在籍する学生と教師、使用人が一堂に会し、教室の座席をすき間なく埋めつくしている光景が広がっていたのだ。ザインが教壇に足をかけると、波が引くように、それまでのざわめきは身をひそめ教室は静まりかえっていく。

「もうすでに皆も聞いてはいるだろうが、当学院の新しい代表理事を紹介する。ハルヒコ殿だ。彼は本校の卒業生で、ルアンの宰相を務めていたマグダルの片腕として働いていた――」

 教室内に小さなどよめきが生じる。それは、ザインがもし前に立っていなければ、決壊した堤防からあふれ出た奔流が大きなうねりとなって取り返しのつかない事態を引き起こしてしまいそうな――そんな類いの話題であった。

 ――どうして、そんなことを……。

 そこまでの大仰な紹介はハルヒコの望むものではない。どちらかというと、ハルヒコは自分の能力を隠したがったし、自分の身分や立場を利用して――要は虎の威を借りて――物事を進めていくことに違和感を覚える質でもあったからだ。――いや、もっと正確に言えば、むしろ嫌悪感を抱き、許せないとまで思っていた。ハルヒコは、そういった権威によって人を従わせるのではなく、対話によって皆が自発的に動きはじめるやり方を好んだ。

 ――だが……。

 と思う。はたして、ザイン学長は当事者のハルヒコの意をくまずして、そんな一方的な圧力を学内に押しつけようとするだろうか。

 ――マグダル様に負けず劣らず、人への思いやりにあふれているように見える……。

 ザインの温和な物腰やときどき浮かべる髭の向こうの微笑みが、ハルヒコにそう感じさせるのだ。

 ――だとしたら……。

 ハルヒコのことをマグダルという威をまとわせ紹介しなければならない理由がそこにはあるのだろう。

 ほれ、自己紹介をせえ――そう言わんばかりに、ザインはハルヒコに目配せを送った。

「みなさん、はじめまして。ハルヒコと……」

 自分のことをどんなふうに説明しようか。考えもまとまらぬうちにハルヒコは自分の名を名のりはじめてしまった。だが、そんな心配は杞憂におわる。

 なぜなら、皆が熱烈な歓声でハルヒコのことを迎えてくれたのだから。

 ――となってくれればよかったのだが……。

 声は確かに飛んできた。だが、それは歓声とはほど遠い、怒号とも呼ぶべき辛辣な声の数々であったのだ。


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