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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第2章―5

 マルロに案内され、昨日もちらと覗きはしたが、このマギアの中で最も覚悟を決めて取り組まなければならない場所だ。とにもかくにも、向こう側の人の顔が見れないほどの本の山が、床にも机の上にも積み上がっている。

 ――魔法使いは片付けが苦手なのか?

 そういえば、エオラ城のマグダル様の執政室も似たような景色が広がっていたなと、ハルヒコはかつての記憶をたぐり寄せていた。魔法が使える特性を持つ人間には、どこかその特質に応じた精神的な共通性とでもいうものが備わっているのだろうか。

 ハルヒコはため息をひとつつく。

 ――ダメだな……。マグダル様のことを思い出すと……。

 どうしても気持ちが沈んでしまう。もの思いにふけり、気がつけば随分と時間が経ってしまっている。

 過ぎ去ったものは、もう取り戻せない。人にできることは、前を向いて歩いていくことだけだ。

 ――だって、そうだろう。

 自分が今進もうとしている道は、マグタル様が用意してくれていたものじゃないか……。

 敷かれたレールを嫌う者もいる。特に若者はそうかもしれない。だが、そのレールに乗っかるも乗らないも自分次第だ。自分の力だけで大きな困難に立ち向かっていく潔い精神も間違ってはいない。また、誰かに頼って生きていくことも――決して感謝は忘れてはいけない――他の誰彼に蔑まされるようないわれはどこにもない。

 何が正解で何が間違っているかなんて、そんなのは学校のテストの中だけの話だ。この世の多くの問題に正解や間違いなんてものは用意されていない。それでも人は答えを求め、考え、動き続けていかなければならないのだ。

 ――それが生きていくっていうことだろう?

 ハルヒコは思う。

 ――ああ、ダメだダメだ……。

 やはり変な方向に考えが向かってしまう。今は、この図書館の現状をどう変えていってやろうかと思案しないといけないときなのだ。

 ――まずは分類だよな。

 本の中身をチェックして、似たような内容のものを集めていく。

 ハルヒコは机に積み上げられている書籍の山から、たまたま目についた本の表紙を開いてみた。とたんに、うんざりとしてしまう。

 ――嘘だろ……。

 心と体は正直だ。ハルヒコは一刻も早く本を閉じてしまいたい衝動にかられた。そこにつづられていた古代語の羅列――先人のあくなき魔法への探究心の発露――それらが目に入ってくるやいなや、ハルヒコの頭はくらくらし、軽いめまいを起こしてしまうほどであった。すでに初歩の魔導書を数冊は読破し、少しは自信をつけていたハルヒコであったが、目の前にそびえ立つ知識体系の絶壁――連綿と続く知の蓄積、知の歴史――を見上げると、自分の自信などそこら辺に転がる路傍の石ころのようなものだと思い知らされた。

 ――そりゃそうだ……。

 普通の人には読めないからといって、それでもまだ読んだ魔導書は数冊だ。そんなことで悦に入ってどうする。自分が特別だなんて勘違いもはなはだしい。

 だが一方で、そこまでやれた自分を認めてやりたい気持ちも忘れてはいない。確かに上を見ればきりがない。それでも、ハルヒコは何も努力をしてこなかったわけではないのだ。それはささやかではあったかもしれないが――実際にはなかなかに大変であった――その努力があったからこそ今の自分がここにある。懸命に進み続けようとしている自分を、みずから否定してやる必要なんてないのだ。

 ――最初から最後まで読む必要はない。とりあえず冒頭の数ページ、要旨さえつかむことができれば、それでいい。

 自分の目的を見誤ってはいけない。ハルヒコが今すべきことは、この大図書館に散らばる人類の叡知を網羅していくことではない。でたらめに、そこかしこに散らばる本を片っぱしから片づけていく――分類・整理をしていくことなのだ。

 ――それでも、これだけの本に目を通していかないといけないのか……。

 この世界では、大量印刷が可能な活版技術はまだ発明されていない。書籍はすべて正本かそれを書き写した写本――要は手書きなのだ。そうやって一文字一文字、苦労してつづられていったページは、木板に革をはり付けた表紙によって宝物のように大事におさめられていた。革表紙には題名が焼印で刻みこまれている。どの本もそんな過剰ともいうべき豪華仕様でできており、この世界では書物も宝物の一つと認識されていた。

 そんな貴重な本が、通常の図書館――城や神殿、教会などの――では数百冊の蔵書が一般的であるという時代だ。にもかかわらず――マギアの歴史は到底その程度の知識では満足できなかったらしい――こんな時代にあって、マギアの大図書館には数万冊の本がおさめられていたのであった。むろん、その大部分は埃をかぶり眠りについてはいたのだが――。

 ――本棚も整理していかないといけないな……。

 いや、もしかすると、もうすでに分類するための何かしらのルールが存在するのかもしれない。

 ハルヒコは立ち並ぶ書棚にはさまれた通路を、いく筋もいく筋も通り抜けてみた。

 ――分からない……。

 結論から言えば、そういうことになる。本の題名や並び方を頼りに、あれこれとそこに潜んでいる法則性を見出そうとハルヒコは躍起になったのだが、何ひとつとして納得のいく答えは到達できなかったのである。

 後から知ったことだが、各書棚にはそこに収められた蔵書の一覧を記した帳面が備えつけられており、内容での分類や文字順ではなく、蔵書された順番に――この世界では一般的なやり方だ――並べられていたのである。もちろん、その帳面とやらは当然のごとく、どこかに紛失してしまっていた。

 しかし、やりはじめたら、そんな分類の仕方にハルヒコが納得するはずもなく、彼は自分なりに試行錯誤し、この壮大な図書館を整理していくことになる。

 ただ……作業しながら後悔することも度々ではあったが……。


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